「後悔する」という意味のことわざ「臍(ホゾ)を噛む」からタイトルをとった映画『ホゾを咬む』は、本作ヒロインの小沢まゆが主演する短編映画『サッドカラー』がPFFアワード2023に入選するなど、国内映画祭で多数入選・受賞している新進気鋭の映像作家・髙橋栄一脚本・監督の最新⻑編映画。モノクロームの世界観が怪しさと品格を放ち、独特な間合いや台詞が観る者を異世界へと誘う、新感覚の日本映画が誕生した!
12月2日(土)の初日舞台挨拶には、主人公・茂木ハジメを演じた、主演するコメディアクション『MAD CATS』(2022/津野励木監督)から、『クレマチスの窓辺』(2022/永岡俊幸監督)、『とおいらいめい』(2022/大橋隆行監督)など、幅広い役柄をこなすカメレオン俳優・ミネオショウ、映画『少女~an adolescent』(2001/奥田瑛二監督)で国際映画祭で最優秀主演女優賞受賞の経歴を持つ本作プロデューサー・ミツ役の小沢まゆ、月見里(やまなし)役の、昨年映画『はこぶね』で第23回TAMA NEW WAVEベスト男優賞他を受賞した木村知貴、野老(ところ)役の、『れいこいるか』でれいこの父役を演じた河屋秀俊、コゾウ役の子役・福永 煌(あきら)、及び、髙橋栄一監督が登壇した。
独特の間合いの本作の上映後となった舞台挨拶の冒頭で、ミネオが「映画の中では間を使った発言もしているのですが、アフタートークはぱんぱんと行きます」とジョークを飛ばして満員の観客を笑わせ、舞台挨拶がスタート。
監督は、「僕は今33歳なんですけれど、29歳の時に、異常にこだわりが強いだとか人の気持ちを分かりづらいという特性があるASDの検査でグレー・ゾーンという診断をされて、『君のコミュニケーションは間違っているよ』と言われたような感覚に陥りました。どうやって人とコミュニケーションをとっていったらいいんだろうと思ったところから、夫婦をモチーフとして、愛することはどういうことかをテーマにこの作品を作りました」と本作の着想のきっかけを説明。
ミネオが演じたハジメは、普段とは全く違う格好の妻を街で見かけ、隠しカメラを設置してしまう役。ミネオは、「監視カメラを設置するというのはなかなか共感できるものではないですけれど、妻を追っかけていくというのは、僕が20歳くらいの時に付き合っていた彼女らしき人が、朝方男の人と歩いていて、追っかけたんです。彼女でした! なので、追っかけるシーンは共感できました」と自ら暴露し、会場を盛り上げた。
ミネオは、クランクインした最初のシーンの撮影でびっくりしたことがあるそう。「夢から覚めてベッドから起き上がる2秒くらいのシーンが、香盤表だと20分くらいで撮影する予定だったんですけれど、1時間半くらいかかって。この映画、終わらないんじゃないかなと思いました。」と回想。監督は「テンポだったりとかが独特の映画なので、実際ベッドにいて起き上がるというアクションを現場に入ってやっていたら、いつの間にか1時間半経っていて。この中でやりたいトーンをトライをしながら探していけました」と、その1時間半は無駄ではなかったよう。
小沢が、「モノクロなので分からないと思うんですが、私が演じたミツという女性は、本当は家の中でもピンクや紫などすごくカラフルな服を着ているんです。スタイリストさんや監督とも衣装にもすごくこだわって撮影に臨んだんですが、どうしてモノクロになさったんでしょうか?」と監督に訊ねると、監督は、「映像を繋いでみた時に、なんか違うなとなりました。撮影監督の西村(博光)さんにモノクロで試してみたらどうかと言われてモノクロで見てみると、色という情報が全部抜けて、人の目線が動くだけだったり現場で作ったものにフォーカスできるようになり、外の音も理解できるようになったので、色はスタイリストともすごく話し合って作ったので苦渋の決断だったんですけれど、モノクロに決めました」と説明した。
ミネオは、関係者試写で本作を観た感想を聞かれ、「僕は、モノクロって聞いていなかったんです。最初の夢のシーンがモノクロだったので、『おしゃれな作り方で作るな。夢から覚めたところからカラーになるんだな』と思っていたら、最後までモノクロだったんで、『どういうこと? なんで最初に教えてくれなかったんだろう』って思いました」と話し、会場を笑わせた。
「僕はゆったりとしたテンポというか、独特の間合いの余白のある映画が好きなので、そういう映画を今日皆さんと共有できて嬉しいです」と話した木村は、演じる月見里役の“汗と日焼け止めの匂いが混ざったのがたまらない”という欲動について、「監督の性癖・フェチズムなのかなと思いました」と話し、監督はご自身のフェチズムだと認める一幕も。監督と小沢によると、たまに共感するという人に出会うとのこと。
謎の男・野老役の河屋が、野老について「この年まで独身でいて、やっと見つけた女性がミツに似た、ミツなのか分からない女性で、その日そのレストランでプロポーズしようと、指輪をポケットに忍ばせて、決意を固めて来たんじゃないか」と、自身で考えた役のバックグラウンドを語ると、小沢は「その役作りがあったからなんだ」と熱演に納得した様子を見せた。
コゾウ役の福永は、「今回の映画は、僕が長台詞に初めて挑戦した映画だった」とのこと。ミネオは「長いセリフで、煌くんがどうしゃべってくるか分からないから、控え室で『ちょっと煌くん、次のシーンの練習しない?』って言ったら、『いい』って断られて! プロなんだな」と福永の大物ぶりがわかるエピソードを披露し、会場をほんわかとさせた。
福永は「長い道を歩くシーンで、3回位僕が持っていた木の棒が折れちゃったけれど、監督が『テープで巻けばいいよ』と言ってくれた」と撮影時のアクシデントについて披露。
最後に髙橋監督は、「この作品はお話を追うものではなくて、映画館で流れている時間だとかを感じて、ムードを味わう作品として作ったので、『ホゾと咬む』が多くの方に届くように力を貸していただければと思います」とメッセージを送った。
公開表記
製作・配給:second cocoon
12月2日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開
(オフィシャル素材提供)