緒方貴臣監督(『子宮に沈める』、『飢えたライオン』)が、伊礼姫奈(「推しが武道館いってくれたら死ぬ」)、筒井真理子(『淵に立つ』、『よこがお』、『波紋』)らを迎え、「義足は障がいの象徴」とネガティブに捉えていた主人公の義足のモデルやそのマネージャーが、ポジティブに捉えられるようになるまでの心の変化を描く『シンデレラガール』がm11月18日(土)より新宿K’s cinemaほかにて公開となる。
公開を前に、緒方貴臣監督のオフィシャル・インタビューが到着した。
緒方貴臣監督
1981年福岡市⽣まれ。独学で映像制作を始め、社会問題を独⾃の視点と洞察⼒で鋭く切り取った作⾵によって、世の中へ問題提起を続けている。『⼦宮に沈める』(13)は、⼤阪2児放置死事件を基にした作品で、児童虐待のない社会を⽬指す「オレンジリボン運動」推薦映画となる。『飢えたライオン』(17)では、第30回東京国際映画祭⽇本映画スプラッシュ部⾨への選出を始め、バレンシア国際映画祭では最優秀監督賞と最優秀脚本賞をダブル受賞、富川国際ファンタスティック映画祭では最優秀アジア映画賞(NETPAC賞)を受賞し、20を超える国際映画祭に正式招待される。
本作制作のきっかけをお教えください。
10年ほど前にSNSで見た、義足の海外のモデルの人の1枚の写真を見て、義足をかっこいいと思ったのがきっかけです。それまで義足というのは、医療用だったり、障がいの身体的な不自由さを補うための道具という認識だったんですが、車椅子や義足がカッコ良くなりうるという気づきがあり、それを映画にしようと思いました。
僕は、障がいというものを弱いものだとか可哀想なものとして描かないということを強調して企画を進めていたんですけれど、当時のプロデューサーもいろいろ理由があったと思うんですが、お金を集めるために、僕から見ると障がい者を可哀想な人として利用しているように見えたんです。それで意見が合わなくて一度このプロジェクトはお蔵入りしていたんですが、去年(新たなプロデューサーになった)榎本 桜さんと会って、新しく音羽の物語として企画を進めることになりました。
音羽のモデルはいるんですか? 義足や足をなくした方の取材などはしたのでしょうか??
音羽のモデルはいません。日本で初の義足モデルと言われているGIMOCOさん、義足モデルとして活動されている海音さんに取材させていただきました。
この物語を作る上では、海音さんのことを全く調べずに音羽の物語として作ったんですが、初稿が出来上がったタイミングで、海音さんに取材をさせていただき、音羽と海音さんの人生が似ているなと驚きました。取材を通して、リハビリのことやメディアが描く義足の間違った描写などを冒頭のドラマ・パートに反映しています。
取材で一番大きかったのは、義足の監修で入っていただいた、義肢装具士の臼井二美男さんです。工房を取材させていただき、医療用のものからショー用の義足から、いろいろと見せてもらい、この映画のディテールが埋まっていったと思います。
冒頭、音羽がマネージャーさんに「足は隠せる?」と頼まれるシーンがありますが、足を隠すのであれば、わざわざ義足のモデルを使わないことが多いのではないかと思うのですが、実際そういうことはあるのでしょうか?
実際にあるかは分からないです。これは取材したときに言われたことではないんですが、義足モデルは、今の日本だと、パラリンピックの時など特定のテーマや場所じゃないとなかなか起用されないんですよ。そうじゃない時は義足である必要がない。けれど、義足は中心部がパイプ構造なので、カバーを装着すれば、見た目的には分からないようにできるんです。音羽は、元々義足がきっかけでモデルの業界に入ったけれど、そんな仕事がない時は、義足ということを表立って主張しないでモデルとして仕事をしている、という設定にしました。
本作は、音羽だけでなくマネージャーの成長物語でもあると思いましたが、マネージャーの唯も描いた理由を教えてください。
唯は僕なんです。一枚の写真で、義足というものがかっこいい、ポジティブなものになるという気づきがあったから、音羽を通してそのことに気づく唯に、僕を重ねました。基本的に僕の私服は全身黒なんですが、唯にも黒い服を着てもらうことで、ヴィジュアル的に重ねるようにしました。そして観客に一番感情移入してほしいところは、実は唯なんです。障がいを可哀想だとか触れていはいけないものと思っていたけれど、隠さずに表に出していくことによって、ポジティブなもの、かっこいいものになりうるんだという気づきに繋がればと思います。
「義足を障がいの象徴ではなく、個性として捉えてほしい」というセリフがありますが、そのセリフに込めた想いをお教えください。
僕自身が最初義足を決してかっこいいものとは思っていなかったし、人によっては隠すものと思っている人もいるかもしれない。僕がそれをかっこいいと思えたのは、見た目だけのことではなくて、見せることができるというその人の内面が反映されているからだと思うんです。そのセリフを発したプロダクト・デザイナーの役は、自分に障がいがあるわけではないけれど、それを分かっていると表現しました。
音羽役の伊礼姫奈さんのキャスティングについて教えてください。
実際に会う前に写真と映像資料を見た時から、彼女は良いなと思っていました。音羽は、16~17歳の思春期特有の、少女から大人になる過渡期で、そのどちらも併せ持ち、なおかつ社会が求める女性的なところではない美しさや魅力を感じさせるという主人公像がありました。彼女の写真を初めて見た瞬間、「ああ、この子だ」と発見したような気持ちになった記憶があります。
読者にメッセージをお願いします。
今までとは違う映画作りのアプローチをしているので、僕の今までの作品を見ている人には、そこに気づいていただきたいです。今まで僕の映画を「怖い」だとか「見たくないものを見せられるから」と敬遠していた方にとっては、今までよりだいぶ観やすい作品になっているので、ぜひ劇場に観に来て欲しいと思っています。
この映画でも過去作と同じく、ジャーナリズム的な要素を入れています。この映画がいろいろな人にとっての気づきになり、社会を変えるきっかけになりうるんじゃないかと思っています。映画館は、いろいろな他者がいる場所で、社会の小さな縮図だと思っています。同じ作品を観ても、捉え方は人それぞれです。でもそれが社会であり、他者を理解する第一歩だと思っています。ぜひ劇場で観ていただければ幸いです。
公開表記
配給:ミカタ・エンタテインメント
11月18日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開
(オフィシャル素材提供)