イベント・舞台挨拶

『あんのこと』公開記念舞台挨拶

© 2023『あんのこと』製作委員会

 登壇者:河合優実、稲垣吾郎、佐藤二朗、入江 悠監督

 映画『あんのこと』公開記念舞台挨拶が都内で行なわれ、主演の河合優実、共演の稲垣吾郎、佐藤二朗とメガホンを取った、入江 悠監督が出席して公開を迎えた喜びをかみ締めた。

 本作は2020年6月、コロナ禍の中に新聞に掲載された「少女の壮絶な人生をつづった記事」に着想を得て、実話をもとに映画化した衝撃の人間ドラマ。幼い頃から母親に暴力を振るわれ、十代半ばから売春を強いられ、過酷な人生を送ってきた21歳の主人公・杏(河合)が、刑事(佐藤)やジャーナリスト(稲垣)との出会いをきっかけに更生しようともがく姿が描かれる。『ビジランテ』や『ギャングース』の入江監督がメガホンを取った。

 主人公の杏役を演じた河合は、満席の会場に向って、公開を喜び、「この作品は私にとってどの作品とも比べがたい特別なものとなりました。皆様が観てくださることに一番意味があると思います」と挨拶と感謝を伝える。また、実在する人物がモデルということで、河合は「映画にするっていうことに怖さ、や恐れがありました」と続けた。

 河合にとって杏を演じることは「簡単ではなかった」ようだ。河合は、本作について「まずはモデルとなったハナさん(仮名)に思いを馳せることから始まりました」と述懐した。

 公開を迎え、気持ちに変化が訪れたことも話す。「観てくださった方の感想を目にして、真剣に考えてくださったことが伝わってくる言葉がすごく嬉しかったです」としみじみ。河合は撮影中の胸の内を素直に吐露して、やりがいのある役、作品に出合えたと充実感をにじませた。

 杏を救おうとする型破りな刑事、多々羅役の佐藤は「(多々羅は)ある種の矛盾を抱えた複雑な人間です。厄介で生々しいキャラクターを演じるのは、やりがいがありました」と話す。
 また、「人間は矛盾を抱えているもの。生々しさもあり、やりがいもあるし、やりたいとも思った」と本作への意気込みについても語る。

 杏と多々羅を取材するジャーナリストの桐野役を演じた稲垣は、脚本を読んだ時、大きな衝撃と動揺がありました」と話す。
 さらに、稲垣は「台本を読んだときに、胸が張り裂けそうな思いで、その気持ちを大切に忘れないよう、撮影中は杏ちゃんの心の叫びをひとりでも多くの方々に伝えようという思いで演じていました」と話した。

 中盤、作品の内容にちなみ、キャストがそれぞれ「生きていると感じる瞬間」について回答する場面があった。
 佐藤が「晩酌です」と即座に答えたのだが、「皆さんのリアクションが薄かったのでほかのにします」と考え直すことを宣言。

 一方、稲垣は「生きる喜びというか、生きてるんだなという喜びを感じるのは、朝起きた時かな。最近は歳だからか、5時とか6時とか、早くに目が覚めるんです。部屋の掃除をしたり、植物にお水あげたり、飼っているネコのお世話をしたり……」と自身の朝のルーティーンについて話す。感心しきりの佐藤は「食事も作るの? 吾郎ちゃん?」と質問して思わず、「僕と結婚してくれないかな?」とプロポーズ。
 稲垣は「いいですよ」とすまし顔で即答したものの、「でも妻帯者ですよね……」と苦笑い。会場にも笑いが起きた。

 さらに、稲垣が「生きている瞬間にはいろいろあって、やっぱり心が動いた時かな」と話すと、稲垣のその時の顔を見て、佐藤は「うわぁ~! なんちゅうかっこい顔で言うんだろう……」と動揺する。稲垣は「かっこいい顔はもともとなので大丈夫」とすました顔で応じ、会場に笑いを誘った。

 作品について、稲垣は「台本を読んだときに、これが事実に基づいた話であるということに衝撃と動揺がありました。胸が張り裂けそうな思いで、その気持ちを大切に忘れないよう、撮影中は杏ちゃんの心の叫びをひとりでも多くの方々に伝えようという思いで演じていました」と話す。

 また、河合も「心が動いたときってそう思います。観客席に座って『なんていい作品なんだ』と思ってるとき。舞台でも映画でも。声を出したくなるような感動の境地で感じています。自分の生命力を感じます」とにっこり。佐藤は「2人の答えが良すぎるので晩酌はカット。やっぱり感動した時。あとは朝のルーティン」と回答しなおした。

 撮影を開始する前に 入江監督は主演の河合に役への思いを綴った手紙を渡したことを明かす。「佐藤さんと稲垣さんには書いてないんで、あとで詰め寄られました」と打ち明ける。そんな入江監督に、稲垣は「(河合さんは)主演ですからね……」とちょっといじけて見せて会場に笑いを誘った。

 入江監督が手紙を書いた理由について、「役の深いところを喫茶店でしゃべるわけには行かなくて……」と振り返ると、佐藤は「便せん何枚?」。稲垣も「で、どんな内容だったの?」としつこく詰め寄る場面も見られた。

 河合は「役のこととか、センシティブなことや大切なことだから言葉を選んでくださっているとすごく分かる内容でした」と説明。「自分の想いを爆発させたお手紙ではなく、どういう態度でこれから映画をつくるかを考えられたようなお手紙でした。とても嬉しかったです」と話し、その手紙を大切にしていることも明かした。

 最後に、入江監督は、「撮影が終わるといつも1週間くらい海外旅行をするんです。自分を再確認するために、バックパッカーとして野垂れ死ぬかもしれないところに行くんです」と話す。

 河合は「『あんのこと』は、杏の過ごした瞬間」を切り取り、「生きる」ということに迫る映画です。皆さんが観終わったあとに語ってくれる言葉から勇気をもらえるので、まっさらな状態で、今日感じるものを感じてほしいと思います」とメッセージを伝えた。

 (取材・文・写真:福住佐知子)

公開表記

 配給:キノフィルムズ
 全国公開中

(オフィシャル素材提供)

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