イベント・舞台挨拶

『ドゥーム・ジェネレーション デジタルリマスター版』トークイベント

©1995 UGC and the teen angst movie company

 登壇者:イシヅカユウ(モデル/俳優)、ブルボンヌ(女装パフォーマー/ライター)

 鬼才グレッグ・アラキ監督の衝撃作、映画『ドゥーム・ジェネレーション デジタルリマスター版』の公開を記念して、11月9日(土)にトークイベントを開催。音楽への造詣も深く、ファッションモデルや俳優として活動するイシヅカユウと、女装パフォーマーでジェンダーや多様性に関する講演活動でも活躍するブルボンヌがゲストとして登壇、作品の魅力について熱く語った。

 上映直後の熱気溢れる客席から拍手で迎えられたイシヅカユウとブルボンヌ。映画『ドゥーム・ジェネレーション デジタルリマスター版』を観終わった観客に向けてブルボンヌは、「多分1割くらいの方は、90年代映画のお洒落な映画を観に来たつもりが、生首が飛ぶシーンから『あれ思ってたのと違った?』と思ったのではないかと」と会場の笑いを誘い、「でも、あれこそグレッグ・アラキ監督の魅力。若者たちの今どきを描く映画は多いですが、もっと突き抜けた意味のお洒落さを持っている。私の大好物な展開でした」とグレッグ・アラキ監督の手腕を大絶賛。それに続けて、「無茶苦茶で、今まで残虐さもありつつポップだったのが最後に背筋が凍るようなガチな部分も見せつけられる。そういうところも含めて、破壊的でありつつもものすごいメッセージが込められている。また私はリアルタイム世代なので、今再評価されているというのも感慨深い映画でした。好きです」と作品の魅力を熱く語った。

 今回初めて観たというイシヅカユウは「頭を横から殴られたような気持ちになりました」と衝撃を受けたと明かし、「私も最初はポスターを拝見し、“90年代”、“リバイバル”、“お洒落”といった気持ちで観たんですけど、先程も出てきた生首が飛ぶシーンから、ホラー好きの私が好きなやつかもと思って、観ていたら走り抜けちゃいました」と、90年代のスプラッター要素も楽しんだと話す。

「グザヴィエが聖なるものを帯びた存在として登場し、規範を超えた遊びを教えてしまう」ブルボンヌ

 印象に残ってるシーンについて、ブルボンヌは、「エロの数々のシーンが好きで。90年代っていろんな意味でそういうことも凄かった時代なんですよね。当時はクラブ・イベントなども突き抜けていたの。サブカルという言葉で、悪趣味なものも流行っていたし、いろいろなドギツイことをやれちゃう空気があったの。その中でもこの映画が見せてくれたものって強かったと思う」と当時のリアルを解説。

 本作は若いカップルのジョーダンとエイミー、そこに加わった流れ者グザヴィエによって三角関係が動き出すストーリー。その中でもブルボンヌは「グザヴィエがめちゃくちゃセクシー。本当に良かった」とコメントするとイシヅカユウも共感。「多分、彼は一瞬宗教的な看板を見て、思いつく感じでグザヴィエという名前を名乗っていた。グザヴィエって有名な宣教師フランシスコ・サビエル由来の名前なの。それで最初はグザヴィエを毛嫌いしているエイミーが、そそられるものを感じた時に関係を持ってしまうシーンも宗教的な描写がある。ある意味、彼は聖なるものを帯びた存在として登場し、規範を超えた遊びを教えていってしまう面がある」と“規範の外”という意味を持つクィア的な要素が隠されていると説明した。イシヅカユウも「エロのシーンは映像として生々しく描いていないのに、すごく生々しかった」のコメント。ブルボンヌは、「ゲイをカミングアウトしているグレッグ・アラキ監督は、それまでゲイ直球の映画を撮っていた。その中でプロデューサーさんから『異性愛映画を撮ったら制作予算をあげよう』という提案が本作のはじまりで、“異性愛映画”と前置きしているけど、どこが異性愛映画なんだっていうくらい、逸脱したものがプンプン匂ってきた」と、グレッグ・アラキ監督の「“史上最もクィアな異性愛映画”を作りたかった」という反骨精神がとても感じられたと語った。

「明日はどうなるか分からないじゃん!好きに生きてやる!というパンクな精神を感じた」イシヅカユウ

 エイミー、ジョーダン、グザヴィエの3人の逃避行中にサイコや変人が次々と遭遇するのも本作の見どころ。好きなキャラクターについて聞かれると、「ピチカートファイブが流れているシーンで登場する、カウンターの中に入っているお店の人がすごく好き。お洒落だった」とイシヅカユウが回答すると、「ドラァグクイーンすれすれみたいなビジュアルの人多かった。そして基本パンキッシュな音楽が流れている中で、いきなりピチカートファイブが流れるのも90年代のお洒落さを感じるシーンだった」とブルボンヌも個性豊かな登場人物と音楽について言及。話題は盛り上がり、普段モデルとして活動するイシヅカユウはファッションについて「ローズ・マッゴーワン演じるエイミーのファッションの中でも特に、古着屋さんで買ったと思われるビニールのコートにピンクを合わせたコーディネートが好きだった。そしてお洒落なんだけど、綺麗じゃないのがかっこいい」と語り、尖ったサングラスにもクィアさが滲み出てているとコメントした。またブルボンヌは「若者文化ってちょっと汚さがあって、その中で足掻く感じがある。90年代の若者の感覚なんだけど、この世代とも通ずるものがあるというのを改めて感じた」と現代との繋がりについても感じたという。

 イシヅカユウは「90年代を生きた私は世紀末感というのを、なんとなく肌で感じていて。ノストラダムスも話題になって、他にもホラーブームなどもあり、先が見えない感じが若者の中には常にある感じ。今思うとそんなに考える必要なかったじゃんということなんだけど、ティーンの時代からすると、明日はどうなるか分からないじゃん!好きに生きてやる!というパンクな精神を感じた」と話すと、ブルボンヌも「若さって本当に刹那的。今は懐かしいことと思い出して話すけど、エロいことで羽目を外しちゃう感じも、あの頃の勢いも今はもうできないと寂しくなる。危ないことも含めて、それは若さだし、30年前の生き生きとした世代の刹那的な暴走を見ると、切なくもなるし、掻き立てる感じもある」と若者の全てが詰め込まれた作品だと語った。

「冷や水を浴びせられるラストが待っているというのがこの映画の肝。今再評価される理由でもあると思う」ブルボンヌ

 ブルボンヌは「若さの暴走をポップやギャグで見せながらも、冷や水を浴びせられるラストが待っているというのがこの映画の肝だと思っていて。それまでに登場する敵はバカっぽくて、『007』シリーズに登場する敵など、いろいろな作品のオマージュが入ってる。また悪役たちが必ず不吉な数字666を出してくるのも、神と悪魔のメタファーにも見えてきて。性的なボーダーを超える3人のクライマックス、最後のボスが本当に恐ろしくヒヤッとした。今再評価される理由でもある」と恐ろしい衝撃なラスト・シーンと本作の持つ現代性について触れると、イシヅカユウも「グザヴィエが神的なものとして現れてきて、ラストのボスが神的なものを語る。どっちが神なんだ!というメッセージをバーンとぶつけられてきた感じだった。これからどうなっちゃうんだろう。先が見えない閉塞感というのも感じられた」と語った。リアルタイム世代のブルボンヌは、「90年代のこういう映画がいろいろあって、メジャーだとトム・ハンクス主演の『フィラデルフィア』(93)で80年代のアメリカで起きたエイズ禍を描いた作品があった。その一方で単館系ではパンキッシュなLGBTQのドギツイ世界をアーティスティックに描いたものも出てくるような混沌とした時代で、本作のラスト・シーンでは“その先には何があるのか”という問いがうまく表現されてた」と説明した。

 最後にブルボンヌは「クィアという“規範の枠外に出る”というのは、多数派側の何かを押し付けられた側としては、殻を破って、破壊して出ていかなければならない。でも、出た先はそんなにユートピアじゃなくて、荒野やひび割れた道のようなもので。自由というのは自分で切り開いていかなくていけない。厳しさも含めたラストに痺れた」と伝え、「“自分らしく生きる”というのは素敵なことだけじゃなく、厳しさも待っている。そういうことも含めて覚悟しないといけない時代かなと思う」と若い世代に強く訴えかけた。イシヅカユウも「辛酸を嘗めつつ自分の力で勝ち取っていく、また開拓していく、革命していくというのが自由かもしれない」と、もっといろいろなことを挑戦し、新しい扉を開いて楽しさを見出して欲しいとメッセージを残した。

 また11月15日(金)より渋谷ホワイトシネクイントほかにて全国順次公開する『ノーウェア デジタルリマスター版』を一足早く観たイシヅカユウは「ずっと音が鳴っているのが印象的だった。蝉の音が鳴っているのが、命の短い蝉の刹那的な部分というのが勝手に繋がっていて。刹那的というのは本作と繋がっていますが、暴力・セックスなど、また違うベクトルのティーンエイジャーの閉塞感を描いていた。ぜひ2作品観ていただけたらと思います」と若者の叫びが詰まったその内容に太鼓判を押した。

作品情報

『ドゥーム・ジェネレーション デジタルリマスター版』

©1995 UGC and the teen angst movie company

 監督・脚本・編集:グレッグ・アラキ
 出演:ローズ・マッゴーワン、ジェームズ・デュバル、ジョナサン・シェック
 製作:グレッグ・アラキ、ニコル・アルビブ、アンドレア・スパーリング

原題:The Doom Generation/1995年/アメリカ・フランス/カラー/ビスタ/5.1ch/英語/84分/日本語字幕:佐藤 南/映倫区分:R-15+)

 配給:パルコ 宣伝:パルコ、SUNDAE

『ノーウェア デジタルリマスター版』

©1997. all rights reserved. kill.

 監督・脚本・編集:グレッグ・アラキ
 出演:ジェームズ・デュバル、レイチェル・トゥルー、ネイザン・ベクストン、キアラ・マストロヤンニ、デビー・マザール 他
 製作:グレッグ・アラキ、ニコル・アルビブ他

原題:Nowhere/1997年/アメリカ・フランス/カラー/ビスタ/英語/5.1ch/83分/日本語字幕:長 夏実/映倫区分:R-15+)

 配給:パルコ 宣伝:パルコ、SUNDAE

公開表記

 配給:パルコ
 『ドゥーム・ジェネレーション デジタルリマスター版』大ヒット上映中!
 『ノーウェア デジタルリマスター版』11月15日(金) 渋谷ホワイトシネクイントほか全国順次公開

(オフィシャル素材提供)

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