登壇者:宇垣美里(俳優)、藤津亮太(アニメ評論家、東京国際映画祭アニメーション部門プログラミング・アドバイザー)
ドリームワークスの創立30周年記念作品『野生の島のロズ』が11月4日(月・祝)、開催中の第37回東京国際映画祭のアニメーション部門において上映され、俳優の宇垣美里とアニメ評論家で本映画祭のプログラミング・アドバイザーを務める藤津亮太によるトークセッションが行われた。
ひと足先に映画を鑑賞した宇垣は「最初にまず驚いたのが、ロズが島の全容を初めて見るファーストカットで、この島がどういう島なのかが説明されていきますが、その自然の奥行き――全てがあまりにも美しく、あまりに広くて……。アメリカや海外のアニメーションの自然の描き方は、日本のものとちょっと違う印象があったのですが、ある意味で、私が見て育ってきた、日本の作品、スタジオジブリの作品の森や自然の表現と似通っているものを感じました。奥行きがあって、印象派の絵画のような、夢のような美しさがあって、全てのシーンをポストカードにしてくれ!と思いながら観ていました」とその印象を語る。
宇垣の言葉に、藤津は「今回の美術スタッフは背景を3Dでつくっているけど、印象派のモネ、ディズニー映画の『バンビ』、スタジオジブリの『となりのトトロ』の自然の描き方などをリファレンス(参照)にして描いたと言っているので、いまおっしゃった印象は正しいと思います」と語る。
さらに宇垣は「ロズを観た時に、『天空の城ラピュタ』を思い出しました。そういう意味で、なるべくして好きになった作品だなと思いました」と語り、<最新型アシスト・ロボット>のロズについて「最初はまず造形のかわいらしさを感じ、動物の動きを模写する、その動きの見事さにも魅了されましたが、後半は彼女の変化――プログラミングされていた『こうあるべき』というものを超えていく姿に共感しましたし、すごく大好きになっていきました」とその魅力を熱く語る。
ちなみに、本作には47種類もの動物が登場するが、お気に入りの動物を尋ねると、宇垣は「動物が大好きなので、全てがあまりにかわいらしくてキュンキュンしっぱなしだったんですが、特に好きだったのがキツネのチャッカリです。私がああいう悪ぶったキャラクターがそもそも好きというのがあるんですけど(笑)、そんな彼が、ふとした時に見せる弱さや本当に思っていること、鼻で笑っていた家族というものに自分が入っていき『守りたい』と思うようになる姿がたまらなくて……。同じドリームワークスの『長ぐつをはいたネコ』や『バッドガイズ』と重なり、好きなキャラをまた出してきて……とすっかり虜でした」と目を輝かせる。
宇垣は以前からドリームワークスの作品が大好きとのことで「アニメーションですけど、大人の目線でも子どもの目線でも楽しめる、層の厚い作品のイメージがあります」とその魅力を語ると、藤津も「今年で創立30周年ですが、最初の頃は、『シュレック』などのパロディ感とか、(対象の)年齢が高めだったんですが、『カンフー・パンダ』などのヒットを経て、大人の目線と子どもの目線が両立できる作品が増えてきたなというのが僕の印象です」とうなずく。
また、本作の中で特に胸を打たれたシーンや印象的なセリフとして、宇垣は「最初の海の描写、ロズが魚眼のように世界を見るシーンも大好きですし、ガンたちが一斉に飛び立つシーンは、感情移入もして寂しさと共に、あの壮大さにはハッと息を呑むものがありました。そして『ママ』というセリフにこんなに泣かされるとは思いませんでした!」と語る。ちなみに宇垣が指摘したガンのシーンは、映画の中に実に2万8千羽のガンが描かれているという。
こうした映像の美しさはもちろんだが、物語そのものの展開も観る者の心を震わせる本作。宇垣は「ここで終わると思いきや、さらに、さらに……と、どんどん展開していくんですね。話としては、最初の巣立ちまでで十分に作れるはずなんですけど、しっかりした展開があるので、飽きる暇がないですよね。私が好きだったのは、ノアの箱舟のようにみんなで冬を過ごすシーン。捕食者と逃げる側が本能を越えて『一緒に生きることはできるはずだよ』というメッセージを感じて、あのシーンのピースフルな雰囲気はすごく好きでした」と明かした。
このシーンを踏まえて、宇垣は本作が描き出すメッセージ、テーマについて「クマとキツネとネズミが一緒に暮らすことはできないし、それは夢ですけど、それを超えてできることだってあるかもしれないじゃない? それは人間だったらできるかもしれない。本能なのか伝統なのか文化なのか……それを超えて一緒に生きることはできるはずというメッセージを感じました。あとは“成長とそれを見守るもの”というテーマ。私はまだ親じゃないですが、親の目線で見るとグッとくるものもあるでしょうし、私は巣立った娘として、非常に心揺さぶられるシーンがありました。そういう意味で、『見送る』そして『旅立つ』というメッセージも感じました」と力強く語った。
トークの最後に宇垣は改めて「やっぱり、まずはアニメーションの素晴らしさ! そこはおそらく今後のアカデミー賞®などにも関わる重要なポイントになってくると思いますので、見逃し厳禁です」と語り、さらに「お友達か、家族か、お子さんか、親御さんと行くのか……? “誰”と観るかで感想が違ってくる作品だと思います。何度も観て、違う視点で楽しむこともできる作品なので、一緒に行った方と『どこが良かった?』、『どこに感情移入した?』と話すのも含めて、素晴らしい経験となる作品をぜひ楽しんでいただければと思います」と呼びかけ、トークセッションは幕を閉じた。
公開表記
配給:東宝東和、ギャガ
2025年2月7日(金) TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー
(オフィシャル素材提供)