登壇者:奥山大史(監督)、池松壮亮
5月に開催された第77回カンヌ国際映画祭へ日本作品で唯一オフィシャル・セレクション部門に選出、上映後は約8分間のスタンディングオーベーションで歓迎を受けた映画『ぼくのお日さま』。この度、日本大学藝術学部の学生向けにQ&A付き試写会を実施し、奥山大史監督と、池松壮亮が登壇! いま映画について学んでいる日本大学藝術学部の学生たちとQ&Aを行った。
大学在学中に制作した長編初監督作『僕はイエス様が嫌い』が、第66回サンセバスチャン国際映画祭の最優秀新人監督賞を受賞、長編2作目となる商業映画デビュー作の『ぼくのお日さま』でカンヌ・デビューし、第26回台北映画祭では「審査員特別賞」「観客賞」「台湾監督協会賞」をトリプル受賞した奥山大史監督、そして、日藝の卒業生でもあり、本作で夢に敗れた元フィギュアスケート選手のコーチ・荒川を演じた池松壮亮が登壇した。
本作は、田舎街のスケート・リンクを舞台に、吃音のあるホッケーが苦手な少年、選手の夢を諦めたスケートのコーチ、コーチに憧れるスケート少女の3つの心がひとつになっていく……雪が降りはじめてから雪がとけるまでの、淡くて切ない小さな恋たちの物語が描かれる。
満席となった教室で、学生たちの温かい拍手で迎えられた奥山監督と池松。監督は「初めてこの大学に来ましたが、感激しています。こんな設備があるんですね」と笑顔を見せ、久しぶりに母校におとずれた池松は「実は、今日の試写は、一般の方に初めてのお披露目なんです。自分の母校ということもありますが、これから未来に羽ばたいていく皆さんにお届けできるということは本当に光栄だなと思っています」と感慨深げ。
3人のスケート・シーンについて「どのように撮ったのか?」と問われた監督は「自分もスケートの経験があったので、スケート靴を履きながら撮りました」と状況を説明し、「スケート・リンクにはけっこう照明にもこだわって、窓の数だけ大きい照明(器具)を用意してもらいました。基本的にスケートのシーンはドキュメンタリーであって、台本には“だんだん上手くなっていく3人”としか書いてなく、池松さんに演出していただきながら演技をしてもらいました。ほとんどアドリブでしたね」と振り返る。司会者から「スケートがお上手でしたね」と言われた池松は「上手じゃないですよ。ごまかし、ごまかしね……(笑)」と照れながら、「これまでもいろいろなことに取り組ませていただきましたが、今までで一番難しかったです」と本音も。「奥山さんも監督をしながらカメラを回して、実際に滑りながら撮影していますから。湖のシーンは4人で2日間(カメラを)回しっぱなしでした」と苦労を語る。
池松のクランクインは湖の3人のシーンで、「子どもたち2人には脚本を渡していないので、カメラの前であらかじめ決められたことをやるというよりも、新鮮に物語と出会っていくというスタイルだったんです。なので、どうしても自分がコーチ役として2人を導いていかなければいけなかったですし、とにかく2人のキラキラした輝きをどれくらい映画に残していけるかでした。俳優は皆そうですが、人は反射するものなので身構えることなく本当に心を通わせるということの一点勝負だったと思います」と役と向き合った様子。
この日は学生からも多くの質問が飛び交い、一つひとつ丁寧に答えた監督と池松。「タクヤの学校が円形校舎でしたが、それを選んだ理由は?」という質問に、監督は「石狩にある校舎だったんですが、物語を2000年くらいの時代に設定したかったんです。限定した時代ではなく余白を作りたかった。今はあまり見なくなった校舎で2000年代がピーク(に建設された)らしいんです。独特な画も作れて、屋上の景色がとにかく素晴らしくて」と答える。
フィギュア・スケート経験者だという学生から「指導の方法の表現がすごく良かったです。どのようにその場面を作っていったのか?」と、突っ込んだ質問も。監督は「元フィギュア・スケーターの方に監修に入ってもらい、その方と池松さんとでリアリティーあるシーンを作ってもらいました」と明かす。
また、奥山監督の代表作でもある『僕はイエス様が嫌い』も本作も監督の子どものころの経験をヒントに制作されているが、「子どものころの経験を作品にするうえで大切にしていることは?」という問いに、監督は「やっぱり子どものころって、今よりももっともっと感情起伏があったというか、本当に些細なことですごく落ち込んだり、舞い上がったりとして、あのときの時間がとても長く感じたし、キラキラして見えるし、そういったものがカメラのレンズを通せば、もう1回呼び起こされるんじゃないかと思うし、そういう映画を作りたいと思っています」とし、「実体験ではないところの感情をどう取り入れいくか、考えながら撮影していきました」と、自身の映画作りの根底となる感情を伝えた。
一方で、池松は「学生の頃の経験は全部活きていると思います。いい学校ですもんね(笑)。(大学の)社会に出る前の4年間は、本当にギリギリに残された猶予として、(自分は)あまり褒められた学生ではなかったんですが、映画を観たり、ひたすら考えたり……そういう時間を過ごしたことが、その後の自分の俳優活動にものすごく活きてきたと思っています。幼少時代では、今回の子役の子たちと同じくらいの11~12歳がデビューだったので、初めて俳優に触れたくらいの歳。何も分からない状態でしたが、そんな中で映画を体験するってどういうことなのか、自分は初めて映画に参加した時に何を思っていたか、どういうふうに世界を見ていたのかを、今回たくさん振り返る時間になりました」と、自身の経験をも振り返っていた。
さらに、「自分の表現を磨いていく方法があったら教えてもらいたい」という言葉に、監督は「それは僕も探し中ですが、結局は何か好きな作品を見つけたら、その作品に関してなぜ自分が好きだと思ったかを言葉にしていく。それを繰り返していくしかないと思います」と持論を展開。池松は「僕は常に流動的でありたいと思っていますし、さまざまなスタイルを獲得していきたいと思っています。昔は自分のスタイルって何なのかなと考えましたけど、今はいろんなものをマネしていいし、そして自分の表現に対して素直になることだと思っています。そうしたら必ず自分のスタイルというのは結果として出てきますから。どんどん取り込んで、どんどん素直に表現していけばいい」と、俳優としての観点から意見を述べた。
池松は本校で監督のコースを専攻していたが、監督から「どうして監督コースだったの?」と問われると、「監督は専門的なことを知らないとできないですが、演技は誰かに教えてもらうものではないのではないかと若いころから勝手に思っていて。技術ではない表現が、自分のお芝居の理想だと思っていたところがあった」と答えていた。
最後に監督は「これだけ素晴らしい技術と素晴らしい先輩がいるなかでその背中を追いかけながら学べるのは最高に羨ましいです。そう思われる場所にいることに誇りを持って、映画作りを目指していってほしい。いつかお仕事でご一緒できたら」と声をかけ、池松が「監督は皆さんとあまり歳が変わらないんです。大活躍の監督が脚本もカメラもやるという、これまでのルールを破っていく。いい映画を作っていくのにルールを必要ない。これまでのルールをぶち壊して新しい世界を作って行きたいと思いますし、ぜひ僕も皆さんとお仕事できる日を楽しみにしています」とエールを送り、イベントを終了した。
映画『ぼくのお日さま』は、テアトル新宿、TOHOシネマズシャンテにて9/6(金)〜9/8(日)の3日間先行公開がはじまり、9/13(金)より全国公開される。
公開表記
配給:東京テアトル
9⽉、テアトル新宿、TOHO シネマズシャンテ ほか全国公開
(オフィシャル素材提供)