記者会見

『方舟にのって~イエスの方舟45年目の真実~』日本記者クラブ 上映後Q&A

©TBS

 登壇者:佐井大紀監督

 1980年、東京・国分寺市から10人の女性が突如姿を消したと報道され、世間から激しいバッシングを受けた謎の集団「イエスの方舟」。騒動から45年もの長い年月が経過し、現在の彼女たちの姿を追った長編ドキュメンタリー『方舟にのって〜イエスの方舟45年目の真実〜』が、7月6日(土)の公開に先駆けて、6月21日(金)に日本記者クラブにて試写会とQ&Aを行い記者たちからの質問に答えた。

 本作品は2023年にTBSテレビの番組「解放区」で放映後、2024年3月にTBSドキュメンタリー映画祭で初上映。大きな反響を呼び、急遽、単独公開が決定した作品。監督した佐井大紀監督は1994年生まれ。2017年にTBSに入社後、現在はドラマ制作部に所属している。質疑応答に先立ち、司会から「この騒動が起きた当時、取材されていた記者さんはいらっしゃいますか?」と尋ねられると、客席からも挙手をする記者が現れるなど、当時の騒動の反響の大きさがうかがえた。

 最初の記者からの質問で、本作を制作する上でいちばん大変だったことを問われると、「撮影よりも編集が大変でした。ドキュメンタリーは自分で取材対象を決め、聞きたいことを聞き、編集して世の中に出していくという非常に主観的なもの。でも、宗教は主観が混ざるとプロパガンダになりかねないので、ひとつの作品としてどういう“目線付け”をして仕上げていくか。その点が一番苦労しました」と答え、取材対象である「イエスの方舟」の女性たちの本音を感じさせながらも、プロパガンダ的な作品に陥らないようにするために多くの労力を割いたことを明かした。

 さらに、記者たちから矢継ぎ早に質問が投げかけられる。「なぜ、若いあなたがこうした作品を作ったのか?」という問いに対しては、「制作のきっかけは安倍元首相襲撃事件にはじまる統一教会問題。ただ、自分としては、統一教会そのものを取材するのではなく、かつて騒動になったイエスの方舟を訪ねることによって、信じること、生きることの普遍性が逆説的に浮かび上がると思いました」と返答。また、「彼女たちはなぜああいう生き方をして、45年過ぎた今もそれが続いていると思うか?」という質問については、「そもそも“主体”が千石剛賢にあったのではなく、女性たち一人ひとりにあったということなのだと思います。親や夫、そのほかいろいろな人から期待される世間の一般的な幸福論とは違う考えをもった女性たちがいて、それを否定しない千石剛賢という存在がいたということですね。千石をハブとして、自分たちの生き方を実現しようとした女性たちは、バッシングされればされるほど強く自らの生き方を貫こうとするということがあったのだと思います」と、この一連の騒動の本質について自論を語った。

 Q&A中には、騒動当時、イエスの方舟の取材をしていた某新聞社の記者OBが、女性たちの印象について振り返る場面もあった。「非常に良い作品でした。私は社会部に所属していた20代の駆け出しのころに騒動が起きて、方舟の人たちの取材をさせてもらったんですが、逃げずに受け答えをしていてすごくまともな人たちだなと感じました。10年くらい経った後、『あの人は今』という企画があって、『千石イエスさんにまた会いたいな』と思って、そのときは彼の説教を実際に聞かせてもらいました。いちばん印象に残っているのは、『小鳥を手で包むと逃げたくなる。親たちや家族は一生懸命やっているけれども、それだけでも子どもたちは苦しんでいる。小鳥は飛び立ちたいんだ』と語っていたことです。この話が事件の背景にはあると思いました」と話すと、佐井監督も同意して「難しい説教ではなく、世間話の中に聖書の教えを見出す勉強会なんですよね。そこはいわゆる宗教団体と違う部分かもしれません」と話した。そして「これは最終的にはアイデンティティの話だと思います。側から見ると、彼女たちは“おっちゃん”こと千石イエスに洗脳されている存在に見えるけど、本人たちは極めてシンプルにアイデンティティを確立して自分たちの人生を選び取って生きている。どうしてそういうことが起こるのか。そんなことを見る人に問いかける映画になればと思っています」と語った。

 Q&Aは予定していた30分間を15分オーバーしても記者たちからの質問は絶えることなく、佐井監督は「今日は先輩の記者の方々から、こんなにたくさんの質問をしていただけるとは全く思っていませんでした。いまはなんとか乗り切ったという安堵の気持ちでいっぱいです(笑)」と素直な感想を語り、集まった多くの記者への感謝を述べてQ&Aを締め括った。

佐井大紀(監督)プロフィール

 1994年、神奈川県出身。2017年TBSテレビ入社。ドラマ制作部所属。『Eye Love You』『Get Ready!』など連続ドラマのプロデューサーを務める傍ら、ドキュメンタリー映画を監督、『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』などの作品があり、TBS所蔵の貴重なフィルムを映画館で上映する『TBSレトロスペクティブ映画祭』を企画・プロデュースした。2021年には朗読劇『湯布院奇行』を企画し新国立劇場・中劇場で上演、ほかにもラジオドラマ『Call Me Not』の原作や、ラジオ番組『ビートルズ “赤”と”青”と”NOW&THEN”』のパーソナリティ、文芸誌『群像』経済誌『Forbs Japan』などへの寄稿など、その活動はテレビメディアに留まらず多岐にわたる。

公開表記

 配給:KICCORIT
 7月6日(土) ポレポレ東中野
 7月12日(金) 福岡・KBCシネマほか全国順次公開

(オフィシャル素材提供)

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