登壇者:奥平大兼、しんのすけ(映画感想TikToker)
第97回米国アカデミー賞®国際長編映画賞の日本代表作品の映画『Cloud クラウド』が全国公開中。本作は、ネット社会に拡がる見えない悪意と隣り合わせの“いま”ここにある恐さを描くサスペンス・スリラー。転売で稼ぐ主人公・吉井良介を菅田将暉、吉井の謎多き恋人・秋子役を古川琴音、吉井に雇われたバイト青年・佐野役を奥平大兼、ネットカフェで生活する男・三宅役を岡山天音、吉井が働く工場の社長・滝本役を荒川良々、そして吉井を転売業に誘う先輩・村岡役を窪田正孝が演じている。
この度、「奥平大兼がメフィスト的なキャラクターを完璧に演じている」「佐野は一体何者?」「佐野が謎すぎる」など、SNSで話題になっている、菅田将暉演じる吉井にバイトとして雇われる謎のアシスタント“佐野”を演じた奥平大兼が、聞き手に映画感想TikTokerしんのすけを迎えて深堀するトークイベントを開催!
奥平が演じる「佐野」は、菅田将暉が演じる転売屋の吉井に雇われたアルバイトの青年。劇中でそれ以上の詳しい説明はされないが、本作が公開されるや、佐野の謎めいた佇まいや言動に関して「佐野くん一体何者?」「佐野の正体が謎過ぎる」「奥平大兼が黒沢 清の世界観のメフィスト的なキャラクターを完璧に演じている」などと話題に。そんな声に応えるため、佐野を演じた奥平本人と共に佐野について考察するというイベントが開催! 発売開始後わずか10分で完売した本イベントに奥平が姿を見せると、映画を観終えたばかりの観客が熱烈な拍手で迎えた。
本作に参加するにあたって、俳優陣には助監督が作成した各登場人物の裏設定が書かれた資料が配布されたという。通常、黒沢監督はこうした資料をつくることはなく、今回の資料に関しても「読むかどうかは役者に委ねる」というスタンスの上で、作成・配布にOKを出したそうだが、奥平は黒沢監督から「できるだけ読まないで」と直接言われたと振り返る。
「佐野は謎だらけの役で『何を基準に演じればいいんだろう?』という疑問が台本を最初に読んだ時からずっとありました。黒沢さんに初めてお会いする時は、役柄についてたくさん聞こうと思っていたんですけど『設定資料はできるだけ読まないで』と言われて、鳥肌が止まらなかったです(笑)。僕は出演陣の中でも一番若手で『頑張らなきゃ!』という気持ちもある中、不安しかなかったです」と当時の心境を明かすも、現場で奥平から役柄について黒沢監督に細かく質問をすることもなかったという。「今回の黒沢監督の演出は、いままで全然違って、すごく楽しかったんです。黒沢監督に現場で何を言われるのか、楽しみに待っていたところがあって、確かに現場でこちらから役について質問したことはなかったかもしれません」と、役者から愛される黒沢 清監督の演出について話した。
黒沢監督から「菅田将暉を超えてください」と“指示”されたというシーンについても言及。佐野が菅田演じる吉井のパソコンを勝手に触ったことが露見するというシーンで、長回しで撮影されたが、奥平は「前日に黒沢さんから『菅田将暉を超えてください』と……。芝居を始めてまだ4年目の人間が、世界の黒沢清監督に言われる――あれは一生忘れないと思います……。ビビり散らかしていましたね(苦笑)」と述懐する。
黒沢監督が、そのように言った理由について、奥平は「あの辺りから、佐野の存在がより謎になくなってくるんですよね。最初はただのバイトだったのに『なんだこいつ?』いう感じが、際立っていくんです」と佐野の謎がどんどん深まっていく重要なシーンだったからではないかと考察する。そして、海外の映画祭でもどっと笑いが起きていたという、吉井と佐野のやりとりで、佐野が「アシスタントですから」と回答するセリフについて「あの回答自体が、聞かれた質問の答えにはなってないんですよね(笑)。でも、佐野は真面目に言っているんです。そこに不気味さがあるし、『何考えてるんだ?』というのが引き立てられるセリフだと思います」と語る。
そして、この日の観客に対し奥平は、本作を見て「怖さ」と「笑い」のどちらを強く感じたかを質問。客席は「怖い」と感じたという人が多数を占めつつ、「笑い」を感じたという観客も一定数見られた。奥平は「この結果がすごいなと思います。なんで全く違うこの要素で、こんなふうに二分化されるのか? そこがこの映画の面白さでもあると思います」と黒沢監督がつくりだした独特の奇妙な世界観、鑑賞後感に言及していた。
ちなみに、黒沢監督は海外メディアからの取材に対し、佐野について「悪魔(メフィスト)のような存在だと思ってもらっていい」と言明している。奥平はそのことについて「(現場で黒沢監督から)直接、そう言われたかは覚えてない」と語りつつも「でも、演出や台本、物語の進行を見ていて、悪魔的な立ち位置というか、吉井を、(地獄の)渦の中に連れこもうとしている節があるのは感じていました。でも(吉井の)味方でもあって……」と回答、演じる上で“悪魔”ということを意識したかを尋ねられると「全くなかったです。もちろん、佐野がどう見られるかは大事なんですけど、正直なところそれどころじゃなかったです。佐野が何をしたいのか? 吉井をどのように導くのか――? 佐野としての目的しか考えてなかったですし、黒沢監督の演出もあって、それが結果的に悪魔の象徴のような役になったのかなと思います」とふり返った。
また劇中の松重 豊と奥平の共演シーンに関しても、先述の菅田とのシーンと同様に黒沢監督から奥平に「松重 豊と対等の存在感を出すように」という“圧”(!)が掛けられたというエピソードも。奥平は「どうしたら松重さんの貫禄に抗えるんだろう?とすごく考えましたが、リラックスして『3日に一度くらい、こういうことってあるよな』という感覚でなんとか乗りきました」と独特の対処法を明かした。
銃撃シーンも非常に印象的な本作。黒沢監督は、あえて銃撃戦を「カッコよく描かないよう」に腐心しており、奥平も「カッコつけないでください」と言われたという。その一方で、佐野はノールックで相手を撃つなど、銃の扱いにも慣れた様子を見せなくてはならなかったと苦労を語り、「スマートに銃が扱えるようにということで、とりあえず手に慣れたほうがいいなと思い、家の中でずっと持っていました。本当は、外でも隠して持っていたかったんですけど、さすがにそれは良くないなと(笑)。家の中だけでずっと持っていて、おかげで、片手でいろんな動きができるようになりました。ライフルも弾を押し出す動作があって、それはかなり練習して自信もありましたし黒沢監督からも『うまくできていましたよ』と言ってもらいました」と笑顔で報告した。
銃の扱いや描き方に関して、こだわりが強いことで知られる黒沢監督。奥平はそんな黒沢監督の気質や好みをよく知る現場の制作スタッフから「現場でコソコソっと『ちょっと(銃を)斜めに持ったら、黒沢監督が喜ぶと思うよ』と教えていただきました。完成した映像を見て、何気ないけれど良く映っていることが確認できて嬉しかったです」と満足そうに語る場面も。
ちなみに、佐野のセリフやシーンを尋ねられた奥平は、クライマックス・シーンでの佐野の「吉井さん、凄いですね!」を挙げ「佐野史上一番嬉しかったんじゃないかってくらい、嬉しそうに演じました」と語り、その後、佐野や吉井が繰り広げる会話についても「こういった極限状況では、人間ってこうなるのかもしれないと考えさせられました」と語った。
そしてトークイベントの最後に奥平は「僕自身、佐野のバックグランドについて知らないまま演じましたが、映画的な役割や目の前の目的にフォーカスをあてることで、役ってこんなに面白くなるんだと教えてもらったのがこの映画でした。佐野以外にも、荒川良々さんが演じた役とかめちゃくちゃ面白かったし、細部まで魅力的で、面白さを見出せるところがたくさんある映画だと思います。何年か後、10年後でもいいですし、2回、3回、4回と何回も見ていただけると嬉しいです」と本作への思いを熱く語り、会場は温かい拍手に包まれた。
映画『Cloud クラウド』は絶賛公開中!
公開表記
配給:東京テアトル 日活
TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中
(オフィシャル素材提供)