登壇者:大友良英(音楽家)、佐々木敦(思考家/批評家/文筆家)
5月10日(金)、ヒューマントラストシネマ渋谷にて『Ryuichi Sakamoto | Opus』公開記念トークイベントが行われた。
スペシャルゲストには、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」などの音楽で知られ坂本龍一とは2010年以降、即興演奏のパートナーとして国内外でステージで共演するなど長年の親交があった音楽家の大友良英と思考家、批評家、文筆家で先月、坂本龍一のこれまでの軌跡を追った「『教授』と呼ばれた男──坂本龍一とその時代」を刊行し坂本を知り尽くしている佐々木敦の二人が登壇。生前の坂本龍一を良く知る二人が観た「Ryuichi Sakamoto | Opus」、そして音楽家、坂本龍一について貴重なトーク満載のイベントとなった。
上映後、盛大な拍手に迎えられて登壇した大友と佐々木。二人とも坂本とは親交がある仲で、その出会いについて大友は「2010年の坂本さんのラジオ番組で即興演奏をしたことがきっかけです」と、NHK‐FMで坂本が毎年正月にDJを務めていたラジオ番組「坂本龍一 ニューイヤー・スペシャル」での即興演奏から交流が始まったことを告白。そして「番組に呼んでもらう前から興味を持っていただいていたようで、ギターとピアノの即興ってそれまで正直苦手だったんだけど、坂本さんとはとても面白くて、その後も互いのステージでほぼ即興演奏で共演しました」と坂本との即興演奏に特別さを感じていたことを話す。佐々木からニューヨークでの共演について尋ねられると、「何度かニューヨークで共演しましたが、実は2015年に世間的には最初の癌の闘病中だったんだけれども、だいぶ回復している状況だったみたいでシークレットでなら、ということでステージに出てくれたんです。その時の録音もどこかにあるんじゃないかな」と今だからこそ話せるような、そして世に出回っていない音源が存在していることを匂わせる貴重なエピソードが飛び出した。
坂本龍一の功績について、佐々木が「音楽だけでなく、芸術全般、そして社会や環境など、本当に幅広く目を向けていた人。好奇心が旺盛で、偉大な方なのに人やモノに対して分け隔てなく興味を持って人懐っこさのある方だと思います」と話すと、大友も大きく頷き「坂本さんの大きな功績の一つは、どんなジャンルでも社会的にまだ認知されていないことを、坂本さん本人がメディアに出ることで、認知させていたことだと思います。共演する前から僕がやっていることに関心を持ってくれていたこともそうだと思うし、それをさりげなくやっていたことも凄いところです」と実体験を振り返りながら話した。そして話は本作『Ryuichi Sakamoto | Opus』へ。
監督に話を聞く機会があったという佐々木は、「もう人前でコンサートをすることができないため、自分の演奏を1本の映画として遺しておきたいという坂本さんの自らの想いで始まったプロジェクト」と本作が作られたきっかけについて語った。坂本本人が自ら選曲した楽曲について「有名な曲から敢えて演奏したかったのではと思わせるようなものもあってとても幅広い。歴代のアルバムから選曲されているので自分が聞いていた時の思い出が蘇ってくるはず」と分析。大友は「音も映像も素晴らしく、音楽を聴くために映像が作られていると感じました。最初から最後までパーフェクトな音楽映画でした」と大絶賛。演出方法について大友は、「途中で坂本さんが“もう一回やろうか”というシーンがありますよね。坂本さんが生きていたらもしかしたら使われなかったかもしれませんが、とてもリアルで即興性が宿っており、大切なシーンだと思います」、佐々木は「最初の演奏の時に坂本さんに近づいているような撮り方が観客をコンサートの世界に引き込んでいる」とそれぞれ印象的な場面を振り返った。また本作が「SAION」「Dolby Atmos」「Odessa」といった劇場の“音”にこだわったスクリーンで上映されることにも言及し二人とも揃って「音が本当に良い作品なので、いろいろな音響環境で聴き比べて欲しい」と太鼓判を押した。
改めて本作について、大友は「年老いていく音楽家のかっこいい振舞い方を見せてくれたような気がします。この映画を今観ることができて本当に良かったです」、佐々木は「坂本さんのラスト・メッセージであり遺書のような映画だと思います。この作品を通じて音楽家、坂本龍一とまた出会いなおしていきたい」と最後は坂本に想いを馳せるようにしみじみと振り返った。
二人が旧知の仲ということもあり話が尽きず、会場も熱心に耳を傾けながらも終始和やかなムードでトークイベントは幕を閉じた。
公開表記
配給:ビターズ・エンド
109シネマズプレミアム新宿ほか全国公開中
(オフィシャル素材提供)