イベント・舞台挨拶

長編アニメーション映画『クラユカバ』初日舞台挨拶

©塚原重義/クラガリ映畫協會

 登壇者:神田伯山、黒沢ともよ、芹澤 優、坂本頼光、塚原重義(原作・脚本・監督)

 2023年ファンタジア国際映画祭の長編アニメーション部門【観客賞・金賞】を受賞した長編アニメーション映画『クラユカバ』の初日舞台挨拶が丸の内TOEIで開催され、神田伯山、黒沢ともよ、芹澤 優、坂本頼光、原作・脚本・監督を務めた塚原重義が登壇した。

 本作は、長年にわたり個人映像作家として活動してきた塚原監督による、初の長編アニメーション映画。探偵・荘太郎が奇怪な集団失踪事件を追って、謎多き地下世界“クラガリ”に足を踏み入れていくミステリー作品だ。主人公の荘太郎役を、今「最もチケットの取れない講談師」と言われる六代目神田伯山が務めた。

 幻想と現実が入り混じりながら、どこか懐かしさを漂わせる唯一無二のレトロな世界観を築き上げた本作だが、荘太郎役を演じた伯山は周囲からも「すごく面白そうだ」と期待の声を浴びているといい、「キャラクターや絵柄、歌や声優さんも豪華。すべてが詰まったすばらしい映画になった」と完成作に惚れ惚れ。塚原監督とは17年来の付き合いだというのが、探訪記者の稲荷坂を演じた頼光は、「この作品を作るにあたっていろいろな苦労があったことも知っていた。無事に公開を迎えられてよかった」と感無量の面持ち。伯山を塚原監督に紹介したのも頼光だそうで、「皆さん、伯山さんの荘太郎。よかったでしょう?」と上映後の会場に伯山の演技について語りかけると、観客からは「よかった」という感想を表すように大きな拍手が上がっていた。

 声優初主演を務めた伯山は「ありがとうございます」と感謝しつつ、「鬼のような現場でしたね」と苦戦したことを告白。「声優さんというのはスペシャリスト。声優ではない自分が参加するにあたって、最高の環境を用意してくれた。忌憚なく『もう一回お願いします』と言っていただいた」と塚原監督が妥協せずに、繰り返し収録が行われたと振り返る。伯山は「僕も何度も録り直すのは、好きなんです。ラジオでもそうですし、古典芸能というのは再放送ですから。本当に苦ではない」そうだが、「今回初めて苦になりまして。鬼がいるなと思った」と心が折れそうになったと明かして、周囲の笑いを誘う。同時に苦労しながら全力を注いだことで充実感も噛み締めている様子で、「いい作品になって、塚原監督の初の長編アニメーションに恥じないものになれたとしたら光栄」としみじみと語っていた。

 塚原監督は「最初は冒険だった。主演で、一番セリフが多いキャラクター。声優ではない方にやってもらうとどうなるか。そういった化学反応に期待もしたけれど、不安もあった」と伯山へのオファーについて素直に吐露しながら、「最初の『はい、大辻探偵社』というセリフを言っていただいた瞬間に、『ああ、荘太郎がいる』と周りのみんなも息を呑んだ」と伯山の演技がぴたりとハマったと大絶賛。しかし収録を終えるまでには紆余曲折あった様子で、伯山は「疲れ果てた時もあった」とぶっちゃけた。塚原監督は「たしかに無茶を言った」と納得いくまで収録したことを認め、「最初のころ、伯山さんが『監督、僕は声優じゃないんで。無理ですよ。他の声優さんでいいんじゃないですか』」と伯山が降板を申し入れるほど肩を落としていたことを暴露し、これには伯山も「そんなトーンで言っていない!」と苦笑い。その時点でじっくりと話し合いをし、次第に伯山が役をつかんでからは「順調にいきましたね」と楽しそうな笑顔を見せていた。

 一方、“クラガリ”を走る装甲列車、通称“鬼の四六三”の列車長であるタンネを演じた黒沢は「とても尊敬していた方なので、共演できてうれしかったです」と伯山との共演に感激しきり。「監督のルーツとして、古きよき日本映画がある。そういった日本映画ならではの、語りが多い構成。キャラクターがよくしゃべる作品だったので、伯山さんの声を聴きながら勉強ができた。学びの多い時間でした」と受けた刺激を口にしていた。

 またタンネ役の黒沢と、探偵社に居着いている情報屋の少女・サキ役の芹澤が、オーディション当初はお互いに逆の役を受けていたことも明かされた。芹澤は「サキは男の子なのか、女の子なのか分からないデザイン。どんな感じで演じたらいいんだろうと思った。伯山さんの声に食らいついていくような感じで、収録をした。吐息や細かいところから出てくるサキの表情がかわいらしくて、キュンとした」とキャラクターに愛情を傾けていたが、黒沢は「傾向でいくと、これまではたぶん私のほうがサキっぽい女の子をやる機会が多くて、優ちゃんのほうがスッとした女の子の役が多かった。新たな機会をいただけてうれしかった」と芹澤と顔を見合わせて、うれしそうに微笑んでいた。

 構想から10年。2回のクラウドファンディングを経てついに完成した本作。塚原監督は「企画がなかなか通らない時期が長く続いて、クラウドファンディングを行った。完成していない状態が、自分にとって普通の状態だった。それだけに完成して公開日を迎えて、知らない世界に来ているよう。まだふわふわしています」と照れ笑い。「ここまでの道のりは長かったですが、演者の皆さん、スタッフの皆さんのおかげでどうにかこの場に辿り着くことができた」と周囲に感謝を伝えた。伯山は「“クラガリに曳ひかれるな”というセリフがとても印象深い。世の中がどんどんクリーンな世界になっていって、それはとてもいいことだけれど、人間には光もあれば影もある。この世のクラガリというものは、実は結構面白いよという点が描かれているのがステキなところだと思う」と完成作の魅力を語り、「携われて光栄」と改めて喜びを噛み締めた。塚原監督は「この作品が盛り上がれば、続編も作りたい」とやる気を見せる場面もあったが、伯山は「できる可能性もありますか?」と続投にも意欲をのぞかせると、これからの展開に期待した観客からも拍手が上がっていた。

公開表記

 配給:東京テアトル、ツインエンジン
 4月12日(金) ロードショウ

(オフィシャル素材提供)

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