伝説的映画監督、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの珠玉の三作品を集めた【ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー傑作選2024】が、8/30(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次開催される。上映作品は『エフィ・ブリースト』『自由の暴力』『リリー・マルレーン 4Kデジタルリマスター版』。この度、歌手の加藤登紀子やミュージシャン/作家の中原昌也ほか、著名人から推薦コメントが到着した。
中原昌也(ミュージシャン・作家)
やる気が失せるような物語に怒りすら感じるときもあるが、そんなファスビンダーに最敬礼。
『エフィ・ブリースト』は地味だが、我慢してこそ意味がある。
なにがなんでも『自由の暴力』は現代映画を語る上で必須です。
心に隙間風が吹き込む名作。
『リリー・マルレーン 4Kデジタルリマスター版』によせて
加藤登紀子(歌手)
戦場の男たちが心を癒され奪われた奇跡の歌。
その歌の運命を生き切った歌手ビリーの、許されざる男への愛。
第二次大戦という時代の凄まじさ、危機にさらされたユダヤ人の必死の戦いの嵐の中で、こんなにも歌が人の心をとらえ、運命を狂わせるのか、そのことに圧倒されました。
角銅真実(音楽家・打楽器奏者)
野生と道徳、個人と国家。
身体を持ち、人の世で生きることの複雑さ。
私が私であろうとする時、社会という渦は躾や仕組みという名の下、個人の情緒すら軽々と飲み込んでしまう。
鋭い疑問の眼差しと抵抗は、摩擦のエネルギーとして作品に焼き付けられ、今日を生きる“私”へ確かに届いた。
なんといってもスクリーンの中のファズビンダー自身の姿や表情が、目に焼き付いて離れない。
鮫島有美子(声楽家)
この映画ができた頃、私は、その熱い反響が渦巻く西ドイツにいた。第二次世界大戦中、敵味方を問わず、すべての兵士たちが毎晩待ち侘びた、戦場のラジオから流れる「リリー・マルレーン」。前線で歌に聴き入る彼らの顔、戦争の無情さに心が抉られる。どんなときにも人の心を支え続ける音楽と愛の力。政治に翻弄された一人の女の姿が胸を打つ。
『自由の暴力』によせて
児玉美月(映画批評家)
与えられる者は徹底して与えられ、奪われる者は徹底して奪われる理不尽な世界で。
敗北の宿命を背負いながら、それでもなお愛に投機し続ける魂の高潔さに打ち震える。
『自由の暴力』は、決して色褪せることのないゲイ・フィルムの傑作だ。
わたしたちは絶望のなかに希望を、あるいは死のなかに生を見る。
町山広美(放送作家)
ヒゲなしファスビンダーが愛らしさを盛って演じる、無垢なる生贄のメロドラマ。資本主義の幼児は母に抱かれるように、搾取のシステムにかりとられる。愛は発泡酒のねばつく後味を残し、快楽に殉じるスポーツ・カーは市場価値を持たないが、車内の孤独だけが美しい。会の態度をファスビンダーは鋭く批判しつつ、微かに希望の光も同時に感じさせる。イナー・ヴェルナー・ファスビンダー。3作品の公開まで、ぜひ楽しみにお待ちいただきたい。
上映作品
『エフィ・ブリースト』
(原題:Fontane Effi Briest、1974、ドイツ、上映時間:140分)
※ 日本劇場初公開!
監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
撮影:ディートリッヒ・ローマン、ユルゲン・ユルゲス
出演:ハンナ・シグラ、ウォルフガング・シェンク、カールハインツ・ベーム、ウリ・ロンメル
ブリースト家の娘エフィは20歳も上のインシュテッテン男爵と結婚するが、男爵は年若い彼女を躾けようとする。それに違和感を抱いたエフィは若くて魅力的な夫の友人クランパス少佐と浮気をしてしまう。数年後、エフィと友人の裏切りを知った男爵は、クランパスに決闘を申し込むのだが……。
19世紀ドイツの作家テオドール・フォンターネの小説の映画化であり、ファスビンダーにとっては後年の『ベルリン・アレクサンダー広場』にならぶ重要な<文学映画>。19世紀後半の家父長制度のなかで破滅の道をたどった女性の姿にファスビンダーが共感、彼の永遠のテーマでもある「社会への違和感」「夫婦、恋人間での躾けや抑圧」が強くあらわれている。
『自由の暴力』
(原題:Faustrecht der Freiheit、1974、スイス、上映時間:123分)
監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
脚本:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー、クリスチャン・ホホフ 撮影:ミヒャエル・バルハウス
音楽:ペール・ラーベン
出演:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー、ペーター・カテル、カールハインツ・ベーム
身寄りはアル中の姉しかいない大道芸人フランツは宝くじに当たったのをきっかけに、ブルジョワのゲイのサークルに入り込み、ハンサムなオイゲンに恋をする。一夜で富と愛を手に入れたフランツはオイゲンに貢ぐが、工場経営者の御曹司オイゲンと粗野なフランツとでは趣味も会話も何もかも相容れない。それでもひたすら愛を信じるフランツだったが、やがてふたりの齟齬は決定的となり……。
ファスビンダーが初めて男性同性愛を正面から取り上げた作品。ひとりの資本家の男に夢中になったばかりに、利用されるだけされ尽くされる主人公をファスビンダー自身が熱演。資本主義社会の冷酷さを暴きだすと同時に、愛の名のもとに展開される哀しく痛ましい暴力的な関係が、デジタルリマスターされた美しい映像で鮮烈に描かれる。
『リリー・マルレーン 4Kデジタルリマスター版』
(原題:Lili Marleen、1980、ドイツ、上映時間:120分)
監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
脚本:マンフレート・プルツァー、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
撮影:ザヴィエル・シュワルツェンベルガー
音楽:ペール・ラーベン
主演:ハンナ・シグラ、ジャンカルロ・ジャンニーニ、メル・ファーラー、カール・ハインツ・フォン・ハッセル、クリスティーネ・カウフマン、ウド・キアー
舞台は第二次世界大戦下、ナチスの勢力が増すヨーロッパ。売れないドイツ人歌手ビリーは、ユダヤ系名門一家の息子で音楽家のロバートとスイスで幸せに過ごしていたが、ドイツからスイスへ戻る際にビリーだけ入国を拒否され、ふたりは離れ離れになってしまう。歌手としての成功を夢見るビリーはナチスの高官に気に入られ、「リリー・マルレーン」をレコードに吹き込むことに。「リリー・マルレーン」はひょんなことから兵士たちの間で大ウケし、ビリーはスターになる。そんなある日、ロバートが偽造パスポートでドイツに侵入し……。
ファスビンダーのミューズ、ハンナ・シグラが時代に翻弄される歌手を熱演。盟友、ダニエル・シュミット監督のカメオ出演も見どころ。
オフィシャル・サイト(外部サイト)
公式X:@RWFassbinderjp
公開表記
提供:マーメイドフィルム
配給:コピアポア・フィルム
8/30(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次ロードショー!
(オフィシャル素材提供)