登壇者:崔盛旭(映画研究者)、岡本敦史(ライター・編集者)
『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『パラサイト 半地下の家族』を超えて韓国で約1,200万人を動員、『犯罪都市 PUNISHMENT』『インサイド・ヘッド2』を抑えて7週連続で第1位を記録し、2024年No.1大ヒット! 第74回ベルリン国際映画祭でワールドプレミアとして上映、世界133ヵ国で公開が決定し、第60回百想芸術大賞で監督賞/主演女優賞/新人男優賞/芸術賞を受賞するなど、海外で熱狂と快挙が報じられた超話題作『破墓/パミョ』は、新宿ピカデリー他にて大ヒット上映中!
11月9日(土)に角川シネマ有楽町にて、日韓の映画を中心に映画の魅力を、文化や社会的背景を交えながら伝える仕事に取り組んでいる映画研究者の崔盛旭(チェ・ソンウク)、書籍、劇場用パンフレット、DVD・Blu-rayのブックレット等を中心に執筆しているライター・編集者の岡本敦史が登壇するネタバレ全開トークショーを実施した。
※ネタバレ(ストーリーの核心に触れる記述)を含みますので、未見の方はご注意下さい。
まずは本作について、崔盛旭は「シンプルに面白かったです。そこからもう一歩踏み込むと、やはり、日韓の歴史が顔を覗かせている」と分析し、「(韓国側の)歴史的なトラウマがどれくらい大きいのかを感じましたし、きっとこの映画は、韓国人の心に刺さっているトラウマを取り除く“お祓い”のような映画」だと、空前の大ヒットを記録する理由を考察した。
韓国内のレビューサイトにもさまざまな声が寄せられているといい、「いろいろな仕掛けがあるので、何度も観るリピーターも多いようです。例えば、日韓の歴史を想起させる番号が書かれた車のナンバー・プレートをこの目でもう1度確認したいとかですね。韓国の映画ファンが、それぞれいろんな心境で観ていることが分かる」と、崔盛旭は歴史的背景もヒットの要因だと語っていた。
物語の重要な要素となるのが、日本軍が韓国の風水的な名所に、国の覇気を奪う目的で“鉄杭”を打ち込んだという「鉄杭事件」だ。崔盛旭は自身の幼少期の記憶と照らし合わせ「今思おうと、都市伝説というか、国をあげてのキャンペーンだった」とコメント。「ある場所で鉄杭が見つかれば、それを取り除き『大韓民国万歳』と喜ぶ人たちの姿が普通にニュースで流れていた。でも、捏造もかなりあって、そこで巫堂(ムーダン)が大活躍したわけです。実際、土地の測量をするために、基準点として打ち込まれた鉄杭が『日本軍の悪行』として徴収されて、独立記念館に展示されたこともあったんです。今となっては、ばかばかしい騒ぎでしたが、それもまた鉄杭を通して、トラウマを蘇らせる目的があったのでは……」と解説した。
一方、岡本敦史は「この作品には、現実とフィクションを混同するなというメッセージも含まれていると思います」と語り、「日本軍がわざわざ鉄杭を埋めたという発想はすごいなと。日本にも『帝都物語』(1988年公開/監督:実相寺昭雄)という映画があって、それを思い出しますね。東京の至るところに地脈が走っていて、日本橋の麒麟像など、それを鎮める守り神があちこちにある。鉄杭とは逆ですけれど」と、風水学にまつわる日本映画についてのエピソードを披露した。
すると、崔盛旭は今も韓国で風水が根強い影響力を誇っていることを示すエピソードを披露し、客席を驚かせていた。韓国では信仰に関係なく、生まれた子どもの名前を陰陽五行に基づき巫堂(ムーダン)が命名することもいまだに多いなど、韓国人の生活に強く根付いているというエピソードも明かした。
話題を本作に戻すと、崔盛旭は「登場人物たちの名前だけで、韓国人なら、どんな内容なのか、ある程度は推測できる。実は登場人物の名前は独立運動家の名前なんです」と解説。また、國村 隼が出演した韓国映画『哭声/コクソン』(2017年公開/監督:ナ・ホンジン)を引き合いに、「日本が恐怖の対象として、ネガティブなものと捉えて、それをうまくホラーにしている。そういう認識は、韓国の人にはある」と、『破墓/パミョ』との共通点に言及。韓国で大きな反響を呼んだ背景だと語っていた。
公開表記
配給:KADOKAWA、KADOKAWA K プラス
新宿ピカデリー他にて大ヒット上映中!