第96回米国アカデミー賞®で、作品賞と脚本賞の主要2部門ノミネートの話題作『パスト ライブス/再会』。その公開に先立ち、3月8日(金)に都内でトークイベントを実施、映画コメンテーターのLiLiCoが登壇した。
イベントが実施された3月8日(金)は国際女性デー。ハッピー・ウーマンに選ばれ、黒にオレンジのリボンがあしらわれたドレス姿で本イベントにも登場し、会場から拍手で迎えられたLiLiCoは、早速本作の感想を聞かれると「(会場には)若い方もたくさんいらっしゃいますが、年を重ねると、昨日何を食べたかよりも、30年前の曲の歌詞を思い出したり、好きだった人をよく思い出してしまったりします。これが40年前の映画だったら、文通で手紙がどっか行っちゃって永遠に会えないっていうのが、多分すごく切なくて心に残る映画だと思うんですけど、今は、会おうと思えば会えるじゃないですか。そこがとっても大きい」と会いたい人に再会できる手段・方法がある現代を舞台に描かれた本作の設定に触れながら、劇中でノラとヘソンが12歳で離ればなれになって以来、24歳の時にオンラインで再会するシーンに言及し、「久しぶりに再会する感じ、少し照れもある感じ、映画の中の2人の雰囲気もすごく良くて、もちろん(ふたりは)私たちの知り合いではないんだけれども、(映画を観ていると)似たような経験、似たような気持ちになったことある方が多いと思います。(映画を観ながら)一緒に何かを感じる、まるで知り合いをみているようにも感じました」と映画の印象を話した。
日本に住んでアジアの価値観の中で暮らしていると、「過去に前世でなにかあった人かもしれない」「今ときめいた、これって運命かも」と思うことは日常の中でも起こり得るのでは、というMCの奥浜からの問いかけに対して、LiLiCoも同意。「実はこの前、前世をみてもらったんですが、ヨーロッパの王様だったんです」と自身の前世をみてもらったことを明かし、さらに10年前に共演して仲良くなった、ハリウッドで活躍するメイクアップ・アーティストのカオリ・ナラ・ターナーさんにそのことを話すと、なんと彼女の前世はヨーロッパの女王様だったと聞き、その繋がりに「前世で結婚してたんじゃない!?」と“縁”を感じたエピソードを明かした。そんな劇中で“縁-イニョン-”と呼ばれる概念は、アメリカ社会においては新鮮なのでは、とLiLiCoは説明する。
来週3月11日(月)、いよいよ発表となる、米国アカデミー賞®の作品賞と脚本賞にノミネートされている本作だが、既に作品を鑑賞しているマスコミの一部から、アカデミー賞®にこういう作品が選ばれることが珍しい、という声が上がっていると聞いたLiLiCoは、「私は(この作品がノミネートされたことは)すごく理解できる」と断言。「アメリカだったら、小さい頃だとしても、ハグしたりちょっとしたスキンシップがあったりすることが多いと思うけど、この映画のふたり(ノラとヘソン)にはそれが無い。でもお互いの間に信頼があって、心が通じている。その信頼や心の繋がりが、アメリカ人にとっては、ちょっとしたスキンシップよりも断然深い繋がりのように、新鮮に感じるのかな」とノミネートされた理由を分析。また、この感覚を“ホラー映画”に例え、「アメリカのホラーは、すごい脅かすじゃない。鋭利なものをもっていたり、音で怖がらせたり。でも日本のホラーは、その時は確かに怖いけど、その後がもっと怖い。想像の怖さ、いわゆる幽霊的な、気持ちでずっと呪うというものが、アメリカのホラーと全然違う。日本のホラーは15年前ぐらいから海外でも注目されてるけど、今度はこの(映画で描かれているような)“恋愛観”がすごく注目されると思う。」と説明した。
また劇中でのアジア人・アメリカ人男性の描き方についても注目したというLiLiCoと奥浜。今までは『ミナリ』や『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』のように、外から(アメリカ社会に)きたアジア人が、アメリカ社会にどう馴染むかという話が多く、疎外感を感じるのはアジア人側だったのに対して、本作では、劣等感・疎外感を感じるのが白人男性の夫・アーサーである点に触れ、奥浜も「アジアの人のアメリカ社会での見方をまた一歩進めた」と評価。「今までだったらこの場合、(本作の中で)、多分韓国人の彼に共感すると思うんですけど、劣等感を感じている白人の彼のほうが、自分たちに近い感じがするって不思議ですよね」(奥浜)と本作が描く、新たな一面についても言及した。
さらに、ノラが海外で働きキャリアをつくっていくことについて、日本で働く自身の姿に重ねたというLiLiCoは、「海外で働くために一生懸命頑張って、なんとかしていいポジションに就きたい、この国で何か私はやり遂げたい、ってノラが言う気持ちもすごく分かる」と共感を寄せる。劇中でノラの服装がアメリカに住むアジア人の洋服・メイク・髪型であることや、ヘソンの話すカタコトの英語、夫・アーサーが話す言葉や細かな表情にも触れ、「そういう小さなことがリアルなところも、私はすごく好き」と細部まで丁寧に演じ、描かれた本作を、LiLiCoと奥浜のふたりならではの視点で解説した。
また鑑賞後の観客を前に、ラスト・シーンについて熱く語り、「何が面白いかというと、どうにでもなれた、どうにでもなるからこそ、(ノラとヘソン、アーサーが選んだ選択を)観終わった後に、美味しいご飯を食べながら話し合いたくなること。自分だったらどうしたのか。皆さんもこのあと、会いたい人、小さい時に好きだった人をFacebookで探してしまうんじゃない?」と観客に語りかけた。そしてLiLiCo自身も昔好きだった人と同窓会で再会し、当時好きだったと明かしたエピソードを披露する一幕もあったが、その上で本作での3人とも重ね合わせながら、「ある意味、大人になろうみたいな気持ちも、多分いっぱいあると思うんだよね。若い時のガツガツした気持ちでいったら、全く物語も違ってきたんでしょうし、もし付き合って結局うまくいっても、想像と違うかもしれないしね」と話した。
そんな「もし―」という可能性や “縁”という目にみえないものを、見事に映画に落とし込んだ本作についてLiLiCoは、「エンドロールの先に、新しい1ページが開くんじゃないかな」とラスト・シーンのその先にも想像を掻き立てられずにはいられない作品であると強調する。またそんな“縁”を感じたことについて、自身のパートナーとの出会いについても触れ、初めてパートナーを見た時に「この人と結婚するかも」と感じたことを明かし、「7年経つけど、今がすごく楽しい」「主人のことをすごく尊敬してる」と笑顔で話すと、奥浜は本作の3人もそんな“尊敬”という愛の形でもきっと繋がっているのではと呼応した。
最後にLiLiCoは、「「あの時、そう言っていたら――」と自分自身を制限して後悔するよりも、失敗してしまうかもしれないけど、それに向かっていくこと、またはそれを思い出にするのもすごく素敵なことだと思う。どちらを選ぶかが大切だと思う。いろいろなことに気づかせてくれる作品だなと思います」とイベントを締めくくった。
登壇者:LiLiCo
MC:奥浜レイラ
公開表記
配給:ハピネットファントム・スタジオ
4月5日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開