イベント・舞台挨拶

『夏の終わりに願うこと』アフタートークイベント

© 2023- LIMERENCIAFILMS S.A.P.I. DE C.V., LATERNA FILM, PALOMA PRODUCTIONS, ALPHAVIOLET PRODUCTION

 登壇者:新谷和輝(ラテン・アメリカ映画研究者)、月永理絵(ライター/編集者)

 ベルリン国際映画祭エキュメニカル審査員賞受賞、アカデミー賞®国際長編映画賞ショートリストに選出されたリラ・アビレス監督長編第2作『夏の終わりに願うこと』(原題:Tótem)がヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて全国公開中。公開後のSNSでは「今年ベスト!」「傑作!」「ラストで一気に涙が出た」「大切な人との別れを経験した人に観てほしい」と絶賛の声が続々とあがっている。
 この度、公開を記念して8月11日(日)に新宿武蔵野館にてアフタートークイベントを開催。ゲストにはラテン・アメリカ映画研究者の新谷和輝さんとライター/編集者の月永理絵さんが登壇、本作で描かれるラテン・アメリカの大家族の習慣や、先住民たちの文化が根付く、メキシコの文化的背景など、たっぷりと掘り下げた。

少女がひと夏の思い出を通して成長する物語と思いきや……、不穏さと監督の個性があふれる“変な映画”!?家族の死を受け入れる親戚たちの心情を、それぞれの部屋から描く、ミクロコスモス的映画

 療養中の父親のため誕生日パーティーの準備に追われるメキシコの大家族を、娘であるソルの視点からドキュメンタリーのように描き出し、世界中の映画祭を席巻した本作。ラテン・アメリカ映画研究者の新谷和輝に本作の感想を聞くと、まず「すごく変な映画」と答え、「ポスターを見て、女の子が夏休みに成長する爽やかな映画かと思っていたら、ラテン・アメリカの大家族ならではの描写や、リラ監督の個性的な演出にあふれていてびっくり。とても面白かったです」と感想を述べた。続けて月永も「私もあまり情報を入れずに作品を観たのですが、“思っていたより不穏”で驚きました。作中に常に父・トナの死の予感が漂っていて、主人公のソルだけでなく、家族それぞれが死をどう受け入れるのかを描いている。こういった形で家族を描いている映画は珍しい」と語り、それを受けて新谷も、「親子の話なのかと思っていたのに、ソルとトナが最後までなかなか会えないところが面白い。難病についての映画って、ずっと死にそうな患者を映すことが多いのに、この作品はソルや親戚たちをずっと追っているので、家族の死の“その先”を感じる」と重ねた。
 本作では7歳の少女・ソルを中心に、忙しなく準備を進める叔母やいとこ、一家に出入りするヘルパーなど個性豊かな家族たちが登場し、それぞれが役割を担ってパーティーの準備を進めていく。ひとつの家の中で繰り広げられる物語について新谷は、「ラテン・アメリカではみんなが実家を大切にしていて、帰省は月に1回するべきというくらいの絆がある。実家でパーティーが開かれると、会ったこともないような、遠い親戚までたくさん集まってきます(笑)」と解説。ソルたちの実家には、大きなキッチン、広いバス・ルーム、父のベッド・ルーム、植物を育てるテラスなど、さまざまな空間があり、月永が「華やかなパーティーの隣で、死の気配が漂っている父の部屋、完成させられないケーキを準備するキッチン、ヘルパーと賃金について交渉している部屋……、家族それぞれの部屋があり、それぞれ流れている時間や光の差し込み方が全く違っていました」と指摘すると、新谷が「リラ監督が “ミクロコスモスをつくりたい”と言っていました。“家”はひとつの小さな宇宙という作り方をしている。宇宙の中にあるそれぞれの部屋でいろいろなことが起こり、感情が渦巻いている様子がまさに“ミクロコスモス”を表現している映画でした」と分析した。

広場の屋台にシャーマンのテントがあり、ウーパールーパーが神様の象徴!
『Tótem』という原題から読み解く、動物や自然と一体になるメキシコの先住民文化

 たくさんの親戚たちが集まる本作には、それぞれの信仰やメキシコならでは習慣を表すシーンが多く描かれている。パーティーの準備中に当たり前のように霊媒師を呼び出したり、トナへのスピーチに先住民の言葉を引用したり、文化的背景を感じる描写が多い点について新谷は、「メキシコではスピリチュアルなサービスがごくごく当たり前にある。広場の屋台では、飲食店の隣にシャーマンがテントを構えていたりします。突然霊媒師を呼ぶだけでなく、親戚のおじさんに量子療法を勧めてくる人がいたり、そういう人間らしさが随所にあるところも、この映画の魅力でした」と語った。他にも、カマキリやカタツムリ、オウムや犬など、さまざまな動植物が家の中に存在することについても、「メキシコには先住民が多く、動物や自然と一体になる文化が残っている。例えば、最近メキシコでお札の絵柄にもなったウーパールーパーはアホロートル(Axolotl)と呼ばれ、半魚人の神として親しまれています。でも、そんなウーパールーパーを家庭料理として食べちゃうんですよね。愛しているけど食べちゃう不思議な文化です」と衝撃の文化を紹介し、『Tótem』というこの映画の原題についても、「先住民たちは集団(家族)を支えるために、ある生き物を一番上の存在として崇める。「トーテム」は家族を支えるための象徴、絆を現した言葉なのかもしれない」と分析した。

喪失の過程と、突き放される残酷さを描く。
ミア・ハンセン=ラブ監督や小津安二郎映画との共通点

 世界中70にも及ぶ映画祭に招待され各国で絶賛されている本作。リラ・アビレス監督は影響を受けた監督として、インタビューではジョン・カサヴェテスやウォン・カーウァイなどの名前を挙げていたが、月永は本作を観てミア・ハンセン=ラブ監督を思い出したという。「誰かを喪失したことによる過程を美しく描いているところから、『それでも私は生きていく』(2022)や『あの夏の子供たち』(2009)を思い出しました。アルフォンソ・キュアロ
ン監督の『ROMA/ローマ』(2018)にも同じくメキシコのヘルパーの女性が登場しますが、本作はまた違った空気感の作品で、その比較も面白いですね」と語った。それに対して新谷は、「家の中にさまざまな人がいて、最後は無に向かって突き放される感覚があるところに、小津安二郎映画を思い出しました」と述べると、月永も「確かに! どういうふうに父の死を受け入れたのか、はっきりとした答えを出されないまま終わる残酷さや、パーティーが終わったあと、空っぽになった部屋が映し出される。家族の空間から突然不在の時間をとらえる瞬間、確かに小津を感じます」と共感した。

 『夏の終わりに願うこと』には家族の優しさ、温かさの中に「一気に失われる」怖さが潜んでいる。しかし、死は終わりではなく、めぐっていくという考えを解くメキシコの文化を同時に感じることができる作品であると最後に語り、和やかな雰囲気のなかトークイベントは幕を閉じた。

公開表記

 配給:ビターズ・エンド
 8月9日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー!

 (オフィシャル素材提供)

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