「まるで1本の映画を観ているようだ」と漫画評論家の間や口コミで高く評価され、「漫画界のカンヌ映画祭」と呼ばれるフランス・アングレーム国際漫画祭ではオフィシャルセレクションに選出されるなど国内外から熱狂的な人気を誇る伝説的一作、豊田徹也の長編漫画『アンダーカレント』が待望の実写映画化! 心の奥底に閉じ込めた気持ちを大切に描く、自分自身ととことん向きあう究極のヒューマン・ドラマ、映画『アンダ―カレント』が絶賛公開中。
公開を記念し、10/27(金)に今泉力哉監督が登壇したティーチイン舞台挨拶が行われた。映画を観終えた観客から、さまざまな質問が飛び交う裏話続出の熱気あるティーチイン舞台挨拶となった。また10/25(水)には平石明弘プロデューサーが登壇するティーチイン舞台挨拶も開催された。
今泉力哉監督が10月27日(金)、東京・恵比寿ガーデンシネマにて行われた映画上映後のティーチインイベントに出席し、映画を観終えたばかりの観客からの質問に答えた。
超満員の観客による盛大な拍手で迎えられた今泉監督は、「今日の撮影が休みになったので、休みが確定した瞬間にスタッフに連絡をして急遽決めてしまったQ&Aですが、よかったら最後まで楽しんでください」と挨拶し、イベントはスタートした。
※ 映画を未見の方はネタバレにご注意下さい。
公開して3週間が経過した本作。まずMCを務めた宣伝担当者から、SNSなどで意見や感想がたくさん寄せられていることについて聞かれると、「本当にいろいろな感想が上がってたりして、エゴサーチしてチェックとかもしているんですが、原作がやっぱりすごく面白くて、映画にするのメチャクチャ難しいと思って始まりましたけど、原作ファンの方で納得してない人もいるけど、原作ファンがすごく面白がってくれてるのはすごく嬉しい。また、原作を知らなくて観た人の意見もいろいろあって、それも嬉しいです。意見がメチャクチャ分かれたりしてることも含めてすごい嬉しいなと思っています」と心情を述べた。
「まるで映画のような漫画だ」と言われるほど、すでにイメージが出来上がっている本作を映像化する上で気をつけたことを聞かれると、「漫画だけしか表現できないって言うとあれですが、水中に沈むような映像だったり、過去にあった出来事を荒い映像にして撮ったりとか、現実の時間じゃない映像表現など、あまり自分がやってきてなかったので、その辺に関してはカメラマンさんに頼りながらやりました」と回答した。
ここからは観客の方からの質問タイムに。会場に緊張感が伝わる中、今泉監督が「一人上がればバンバン上がりますよ」と笑わせ、会場の空気を和ませた。
「今泉監督の作品はワンカット長回しが特徴的ですごい好きです。今回の映画だと、瑛太さんと真木さんのシーンはカットバックで撮っていて、最後の井浦さんとのシーンは長回しでした。2組の関係性の違いのように感じましたが、使い分けは意識されましたか?」という質問では、今泉監督は「シーンによって毎回違いますが、先に撮り方を決めることってあまりないんです。基本的に芝居を見たうえで、これはカット割れないなと思ったら1個にしています。最初から最後までワン・カットで撮って、全部フルで撮った上で編集をしています。『ここで寄るので、その前後からやりましょう』というのは、あまりしないようにしています。そのほうが芝居もしやすいし、感情も作りやすいので」と自身の撮影でのこだわりを話した。しかし続けて、「最後の2人のシーンは、本当は1カットで撮りたかったんですが、現場で想像してないことが起きて……。それは真木さんが掘の涙を拭くティッシュを横から持っていったんですよね。僕の頭には真木さんは目の前からティッシュを渡すと思っていました。そしたらツー・ショットのままで最後までいける。これワン・カットでいきたい意識があったから、正面から渡してくれと言うことは出来るんですけど、真木さんの横にいく優しさを、ワンカットで行きたいという理由で『横に行かないでください』は俺が間違ってるので、これは現場で起きたことには従おうと思いました」とラストの印象的な長回しシーンでカットを割った意図を明かした。
続いて、「今泉監督の音の使い方がとても好きで、初期の作品から生活音が聞こえてくる映画作りで、今回も細野晴臣さんの音楽もすごい、いいところで入っていて、音作りのこだわりがあれば教えてください」という質問。今泉監督は「自主映画のときは分かってなくて、本当に自分の好きな温度とか、好きなことだけやってたんですけど、商業(映画)をやるようになって、初期のときに現場で録ってるセリフだけじゃなくて、効果部という食べてる音を付けたり、足音とかを付ける部署の人とやるようになったとき、『こんなに足音はいらないです』とか、例えば携帯とかも、「ピッピッ」て操作中の音が付くことがあるんですけど、現実世界では“こう”なってないのに、作り物の世界で“こう”なってる。でも、現実に全部合わせりゃいいとも思ってはなくて、残すとこは残すんですけど、その辺についてやっぱ現存するものってそう作ってるんだとしたらやっぱ疑って作りたいというのがあります」と回答した。
「『街の上で』(21)という映画で、冒頭のシーンで、会話してるときに「ブー!」って車のクラクションが遠くで鳴ったんですけど、そういうのってノイズだから普通は外すんですけど、そういうのをいかに残すか。でも、そういうことってすごく怖くて、本当はフィクションってもっと自由で幅があっていろいろ使えるのに、すごい狭いとこでそれやってる可能性があるので、良し悪しだなとも思いつつ。自分はそのほうがお客さんが集中できたりとか、細かい音を聞けるということも思ってるので、今は意識していますね」と効果音へのこだわりを話した。
さらに、音楽に関して、「音を抜いて無音にすることも曲を付けないと同じぐらい効果があると思います。1回音楽なしで成り立つものを作って、そこに音楽をつけてくっていう意識があります。スローモーションとか特殊な映像だと、音は録ってなかったりするので音楽に頼ったりすることもあるんですけど、それ以外では音楽に助けてもらうっていうのはやめようとしていて、芝居で成り立った上で音楽がプラスの効果を生むのならいいですけど。やっぱ音楽に助けてもらうってのは音楽にも失礼な気がするので、極力ないものにプラスになることのほうが良いと思ってやってます」と今泉作品における映画音楽の在り方を語った。
Q&Aイベントも終盤となり最後の質問が。「今泉監督の作品を観させていただいて、どの作品も性別・年齢の関係性とか、垣根を越えて人との繋がりとか、心の繋がりとかを作品を通して感じていて、そういう作品を作るうえで大切にしていることを聞かせいただければと思います」という質問が投げかけられた。
今泉監督は「一番締めの良い質問みたいですね(笑)。基本的に自分がだらしなくて駄目な人間なんで、自己肯定で作ってるっていうのがベースにあります。もしかしたらそういう人が観たときに『こんな駄目な感じでもいいんだ』って思えたりとかするのかなって意識があります」と作品を作るうえでの姿勢を語った。
さらに、「今回の作品だと、感想で『悟が結局最後まであんな人を、ああいうふうに許していいのか?』みたいな、『悟、最低だ!』みたいな意見が結構あったりするんですけど、悟が最低だと俺は全然思わずに作っていたんで、そうか、悟って最低なんだなと思っていました。さっきスタッフの方とも話していたんですけど、例えば悟が『俺やっぱり反省したよ。戻っていい?』と言ったら最低じゃないですか? その最低の描き方っていろいろあると思うんです。『戻っていい?』は、かなえにとってもしかしたら嬉しいことかもしれないけど、俺はそっちのほうが最低だと思うし、最低の感覚がやっぱ俺はちょっと人よりも、そこを許そうという意識というか、それはもう完全に自分が優しいとか心が広いじゃなくて自分が許されたいからなんですけど、基本的に他人のことは分からないと思っていて、自分が面白がれるかとか、自分がどうして欲しいかとか、そっちの感覚で作ってますね。それは結構大事にしてることかもしれないです」と自らの感性を熱く語った。
まだまだ質問が途切れる気配がないものの、ここで映画館の閉館時間が迫っていたこともあり、残念ながらここでQ&Aは終了。イベント終了後は、今泉監督は前日にSNSで予告していた通り、ティーチインに来てくれた観客の皆さんに対して、熱心にサインに応えていた。
またこのイベントから2日前の10月25日にも、アップリンク吉祥寺にて公開御礼ティーチイン付き舞台挨拶が実施されており、こちらでは本作でプロデューサーを務めた平石明弘氏が登壇し、Q&Aやグッズ・プレゼントの抽選会が行われた。本作を作るうえでプロデューサーとして平石氏が今泉監督にお願いしたことについて、「個人的な意見ですが、漫画の最後の読後感が少し希望を感じるラストだったんです。そこは映画でその後を描くにしても、完全にネガティブに見える終わり方にはして欲しくないとは、監督にはお伝えをしていました。強くお願いしたのはそのぐらいでしたね」と映像化に向けての今泉監督とのやりとりを明かした。
平石氏は「2度3度とご覧いただいて、それぞれ登場人物たちの関係が分かった上で観ていただくとまた違った感情も湧いてくると思います。ぜひ楽しんでいただければと思います」と挨拶し映画をアピールしていた。
11月10日(金)からは角川シネマ有楽町での上映スタートを予定している。
登壇者:今泉力哉監督(10/27)、平石明弘プロデューサー(10/25)
公開表記
配給:KADOKAWA
2023年10月6日(金) 全国公開
(オフィシャル素材提供)