記者会見映画祭・特別上映

「第25回東京フィルメックス」ラインナップ発表記者会見

 【形式】Zoom配信/YouTubeライブ配信を活用したオンライン会見
 【参加者】神谷直希(プログラム・ディレクター)

 毎年、新しい出会いに満ち、映画の未来を照らしてきた映画祭「東京フィルメックス」。2024年は、「第25回東京フィルメックス」を11月23日(土)~12月1日(日)にて開催を予定している。

 この度、記念すべき「第25回東京フィルメックス」の開催について、ラインナップ発表記者会見が行われた。併せて今年のメインビジュアルも発表された。

 これまで、『時代革命』(第22回特別招待作品)の特別上映、今や世界に名を知られた濱口竜介監督の初期作品『PASSION』(第9回コンペティション部門)や、気鋭の監督、奥山大史の『僕はイエス様が嫌い』(第19回特別招待作品)などを一早く上映するなど、まさに映画を通じて“世界”とつながる、映画祭としての意義を発信し続けている「東京フィルメックス」。記念すべき第25回の開催を迎える今年も、充実したプログラムが発表された。

◆オープニングにはジャ・ジャンクー監督『Caught by the Tides(英題)』、今年の国際審査員を務めるロウ・イエ監督の最新作も登場!

 オープニング作品は、カンヌ国際映画祭のコンペティション部門でワールドプレミア上映された『Caught by the Tides(英題)』。ジャ・ジャンクー監督の長年のミューズであるチャオ・タオ演じる一人の女性の人生の約20年間を、彼女の元を去った一人の男性との関係を軸に描く。
 また、審査員を務める一人、ロウ・イエ監督の最新作『未完成の映画』も特別招待作品部門で上映される。特別招待作品は「11本」を予定。

◆東京フィルメックス・コンペティション部門は、アジアの多様な「10本」の新しい風が吹く!

 ジョージア、パレスチナ、インド、ベトナム、シンガポール、台湾、中国、韓国の8ヵ国で制作された10作品がラインナップ。タレンツ・トーキョー修了生監督のチャン・ウェイリャン監督『白衣蒼狗』やリン・ジェンジェ監督『家族の略歴』、ヨー・シュウホァ監督『黙視録』などが並ぶ。10作品の内、6作品が長編監督デビュー作になっている。

◆メイド・イン・ジャパン部門、プレイベントとプログラムは目白押し!

 「メイド・イン・ジャパン部門」はタレンツ・トーキョー修了生監督による日本を含む3ヵ国の共同制作を含む、4作品の国際共同制作を上映。いずれも才能が垣間見える長編デビュー作が集まった。
 また、プレイベント「今だけ、スクリーンで!東京フィルメックス25年の軌跡」の開催も決定《期間:11月15日(金)~11月21日(木)》。2000年に「作家主義」を掲げて発足した東京フィルメックス。これまでに上映された500本の中から選りすぐりの作品を上映するとともに、これまでの映画祭の四半世紀の軌跡を振り返る内容になっている。「東京フィルメックス」という映画祭が、世界と人々をつないできた証を体感してもらいたい。

 映画祭メインビジュアルは、今年もIKKI KOBAYASHIが手掛けた。「映画の鑑賞中、わたしたちの表情は物語の進行とともに移ろいます。映画を観終わった後の表情も一人ひとり違うように、物語をわたしに投影しながら余韻に浸り、明日のことを考える人を描いています」という作者の思いと、開催から四半世紀を数え、ここまで<継続>してきた「東京フィルメックス」の意義を重ね合わせ、昨年から継続されたデザインになっている。

 数々の才能が発掘されているプログラム、「タレンツ・トーキョ―」は今年で15回目を迎える。今年は、11の国と地域から、17名が参加する。

◆メイン会場は「丸の内TOEI」へ!

 今年のメイン会場は、例年使用していた「有楽町朝日ホール」から「丸の内TOEI」へと変更する。長期的に映画祭体験を向上させるために必要なチャレンジとして、数年前から劇場での実施も模索してきた中で、今年は<丸の内TOEI>での開催が実現した。来場者にとってより良い<映画祭の体験>を生み出すための場づくりは常に考えてきており、今年の「変化」の相乗効果にも期待が寄せられている。

 第25回について、プログラム・ディレクター神谷は今年も開催できることへの感謝をまず述べた。そして第25回について「全体的に、国境を超えて、越境しながら作っている作品が多いと言える。(物語だけでなく)国際共同制作が多いといったところからもそう感じている」と話した。東京フィルメックス・コンペティション部門のセレクションについては、「(ラインナップは)何処かで判断しないといけないため、その際にどこに基準を設定するかというのが出てくる。”この作品を招待するとコンペティションのレベルが上がる”というある種の基準になる作品が必ず出てくる。その作品を招待しても、それに匹敵する、コンペティションを競える作品が十分にあるか、と自問し、自分が納得できたところで、全体像を見ながらラインナップを決めた」と振り返るが、その言葉通り、今年のコンペティションのラインナップも見ごたえ十分と自信をのぞかせた。

 「第25回東京フィルメックス」は、11月23日(土)から12月1日(日)まで開催する。プレイベントのチケットは11月7日(木)16時から、映画祭の各上映作品のチケットは11月2日(土)正午から発売予定。詳細は映画祭HPにて。

神谷直希(プログラム・ディレクター)プロフィール
 1976年生まれ。大学院在学中の2000年に第1回東京フィルメックスに関わり、第2回目以降は作品・プログラム担当のスタッフとして上映作品の選定やゲストの招聘業務に携わる。2019年10月にいったん同映画祭を離れ、株式会社木下グループにてキノフィルムズやキノシネマの洋画配給作品のマーケティング業務や買付け業務に携わるが、2021年5月にプログラム・ディレクターとして東京フィルメックスに復帰する。
 これまでに、『ドラキュラ 乙女の日記より』(ガイ・マディン監督)、『デルタ』(コーネル・ムンドルッツォ監督)、『メコン・ホテル』(アピチャッポン・ウィーラセタクン監督)、『 山〈モンテ〉 』(アミール・ナデリ監督)、『見えるもの、見えざるもの』(カミラ・アンディニ監督)、『あなたの顔』(ツァイ・ミンリャン監督)、『死ぬ間際』(ヒラル・バイダロフ監督、第21回東京フィルメックス・最優秀作品賞受賞)等、20作品以上の映画祭上映作品の日本語字幕翻訳を手掛けている他、共著書に『この映画を見れば世界がわかる』(言視舎刊)がある。

国際審査員 <コンペティション部門>

 東京フィルメックス・コンペティションで上映される10作品を、下記の3名が審査し、11/30(土)に各賞を発表する。
 ・最優秀作品賞:副賞として賞金70万円が監督に授与される。
 ・審査員特別賞:副賞として賞金30万円が監督に授与される。

●審査員
 ロウ・イエ( LOU Ye / 中国/ 映画監督)

© Travis Wei

 カトリーヌ・デュサール( Catherine DUSSART/ フランス/ 映画プロデューサー)

 ラ・フランシス・ホイ( La Frances HUI / アメリカ/ キュレーター)

◎観客賞
 観客の投票により選出される(対象作品はスケジュール確定後発表される)。

◎ 学生審査員賞
 東京学生映画祭主催の「学生審査員賞」は3人の学生審査員がコンペティション部門の作品を対象に審査し、11月30日(土)の授賞式で最優秀作品を発表する。学生審査員の選任から、賞の運営までを東京学生映画祭の手で行う。
  東京学生映画祭<http//tougakusai.jp、外部サイト>

東京フィルメックス・コンペティション

 世界的に大きな注目を集めるアジアからは、才能ある新鋭たちが次々と登場している。そんなアジアの新進作家が2023年から2024年にかけて監督した作品の中から、10作品を上映する。また3名からなる国際審査員が、最優秀作品賞と審査員特別賞を選び、11/30(土)に行われる授賞式で発表する。
 (日本語タイトル横の★=長編監督デビュー作)

『四月』

 (原題:April(აპრილი)、2024、フランス:イタリア:ジョージア、134分)

 監督:デア・クルムベガスヴィリ(Dea KULUMBEGASHVILI)

 ジョージアでは、妊娠12週までの処置であれば堕胎手術は本来合法ではあるものの、社会的、あるいは政治的な圧力によって、それが実質的に違法状態になっているという。そんな保守的な社会において、多大なリスクを冒しつつ、他に選択肢を持たない女性たちを戸別訪問し、使命感のみに突き動かされながら、処置や手術を続ける1人の産婦人科医の姿をこの作品は描いている。社会的にも精神的にも孤立し、内面を蝕まれ、次第に心身のバランスを失っていく彼女の姿が、超現実的な描写を交えつつ捉えられていくのだが、その描写の強度や厳密さには誰もが圧倒させられるはずだ。
 パンデミックのために未開催に終わった2020年のカンヌ映画祭において入選の証である「カンヌ・レーベル」を与えられ、同年にサン・セバスチャン映画祭で最優秀作品賞を受賞した『BEGINING ビギニング』に続くデア・クルムベガスヴィリの長編第2作。本作はベネチア映画祭のコンペティション部門で初上映され、特別審査員賞を受賞した。

『ハッピー・ホリデーズ』

 (原題:Happy Holidays、2024、パレスチナ・ドイツ・フランス・イタリア、カタール、123分)

 監督:スカンダル・コプティ(Scandar COPTI)

 イスラエルのハイファに住む、あるパレスチナ人家族の物語。作品は4つの章に分かれており、それぞれの章が家族内の別の人物を中心に展開し、それぞれが相互に絡み合う構成になっている。国家や社会や文化がどのように強制的な支配を及ぼし、その圧力がどのように個人の人生を変え、破壊するのかについての一連のヴァリエーションにもなっており、一つの家族(あるいは拡大家族)の置かれている状況や人間関係の考察を通じて、イスラエルにおけるパレスチナ人とイスラエル人の分断状況や、軍国主義、あるいは女性に対する家父長主義的な制約といった民族や国家やジェンダーをめぐる深い文化的・政治的な背景が露わにされていく。
 2009年にイスラエル人監督ヤロン・シャニとの共同監督作品『Ajami』でカンヌ映画祭のカメラドールのスペシャル・メンションを獲得したパレスチナ人監督スカンダル・コプティの2作目の長編作品(単独監督作としては1作目)。本作はヴェネチア映画祭オリゾンティ部門で上映され、同部門で最優秀脚本賞を受賞した。

『サントーシュ』★

©Oxfam

 (原題:Santosh、2024、インド・イギリス・ドイツ・フランス、120分)

 監督:サンディヤ・スリ(Sandhya SURI)

 サントーシュが警察官として働き始めたのは、殉職した警察官の未亡人が職を継承できるという政府の制度のためだった。慣れない仕事に順応していく中で、彼女はすぐに、昔ながらの警察のやり方を体験し、そこに否応もなく参加することになる。性差別、汚職、権力闘争、そしてカースト制度や宗教による社会の分断。レイプされ、殺害され、地元の井戸に捨てられた、いわゆる「不可触民」である少女の死の捜査を、ベテランでカリスマ性のある女性警察官、シャルマ警部の指揮の下で担当することになったサントーシュは、彼女を刺激的な指導者であり、フェミニスト的な連帯の拠り所と見なすようになるが……。
 映画はあくまでもサントーシュ個人の視点を保ちつつ、彼女が何を受け入れ、内面化し、実践できるか、という感情の旅を描いていく。その過程で社会の腐敗を構造的で世代的なものとして描き出し、その複雑なニュアンスを見事な忍耐と厳格さで探求している。カンヌ映画祭のある視点部門で上映。第97回アカデミー賞®国際長編映画賞部門のイギリス代表作品に選出されてい
る。

『女の子は女の子』★

Screenshot

 (原題:Girls Will Be Girls、2024、インド・フランス・アメリカ・ノルウェー、118分)

 監督:シュチ・タラティ(Shuchi TALATI)

 模範的な生徒である16歳のミラは、ヒマラヤにあるエリート寄宿学校において、学校全体の行動と学習の基準を設定する責任者である監督生に女子生徒として初めて就任する。野心的で潔癖な性格にも関わらず、彼女は新入生のスリに対して初恋の痛みを覚え、最初の欲望に早々に屈してしまう。彼女の初恋と性欲に対する探求は、しかしながら、母親の介入によって思わぬ方向へと向かう。母親とスリの奇妙な親密さはミラの嫉妬と不安を引き起こし、母と娘の間にぎこちなく、重い溝を作っていく……。
 映画はインド社会の伝統的な価値観、とりわけ家父長制の陰が彼女たちの人生にいかにまだ影響しているかを検証しつつ、母と娘の間の絶え間ない駆け引きや緊張関係に迫っていく。美化や中傷をすることなく、親密さ、自己承認、裏切りや許しのほんの僅かな瞬間をカメラは捉えている。サンダンス映画祭のワールド・シネマ・ドラマティック部門にて初上映され、主演のPreetiPanigrahiの演技に対して特別審査員賞が授与され、同時に観客賞も受賞した。

『ベトとナム』

Still by nicolas-graux

 (原題:Viet and Nam、2024、ベトナム・フィルピン・シンガポール・フランス・オランダ・イタリア・ドイツ・アメリカ、129分)

 監督:チューン・ミン・クイ(TRUONG Minh Quý)

 ベトとナムは20代の炭鉱労働者の青年。彼らは粉塵まみれの画一的な職業生活を送りながら、地下何百メートルの暗闇の中で密かな愛を育んでいる。彼らは共に戦争で父を亡くしており、ナムと彼の母は父のベトコン時代の古い同志バと共に、まだ半分埋まった兵器が点在する森に覆われた中央高原へ父の遺骨を探す旅に出る。ベトは彼らに同行しつつ、ベトナムから密航し国外へ脱出することを計画しているナムの身を案じている……。
 20年に及ぶ戦争による深い傷がまだ色濃く残る2001年のベトナムを舞台に、恋人同士である2人の炭鉱労働者の姿を通して、戦後のベトナムにおいて、若くそしてクィアであること、そして更にはベトナムという国そのものが抱える困難と苦悩を描く。催眠術のように優しく官能的に撮影された美しい作品でありつつも、その表層の下に眠る深く暗い影の部分を炙り出そうとする象徴性に満ちた作品。デビュー作『樹上の家』(2019)で注目を集めた新鋭チューン・ミン・クイの2作目の長編である本作は、カンヌ映画祭のある視点部門で初上映された。

『黙視録』

©AKANGA FILM ASIA_GRACE BAEY

 (原題:Stranger Eyes(默視錄)、2024、シンガポール・台湾・フランス・アメリカ、126分)

 監督:ヨー・シュウホァ(YEO Siew Hua)

 何者かに追われる気配を感じ、何者かの叫び声を聞く3人の女性がそれ家族でのピクニックのビデオ映像をじっくりと見ている若い父親。すぐに彼の幼い娘が行方不明になっているということが分かる。このビデオは、若い両親が持っている娘の最新の映像のようだ。程なくして、行方不明の娘の映像が入ったDVDが家族の玄関先に届き始める。誰かがこの家族を長い間監視しており、おそらく娘を取り戻す鍵を握っていることが明らかになる……。
 ヨー・シュウホァの『幻土』に続く新作長編『黙視録』は、こうして犯罪スリラーとして幕を開ける。シンガポール警察が所有する膨大な数のCCTV映像が駆使され、比較的あっけなく事件は解決するのだが、すでにその頃にはこの作品はスリラーの枠組みをあっさりと超え、現代の孤立と監視文化についての、巧妙で、陰鬱で、瞑想的で、最終的には不可解さを含んだより多層的な物語へと変質を遂げ始めている。大量監視の時代に見る、見られるということはどういうことなのか。私たちの身近にあるこの大きな問いを考察することで、この作品は人間の孤独や脆さを見つめている。ヴェネチア映画祭コンペティション部門で上映。

『白衣蒼狗』★

 (原題:Mongrel(白衣蒼狗)、2024、台湾・シンガポール・フランス、128分)

 監督:チャン・ウェイリャン(CHIANG Wei Liang)
 共同監督:イン・ヨウチャオ(YIN You Qiao)

 タイからの不法移民の青年オームは台湾の山岳地帯の田舎町で老人や障害者たちの介護の仕事をしている。東南アジア各地からの不法移民たちを闇で働かせているボスの下、移民労働者たちの仲介役でもある彼は、ボスと移民たちとの間で板挟みになることも多い。そしてある日、彼が介護をしている老女から、重度の障害を持つ彼女の息子について、ある相談を持ち掛けられる……。
 現代の奴隷制度ともいえる環境の中で暮らす移民労働者たちの絶望的に悲惨な状況や、彼らの直接のボスよりもさらに上の階層の闇社会の権力によって構築された搾取のシステムの在り方が、説明を極力排した厳密な筆致で描かれていく。フレーム内外で見事に制御された絵画的な構図や、長い沈黙を恐れない編集のリズムの調整も秀逸で、長編監督1作目にして見事な完成度に達している。ホウ・シャオシェンとリャオ・チンソン(ホウ作品の長年の編集者)が製作者として参加。カンヌ映画祭の監督週間で初上映され、初長編作品を対象とした賞、カメラドールのスペシャル・メンションを授与された。

『空室の女』★

 (原題:Some Rain Must Fall(空房間裡的女人)、2024、中国・アメリカ・フランス・シンガポール、98分)

 監督:チウ・ヤン(QIU Yang)

 40代の主婦、ツァイは人生の目的を失い、大きな精神的崩壊の瀬戸際にいる。映画の冒頭で、彼女は不運な形で年配の女性に怪我を負わせてしまい、入院したその女性の家族から賠償を求められる。この出来事を導入として、私たちは彼女の置かれている状況を目にしていく。夫とは離婚手続き中で、反抗期の娘との間にも深い溝がある。同居中の義母はどうやら認知症を患っており、疎遠になって久しい実父は死期が近いようだ。彼女は、自分の上にのしかかる重荷や憂鬱から逃れようともがいている。
 この作品は、こうしたツァイの「中年の危機」的状況、ひいては中国の中程度に裕福な家庭の機能不全を、4:3の息苦しいフレーミングと撮影監督のコンスタンツェ・シュミットによる美しく憂鬱なイメージによって極めて効果的に語る。映画初出演だという主演のYu Aierの抑えた演技も素晴らしい。カンヌ映画祭の短編部門でパルムドールを受賞した『A Gentle Night』(2017)等、一連の短編作品で高い評価を得てきた新鋭チウ・ヤンの長編デビュー作。ベルリン映画祭エンカウンターズ部門で初上映された。

『家族の略歴』★

 (原題:Brief History of a Family(家庭簡史)、2024、中国・フランス・デンマーク・カタール、99分)

 監督:リン・ジェンジエ(LIN Jianjie)

 高校の校庭での懸垂中に、内向的なシュオは、同級生のウェイが投げたバスケットボールが当たって落下し、足を負傷する。罪悪感を感じたウェイは、シュオを自宅でテレビゲームをしようと誘う。ウェイの両親と夕食を共にする中、シュオは母親が亡くなったことを明かし、アルコール中毒の父親から受けた虐待をほのめかす。しかしこれはウェイの両親の共感を得るための、シュオにとって最初の巧妙なステップだった。徐々にシュオはウェイの裕福なアパートで過ごす時間を増やし、確実に彼の両親の信頼を勝ち取っていく……。
 本作が長編デビュー作となるリン・ジャンジェは、見事な語り口の正確さで、目立たない侵入者が潜り込んだ中流階級家庭内における、変化する力学を分析している。完璧な彫刻作品のように、あらゆるフレームのあらゆる要素を徹底的なコントロール下に置きつつ、巧妙で不可解な曖昧さを保ち、スリラー作品のような緊張感を持続させる手腕は見事としか言いようがない。サンダンス映画祭で初上映され、その後にベルリン映画祭でも上映された。

『ソクチョの冬』★

 (原題:Winter in Sokcho(Hiver à Sokcho)、2024、フランス・韓国、104分)

 監督:コウヤ・カムラ(Koya KAMURA)

 スアは韓国北東部の海辺の町、ソクチョにある小さなホテルで働いている。ソウルから数か月前に故郷に戻った彼女は、ソウルでモデルになりたいと思っているボーイフレンドのジュノと半同棲中。しかし、彼女の慎重に構築された日常は、ロシュディ・ゼムが演じる、ある程度名の知れたフランス人アーティスト、ヤン・ケランドの到着によって乱されてしまう。生前にフランス人の父親に捨てられた経験を持つスアは、ケランドと出会い、長い間彼女の中に埋もれていた感情と疑問を再び芽生えさせる……。
 エリザ・スア・デュサパンによる同名小説の映画化作品である本作は、若い女性のアイデンティティの探求と受容の過程を繊細かつ親密に捉えた作品。冬のソクチョというロケーションの持つ魅力に加え、アニエス・パトロンによる抽象的なアニメーション・シークエンスの導入も大きな効果をあげている。日系フランス人監督、嘉村荒野の処女長編作品で、トロント映画祭のプラットフォーム部門での初上映後、サン・セバスチャン映画祭の新人監督部門でも上映された。

【特別招待作品】(全11作品)

 今年も映画の最先端を切り拓いてゆく、著名監督たちのとびきりの新作を紹介する。いずれも強烈な作家性が発揮された、これらのバラエティ豊かな作品からは、映画の多彩さがうかがえるだろう。

◎オープニング作品

『Caught by the Tides(英題)』

© 2024 X Stream Pictures

 (原題:Caught by the Tides(風流一代)、2024、中国、111分)

 監督:ジャ・ジャンクー(JIA Zhang-Ke)
 配給:ビターズ・エンド

 ジャ・ジャンクー監督の長年のミューズであるチャオ・タオ演じる一人の女性の人生の約20年間を、彼女の元を去った一人の男性との関係を軸に描いた作品。物語は2001年に始まり、1度目は5年後、次には16年後に時代が移行し、2022年を舞台とする第3幕までを通して、主人公女性の感傷的な苦難と、時の経過と共に彼女の自立が深まっていく姿が捉えられている。冒頭の場面は2001年頃に撮影され、映画の終盤に主人公たちが再び大同市に戻る頃には、この古い炭鉱都市が未来への可能性に開かれた完全に別の世界になっているのが印象的だ。最初の2章は過去にさまざまなフォーマットで撮影された未使用の映像素材が多くの場面で使われており、サウンド版サイレント映画の形式が部分的に援用され、ポップ、ディスコ、伝統音楽等のサウンドトラックに支えられた流動的な編集がなされている。そうしたユニークなハイブリッド映像/音響が各時代の集合的記憶のようなものを想起していくさまは実に感動的だ。カンヌ映画祭のコンペティション部門でワールドプレミア上映された。

◎クロージング作品

『スユチョン』

 (英題:By the Stream、2024、韓国、111分)

 監督:ホン・サンス(HONG Sangsoo)

 ソウルの女子美術大学を舞台にしたこの映画は、もうそれほど若くはない大学講師のジョンイムが、かつてはその分野で有名だった叔父のチュ・シオンに大学の演劇祭で学部の学生たちの寸劇を演出させようと大学に招へいするところから始まる。演劇祭への準備が始まり、その過程でシオンはジョンイムの上司で彼の大ファンである女性教授チョンと親しくなっていく……。
 本作は『A Traveler’s Needs(英題)』に続く今年2作目のホン・サンス監督作品。登場人物たちが食事をし、酒を酌み交わす場面で重要なことが示唆されることが多いホン作品だが、この作品もその例に漏れず、川沿いにある鰻料理店で多くの進展や転回が起こる(また、川沿いの店ではないが、演劇祭の打ち上げの席で学生たちが独白する場面は不意に訪れる感動的なシーンだ)。ジョンイムは織機で繊細なパターンの織物を作る新進の芸術家であり、そのことがこの作品の主題の一つである演劇の考察と共に、作品にもう一つのレイヤーを与えている。ロカルノ映画祭のコンペティション部門で上映され、主演のキム・ミニが最優秀演技賞を受賞した。

『ブルー・サン・パレス』★

 (原題:Blue Sun Palace(藍色太陽宮)、2024、アメリカ、111分)

 監督:コンスタンス・ツァン(Constance TSANG)

 ニューヨークのクイーンズの中国式マッサージ店に住み込みで働くエイミーとディディ。彼女たちはディディの幼い娘が叔母と暮らしているボルチモアで一緒にレストランを開くことを夢見ながら、強固な姉妹的関係を築いている。一方、ディディは建設作業員として働きながら台湾の家族に送金している中年男性のチュンと付き合い始めており、彼と一緒に暮らすことも望むようになる。しかし、予期せぬ暴力行為が旧正月に彼らの生活に侵入すると、彼らの夢は脆くも崩れ去り、痛ましい不在が残される……。
 本作が初長編監督作となるコンスタンス・ツァン監督は、撮影監督ノーム・リーの力を借りて、この長引く悲しみをざらついた質感と陰鬱な映像で美しく表現する。沈黙が何よりも雄弁に物語を語り、移民であることの孤独、そしてかつて故郷と呼んでいた場所から遠く離れた時に家族やコミュニティのような存在がどれだけの意味を持つかを静かに訴えかけている。カンヌ映画祭の批評家週間で上映され、フレンチ・タッチ賞を受賞した。

『愛の名の下に』

Screenshot

 (原題:Mistress Dispeller(以愛之名)、2024、中国・アメリカ、94分)

 監督:エリザベス・ロー(Elizabeth LO)

 このドキュメンタリー作品では、プロの別れさせ屋の介在を通して、ある中年夫婦と若い女性の三角関係があらゆる角度から精査される。この「愛人払い」ビジネスは、夫婦カウンセリングの一種のバリエーションであり、妻が夫を不倫関係から引き離すために密かに恋愛の第一人者を雇って潜入させるというものだ。本作が三角関係の3つの角のすべてに驚くほど接近できているのは、この作品の主要登場人物である愛人払いのWang Zhenxi、通称ワン先生の手腕によるところだという。自分の顧客をカメラの前に立たせることができた愛人払いは彼女だけで、プレス資料によれば、残りの角の2つ、つまり夫とその不倫相手の若い女性に関しては、制作チームは当初は現代中国の愛についてのドキュメンタリーを作るという名目で彼らにアプローチしたとのことだ(撮影後に、改めて全員がこの作品への出演に同意した模様)。『ストレイ犬が見た世界』で知られる香港系アメリカ人監督エリザベス・ローの長編2作目。ヴェネチア映画祭のオリゾンティ部門で上映され、アジア映画を対象としたNETPAC賞を受賞した。

『ポル・ポトとの会合』

© Dulac Distribution

 (原題:Meeting with Pol Pot(Rendez-vous avec Pol Pot)、2024、フランス・カンボジア・台湾・カタール・トルコ、112分)

 監督:リティ・パン(Rithy PANH)

 ジャーナリストのエリザベス・ベッカーが学者のマルコム・コールドウェルとジャーナリストのリチャード・ダッドマンと共に1978年にプノンペンを訪れた時の記録『When the War Was Over』を大まかに脚色したこの物語は、ポル・ポトとの独占インタビューを前に、人のジャーナリストたちが役人たちによる厳密な統制下で、政策の施行現場を巡る様子を追う。役人たちが信奉している現実の断片は、時折、表面に亀裂が生じ、彼ら3人は、革命の教義の下で彼らが犯している恐ろしい行為を垣間見ることができるが、肝心のポル・ポトとの会合の実施はずるずると先延ばしにされていく……。
 色褪せたアーカイブ映像や写真、そして部分的に土人形劇を劇映画に組み合わせることで、リティ・パンは事実に基づくこの架空の物語を長く記憶に残る誠実な作品に仕立て上げている。彼はそのキャリアの大部分を、故郷カンボジアのクメール・ルージュによる大量虐殺の時代を探求することに捧げてきたが、この作品はそうした作品群に重要な新たな側面を加えるものになるはずだ。カンヌ映画祭のカンヌ・プレミア部門で初上映された。

『無所住』

Photo by Claude Wang

 (原題:Abiding Nowhere(無所住)、2024、台湾・アメリカ、79分)

 監督:ツァイ・ミンリャン(TSAI Ming-Liang)

 マレーシア出身の台湾の巨匠ツァイ・ミンリャンの演出、リー・カンションの主演による「行者(Walker)」シリーズの第10作目。9作目の『何処』に続き、Anong Houngheangsyも出演している。スミソニアン国立アジア美術館の委託を受けて制作された作品で、同美術館のあるワシントンDCの街やフリーア美術館を舞台に、有名な文学作品『西遊記』の着想源となった7世紀の仏僧玄奘(Xuanzang)の中国からインドへと至る巡礼の旅からインスパイアされた、非常にゆっくりとした修行僧の歩みが捉えられている。ベルリン映画祭のベルリナーレ・スペシャル部門で世界初上映された。

『何処』

Photo by Claude Wang

 (原題:Where(何處)、2022、台湾、91分)

 監督:ツァイ・ミンリャン(TSAI Ming-Liang)

 2022年11月から2023年1月にかけてパリのポンピドゥー・センターにて開催されたツァイ・ミンリャン監督の全面的なレトロスペクティブと展覧会「Une Quête」に合わせて制作された「行者(Walker)」シリーズの第9作。『日子』(2020)に出演していたAnong Houngheuangsyが行者役のリー・カンションと共に主演しており、パリの賑やかな街で行者と出会う自分自身を演じている。本作のプロデューサーによれば、ツァイ監督は「行者」10作目の『無居住(Abiding Nowhere)』と本作を姉妹作のように考えており、どちらかというと本作のほうが順番的には後に来るのだという。ポンピドゥー・センターの大きな空間の床に置かれた非常に大きな白いキャンバスのような布にAnong Houngheuangsyが木炭のようなもので何本もの線を描き、その脇を行者が非常にゆっくりと歩いていく。その動きの極度なスローさにも関わらず、両者の邂逅はとてもスリリングだ。

『未完成の映画』

© Yingfilms Pte. Ltd.,

 (原題:An Unfinished Film(一部未完成的電影)、2024、シンガポール・ドイツ、107分)

 監督:ロウ・イエ(LOU Ye)

 2019年、物語は10年間電源が入っていなかったコンピューターが起動される場面から始まる。そこには放置された未完の映画が入っており、その映画の監督は主演俳優を呼び出し、制作の再始動を提案する。様々な理由で躊躇していたものの、2020年1月の春節を目前に撮影準備が始まると、主演俳優はクルーに合流している。彼らはすぐに制作に取りかかるが、程なくしてコロナ禍対策のためのロックダウンのニュースが広まり始め、何人かのキャストは荷物をまとめて去っていく。そしてすぐにホテル全体が強制的に封鎖され、主演俳優とクルーは各部屋に閉じ込められてしまう……。
 本作は、未完に終わったクィア映画を完成させるために再集結した映画制作チームを描いたドキュフィクション作品。映画制作の過程とパンデミックを生き抜く過程が、感染拡大で制作が中断し、全員がホテルで隔離されるという場面で結び付けられる。そこからフィクションと現実の境界が更に曖昧になっていくが、それでも溢れ出る真摯さや真実味こそがこの作品の真骨頂だろう。カンヌ映画祭にて特別上映作品として上映された。

『スホ』

 (原題:Sujo、2024、メキシコ・アメリカ・フランス、125分)

 監督:アストリッド・ロンデロ&フェルナンダ・バラデス(Astrid RONDERO & Fernanda VALADEZ)

 麻薬取引の温床であるミチョアカン州の田舎で、シカリオ(殺し屋)の父のもとに生まれたスホは4歳で孤児になる。人里離れた丘の上に住む叔母ネメシアは、カルテルの掟によって命を狙われることになった幼いスホを匿い、彼女と姉妹的な関係にある友人ロザリアと、その2人の息子だけを伴って彼は育てられる。成長するにつれ、彼は親から引き継いだ血まみれの遺産について知るようになるが……。
 本作は暴力の連鎖の中で、一人の少年が忍耐強く自分の道を見つけようとするまでを描く成長物語。直接的な暴力は画面にはほとんど映らないものの、私たち観客はそれが差し迫った避けられない前兆のように常に潜んでいるのを強く感じるだろう。リアリズムと抒情性を効果的に融合させながら、カルテルの暗躍を背景にした暴力と世代間のトラウマが巧みな脚本によって描かれている。アストリッド・ロンデロとフェルナンダ・ヴァラデスの映画作家デュオによる『息子の面影』(2020)に続く長編作品。前作に続き、本作もサンダンス映画祭で上映され、見事審査員特別賞を受賞した。

『地獄に落ちた者たち』

 (原題:The Damned、2024、イタリア・ベルギー・アメリカ・カナダ、89分)

 監督:ロベルト・ミネルヴィーニ(Roberto MINERVINI)

 1862年、北軍の志願兵部隊が北西部の辺境を偵察する任務を与えられる。彼らは、若者、年配者、神を恐れる者、神を恐れない者など、あらゆる階層の多様な集団だった。彼らの多くに共通しているのは、銃を撃った経験が殆どなく、ましてや人を殺したことなどないということだ。ただ、彼らが長い間本当に戦わなければならない敵は、退屈であり、北西部の厳しい気候だった。彼らは神の存在に疑問を抱き、善と悪の概念について議論し、高まる幻滅感を理解しようとするが……。
 これまで20年以上に渡ってアメリカの見過ごされてきた辺境を描き続けてきたイタリア出身の映画監督ロベルト・ミネルヴィーニが、同国の南北戦争に目を向けた最新作。アメリカという国のアイデンティティを形作ってきた信仰、夢や希望、階級、そしてコミュニティといった要素が、これまでのミネルヴィーニの作品と同様に、この時代劇でも少し形を変えて探求されている。カンヌ映画祭のある視点部門で初上映され、同部門で監督賞を受賞した。

『ザ・ゲスイドウズ』

Ⓒ2024「ザ・ゲスイドウズ」製作委員会

 (英題:The GESUIDOUZ、2024、日本、93分)

 監督:宇賀那健一(UGANA Kenichi)
 配給:ライツキューブ

 鳴かず飛ばずのバンド「ザ・ゲスイドウズ」でボーカルを務める26歳になったばかりのハナコ。一向に売れる気配のない彼らの体たらくを見かねた彼らのマネージャーは、厄介払いを兼ねて、移住支援制度を活用して彼らを田舎へと送り込もうとする。27歳で早逝したロック・レジェンド達に自らを重ねつつ、ハナコは27歳で死ぬこととグラストンベリー・フェスティバルへの出演を自らに誓い、新しい環境で新しい曲を書こうとするが……。
 パンク音楽とホラー映画にオマージュを捧げる本作は、アキ・カウリスマキ監督の「レニングラード・カウボーイズ」シリーズを彷彿とさせる、とぼけた物語展開が魅力のファンタスティック・ロック・ムービー。だが、この作品が私たち観客の心を最終的に震わせるのだとすれば、それはジャンルを問わず、あらゆるポップ・カルチャーの持つある種の本質をこの作品が正確に突いているからだろう。大衆文化における「しょうもないもの」に人生を変えられた経験を持つすべての人に観てもらいたい作品だ。トロント国際映画祭のミッドナイト・マッドネス部門でワールドプレミア上映された。

【メイド・イン・ジャパン】(全4作品)

 世界に向けて日本映画の多様な新作を4作品ご紹介。

『ユリシーズ』★

Ⓒikoi films

 (英題:Ulysses、2024、日本・スペイン、73分)

 監督:宇和川輝(UWAGAWA Hikaru)

 この映画は3部に分かれている。第1部では、マドリードで8歳の息子と2人きりで暮らすロシア人の母親に私たちは出会う。続く第2部では、一人の日本人男性がバスク人の若い女性と知り合う。2人は共に時間を過ごし、彼女は彼を友人たちに紹介する。そして第3部では、舞台は日本に移され、若い男性がお盆の時期に実家に帰省し、亡くなった祖父の霊を迎えるための準備を祖母と共に進めていく……。
 本作は、そのタイトルが示す通り、ジェームズ・ジョイスの『ユリシーズ』の形式的なアイデアを取り入れた作品で、更には『ユリシーズ』が大きく依拠しているホメロスの『オデュッセイア』を大まかに翻案したものだという。ただ、無論ここではギリシャの英雄の困難な帰郷の旅がそのまま語られているわけではない。むしろここでは「家」や「帰属」といった概念を巡って各々の物語が展開されており、世界の様々な場所での日常生活の断片が曖昧さを残したまま控えめな筆致で描かれている。本作はマルセイユ国際映画祭で初上映され、続いてサン・セバスチャン映画祭でも上映された。

『雪解けのあと(仮)』★

 (原題:After the Snowmelt(雪水消融的季節)、2024、台湾・日本、110分)

 監督:ルオ・イーシャン(LO Yi-Shan)
 配給:ドキュメンタリー・ドリームセンター

 本作は、ルオ・イーシャン監督の親友チュンが、2017年に恋人のユエとネパールでのトレッキング中に亡くなったことに端を発している。チュンとユエは降雪のために47日間山中の洞窟に閉じ込められたが、チュンは救出の3日前に亡くなり、ユエだけが生き残る。台湾に戻ったユエはチュンと交わした約束を、元々このネパール旅行に加わる予定だったルオに打ち明ける。生き残った者は自分の体験を語らなければならないという約束だ。その言葉に応えるため、ルオはカメラを手に取りネパールへ向かい、チュンの足跡を辿る旅に出る……。
 この作品は一人の若者が初めて経験する深い喪失と格闘し、その意味を探求する過程を辿るドキュメンタリーであり、同時に成長物語でもある。あくまでも主観に徹した一人称の作品だが、映像のフレーミングやその選択、そして編集のリズムにも非凡なセンスを感じさせる。親友が亡くなる前に残した手紙の使い方も効果的で、死者と生存者の間の複雑な関係を親密に浮かび上がらせていく。ニヨンの国際映画祭「ヴィジョン・デュ・レール」でワールドプレミア上映された。山形県の豪雪地で作品の構成・編集を再考するレジデンシーに参加した「メイド・イン・ジャパン」である。

『椰子の高さ』★

 (英題:The Height of the Coconut Trees、2024、日本、100分)

 監督:ドゥ・ジエ(DU Jie)

 物語は2組のカップルを中心に展開する。一人の青年は写真家の恋人を自殺で亡くしてしまうが、彼女との生前と死後のエピソードが、時間軸をずらす形で物語に織り込まれていく。もう一つの中心になるのがペット関係の店で働く女性と日本料理店で働く男性の関係を描いた物語で、料理中の魚の内臓の中に指輪を偶然見つけたことをきっかけに二人は結婚を計画するが、ハネムーンの直前に彼らの関係は破局を迎える……。
 本作はチェン・スーチェン、グァン・フー、ニン・ハオといった名だたる監督たちの下で20本以上の映画を撮影してきたベテラン撮影監督のドゥ・ジエの長編監督デビュー作で、脚本、撮影、編集、美術もドゥ自身が担っている。20年初頭にコロナ禍が始まった際に日本で家族と休暇を過ごしていたドゥはそのまま短編小説を日本で書き始め、そのうちの一つを映画化したのが本作だという。東京で大部分が撮影されたチェン・スーチェン監督作『唐人街探偵東京MISSION』(2021)の主要な制作スタッフの多くが今作にも関わっている。釜山国際映画祭のニューカレンツ部門で初上映された。

『DIAMONDS IN THE SAND』★

 (英題:DIAMONDS IN THE SAND、2024、日本・マレーシア・フィリピン、102分)

 監督:ジャヌス・ビクトリア(Janus VICTORIA)

 離婚して東京で一人暮らしをしているサラリーマンのヨージ。彼のことを心配してくれる母親もついに他界してしまう。意味のある人間関係はほとんど残っていないため、生きる意味がないという現実に彼は直面する。娘を養うために日本で介護士として働くミネルバとの偶然の出会いは、ヨージに自分の状況を新たな視点で見るように促す。そんな中、名前も知らない隣人の老人の腐乱死体が発見され、その死は孤独死と判定される。同じ運命を辿りたくないヨージは、用心深さを捨て、ミネルバを追ってフィリピンの首都マニラに向かうが……。
 孤独死という日本の現象を探求することから始まった本作は、2013年のタレンツ・トーキョー(当時はタレント・キャンパス・トーキョー)の受賞企画であり、監督兼脚本家のジャヌス・ヴィクトリアにとっては初の長編作品となる。どんな作品でも必ず光る演技を見せるリリー・フランキーがここでも抜群の存在感を発揮しており、ベテラン撮影監督の芦澤明子による、日本とフィリピンの空気感をそれぞれに映し出す映像も魅力的だ。

チケット情報

 11月2日(土) 12:00 pmより発売! 今年もおトクなU-25割あり!
 会場/丸の内TOEI SCR1

【丸の内TOEI 劇場HPで購入】
 ● 劇場HP:https://toeitheaters.com/theaters/marunouchi/(外部サイト)
 ● 座席選択可能。購入・発券手数料は0円です。
 ● 特別興行のため、各種割引およびご招待券などはご利用いただけません。
 ● 車椅子でご来場の方は(車椅子スペースでの鑑賞をご希望の場合でも)1席分のチケットをご購入いただいた上で、劇場までご連絡ください(https://toeitheaters.com/theaters/marunouchi/access/、外部サイト)。なお、車椅子スペースには限りがございますので、状況によりお席への移動などをお願いする場合がございます。

 会場/ヒューマントラストシネマ有楽町 シアター1(有楽町イトシア・イトシアプラザ4階)

【ヒューマントラストシネマ有楽町HPで購入】座席選択可能です。

 ● 劇場HP:https://ttcg.jp/human_yurakucho/(外部サイト)
 ● 座席選択可能。購入・発券手数料は0円です。(QRコード提示で入場可能)
 ● 特別興行のため、TCGメンバーズカード、各種割引およびご招待券などはご利用いただけません。
 ● 東京都では18歳未満の方は23時を過ぎる上映回には保護者同伴であってもご入場いただけません。

■チケット購入に際しての注意事項
 ● チケット取り扱いは会場ごとに異なります。
 ● 平成11年1月1日以降生まれの方を対象としたU-25割チケットがございます。当日会場にて年齢確認をさせていただく場合がありますので、年齢を証明できるものをお持ちください。
 ● 完売した上映回であっても、状況により追加販売を行う可能性がございます。
 ● チケットの払戻、交換、再発行はいたしません。また、当日にチケットをお持ちでない方は入場できません。チケット・最新情報詳細は映画祭公式サイトにてご確認ください。
 ● 障がい者手帳をお持ちの方はU-25割が適用されます。(付き添い1名様まで同料金でご購入いただけます。ご入場の際に、障がい者手帳をチケットと一緒にご提示ください。)

「第25回東京フィルメックス」開催概要

 名称:第25回 東京フィルメックス / TOKYO FILMeX 2024
 会期:11月23日(土)~12月1日(日)
 会場:丸の内TOEI、ヒューマントラストシネマ有楽町

 上映プログラム:東京フィルメックス・コンペティション、特別招待作品、メイド・イン・ジャパン、プレイベント
 公式HP:https://filmex.jp/(外部サイト)

(オフィシャル素材提供)

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