いよいよ今週末、3月2日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開となる鬼才ピーター・グリーナウェイ監督作品の特集上映『ピーター・グリーナウェイ レトロスペクティヴ 美を患った魔術師』の公開直前ということで、各作品の鮮烈なビジュアルと作品概要を一枚ずつに纏めたWEB版スペシャルポスター計4点が解禁! さらに、今から40年前『英国式庭園殺人事件』当時のグリーナウェイのインタビューも改めて日本語に翻訳され初登場!
昔からのグリーナウェイのファンには懐かしささえ漂う、グリーナウェイ印が溢れる各作品のスペシャルポスターはWEB限定での公開となる。さらに、今回翻訳されたインタビューは1982年『英国式庭園殺人事件』公開当時の貴重なもの。「時間帯を変えて同じ風景に戻り続け、光がどのように形、フォルム、垂直線を作り、それらがどのように変化し、時間帯によってどんな新たな意味を持つかを見つめる」と作品の特徴を自ら語り、「台詞は駄洒落や戯れ言を含んでとても注意深く練られている。全体が、王政復古期の悲劇を目撃した17世紀に好まれていた手の込んだ茶番劇である」と『英国式庭園殺人事件』を解説している。今回のレトロスペクティヴにあわせて日本のメディア向けにオンライン・インタビューも受けてくれたグリーナウェイ監督。現在のインタビュー内容と40年前とを比較して、その一貫した美意識と情熱、そして諧謔性や示唆に富んだ会話を、ぜひ楽しんでもらいたい。
ピーター・グリーナウェイ インタビュー
『英国式庭園殺人事件』と私の前作との間には、これまでのどの作品よりも大きな隔たりがある。この隔たりは両立不可能のように思えるが、それ以前に撮った作品と似ている部分もたくさんあると思う。そして確かに私は、過去のことを念頭に置きこの映画をカットしなければならないだろう。『Vertical Features Remake』とは、視覚的に非常に強く連想できる部分がある。風景のある特徴を探し出し、ほとんどミニマリスト的な方法でそれを追求する画家の関心。そして本作は、時間帯を変えて同じ風景に戻り続け、光がどのように形、フォルム、垂直線を作り、それらがどのように変化し、時間帯によってどんな新たな意味を持つかを見つめるという構成をしているのだ。
私の最大の関心事は、風景、筋書きの相互作用に関わるアイデア、対称性、ガーデニングというサブテキスト全体に特徴的な事柄、そして台詞とその内容、その形式を使ってできるゲームである。非常に文学的な映画であり、台詞は駄洒落や戯れ言を含んでとても注意深く練られている。全体が、王政復古期の悲劇を目撃した17世紀に好まれていた手の込んだ茶番劇である。私の映画作りの特徴のひとつは、一連の物語、逸話、秘話が一体となり、総合的な世界を構築する点だ。
残念ながら、リハーサルの時間が足りなかった。私がやりたかったのは、撮影に入る前に全員が物語を理解していると確認することだった。もうひとつ私が提案したのは、とても長いテイクを撮ることだった。俳優たちがドラマチックな状況に身を置き、物語が展開していくようにするつもりだった。過剰に編集された映画を作るつもりはなかった。それも演劇的素養のある俳優を起用した理由のひとつだ。台詞のリズムを考慮すると、私はもっと頭脳的なアプローチをとり、動きから距離を取ったほうがよかった。殺人のような肉体を使うドラマが多い場面では、別の基準で台詞を操らなくてははならないことが分かった。距離を取ることによる効果は期待したようには得られなかった。
8分に及ぶものもある一連の長回しによって、時折、非常に文学的な表現が生まれる。私はこれに喜び興奮するのだが、より多くの 「一般的な」観客を喜ばせ、興奮させるものかどうかは分からない。映画の長さも気になる。とても長くなってしまうため、半商業的な長さ、110分程度に収めなければならない(グリーナウェイのオリジナル・カットは4時間に及ぶ)。プレッシャーと緊急事態のために、庭園のディテールについては失われてしまったものが多くある。予算の増大や商業的な問題など、映画には多くのプレッシャーがあるのだ。
ネヴィルだけでなくタルマンも含め、登場人物と彼らによる突っ込みどころ満載の会話は、私自身のある一面を反映していると思いたい。ネヴィルとタルマン夫人が「傲慢さ」と「無邪気さ」について語る重要なシーンがそうだ。「傲慢さ」と「無邪気さ」のバランスを取るというのは、私自身の課題でもある。ネヴィルは、表向きは非常に傲慢な人物で、自己中心的な考えから世の中を駆け回り、行く手を阻むものをすべて破壊してしまうが、彼が他人の陰謀に巻き込まれるのは、その無邪気さゆえと言える。なぜなら、もし彼がもっと賢い男であったなら、このような策略はすぐに見抜けたはずだからだ。しかし、その無邪気さが彼を解放し、傷つきやすくしているのだ。
『英国式庭園殺人事件』のイメージ、プロット、感情の強さはすべて普遍的なものだ。それがたまたまこの特殊なフォーマットに収まっただけである。私はパンチがあり、視覚的興奮があり、頭脳的なエンタテインメントがある良い映画を作りたいと思っている。
Monthly Film Bulletin、1982年11月号
アリ・アスターが「映画人生を狂わされた」と語り
淀川長治が「英国アート映画史上最もエレガントな狂的天才」と絶賛した
この英国紳士、ピーター・グリーナウェイとは一体、何者なのか――
偏執狂的な美へのこだわり、作品毎に一貫したコンセプト、徹底された構図と色彩表現、そして映像と融合する巧みな音楽の存在―—。そのアブノーマルな作品世界から映画評論家の故・淀川長治が“英国アート映画界史上最もエレガントな狂的天才”だと絶賛したピーター・グリーナウェイ。映画監督だけでなく画家、アートディレクターとしても活動する、英国を代表するアーティストである。
唯一無二の芸術的センスで、これまでに第41回カンヌ国際映画祭にて芸術貢献賞を受賞(『数に溺れて』)。マイク・リー、ケネス・ブラナー、リドリー・スコットなども過去に受賞をした英国アカデミー賞(第67回)では個性的で革新的な映画製作が評価され、英国映画貢献賞を受賞している。
現代の鬼才と呼ばれる映画監督たちにもファンが多く、『ミッドサマー』で知られるアリ・アスターは「グリーナウェイに映画人生を狂わされた」と語り、アスターの長編デビュー作『ヘレディタリー 継承』で、グリーナウェイ作品の最も特徴的な撮影手法であるフレーム・イン・フレーム(映画のフレームのなかにさらなるフレームを作り撮影する方法)を参考にしたと明かしている。
新作『哀れなるものたち』の公開が待たれるヨルゴス・ランティモスは、「『女王陛下のお気に入り』の衣裳は、グリーナウェイの『英国式庭園殺人事件』を参考にした」と語り、映画配信サービスMUBIやニューヨーク映画祭で、ヨルゴスの推薦作品として『英国式庭園殺人事件』を選定している。
ファッション界の異端児と呼ばれるジャンポール・ゴルチエは「『英国式庭園殺人事件』のヘアスタイルに衝撃を受けた、彼らはルイ14世時代の人より狂ってる! 完璧な衣裳と素晴らしい撮影のファンになった」と絶賛。ゴルチエはその後、グリーナウェイの『コックと泥棒、その妻と愛人』で初めて映画衣裳を担当し、以来多数の巨匠監督とも仕事をしている。間違いなく世界中の鬼才たちのクリエイティブに影響を与えている存在と言える。
公開40周年を記念して本国イギリスで上映された4Kリマスター版『英国式庭園殺人事件』を含む
音楽家マイケル・ナイマンが楽曲を手掛けた一挙4作品を、修正無しのオリジナル版で劇場初上映!
観る者に強烈なインパクトを与え、海外でいま再び注目が集まっているグリーナウェイ作品。2023年に行われた第79回ヴェネチア国際映画祭ヴェネチアクラシックス部門では『英国式庭園殺人事件』が上映され、続く本国イギリスでは、同作の公開40周年を記念し4Kリマスター版の特別上映が開催された。
今回の特集上映では、グリーナウェイの数ある作品のなかでも『髪結いの亭主』、『ピアノ・レッスン』、『ガタカ』等で世界的に知られる音楽家マイケル・ナイマンが音楽を手掛けた作品を選定。異彩を放つグリーナウェイの世界に音で更なる煌めきを与えたナイマンとの、世紀のコラボレーションと呼ぶに相応しい4作を上映する。
ラインナップには、グリーナウェイの初期の傑作であり、彼の名を一躍世界に知らしめ再評価の熱も高まっている快作ミステリー『英国式庭園殺人事件』(82)、動物の腐敗過程を映像で記録することに没頭する双子の兄弟を描いた衝撃作『ZOO』(85)、同じシシーという名前を持つ3人の女性たちによる殺人を描いたサスペンス『数に溺れて』(88)、そしてウィリアム・シェイクスピア最後の戯曲「テンペスト」を映画化し、黒澤 明監督作『乱』等で知られる日本を代表するデザイナーのワダエミが衣裳を担当した『プロスペローの本』(91)と、代表的な傑作が揃った。
『英国式庭園殺人事件』と『数に溺れて』は、グリーナウェイ本人の許可を得て4Kリマスターされた素材で上映する。また、他作品についてもオリジナリティを尊重し、本国より提供された上映素材をそのまま使用し、4作品すべて修正無しのオリジナル版で劇場初上映となる。(※ 4K上映は対応劇場のみ。その他は2K上映)
「ピーター・グリーナウェイ レトロスペクティヴ 美を患った魔術師」上映作品
『プロスペローの本』
※ 2011年のHDリマスター版を無修正で劇場初上映
シェイクスピアの戯曲テンペストを原案に、24冊の魔法の書を手に入れた男による復讐劇
衣裳は日本を代表するデザイナーのワダエミ
ミラノ大公プロスペローは、ナポリ王アロンゾーと共謀した弟アントーニオに国を追われ、娘のミランダと共に絶海の孤島に幽閉される。アロンゾーへの復讐を片時も忘れなかったプロスペローは友人ゴンザーローから譲り受けた24冊の魔法の書を読み解いて強大な力を身に着け、島にいる悪魔の力を持つ怪物キャリバンや妖精エアリエルを操り、魔法の力で復讐を実行する。
出演:ジョン・ギールグッド、マイケル・クラーク、ミシェル・ブラン、エルランド・ヨセフソン他
監督:ピーター・グリーナウェイ
音楽:マイケル・ナイマン
衣裳:ワダエミ
(1991│イギリス・フランス・イタリア│英語│カラー│ヨーロピアンビスタ│2.0ch│126分│原題:Prospero’s Book)
『数に溺れて 4Kリマスター』
※ 2022年に4Kリマスターされたものを修正無し・オリジナル版で初上映
同じシシーという名前を持つ3人の女性による殺人を描いたサスペンス。第41回カンヌ映画祭芸術貢献賞受賞
英国サフォーク州の水辺に暮らす同姓同名の3人の女性シシー・コルピッツたちは、愛の冷めてしまった夫をそれぞれで殺そうとする。1人目のシシーは若い女と浮気している夫を湯に沈め、2人目のシシーは自分に関心のない夫を海で溺れさせ、3人目のシシーは、新婚早々熱が冷めた夫をプールで溺れさせた。検視官のマジェットは3人から一連の出来事を全て事故死として処理するように脅されるが……。
出演:ジョーン・プロ―ライト、ジュリエット・スティーヴンソン、ジョエリー・リチャードソン、バーナード・ヒル他
監督:ピーター・グリーナウェイ
音楽:マイケル・ナイマン
(1988│イギリス│英語│カラー│ヨーロピアンビスタ│2.0ch│118分│原題:Drowing by Numbers)
『ZOO』
※ 2000年初期のHDリマスター版を無修正で劇場初上映
腐敗していく動物の死骸に捉われた双子の兄弟を描いたトラウマ級の衝撃作
オランダ・ロッテルダムの動物園で働く双子の動物学者オズワルドとオリヴァーは交通事故で同時に妻を亡くし、車を運転していた女性アルバは一命をとりとめるが片足を失う。事故後、オズワルドとオリヴァーは何かに憑かれたように動物の死骸が腐敗していく過程を映像に記録することに没頭する。やがて2人はアルバと親しくなり、アルバも2人に好意を抱き始める。
出演:アンドレア・フェレオル、ブライアン・ディーコン、エリック・ディーコン他
監督:ピーター・グリーナウェイ
音楽:マイケル・ナイマン
(1985│イギリス│英語│カラー│ヨーロピアンビスタ│2.0ch│116分│原題:A Zed & Two Noughts)
『英国式庭園殺人事件 4Kリマスター』
※2022年に4Kリマスターされたものを修正無し・オリジナル版で初上映
主人を殺したのは誰?屋敷の庭を描いた画家の12枚の絵の中に浮かび上がる、完全犯罪の謎。
ピーター・グリーナウェイの名を有名にした初期の傑作ミステリー!
17世紀末、画家ネヴィルは英国南部ウィルトシャーにあるハーバート家の屋敷へ招かれる。主人のハーバート氏は不在で、代わりに出迎えた夫人のヴァージニアは、夫が戻るまでに屋敷の絵を12枚完成させること、報酬は一枚8ポンドに寝食の保証、そして夫人はネヴィルの快楽の要求に応じると言い、契約を結ぶ。ネヴィルは絵を描き始めるが、描こうとする構図の中に誰かがハーバート氏のシャツ、裂かれた上着等、何かを暗示するような物を紛れ込ませようとする。
出演:アントニー・ビギンズ、ジャネット・スーズマン、ルイーズ・ランバート、ニール・カニンガム他
監督:ピーター・グリーナウェイ
音楽:マイケル・ナイマン
(1982│イギリス│英語│カラー│ヨーロピアンビスタ│モノラル│107分│原題:The Draughtsman’s Contract)
公開表記
配給:JAIHO
2024年3月2日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公
(オフィシャル素材提供)