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「ピーター・グリーナウェイ レトロスペクティヴ 美を患った魔術師」特別先行試写会@女子美術大学

 3月2日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開となる鬼才ピーター・グリーナウェイ監督作品の特集上映『ピーター・グリーナウェイ レトロスペクティヴ 美を患った魔術師』の公開を記念して、2月16日(金)に女子美術大学の学生向け特別先行試写会が実施された。

 今回先行上映となった作品は、左右対称をテーマにした映像のなかで動物の腐敗する過程を撮影する事に没頭する双子の兄弟を描いた衝撃作『ZOO』(85)。上映後にスペシャルゲストとして美術家、映画批評家、ドラァグ・クイーンなど多彩な顔を持つヴィヴィアン佐藤、さらにでんぱ組.incやWEST.への作詞提供、コラムや映画批評などで活躍するDIVAのゆっきゅんをお迎えして「初めてのピーター・グリーナウェイ」と題したトークイベントが開催された。1980年代~2000年代にかけて起きたミニシアター・ブームのきっかけとなった伝説の作家を徹底解剖&その魅力を現代の学生たちと共に紐解いた。

アリ・アスター、ヨルゴス・ランティモス、ジャンポール・ゴルチエ――
その狂気的な魅力に憑りつかれたアーティストたちを輩出した鬼才とは

 偏執狂的な美へのこだわり、作品毎に一貫したコンセプト、徹底された構図と色彩表現、そして映像と融合する巧みな音楽の存在――。そのアブノーマルな作品世界から映画評論家の故・淀川長治が“英国を代表するエレガントな狂的天才”だと絶賛したピーター・グリーナウェイ。映画監督だけでなく画家、アート・ディレクターとしても活動する、英国を代表するアーティストである。唯一無二の芸術的センスで、これまでに第41回カンヌ国際映画祭にて芸術貢献賞を、英国アカデミー賞(第67回)では個性的で革新的な映画製作が評価され、英国映画貢献賞を受賞している。観る者に強烈なインパクトを与え、海外でいま再び注目が集まっているグリーナウェイ作品。今回の先行上映で学生たちが観るのは、動物の死骸に執われた双子を描いた衝撃作『ZOO』(85)。ヴィヴィアン佐藤がその魅力と人となりを解説。ゆっきゅんは学生と同じ目線で、現代から見たグリーナウェイを語った。

 上映後、ステージの準備を進める間に、女子美術大学・芸術学部・洋画専攻教授の大森 悟が登壇。Bunkamura ル・シネマ(現・Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下)でアルバイトをした経験もあるという大森先生は、当時の美大生たちは他者と共に映画を観ながら自己形成したり、何かに抗うということをしてきたと回想。今回、『ZOO』を鑑賞した学生たちには、時間と形の方向から作品を解説した。生物が腐敗・分解されるに至る時間、そして建築や自然、さらに人間にも表れている左右対称のシンメトリーという古典的な形の美(グリーナウェイの特色でもある)を、アリストテレスなどギリシャ哲学的に「物事が動いている状態を重んじていた概念」から産業革命以降の「状態ではなくカチっとした表現を重視」していくことになった時代の流れを含め説明。本作を観ていると、そのシンメトリーのなかにある揺らぎに気づくことを示唆した。

 そしてバトンタッチをする形で登壇したヴィヴィアン佐藤とゆっきゅんの二人。公開当時に諸作品を観ているヴィヴィアン佐藤は「わたしの80%はピーター・グリーナウェイで出来ていると言っても過言じゃないくらい」と、その影響の強さを物語る。グリーナウェイ作品を初体験し、学生たちと同じまっさらな視点で参加したゆっきゅんは「これまでグリーナウェイの影響を受けたと言う作家たちの作品は観てきたけど、改めて何か原典に触れている感じとでもいうような心持ちで、最初から最後までビジュアル・イメージと映画の内容が完全にシンクロしていて、その執着が恐ろしい」と感想をぽつり。

 ここ20年ほど日本では話題に上がらないグリーナウェイ作品だが、『ボーは恐れている』のアリ・アスターが、そして『哀れなるものたち』のヨルゴス・ランティモスが、その影響を公言しているのは有名な話し。『英国式庭園殺人事件』が公開から40周年を迎えた2022年、そして満を持して今年日本での特集上映が行われるということで、ヴィヴィアン佐藤は「今年は当たり年ね! アリ・アスターとかヨルゴス・ランティモス、それにレディ・ガガなんかもそうだけど、そういう人たちの周りを固めているのが実はわたしと同じくらいの世代の人たち。だから、まさにグリーナウェイ作品の美学に浴した人たちの、その美学がループして続いているような感覚なの」と感慨深く説明。
 グリーナウェイが映画監督であるより先に画家志望であったことにも触れ、ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展で『プロスペローの本』(91)を元に制作された本の展示があったことも回想した。「いわゆるこの時代ってMTVなんかがぱっと出てきた時代。1984年、ロサンゼルスのオリンピックとか、ヴァン・ヘイレンとかアメリカン・ロックやマイケル・ジャクソンの時代。音楽と映像が連動し始めた時代なの。そんな時代にアメリカとは全く違った表現でこんな映画を作っていたのがピーター・グリーナウェイ」と、当時の受け入れられ方の斬新さを解説した。

 音楽家であるゆっきゅんはマイケル・ナイマンの音楽にも触れ、「音楽がすごく特徴的でした。不自然というか、目立つっていうか」と、その独特な世界に感動した模様。「楽譜の図柄から音楽を作ったり、理論だけで作ったりと、過激なことをやっていたナイマンだけど、かたや『ピアノ・レッスン』(93)はメロディが美しい。ゆっきゅんが不自然と言ったけど、支配されたり管理・制御された自然を執拗に描き続ける、所謂ネイチャー・モルテ、死んだ自然という言葉がありますけど、それを踏襲しているのかなと思う」と、音楽にも宿る美学を補足した。また、自身の好きなグリーナウェイ作品として『ベイビー・オブ・マコン』と『プロスペローの本』を挙げた。「残酷で美しいです。毒々しいところ、諧謔性だったりパンク精神みたいなものが共通してるのかなと思う。プロスペローでは天才パンクバレエ振付師のマイケル・クラーク(ファッション・デザイナーのJWアンダーソンが長年のファンであることも公言し、2023-24年秋冬コレクションではコラボもしている)が踊り狂っていて最高。どこか当時のミニシアター・ブームって、映画が映画だけというより、音楽やファッションや建築とか、そういったところとクロスオーバーして文化を変えていったイメージがあります。『コックと泥棒、その妻と愛人』(89)は、グリーナウェイ作品を敬愛したジャンポール・ゴルチエが衣装を担当してますよね。ゴルチエも実は洋服だけではなく、都市と密接にリンクしていた。所謂デパートとかではなく、路面店、ギャルリ・ヴィヴィエンヌという裏通りに入っていたりして、都市とファッションが繋がっていたの。今はなんでもネットで買えるから、もう都市とか街は関係なくなってしまったけど」と、全ての芸術が密接にリンクしていた時代と、グリーナウェイ作品のその懐の広さを讃えた。

 そしてマスコミ向けのフォトセッションの前に、画家・ヒグチユウコ&グラフィックデザイナー・大島依提亜の手掛けた映画『ZOO』のオルタナティヴポスターが発表された。兼ねてよりグリーナウェイ作品のファンであった二人の作品に感嘆の声を上げる二人だった。

 B2サイズのオルタナティヴポスターは3月2日(土)の公開初日から、500枚限定で渋谷のシアター・イメージフォーラムで販売されることが決まっている。販売価格は1,500円(税込)、映画半券を提示した方へのみ、チケット1枚につき1枚販売。
 詳細は劇場HP(https://www.imageforum.co.jp/theatre/news/、外部サイト)にて。

 登壇者:ヴィヴィアン佐藤、ゆっきゅん

「ピーター・グリーナウェイ レトロスペクティヴ 美を患った魔術師」上映作品

『プロスペローの本』

 ※ 2011年のHDリマスター版を無修正で劇場初上映

シェイクスピアの戯曲テンペストを原案に、24冊の魔法の書を手に入れた男による復讐劇
衣裳は日本を代表するデザイナーのワダエミ

 ミラノ大公プロスペローは、ナポリ王アロンゾーと共謀した弟アントーニオに国を追われ、娘のミランダと共に絶海の孤島に幽閉される。アロンゾーへの復讐を片時も忘れなかったプロスペローは友人ゴンザーローから譲り受けた24冊の魔法の書を読み解いて強大な力を身に着け、島にいる悪魔の力を持つ怪物キャリバンや妖精エアリエルを操り、魔法の力で復讐を実行する。

 出演:ジョン・ギールグッド、マイケル・クラーク、ミシェル・ブラン、エルランド・ヨセフソン他
 監督:ピーター・グリーナウェイ
 音楽:マイケル・ナイマン
 衣裳:ワダエミ

 (1991│イギリス・フランス・イタリア│英語│カラー│ヨーロピアンビスタ│2.0ch│126分│原題:Prospero’s Book)

『数に溺れて 4Kリマスター』

Ⓒ1988 Allarts/Drowing by Numbers BV

 ※ 2022年に4Kリマスターされたものを修正無し・オリジナル版で初上映

同じシシーという名前を持つ3人の女性による殺人を描いたサスペンス。第41回カンヌ映画祭芸術貢献賞受賞

 英国サフォーク州の水辺に暮らす同姓同名の3人の女性シシー・コルピッツたちは、愛の冷めてしまった夫をそれぞれで殺そうとする。1人目のシシーは若い女と浮気している夫を湯に沈め、2人目のシシーは自分に関心のない夫を海で溺れさせ、3人目のシシーは、新婚早々熱が冷めた夫をプールで溺れさせた。検視官のマジェットは3人から一連の出来事を全て事故死として処理するように脅されるが……。

 出演:ジョーン・プロ―ライト、ジュリエット・スティーヴンソン、ジョエリー・リチャードソン、バーナード・ヒル他
 監督:ピーター・グリーナウェイ
 音楽:マイケル・ナイマン

 (1988│イギリス│英語│カラー│ヨーロピアンビスタ│2.0ch│118分│原題:Drowing by Numbers)

『ZOO』

Ⓒ1985 Allarts Enterprises BV and British Film Institute.

 ※ 2000年初期のHDリマスター版を無修正で劇場初上映

腐敗していく動物の死骸に捉われた双子の兄弟を描いたトラウマ級の衝撃作

 オランダ・ロッテルダムの動物園で働く双子の動物学者オズワルドとオリヴァーは交通事故で同時に妻を亡くし、車を運転していた女性アルバは一命をとりとめるが片足を失う。事故後、オズワルドとオリヴァーは何かに憑かれたように動物の死骸が腐敗していく過程を映像に記録することに没頭する。やがて2人はアルバと親しくなり、アルバも2人に好意を抱き始める。

 出演:アンドレア・フェレオル、ブライアン・ディーコン、エリック・ディーコン他
 監督:ピーター・グリーナウェイ
 音楽:マイケル・ナイマン

 (1985│イギリス│英語│カラー│ヨーロピアンビスタ│2.0ch│116分│原題:A Zed & Two Noughts)

『英国式庭園殺人事件 4Kリマスター』

Ⓒ1982 Peter Greenaway and British Film Institute.

 ※2022年に4Kリマスターされたものを修正無し・オリジナル版で初上映

主人を殺したのは誰?屋敷の庭を描いた画家の12枚の絵の中に浮かび上がる、完全犯罪の謎。
ピーター・グリーナウェイの名を有名にした初期の傑作ミステリー!

 17世紀末、画家ネヴィルは英国南部ウィルトシャーにあるハーバート家の屋敷へ招かれる。主人のハーバート氏は不在で、代わりに出迎えた夫人のヴァージニアは、夫が戻るまでに屋敷の絵を12枚完成させること、報酬は一枚8ポンドに寝食の保証、そして夫人はネヴィルの快楽の要求に応じると言い、契約を結ぶ。ネヴィルは絵を描き始めるが、描こうとする構図の中に誰かがハーバート氏のシャツ、裂かれた上着等、何かを暗示するような物を紛れ込ませようとする。

 出演:アントニー・ビギンズ、ジャネット・スーズマン、ルイーズ・ランバート、ニール・カニンガム他
 監督:ピーター・グリーナウェイ
 音楽:マイケル・ナイマン

 (1982│イギリス│英語│カラー│ヨーロピアンビスタ│モノラル│107分│原題:The Draughtsman’s Contract)

公開表記

 配給:JAIHO
 2024年3月2日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公

(オフィシャル素材提供)

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