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“勇気をくれる伝説の人間記録”ドキュメンタリー『天地悠々 兜太・俳句の一本道』トークイベント

©ピクチャーズネットワーク株式会社

 登壇者:いとう せいこう×河邑厚徳監督

 “詩というものの本当”を目指し、有季定型の伝統にとらわれず、人間と社会の自由な表現に挑んできた俳人・金子兜太(享年:98歳)。海軍としてトラック諸島で太平洋戦争を体験し、「この人たちに尽くせることをやりたい」と26歳で帰国。以降、びくともしない平和を基礎として、戦後俳句の第一人者として活躍。

 春落日しかし日暮れを急がない
 と「もっと腰を落ち着けて生きていけばいい」と詠んでいた、2012年から2018年に最期を迎える直前まで足かけ7年間のインタビューを織り交ぜ、生涯を追ったドキュメンタリー映画『天地悠々 兜太・俳句の一本道』(19)。

 上映されている特集上映“勇気をくれる伝説の人間記録”の初日には、金子兜太氏との共著“金子兜太 いとうせいこうが選んだ「平和の俳句」”や“他流試合――俳句入門真剣勝負!”がある作家/クリエーターのいとうせいこう氏と本作監督の河邑厚徳の上映後トークイベントが開催された。

 河邑監督は、登壇前に観客と一緒に本作を観て、「久しぶりに兜太さんにまた会った感じで、胸が詰まってあまりものが言えない」と感無量の様子。

 監督は、本作のテーマについて、「兜太さんが最後の最後までテーマにしてきた平和を中心に据えたいと思っていた。」と説明し、「兜太さんといとうせいこうさんが二人で作り出した、“俳句によって平和を日々作り出していく”ということが大事だと思っている」と、今回いとうにゲスト登壇をお願いした理由を話した。

 いとうは、俳句の運動についての経緯を説明。「(2014年、)埼玉県の女性が“デモの句”を作ったのが、行政で弾かれちゃった。それは言論の弾圧ではないか。第二次世界大戦の時も、たくさんの俳人が刑務所に入ったり弾圧されたり表現を止められていた。それを兜太さんはリアルに思い出したと思うんです。急に兜太さんが僕と対談させてくれと東京新聞に言ったんです。もちろん大好きな人だったし、テーマがそういうことでしたので、駆けつけて対談をしました。その中で、言論の問題や『前回の戦争の時と同じことになるぞ』という話をしたんですけれど、『新聞がそれを言うのもすごく大事なんですけれど、ジャーナリズムはそこで1回終わってしまうので、読んだ読者が自分たちで何かを作ることじゃないか』と言ったら、兜太さんは嬉しそうな顔で『そうだ、そうだ』となって、『俳句の運動を起こしたらいいんじゃないか』とその場でなったんです」とのこと。

 その東京新聞の“平和の俳句”については、「金子兜太が俳句を選ぶところを毎月毎月見られました。兜太さんがどんな句を採ってどんな句を採らないかというのを勉強させてもらった。すると驚くべきことに、僕が落とした、『これじゃあスローガンじゃないか、詩じゃないじゃないか』という句を積極的に採るんです。『素直だ』『リアルだ』『こういうもののほうが本当なんだ』と言う言葉を使うんです。俳句のようになっている句は『これは作った句だ』って言って跳ねちゃう。毎月毎月感動でした。『平和であってほしいと思う、あるいは戦争の時を思い出した、そのことがそのまま素直に書かれている句を俺は採る』と気迫を感じました。平和のことをもっと人に話すとか、スタンディングするとか、行動にも出た人もいるでしょうし、俳句にした人もいるでしょうし、全てを含めて、金子兜太の俳句というものの運動だったんだなと思います」と総括した。

 監督は、「俳句は、一つの文芸としての俳句という考えもあるけれど、兜太さんは、日本人に最も身近で、小学生も詠める俳句という具体的な手立てで、平和というものを目的として、『もうこの国で戦争を起こしたくない』という国民的な共感を養っていくような偉大さを感じた」と話した。

 いとうは、「講談社から文庫本を出した時に、金子兜太がすごい地点にいつの間にか到着していて、『すべての日本語は詩の言葉である』と言い出したんです。僕らは、(金子兜太による揮毫が有名な)『アベ政治を許さない』は詩の言葉であるとは思わないけれど、金子兜太にしたら、『これは詩なんだ』となるじゃないですか。その目で見れば、素直な句とそうでない句がすぐ分かる。それについての評論が本当は俳句の世界から出なくてはならない。この映画が唯一、映しとめていると思いました」と本作を絶賛した。

 いとうから、「この映画の中の兜太さんの言葉を広めたい方がまた観に来るとか友達に勧めることはすごく大事なことで、それは俳句を詠むことと同等の価値を持つようなことだと思うんです。詠む人がいないと俳句は成り立たなく、誰もいない砂漠に俳句が置いてあってもしかたがないので、その役を皆さんに担っていただければと思います」と熱いメッセージが送られた。

 監督は、同時上映の、料理研究家・辰巳芳子(現在99歳)を追った『天のしずく 辰巳芳子いのちのスープ』(12)と、日本初の女性報道写真家・笹本恒子(享年:107歳)とジャーナリスト・むのたけじ(享年:101歳)を追った『笑う101歳×2 笹本恒子 むのたけじ』(17)、についても触れ、「それぞれの仕事は全く違うんです。新聞記者、報道カメラマン、料理家の記録です。私は、常に時代を見据えて、時代が間違わないようなメッセージだとか発言をしてくださる本物の方たちをいつも探してお話を聞いたり、番組を作ってきたんです。でも、とても残念なことに、今日本でそういう本当に大事なことをちゃんと語ってくださる方がほとんどいなくなりました。そういう方の多くは、戦争体験を持っているんです。戦争体験がベースで戦後を生きてきたということがあるんですが、そういう方が次々といなくなってきた中で、改めて記録というものの重要さを実感します。映画は、機会があるごとに上映され、記録した人たちが亡くなっても、その魂は映像の中で生き続けていくという力があるなと強く感じています」と3作の重要さを力説した。

 監督は最後のメッセージとして、「他の2作についても、いろんな発見があるし、元気が出ることもあると思うんです。本作で、信念を貫いてぶれないで、ゴールに向かって進まれた兜太さんの気概や素晴らしさを感じたと思うんですけれど、それぞれそういう方たちが登場します、ぜひこの2週間、他の映画も観てください」と話した。

『天のしずく 辰巳芳子いのちのスープ』

©2012年 天のしずく製作委員会

 (2012年、日本、上映時間:113分)

 監督・脚本:河邑厚徳
 出演:辰巳芳子
 朗読:草笛光子
 語り:谷原章介

食べものを用意することは、いのちへの祝福

 嚥下障がいでとろみのあるスープのみ喉を通った父に作っていたスープを、父の死の直後からは訪問看護のボランティアで隣人に配り、そしてスープ教室で伝授してきた料理研究家・辰巳芳子。1口2口がなくなると、数日で天国に逝かれる患者を目の当たりにしてきた医師は、病院の緩和ケア病棟でスープを配り、「辰巳さんのスープは素材を感じるので、引き出しが開いて思い出が出てくる」と1口の大切さを実感。ある日、辰巳の元に、親友が癌になり、「何かしてあげられることはないか」とスープを作ったというハンセン病の女性から手紙が届き……。

 公式X:https://X.com/tennoshizuku(外部サイト)
 公式Facebook:https://www.facebook.com/tennoshizuku(外部サイト)

特集上映“勇気をくれる伝説の人間記録”

 9月10日(火)〜9月23日(月・祝) 東京都写真美術館ホールにて公開

 主催:ルミエール・プラス
 協力:環境テレビトラスト、ピクチャーズネットワーク

 公式X:https://x.com/lumiere_plus(外部サイト)
 公式Facebook:https://www.facebook.com/lumiere.plus.jpn(外部サイト)

 当日券(税込):一般 1,800円、大・専門・高校生1,500円、中学生以下(3歳〜)、シニア(60歳以上)、障害者手帳をお持ちの方(介護者2名まで) 1,200円
 リピーター割:本特集上映いずれかの座席指定券半券のご提示で、本特集上映の他の作品を1,000円でご覧いただけます。

(オフィシャル素材提供)

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