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「東京ドキュメンタリー映画祭2023」授賞式

 今年で6回目を迎える東京ドキュメンタリー映画祭(12月22日まで新宿K’s cinemaにて開催中)の授賞式が、折り返しの12月15日(金)に開催された。受賞作品などコンペティション入選作品は、12月16日(土)より2回目の上映がある。

 今年も「短編」「長編」「人類学・民俗映像」の各コンペティション部門の厳選された作品のほか、舞踏の世界や、90年代沖縄の伝説のお笑いコンビ『ファニーズ』、2016年に逝去した歌手「りりィ」の生前のライブを記録した『リリィ 私は泣いてます』の特別上映など、2週間にわたり多彩なドキュメンタリー映画を上映している。

 授賞式では、「短編」「長編」「人類学・民俗映像」の各コンペティション部門のグランプリ、準グランプリ、観客賞が発表された。

授賞式

 日時:12月15日(金) 16:55〜18:00頃
 会場:新宿K’s cinema

受賞作品一覧

■長編コンペティション部門
 グランプリ:
  『香港時代革命』監督=佐藤充則、平野 愛

 準グランプリ:
  『ロマンチック金銭感覚』監督=緑茶麻悠、佐伯龍蔵

 観客賞:
  『いっしょ家』監督=宮下浩平

■短編コンペティション部門
 グランプリ:
  『田舎娘』監督=エレン・イバンス

 準グランプリ:
  『肩を寄せあって』監督=横田丈実

 観客賞:
  『娘より、父へ』監督=龍村仁美

■人類学・民俗映像部門
 グランプリ(宮本馨太郎賞):
  『マーゴット』監督=カタリーナ・アウヴェス・コスタ

 準グランプリ:
  『ディタッチド』監督=ウラジーミル・クリボフ

 本年の審査員は、長編コンペティションは代島治彦(映画監督)、まつかわゆま(シネマアナリスト)、短編コンペティションは佐々木誠(映画監督)、伊津野知多(研究者・日本映画大学教授)、人類学・民俗映像は北村皆雄(映画監督・ヴィジュアルフォークロア代表)、奥野克巳(文化人類学者・立教大学教授)。それぞれが受賞者と授賞理由を発表した。

■長編コンペティション部門

 グランプリを受賞した『香港時代革命』について、まつかわは、「まさに今考えなくてはいけない問題。今世界で起こっていることの象徴的な動き。観ておくべき作品。監督の二人がプレス、しかも外国のプレスであるからこそできる取材。親中派にも話を聞けるし、警察に捕まったら大使館に駆け込める。自分が今何をしなければいけない、何をしたい、何をできるかということをよく考えながら動いている。運動を扱ったいろいろなドキュメンタリーの運動は全て負けている。負けているのに、もしかしたらまだ希望はあるかもしれないというのを見つけたいと思って彼らはまだ通っているのではないか。それを応援したい」と熱弁した。

 代島監督も、「これからも撮り続けるという日本人がいることが僕らにとって誇り。このような映画を応援したい。二人が撮り続けてくださることを願っている。」と話した。

 受賞した平野 愛監督は、「民主や自由は言うのは簡単だけれど、自分たちの手で守っていかないといけない。この当たり前ができているんだろうか?」と疑問を呈し、佐藤充則監督は「自由は一瞬のうちに奪われるというのをまざまざと見て本当に怖くなったので、香港のことをこれからも見続けていかなくてはいけないと思う。興味を持っていただければ」と訴えた。

 準グランプリの『ロマンチック金銭感覚』は、審査員の代島監督のイチオシだったため、まつかわは二度目は映画館のスクリーンで観て、「とても丁寧に撮っている。結構確信犯」と分かったそう。代島監督は、本作は「話題作、問題作」で、「笑いながら最後まで観て、何かが分かった気がした」と評した。

 本作の佐伯龍蔵監督は、「変化球のような作品なので、受賞するとは思っていなかった。非常に嬉しい」、緑茶麻悠監督は、「ドキュメンタリーとフィクションが融合されている。ドキュメンタリーの要素をふんだんに使っている。観ていただいた後、どういう感想をお持ちいただいたのか興味がある」と笑顔で話した。

 観客賞を受賞した『いっしょ家』については、代島監督が、「丹精な作品。フィックスの画の中に流れている感情が観客に伝わった」と評価。宮下浩平監督は、「施設の方々のユニークさが観客の方々に伝わったのだと思う」と観客賞を喜んだ。

■短編コンペティション部門

 60分以内の短編コンペティション部門について、審査員の佐々木監督は、「全作品素晴らしい。どの作品が選ばれてもおかしくなかったほどクオリティが高い作品ばかりだった。真剣にドキュメンタリーと向き合えて、幸せな時間だった」と審査員としての時間を振り返った。佐々木は、「『繁殖する庭』と『肩を寄せあって』がいいなと思った。共通しているのは、作り手がテーマに対してどうアプローチしているか、映像表現にどう関係しているかというのと、その構造が作り手が思っている以上の効果になって、いい意味で心情が逸脱して結末を迎えるか。」と評価基準を発表。

 伊津野は、佐々木と推薦作が重ならなかった理由を「佐々木監督は何かはみ出すようなものを選んでいた。逆に私は、まとまりの方を選んでいた。私は『田舎娘』と『岸を離れた船』の2作品を推薦した。ある長さの中に何を盛り込んで何を省略するかの思い切った作り手の判断が効いていた」と2作の推薦理由を説明した。

 グランプリを受賞した『田舎娘』のエレン・イバンス監督に代わり、本作を応募した林 里穂が賞状を受け取り、「動物と人間の関係性を綺麗に描いた、透明感のある作品なので応募した。皆さんの心に届いたら嬉しい」と話した。

 『肩を寄せあって』の横田丈実監督は、「奈良のお寺で坊をやって、映画を作っている。50歳を超えてドキュメンタリーを撮り出して、本作が2作目」と2作目での準グランプリ受賞を喜んだ。

 観客賞は『娘より、父へ』。大学2年生で授業を抜けられなく、授賞式を欠席した龍村監督の、「自分自身の気持ちの整理として作ったこの作品が、また新たな方々との出会いにつながったことをとても嬉しく思う。父が私に残してくれたものをこれからも忘れずに、出会ってくださった方に感謝しながら、今後も努力していきたいと思う」とのメッセージが代読された。

■人類学・民俗映像部門

 人類学・民俗映像部門の審査員の奥野克巳は、「人類学・民俗映像部門は、海外からの作品が加わった結果、層が厚くなり、優れた作品が多数寄せられた。私自身、全作品観て、とてつもなく楽しい、映像経験だった」「マリノフスキ以降の人類学の流れとほぼ並行して、切磋琢磨をおこなってきた映像人類学と、それに連なる映像民俗学。それらの蓄積と経験が私には、この映画祭を通じてより高まっていく予感がする。本映画祭で創造性に溢れた多数の作品が上映されたことは大きな刺激であり、とても喜ばしいこと」と、評した。

 審査員の北村監督は、「映像人類学あるいは民俗学というのは、どの作品にも資料的な価値がある。劇場で上映するということにおいては、資料性プラス映像的に見せるという面を加味しながら作られた作品かということで選んだ」と自身の審査基準を説明した。

 グランプリ(宮本馨太郎賞)の『マーゴット』について審査員の奥野は、「モザンビークに滞在をして映像を残した(ポルトガルの民族音楽学者)マーゴット・ディアスに晩年に出会った監督が、さまざまな関連資料を集めた上で、モザンビークの人々の日常風景に寄り添いながら工芸品の展示よりも生き生きとした映像記録に向かったマーゴットの体験に肉薄し、マーゴットの映像記録が植民地政府が製作した作品といかに異なるのかを作品中で示し得た点で、映像人類学のみならず人類学にとっても価値がある優れた作品」と受賞理由を話した。

 授賞式では、ポルトガル在住のカタリナ・アウヴェス・コスタ監督の、「人類学者であり映画監督として私が思うのは、この映画は研究分野としての己の物語を考えさせるものだということ。映画監督、人類学者として重要な日となった」というメッセージが代読された。

 準グランプリの『ディタッチド』について奥野は、「(ロシアの少数民族チュクチの)自殺率の高さやアルコール依存を扱った作品で、急激な社会変化についていけない人にもきっと光があるはずだというメッセージが感じられる、高質なドキュメンタリー」と感銘を受けた模様。

 プロデューサーのオルガ・ミチから「私たちの映画とチュクチ自治管区の土地の人々の問題に関心を向けていただき誠にありがとうございます。この素晴らしい民族の歴史が国際的な関心を受けることを嬉しく思う。この映画の制作は厳しい天候環境の中で大変困難なものだった。私たちのヒーローについての物語を語る機会をいただけたことに心の底から感謝している」との感謝のコメントの映像が上映された。

 最後に、プログラマーの佐藤寛朗が、「世の中を考えるときに主戦場になっているのはSNSで、言葉のラリーで展開されているが、ドキュメンタリーは考えるための道具なんだなという思いが年々強くなっている。明日以降2回目の作品上映が続くので、ぜひ足を運んでいただきたい」とメッセージを送った。

東京ドキュメンタリー映画祭2023

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(オフィシャル素材提供)

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