イベント・舞台挨拶

『湖の女たち』トークイベント【圭介編】

© 2024 映画「湖の女たち」製作委員会

 登壇者:福士蒼汰、大森立嗣監督

 琵琶湖にほど近い介護療養施設・もみじ園での老人の不審死事件を発端に、想像もつかない方向へと物語がうねり出していくヒューマン・ミステリー『湖の女たち』が絶賛公開中。

 6月2日(日)、映画『湖の女たち』のトークイベント【圭介編】を実施。本作をイメージした衣装を纏った福士蒼汰と、メガホンを取った大森立嗣監督が登壇し、公開後の今、制作秘話などをたっぷり語った。

 映画上映後、福士と大森監督がステージに登壇すると観客からの大きな拍手が。そんな大勢の観客で埋まった会場内を見渡した福士は「公開してから2週間くらいたって、またこうやって皆さんとお話できる機会があって、すごく光栄だと思います」と晴れやかな表情。続いて女性客の多い客席を見渡した大森監督は「今日は福士くんが好きそうな方が多いようなので、リピーターの方が多いんですかね。いつも言っていることなのですが、この映画は賛否両論がいろいろとあるので、ぜひ応援してください」と会場に呼びかけると、会場からは監督たちへの激励の拍手が。その様子に大森監督も「いい会だなぁ」とかみ締めるようにポツリ。観客のあたたかなまなざしに癒やされている様子の大森監督だった。

 闇を抱えた人間たちが繰り広げる、現代の黙示録ともいうべき本作。そのひとすじ縄ではいかない内容は観客に強烈な印象を与えるが、それと同時にこのスキャンダラスでインモラルな内容に賛否両論の声も巻き起こしてきた。「僕自身は褒められたいんですけどね」と笑う大森監督は、「ただ、いっぱい映画をつくっていく中でそんなに褒められることがないということも知っていますから。やはりこの映画は内容もハードだし、いわゆる感情移入みたいなものをしづらいように撮っていますが、それでもちゃんと伝わることを信じています。(否定的な声には)わりと傷ついてはいるんですが、志は高く持っていようと思っています」とまっすぐに語った。

 本作で福士が演じたのは、介護士の豊田佳代(松本まりか)へのゆがんだ感情に支配される若手刑事・濱中圭介。松本からも「撮影中はずっと怖かった」と言われるなど、それまでの福士のイメージとはガラリと変わった役柄となったが、福士自身も「怖いとか、気持ち悪いとは言われますし、確かにやっていることは気持ち悪いかもしれないですけど、でも僕としては、普通の男性と変わらないと思えてしまうんです。むしろ佳代のほうが危ないところがあるなと思っているくらいで(笑)。奥さんがいて、子どもが生まれそうなのに、違う女性のところにいくというのも、(いいことではないが)そういう人もいるし。圭介は確かに醜さを担っている人物。正しさを追及する人にとってはすごく嫌な存在なんですよね。そんなことをしちゃ駄目だよと強く否定したくなるような人物なんですけど、でも暗いからそこに近づきたくない、というような。ある種ブラックホールのようなところがあって。でもブラックホールに美しさや神秘を感じてしまうような、そんな感覚に近い人なのかもしれない」と自身の役を分析してみせた。

 そして話は、この日不在の松本まりかの話に。「松本さんはおもしろかったですね」と切り出した福士は、「すごくまじめで、ピュアなんですよね。そこを信じたいみたいなエネルギーが強い人なんですよね。だからわたしは佳代になるんだという覚悟が強い人で。俺なんかは休みになるとご飯を食べに行ったり、彦根城に行ったりしてたんですけど(笑)。逆に彼女は常にオンの状態でいたんですよ。休日も台本とにらめっこしていたり、狭い場所でジッとしていたと言っていましたけど、そうやって自分を追い込んで。そしてその追い込んだ自分が、さらに自分を追い込む、という複雑なことをしていた。それが佳代らしいというか。圭介がスイッチを押してしまったことで、波が押し寄せてしまい、それが自然になってしまった。そこで松本さんの生き方と、佳代の生き方とがリンクしたような感じがあって。つらいんだけど、でもやらなきゃいけない、でも波に乗るのはすごく気持ちも良いという感覚がある気がして。逆に、僕もそうですけど、圭介は最初にスイッチを押したんですけど、あとは客観的に引いていくんですよね。なんだか波があって、引いて見ている感じはありましたね」とふたりの関係性を分析してみせた。

 さらに「今日はまりかがいないから言っちゃおうかな」といたずらっぽく笑った大森監督は、佳代を演じた松本に向けた演出について言及。常々松本は、佳代の役づくりについて大森監督にアドバイスを求めようとしても、明確な答えをもらうことができず、「表面的なことではなく、ちゃんとこの映像の中で本当に生きろと言われたようで恐ろしかった」と述懐。大森監督が俳優を全肯定して、すべてを俳優に任せてくれるからこその苦しさを常々述べていたが、その意図について「やはり現場はすごく大変だったんですけど、大変だからといって、そこで(松本の演技について)ダメだよというのは簡単なんですよ。だから俺は絶対に何も言わない。(福士)蒼汰は『フォローしようと思えばできますけど、(圭介と佳代という役柄の上での関係性もあるので)僕は何も言わないですけどいいですか?』と言ってきたんで、『それでいい』と言ったんです」と明かした大森監督は、「だから俺は何があってもとことん、まりかに付き合います、と。何があっても、まりかを信じる。これってけっこう大変なんです。(劇中で佳代が)四つん這いになって、圭介から『つらかったことを言え!』と言われるシーンがあって。でもまりかは言えなくて、すごく大変だったんです。そしたら急にギャーッと叫びだしたんです。中に入っているのは役者とカメラマンと、数人しかいなかったんですけど、外で聞いていたスタッフがみんな台本を開いて『そんなシーンだったっけ?』って。どこかの部族の儀式を撮っているんじゃないかという気分になるくらいすごいシーンだった。あれでまりかは何かを得たんじゃないかと思うくらいにすごかった。本人も言っていたけど、佳代という人間が脱皮して大きくなることと、松本まりかが大きくなっていくことは、彼女の中ではつながっていたと。だいぶ大きな作品だったと言っていますし、その現場を見ていた俺もそう思いました」と振り返った。

 そしてそのシーンでは、心を鬼にして“圭介という役”になりきり、佳代を追い詰めた福士は「そのシーンは感情的になって、いろんなことが言えなくなってしまったんですけど。自分でも覚えているのは、(佳代に向かって)『もう一回言え!』というセリフは、台本では1回か2回だけだったんですけど、『今のはあかんやろ、絶対に(心が)入ってないやろ』ということで(本番では)ずっと言い続けていた。本当にヒドいなと思いますけど、でも圭介ならそうするんだろうなと思ったんです。意識的ではないけど、もう一回言わせたいという思いがあった。セリフ以上のことを言っていた気がしますね」と述懐。

 そしてそんな福士の懺悔にも似た思いを受け止めながらも「それは言ってたね」と笑った大森監督は、「あそこ、最後に圭介は目に涙をためているんですよ。俺もあそこのシーンは好きなんですよ。あの状態で涙がこぼれそうになっているというのは台本に書いているわけではなく、たぶん勝手にやっているんだと思うんですよね。これはそういう映画なんですよ。感情移入で泣けるという映画ではなくて、すごいものを見ちゃったなという涙。だからいちばん美しい、だって意味に回収されない涙だから。だから福士蒼汰はすごいと思った」としみじみ語った。

 その後は観客からの質問および感想を受け付けることに。映画を7回観たという女性の観客は「新しい扉を開いていただいてありがとうございます」と感謝の言葉を述べて、会場は大笑い。「映画を観る前に原作を読んで。原作を読んだときは佳代はファム・ファタールだなと思っていたんですが、映画の方はボーイ・ミーツ・ガールだなと。圭介は嫌な役だとか、気持ち悪い役と言われていますが、わたしはそんな圭介に感情移入しながら映画を観ていました。追い詰められた圭介が生きるためにすがったのが佳代であり、最終的に佳代に救われて。それで正しい方向性、美しい方向性に行ったんだなという印象がありました。それで質問なんですが。原作を読み返してみたら、圭介の印象が変わっていたんです。原作のほうがちょっと軽いというか、映画のような焦燥感がないというか。先ほどのお話に出てきた涙するところは原作にも台本にもなかったということですが、圭介のほうが中の人に引っ張られたのか、中の人がたぐり寄せていったのか。そういう感覚で映画を観ていたんですが、ご自身と、監督とでそのあたりはどう考えていたんですか?」とコメント。その感想と質問に「すばらしい!」と感心した様子の福士は、「自分が圭介に乗り移っていったという感覚でしたね」と返答。その理由として『BLEACH 死神代行篇』のようなコミック原作の映画は、自分とは違う人物にならなくてはいけないが、本作のような作品の場合は「嘘をつくと、どんどんと真実味がなくなっていくから」だと付け加えた。

 そしてもうひとりの女性客からも質問が。「わたしも正直、はじめて観た時はちょっと難しいかな。原作を読まなきゃと思っていたんですが、2回目、3回目と観るごとに、1回目では気づかなかったようなことが分かるようになってきた。こういう場面があったのかとか、ここではこういう心情なのかなとか、もっと奥のほうで感じることが増えていった。この映画って観れば観るほど味が出てくるというか、分かってくる部分が増えてくるなと思っています。だから監督さん、ぜんぜんショックを受けなくて大丈夫ですよ。1回観ただけでは本当の良さは分からないのかなと思います」と呼びかけると、会場からも拍手が。その言葉に大森監督も「ありがとうございます!」と笑顔。そしてあらためてその観客から福士に「この映画を通して、役者としてのターニング・ポイントとなったとおっしゃっていますが、この作品で得られた一番のことは?」という質問が。

 それに対して福士は笑いながら「やはり大森さんに会えたというのが一番大きかった。今でも常に俺の丹田の部分に大森さんが住んでいるんですよ」と明かすと、会場も大爆笑。「だからどの芝居も基本はそこにあるんですよね。この映画のあとに(NHKドラマの)『大奥』や(テレ東のドラマ)『弁護士ソドム』に出演させていただいたんですけど、やはりドラマってエンタメ性も大切じゃないですか。特に『ソドム』は、法廷のシーンで『異議あり!』というような、エンタメ性が高いんです。もちろん実際の法廷ではそういうのはありえないんですけど、それがエンタメとしてカッコいいし、それをやらないと地味になってしまうから。でもアジトにおける、裏の顔みたいなところでは、逆に日常のお芝居をするようにする。エンタメをやるならそっちもやらないといけない。じゃないと俺の中の“大森丹田”が許さないから。だからそっちのほうではナチュラルな芝居というか、『湖の女たち』で感じたことを使いたいという自分がいたので。それはエンタメの作品だけをやってたらできなかったと思う。そのバランスでやると、キャラクターとしての二面性が出てきて面白いかなと思った」と確信を持ったという撮影を述懐。

 その上で「役者のあり方はいろいろとあって。作品ごとに違うんだなと思っています。もちろん得意なもの、不得意なものはあるし、自分はどこに行きたいのかなと思ったときに、俺はそこを泳げる人になりたい。右も左も、深いところも浅いところも、全部泳げる人になりたいと思った。そのきっかけになったのがこの映画という感じですね」とコメント。その言葉を聞いた大森監督が「現場でも(福士と)しゃべっていたんですよ。僕はエンタメもやりたいし、こういう作品もやりたいと。自分でもそう決めているようだったので、現場では演出家に従ってやればいいと思いますけど、演出家にもいろんな人がいますから……。(我を出し過ぎて)あまり現場ではもめない人になってもらえれば」とアドバイスを送ると、福士は「僕はコミュ力が高いので」とキッパリ。その言葉に会場も大笑いとなった。

公開表記

 共同配給:東京テアトル、ヨアケ
 絶賛公開中!

(オフィシャル素材提供)

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