登壇者:池松壮亮、平野啓一郎(原作)
日本映画界屈指の鬼才・石井裕也監督(『月』、『舟を編む』)の最新作『本心』が11月8日(金)に全国公開。原作は、「ある男」で知られる平野啓一郎の傑作長編小説「本心」。キャストには、池松壮亮、三吉彩花、水上恒司、仲野太賀、田中 泯、綾野 剛、妻夫木聡、田中裕子らが集結。本作は、“リアル”と“リアルではないもの”の境界が今よりもさらに曖昧になった世界を舞台に、亡くなった母の“本心”を知るためAIで彼女を蘇らせることを選択する青年・石川朔也と、彼を取り巻く人間の【心】と【本質】に迫る革新的なヒューマン・ミステリー。
この度、今年のカンヌ国際映画祭で話題をさらった『ぼくのお日さま』や『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』ほか、近年さらに活動領域を拡張している池松壮亮と、1999年に「日蝕」で第120回芥川賞を受賞し、近年は「マチネの終わりに」「ある男」等を発表、そして2021年に渾身の傑作長編小説「本心」を世に送り出した小説家・平野啓一郎登壇のスペシャル対談イベントが行われた。
書店員を中心に招待し行われた試写会後に登壇した池松と平野。池松は原作について、「コロナは描かれていないけれど、すでにアフター・コロナが描かれていた。そこに衝撃を受けました。今あるさまざまな社会問題が拡張した世界を彷徨いながらも他者に自分を見出して、揺らぎながら生きる実感を手放さない朔也に魅了されました」と魅力を語り、一方、平野は原作誕生の背景について、「自分が高齢者になる時代を考えた時に、自分はいつまで生きられるのだろうかと思いながら生きるのは嫌だと思った。生きることを肯定的に捉えられる社会がいいと思って、子どもたち世代が社会の中心になる時代を考えた。それが未来を舞台にした理由で、当初はAIと人間の共存を肯定的に描こうとしたが、やはりAIと人間は同じではないので、最初の構想とは違う物語になった」と熱を込めて振り返った。
2019年に新聞で連載されていた当時、原作「本心」は2040年代を舞台にした“未来の物語”として描かれていた。しかし、現実では想像を超える速度でテクノロジーが発展。映画の舞台設定も合わせて「今から地続きの少し先の将来(物語の始まりは2025年)」へと前倒すことに。原作を読み、“今やるべき作品”“これは自分の話だ”と感じ、石井裕也監督に自ら企画を持ち込み、原作権獲得に向けて平野に直談判をしたという池松。「俳優が出すぎた真似かなと思いつつ、映画化の一つの説得材料になればいいかなと思ったし、単純にファンだったので平野さんに会いたいという気持ちもあった」と笑いつつ、「自分の気持ちを伝えたかった」と強い想いがあったと振り返る。
これに平野は「俳優の方が映画化したいとわざわざ会いに来てくれるのは珍しく、池松さんの映画に対して持つ真面目な考えと映画化を実行しようとする意欲に心打たれた。池松さんの映画に対する真摯な態度と、ピュアな心を持つ『本心』の主人公・朔也はどこか響き合うものがある気がした」と快諾した理由を明かした。
映像化について平野は、「原作は情報量が多いので、ストーリーをなぞるような映画化をしてしまうとダイジェスト版になってしまう。一度解体して映画的に石井監督のイメージも含めて再構築しないと無理だと思った。ただ提出される脚本の第一稿から面白かったし、それは映画化に際していい兆候だとも思った」と納得の表情。完成した作品については「僕がイメージしきれなかった映像表現もあって、役者の皆さんが血肉を通わせ一つの物語にしてくれた」と太鼓判を押した。
また平野は池松について「映像でヴァーチャルな存在と生身の存在の区別がつくのか不安だったけれど、池松さんが汗をかいて生々しい肉体で演じてくれたことで、(AIに集約させ仮想空間で人格を形成する)ヴァーチャル・フィギュアの母親との対比が色濃く表れたと思う。池松さんのお陰で肉体を持った存在としての人間が映画として強調されたのが素晴らしかった」と賞嘆。
池松は、朔也の母との別れのシーンの撮影に触れ、「平野さんが現場に遊びに来てくれて、なぜここで来るのだろうかと……(笑)。緊張している中で平野さんに見られるんだと思いながら……」と苦笑いをしつつも、「僕自身15歳の頃に亡くなった大好きだったおじいちゃんと頭の中でいまだに何度も再会している中で、テクノロジーが死者との境界線を曖昧にしている怖さと再会できる喜びという複雑な感情がありました」と撮影時の心境を明かしていた。
観客とのQ&Aではラストの解釈に関する質問が。これに池松は「結構聞かれるシーンではありますが……どう見てもらってもいいような余韻が残るラストになりました。解釈は見ていただいた方々にお任せしたいと思います」と語るに留めた。
最後に平野は「多くの方々に楽しんでいただきたいですし、今日映画を観た書店員さんには池松さんほどの役者がこんなに感動した原作だ、ということを声を大にして伝えていただき、より多くの方々に原作本を手に取ってもらえれば」とユーモアを交えつつも丁寧に言葉を紡ぐ。主演の池松も「原作の平野先生と対談ができたので、これ以上緊張することはもうないと思うので後は初日を迎えるだけです」と笑顔を見せて「平野さんは今日まで映画というものを尊重して寄り添ってくれていました。適切な距離感を保ってくれて応援してくれたことが後押しにもなりました。たくさんの同時代を生きる人たちとこの物語を映画として共有できたらと思います。僕が感動した原作も映画と合わせて楽しんでいただければ幸いです」と呼び掛けていた。
AIや仮想空間、日々著しく進化するテクノロジーが世界中を席巻し、生活様式が目まぐるしく変貌している今。時代に翻弄され彷徨う人間の【心】と【本質】を描いた革新的なヒューマン・ミステリー『本心』をぜひ劇場で見届けてほしい。
公開表記
製作幹事・配給:ハピネットファントム・スタジオ
11月8日(金)より全国ロードショー
(オフィシャル素材提供)