登壇者:森山未來、近浦 啓監督
世界各国で絶賛を集めている森山未來主演、藤 竜也共演の映画『大いなる不在』。8月3日(土)には都内映画館で上映後にティーチインイベントが実施され、主演の森山と、脚本・監督を務めた近浦 啓が観客とのQ&Aに臨んだ。
主人公・卓(森山未來)の父・陽二(藤 竜也)の距離感について聞かれた近浦監督は「卓の感情の流れが分かりづらいので、撮影前に森山さんとたくさん話をしなければいけませんでした。演歌調よりもドライな家族関係にしたいと考えていました。卓が陽二の妻・直美(原日出子)の日記を見つけた時の森山さんの反応はパーフェクト。卓にとって陽二は父親ではあるけれど、他者に対する距離感に近い関係性を見事に表現してくれました」と返答。一方、森山は「演じるにあたり、下調べとして認知症について本で読んだ際に『ケアする人は認知症患者の語る虚構の世界に俳優のように寄り添うのが肝心』と書いてあった。それが僕としては卓を考える上での指針になりました」と述べた。
一方、森山は、直美と陽二の思い出が綴られた日記について「あの日記に映画の総予算の半分を注ぎ込んだのではないか?」と笑わせると、近浦監督は「日記の作成には3ヵ月くらいかけました」とリアリティ重視で小道具を用意したと述懐。これに森山は「劇中に出てくる日記には、直美さんが陽二とどんな時間を過ごしていたのかが克明に書かれていました。脚本では日記帳を見つけて手紙を見るというくだりは書いてあったけれど、実際に現場であの日記に出合うのと出合わないのとでは大きな違いがありました。俳優部からすると、小道具は非常に影響を受ける需要なもの。この映画において、あの直美さんの日記は作品全体にグルーヴをもたらすもので、実際に手にした僕自身大きな衝撃を受けました」と実感を込めていた。
また、近浦監督は卓が日記を海辺で朗読するシーンに触れて、「あの場面は二つのタイムラインが時空を超えて交わる瞬間です。撮影するにあたり森山さんから日記を閉じるという案を頂きましたが、完成した映画を見直して、日記を閉じることが本当に重要だったと感じました。日記を閉じることが、卓が父親の何かを身体に入れ込んだ印に思えたから」と森山からの提案に感謝していた。
観客からの質問で多く挙がったのは、陽二に対して卓が言う「許す」という言葉の解釈について。近浦監督は「あの場面は父と息子の和解ではなく、保護と被保護が反転するタイミング。その後にある陽二のズボンに卓がベルトを巻く保護者としての行為に繋がっていく」と話し、「ベルトを巻かれる藤さんの顔が子どものようになっているけれど、あのシーンで藤さんが手に持っているのは『3匹の子豚』の絵本です。藤さんがあのシーンで『3匹の子豚』を持っていきたいと提案してくれました」と舞台裏を紹介した。
これに森山が、「『許す』からの流れを卓にとって壮大な復讐だと読み取っている方もいて、確かにそういうふうに見てしまえばすべてそう見えるというのも面白い。保護と被保護が反転するということは、保護する側はどのように被保護者をコントロールするのか? そっちの話にも繋がっていく」と指摘すると、近浦監督は「共同脚本の熊野桂太さんとも執筆段階で、どちらに見えても良いという話はしていました。ある種この映画の2割くらいはトリック・アート的に見えてもいいと思う。ある人にとっては人の横顔に見えるし、ある人にとってはカラスに見える。映画を通していろいろなコミュニケーションが生まれるのは面白いですからね」と解釈を観客それぞれに委ねていた。
最後に森山は「これからも全国の劇場に広がり、映画の旅は続くので応援をよろしくお願いします。お盆で帰省する方は、地元のお隣さんに広めてください」とアピール。近浦監督は「森山さんとこのようにお話ができて良かったです。さらに1時間、いや2時間は話し続けることができるので、映画がいい感じでヒットしてまた森山さんと映画館に戻って来たいです」と期待を込めると客席からは盛大な拍手が起こり、ティーチインイベントを終えた。
公開表記
配給:ギャガ
絶賛上映中!
(オフィシャル素材提供)