イベント・舞台挨拶

『夏の終わりに願うこと』トークイベント付き試写会

© 2023- LIMERENCIAFILMS S.A.P.I. DE C.V., LATERNA FILM, PALOMA PRODUCTIONS, ALPHAVIOLET PRODUCTION

 登壇者:政井マヤ(アナウンサー)、門間雄介(ライター/編集者)

 ベルリン国際映画祭エキュメニカル審査員賞受賞、アカデミー賞国際長編映画賞®ショートリストに選出され、東京国際映画祭でも上映されたリラ・アビレス監督長編第2作が『夏の終わりに願うこと』(原題:Tótem)の邦題で、8月9日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開する。この度、公開に先駆けて7月31日(水)に都内にてトークイベント付き試写会を開催。メキシコにルーツを持つ、アナウンサーの政井マヤとライター/編集者の門間雄介が登壇、映画の余韻に包まれる中、本作ならではの大家族の描き方や文化的背景など、たっぷりと掘り下げた。

メキシコ”らしさ”はカオスにあり?細やかな実生活の描写と家族の姿

 療養中の父親のため誕生日パーティーの準備に追われるメキシコの大家族を、娘であるソルの視点からドキュメンタリーのように描き出し、世界中の映画祭を席巻した本作。メキシコにルーツを持ち、留学経験もある政井は、「小さなディティールではありますが、映画に登場する家を見た時に祖母の家を思い出しましたし、オウムの鳴き声でよく起こされたなぁ、など現地の音や匂いの記憶が蘇りました」と、在住経験があるからこそ気がつく本作のリアリティについて語った。続けて門間は「なによりも家族劇として優れている」と本作を絶賛。「とりたてて大きな出来事は起こらないけれども、父の誕生日をベースに、大家族について描き込みながら、父と娘にフォーカスを絞っていく。ワン・シーン、ワン・シーンに惹きつけられる映画で、細やかな家族の描き方が素晴らしい」と語った。

 本作では7歳の少女・ソルを中心に、忙しなく準備を進める叔母たちやいとこ、一家に出入りするヘルパー、謎の霊媒師、精神科医の祖父など個性豊かな登場人物たち」が次々に登場し、思い思いに誕生日パーティーに関わっていく過程も見どころの一つ。その“とにかくカオスなところ”がメキシコらしいと語る政井は、「それぞれの人が、自分が自分が!と主張しながらも、家族や友人同士の愛情の深さ、力強いところがラテン的だと感じました」と指摘した。

死はすごく身近な存在。『リメンバー・ミー』にも表れた死生観

 “生と死”というテーマを直接的に描かずに、映像や音響などさまざまな形で忍ばせている本作。「その塩梅が素晴らしい」と語る門間がメキシコならではの死生観について質問すると、政井は「『リメンバー・ミー』(17)を通して死者の日が日本のお盆に近いということが有名になりましたが、メキシコでは骸骨のモチーフにドレスを着せるなどユーモアがあり、死は決して悲しいものではなく、すごく身近な存在であるという考え方。厳かなものでありながらも、今という瞬間を貪欲にいかに楽しむかという文化があると思います」と解説した。

 カマキリやカタツムリなど、さまざまな動植物が登場する点について門間は「父は死に向かっているけれども、身近な生き物をじっととらえることによって生命力を表しているところが優れている」と述べた。

是枝裕和監督作品、そしてアカデミー賞®受賞の『ROMA/ローマ』との共通点

 世界中70にも及ぶ映画祭に招待され各国で絶賛されている本作。メキシコ映画のポジションについて問われると、門間は「キュアロンやイニャリトゥなどハリウッドでトップ・クラスになったメキシコ人監督は数多くいますが、物理的にメキシコとハリウッドは近く、地元を軸にしてステップアップしながら2拠点で自由に映画を撮れるという土台も関係があるのかなと思います」と分析。
 本作のリラ・アビレス監督が影響を受けた監督として、インタビューではジョン・カサヴェテスやウォン・カーウァイなどの名前を挙げているが、門間は本作を観た時に是枝裕和監督の『歩いても 歩いても』(08)を思い出したという。「遡ると成瀬巳喜男の作品にも共通していますが、登場人物が家計の心配している場面というのは家族のリアルを描くときに欠かせない描写だと思います。是枝監督はその伝統を受け継いで家族劇を撮ってきた方ですが、本作も家族に対するアプローチの仕方が近いなと感じました」と、脈々と続く家族劇の系譜の先に本作も続いていると考えを述べた。
 それに対して政井はアルフォンソ・キュアロン監督の『ROMA/ローマ』(18)、そして向田邦子の名前を挙げ「遠慮のない、短い会話のやりとりから、関係性やそれまでの人生が見えてくる点が本作に近いと感じた」と語ると、門間は「向田さんと是枝作品、そして本作には共通して女性の力強さを感じます。ソルから見た時のおばさまたちの生命力、たくましさはすごいですよね。日本やメキシコという点は関係なく共通性を感じました」と、家族の描き方を分析した。

 最後に政井は「メキシコという国に対して断片的に陽気なイメージがあると思いますが、こういった映画を通して、家族の風景は意外と日本と近い部分があるということを感じていただけたら嬉しいです」と挨拶し、和やかな雰囲気のなかトークイベントは幕を閉じた。

ストーリー

 ある夏の1日。7歳の少女・ソルは、母に連れられて父・トナの誕生日パーティーのため祖父の家を訪ねる。病気で療養中の父と久しぶりに会えることを無邪気に喜ぶソルだったが、準備に駆け回る家族の異変に気がついていく。よろこびや戸惑い、希望や不安……それぞれが抱える思いが交差するなか、パーティーが始まろうとしていた――。

 (原題:Tótem、2023年、メキシコ=デンマーク=フランス、上映時間:95分)

キャスト&スタッフ

 監督・脚本:リラ・アビレス
 出演:ナイマ・センティエス、モンセラート・マラニョン、マリソル・ガセ、マテオ・ガルシア・エリソンド、テレシタ・サンチェス

後援:メキシコ大使館

公開表記

 配給:ビターズ・エンド
 8月9日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー!

 (オフィシャル素材提供)

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