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「FUKUSHIMA with Béla Tarr /福島映画教室2024」タルベーラ監督によるマスタークラス成果報告会・上映交流会

© 福島映画教室2024

 2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う避難指示対象地域となった福島県内の12市町村を舞台に2023年2月6日(火)から2月19日(月)まで行われた、タル・ベーラ監督によるマスタークラス。
 マスタークラスの締めくくりとして、2月18日(日)13:30から、活動の拠点となる葛尾村のみどりの里せせらぎ荘にて、一般公開イベント「成果報告会・上映交流会」が行われた。

 なお、マスタークラスは終了となったが、モーションギャラリーにてクラウドファンディングは5月7日(火)まで引き続き実施中。今後もオフィシャルXアカウントにて情報が発信される。

 2011年3月11日の東日本大震災直後に起きた東京電力福島第一原子力発電所の事故によって、住民が避難を余儀なくされた福島県浜通りに位置する12市町村。この場所で芸術家やクリエーターの活動の機会を作る「ハマカルアートプロジェクト」の支援を受け、2月6日から開催中だった〈FUKUSHIMA with BÉLA TARR〉の締めくくりとなる成果報告会・上映交流会が2月18日、福島県双葉郡葛尾村のみどりの里せせらぎ荘にて行われた。会場には受講生たちの作品作りに協力した近隣住民の方々も顔を見せ、和やかな雰囲気の中で上映が始まった。

 今回のワークショップで7人の受講生たちを指導したタル・ベーラ監督の愛弟子で、記録を担当した小田 香監督が撮影した映像に「LETTERS FROM FUKUSHIMA」という全体タイトルが重なるオープニングに続き上映されたのは、台湾から来たリン・ポーユーさんの監督作『Nappo』。東京から南相馬に移住し、歌やダンスで人々の輪を広げているシンガー・ソング・ライターのnappoさんの人物像を音楽に重ねながら見せた。上映後にリンさんは「nappoさんと出会わなければここで映画を作ることはできなかった」と振り返った。福島県浪江町出身の大浦美蘭さんの『Wall』は造園会社に勤める男性が、自社の庭に土留の塀を作る様子を静かに見つめる作品。タル・ベーラ監督からは「言葉がなくても伝わる」とのアドバイスを受けたという。飯塚陽美さんの『Long Long Hair』では浪江町にある美容室を訪れた人たちと美容師との会話の中から、今ここに生きる人たちの日常の断片が浮かび上がった。7本の中で唯一のドラマとなった清水俊平さんの『A Separation』は夢を実現するため、故郷を離れようとする女子高校生の葛藤をホテルの一室でのやりとりの中で表現した。清水さんによれば福島の人たちと会う中で、『別れ』についての話をたくさん聞いたことが作品のアイディアにつながったという。
 休憩を挟んで後半は、ロヤ・エシュラギさんの『Letters from Fukushima』でスタート。作品は風呂に入る女性をとらえた「女性」、映画館でスクリーンを見つめる人々の顔を撮影した「人生」、山の中で木材を切り出す様子にカメラを向けた「自由」という三章で構成。イラン出身で現在はコスタリカ在住のエシュラギさんは「私の故郷では髪を見せるだけでも殺される可能性がある。尊厳のある女性の裸を撮ることは一つのプロテストの形です」と語った。中国のシュ・ジエンさんの『The Guests』は南相馬市の自動車整備工場で働くフィリピン人労働者の1日に密着。朝目覚め、仕事をして帰宅し、眠りにつくまでを至近距離から撮影した。言語の壁に阻まれ、撮影に苦労したというシュさんだが、労働者たちと交流するうちに「心と心を通わせることが大事」と気づいたという。最後に上映されたのは、福永壮志さんの『Tale of Cows』。11年3月まで酪農家の夫と共に乳牛を育てていた石井絹江さんが自らの経験を元にした紙芝居『浪江ちち牛物語』を、仲間の岡 洋子さんと共に読む姿を記録。撮影はいまだ帰還困難地域となっている浪江町津島地区にある石井さんの牛舎内で行われた。原発事故の影響を牛たちの視点から見る物語が人々の心を揺るがし、会場内にはすすり泣きも聞こえた。

 上映後はそれぞれが自作についてコメントした後、質疑応答が行われた。「タル・ベーラ監督からかけられた中で、印象に残っている言葉は?」という質問に、福永さんは「人生を理解できれば形やスタイルはついてくる」、大浦さんは「自分が撮影する人と場所を信じろ」という言葉をあげた。

 ワークショップが始まって間もなく、「外に出て、人と会ってきなさい」というタル・ベーラ監督の言葉から始まった7人の受講生たちの作品作り。2週間という短い時間の中で、それぞれの個性を生かした作品が形を成したことに、タル・ベーラ監督も満足そうな笑みを見せていた。

 登壇者:飯塚陽美、ロヤ・エシュラギ、大浦美蘭、清水俊平、シュ・ジエン、福永壮志、リン・ポーユー

FUKUSHIMA with Béla Tarr開催概要

 タル・ベーラは今日の映画界でもっとも尊敬を集めるアーティストの一人。
 彼は現代文明の崩壊と自然の復讐をセルロイドのフィルム上に描き出し、映画的な時空間を創り上げてきた。
 10年前の2013年にはサラエヴォに映画学校「film.factory」を創立し、多くの優秀な映画人を輩出した。
 その中には今回のマスタークラスの記録をする小田 香さんもいる。タル・ベーラ氏により2024年の2月6日から2週間マスタークラスを開催することになった。場所は2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う避難指示対象地域となった福島県内の以下の12市町村[田村市、南相馬市、川俣町、 広野町、楢葉町、富岡町、川内町、大熊町、双葉町、 浪江町、葛尾村、飯舘村]から選定される。

 実施期間:2024年2月6日(火)〜2月19日(月) 14日間
 対象地域:福島県12市町村
 招へい監督:タル・ベーラ
 記録監督:小田 香
 Xアカウント:@FFIR2024

クラウドファンディング概要

タイトル:タル・ベーラ監督による映画制作マスタークラス開催を応援してください!
 募集URL: https://motion-gallery.net/projects/Fukushima_BT_fmir (モーションギャラリーサイト内、外部サイト)
 募集期間:2024年2月5日(月)12:00~5月7日(火)23:59 ※ 日本時間
 目標額:150万円
 ※ 支援者へのリターンとして、ステッカーやトートバッグ、小田香監督が監督する本マスタークラスの記録映像のラッシュ映像もしくはラフ編集映像の視聴権を想定。

マスタークラスの先生:招へい監督 タル・ベーラ氏について

 1955年ハンガリー、ペーチ生まれ。
 哲学者志望であったタル・ベーラは16歳の時、生活に貧窮したジプシーを描く8ミリの短編を撮り、反体制的であるとして大学の入試資格を失う。その後、不法占拠している労働者の家族を追い立てる警官を8ミリで撮影しようとして逮捕される。釈放後、デビュー作『ファミリー・ネスト』(77)を発表。この作品はハンガリー批評家賞の新人監督賞、さらにマンハイム国際映画祭でグランプリを獲得した。1994年に約4年の歳月を費やして完成させた7時間18分に及ぶ大作『サタンタンゴ』を発表。ベルリン国際映画祭フォーラム部門カリガリ賞を受賞、ヴィレッジ・ボイス紙が選ぶ90年代映画ベストテンに選出されるなど、世界中を驚嘆させた。続く『ヴェルクマイスター・ハーモニー』(2000)がベルリン国際映画祭でReader Jury of the “Berliner Zeitung”賞を受賞、ヴィレッジ・ボイス紙でデヴィッド・リンチ、ウォン・カーウァイに次いでベスト・ディレクターに選出される。2001年秋にはニューヨーク近代美術館(MOMA)で大規模な特集上映が開催され、ジム・ジャームッシュ、ガス・ヴァン・サントなどを驚嘆させると共に高い評価を受ける。
 多くの困難を乗り越えて完成させた、ジョルジュ・シムノン原作の『倫敦から来た男』(07)は見事、カンヌ国際映画祭コンペティション部門でプレミア上映された。2011年、タル・ベーラ自身が“最後の映画”と明言した『ニーチェの馬』を発表。ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員グランプリ)と国際批評家連盟賞をダブル受賞し、世界中で熱狂的に受け入れられた。
 90年以降はベルリン・フィルム・アカデミーの客員教授を務め、2012年にサラエボに映画学校film.factoryを創設。2016年に閉鎖した後も、現在に至るまで世界各地でワークショップ、マスタークラスを行い、後輩の育成に熱心に取り組んでいる。フー・ボー(『象は静かに座っている』)や小田 香(『セノーテ』)などの映画監督が彼に師事しており、2021年カンヌ国際映画祭でA24が北米配給権をピックアップして話題となった『Lamb』のヴァルディマー・ヨハンソンもfilm.factoryの出身。タル・ベーラは同作のエグゼクティブ・プロデューサーも務めている。ブダペスト、プラハ、カイロ、ケララなどでもマスタークラスやワークショップを精力的に行っている。
 インスタレーションや展示も積極的に手掛け、2017年にアムステルダムのEye Filmmuseumで“Till the End of the World”、2019年にはウィーンで“Missing People”を開催している。2003年エルサレム国際映画祭、2011年イスタンブール国際映画祭、エレヴァン国際映画祭、レイキャビク国際映画祭で栄誉賞、2023年12月にはヨーロピアン・フィルム・アワード栄誉賞など多数受賞している。

マスタークラスの記録監督:小田 香氏について

 1987年大阪府生まれ。フィルムメーカー/アーティスト。イメージと音を通して人間の記憶(声―私たちはどこから来て 、どこに向かっているのか―)を探究する。
 2011年、ホリンズ大学教養学部映画コースを修了。卒業制作である『ノイズが言うには』(38分/2010年)が、なら国際映画祭学生部門nara-waveにて観客賞を受賞。東京国際LGBT映画祭をはじめ国内外の映画祭で上映される。
 2013年、映画監督のタル・ベーラが陣頭指揮する若手映画作家育成プログラムであるfilm.factory (映画制作博士課程)に第1期生として参加し、拠点地であるサラエボで3年間暮らす。その間、『呼応』(19分/2014)、『フラッシュ』(25分/2015)などの短編他、film.factoryの作家陣と協働してオムニバス作品を多数制作。2014年にはポーラ美術振興財団在外研究員として助成を受け、2016年に同プログラムを修了し博士号取得。
 ボスニアの炭鉱を主題とした第一長編作品『鉱 ARAGANE』(68分/2015) が山形国際ドキュメンタリー映画祭・アジア千波万波部門にて特別賞を受賞。リスボン国際ドキュメンタリー映画際、マル・デル・プラタ国際映画祭、台湾国際ドキュメンタリー映画祭などを巡り、2017年に国内劇場公開に至る。
 サラエボでの映画制作の日々や、自身の映画制作の原点について綴ったエッセイ映画『あの優しさへ』(63分/2017)が完成し、ライプティヒ国際ドキュメンタリー&アニメーション映画祭ネクスト・マスターズ・コンペティション部門にてワールドプレミア上映。主たる舞台であるボスニア・ヘルツェゴビナやセルビアの映画祭でも上映される。
 2019年最新作長編『セノーテ』が完成。山形国際ドキュメンタリー映画祭、ロッテルダム国際映画祭などに招待され各国を巡回。メキシコ・FICUNAM映画祭、スペイン・ムルシア国際映画祭にて特別賞を受賞。
 2020年、第1回大島渚賞を受賞。(ぴあフィルムフェスティバルが新設した「映画の未来を拓き、世界へ羽ばたこうとする、若くて新しい才能に対して贈られる賞」)
 過去作の特集と共に『セノーテ』国内劇場公開。映画配信サイトMUBIで独占配信。(日本とメキシコを除く)
 2021年、『セノーテ』の成果により第71回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。
 長編映画制作と並行して短編映画や映像作品も制作しており、ほとんどの作品で撮影・サウンドデザイン・編集を自ら行っている。絵画の制作や展示にも取り組んでおり、近年では東根市まなびあテラス「小田香 光をうつしてー映画と絵画」(山形/2020)での個展開催や、3331アートフェア(東京/2019)に絵画作品で参加。市原湖畔美術館「メヒコの衝撃展」(千葉/2021)や、青森県立美術館と協働して行うアート・プロジェクト「美術館堆肥化計画」(青森/2021-2023)にも参加している。

 主催:福島映画教室実行委員会
 協力:ドリームゲート、鈴木映画、ビターズエンド、スリーピン、コミュニティシネマセンター、南相馬市、葛尾村、富岡町、Katsurao Collective

(オフィシャル素材提供)

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