登壇者:岩田 奏、石山愛琉、石橋夕帆監督
12月1日(日)、第34回映画祭TAMA CINEMA FORUMにて、日本初上映を迎えた映画『ひとりたび』。上映後に舞台挨拶が行われ、本作に出演している岩田 奏、石山愛琉、石橋夕帆監督が登壇した。
第29回釜山国際映画祭コンペティション部門(ジソク部門)に正式出品された本作は、仕事に恋愛、人生に行き詰まった32歳の美咲が学生時代に経験した「初恋」の記憶を頼りに、人生を見つめ直す姿を描いた自分探しの物語。美咲の現代と、中学生時代の回想の2パートが交錯する。主人公・美咲を演じるのは、主演作『茶飲友達』(23/外山文治監督)ほか、ドラマ・映画・CM・舞台など多方面で活躍を広げる岡本玲。監督は、長編2作目となる唐田えりか主演の『朝がくるとむなしくなる』(23)で第18回大阪アジアン映画祭インディ・フォーラム部門「JAPAN CUTS AWARD」を受賞した石橋夕帆。回想パートで、美咲の初恋相手・圭一を演じたのが、『雑魚どもよ、大志を抱け!』(23/足立紳監督)で俳優デビュー後、NHK連続テレビ小説「虎に翼」など精力的に活動を続ける岩田 奏。そして、中学生時代の美咲を、本作が俳優デビュー作となる石山愛琉が演じている。
岩田、石山、石橋監督が登壇すると、この日、仕事の都合で今回参加が叶わなかった主演の岡本から、サプライズで届いたメッセージ動画が上映。岡本は「数年前に石橋夕帆監督が企画書を持って、“私で映画を撮りたい”と訪ねてきてくださり、そこから始まりました。数ヵ月に一回、監督とお茶して、今こういうことを考えているとか、この作品のここの部分で、こういう日常だとこういうことがあったら……というころから何か思うことがあるよね、とか、少しずつ膨らましていって、今があります」と振り返ると、「大人になるとなにがあってもなかったフリができるというか、傷ついていないフリができるようになってくるんですけど、でもどうしても、どこか心だったり頭だったり、手の先っぽだったりとか、そういうところにどうしても溜まっている何かがあって、そこを乗り越えないと進めないときがあって、そういう映画だと思っています」と本作への想いを語った。岡本からの言葉を受け、石橋監督は「勝手に岡本さんを主演でやりたいというところがベースにあって作った物語なので、ちょっとずつ岡本さんとお茶したり、プライベートの価値観をすりあわせたりお話していく中で、それを反映させてできた物語だと思っているので、改めてじんわりとしてしまいました」と感激した様子。
長編デビュー作『左様なら』では10代の高校生、2作目となる『朝がくるとむなしくなる』では20代のフリーター、3作目となる本作では30代の社会人の女性の悩みを描いた石橋監督。その変遷について、「教室内で感じていることやモラトリアムというよりは、学校の外で、社会に出て日々暮らしていく中で感じている生きづらさとか、自分自身の身近なところに興味が移っていったというところはあります」と説明。一方で、「変わらず思っていることは、その撮る年の時代性をどれぐらい反映するかと、時代性を入れつつも普遍性も持ちたいというところは意識しています」と話すと、続けて「(劇中では)会話をなるべくどうでもいいことを話させたくて。普段暮らしていると、どうでもいいことばかりしゃべってるなと。そういうことだと軽く言葉に出せるんだけど、今回の作品みたいに本当に思っていることこそ、日常の中で口に出しす勇気がいるし、タイミングがなかったりするということは、意識しています」と映画づくりへの想いを明かした。
それを聞いた岩田は、木の下で美咲と圭一が会話するシーンを挙げると「内容こそ何でもないことですけど、(心の)中でいろんなことを隠してるじゃないですか。僕、あのシーンがすごい好きで。演じていても楽しかった。だからやっぱり、(監督の)こだわりがあるんだなあと思って」と答えると、石橋監督は「嬉しいです。ありがとうございます」と照れ笑いを見せた。
劇中では重要なモチーフとなるMDプレイヤーについて、その存在を知らなかったという石山は、「今の若い世代の人たちは使わないようなもので、今はワイヤレスイヤホンなので、付け方がわからなくて、撮影のときて手こずりました。そういう時代の背景がないと経験しないので(笑)」と明かすと、「あの時代に流行った耳掛けのイヤホンね(笑)。しかも2人ともガラケーも練習したよね」と石橋監督。
トーク中盤、美咲と圭一の思い出の場所でもある図書館についての話題に。岩田は「テスト勉強でよく図書館に行くんですけれど、昨日も、中学のとき一緒で、高校が別々になっちゃった友達と会って。そういう友達に会ったりするのは、すごい楽しいですね」と現役高校生ならではのエピソードを披露。一方、読書が趣味だという石山は、「よく図書館には行くんですけど、私にとってはただ本を借りに行く場所なんです。美咲が大人になっても行ってしまうような思い出に残っているのは、とても素敵なことだなと思って。私も今度から本を借りに行くときに良い人がいないか、青春気分を味わおうかなと思いました(笑)」と冗談混じりに語ると、会場は笑いに包まれた。
映画初出演だという石山は「初めての経験ばかりで、学ぶこともたくさんあって。そんな中、岩田さんや監督を含め、多くの人に支えられながら無事演じきれたので、この『ひとりたび』という作品が初めての出演作品で良かったなと思いましたし、この初心を忘れずに、これからも俳優人生を頑張っていきたいなと思います」と語ると、会場からは拍手が起こる場面も。
10月韓国、釜山国際映画祭でワールドプレミア上映を迎えた本作。渡韓した石橋監督は、「お客さんのリアクションがすごく暖かく、中には似たような経験をして共感しましたとおっしゃってくださる方もいて。Q&Aもあって、作品の精神性や演出意図だったり、監督はこの作品に影響を受けてこういう演出に至っているんですかという訊かれ方をしたので、すごく意義のある時間を過ごさせていただきました」と述懐。自身の出演作が海外で上映されたことについて岩田は、「すごい嬉しかったんですけど、お母さんのほうがすごい喜んでましたね。映画がすごい好きなんで。今日もどこかにいると思います(笑)」と明かした。
最後、改めて観客に向けて感謝を述べると、石山は「これからのこの映画に対していろんな感情や大切な想いを持っていただけたらなと思っています」と、岩田は「大好きな映画なので。いろんな人に観に来てくださいって言っていただけたらなと思います」と言葉を送った。そして、石橋監督は「思いを寄せていた初恋の人の死を知ったというところが根幹にある物語ではあるんですけど、今の彼氏や旦那さんではない、過去の関わりがあった人が亡くなったことに対して、そんなに傷ついて引きずって、バカにされるんじゃないかという気持ちって、別の出来事に置き換えても、皆さんの中にもきっとあるのかなと思っているんです。でもやっぱり本人にとっては切実な苦しさだったり、思いが募っていることに対して、それぐらい傷ついても良いんだよということを肯定できたらなと思いながら、この作品と向き合ってきました」と改めて本作への思いを語り、会場は大きな拍手に包まれ、舞台挨拶を締め括った。
映画『ひとりたび』は、来年2025年日本公開予定。
ストーリー
東京で働く32歳の美咲は、10年間勤めていた会社に居づらくなり退職。将来が見えないまま実家に帰る。地元で開催された同窓会で初恋の相手が2年前に亡くなっていたことを知り、空っぽだった美咲の心が初恋の思い出で埋め尽くされていく……。
(2024年、日本、上映時間:94分)
キャスト&スタッフ
出演:岡本 玲
長村航希、坂ノ上茜、岩田 奏、石山愛琉
日高七海、里内伽奈、中山求一郎、長友郁真/濱田マリ
原 日出子、平田 満
監督:石橋夕帆
脚本:上村奈帆
撮影:関 瑠惟
プロデューサー:田中佐知彦
主題歌:ん・フェニ「おもうたび」作詞・作曲:ん・フェニ(ビクターエンタテインメント/CONNECTUNE)
オフィシャル・サイト(外部サイト)
公式X(旧Twitter)/Instagram:@hitoritabi_film
公開表記
配給:イーチタイム
2025年 日本公開予定
(オフィシャル素材提供)