登壇者:アガーテ・ボニゼール(俳優・監督ソフィー・フィリエールの娘)
アダム・ボニゼール(監督ソフィー・フィリエールの息子)
ジュリアン・レジ(カンヌ監督週間 アーティステック・ディレクター)
司会:矢田部吉彦(前東京国際映画祭プログラミング・ディレクター)
ソフィア・コッポラ、ジム・ジャームッシュ、グザヴィエ・ドラン、北野 武、黒沢 清、西川美和ら名だたる監督たちの才能をいち早く見出してきたカンヌ国際映画祭の唯一無二のセレクション「監督週間(Quinzaine des cinéastes/Director’s Fortnight)」。その最新ラインナップを日本国内でいち早くスクリーンで体感できる「カンヌ監督週間 in Tokio 2024」の開催が12月8日(日)、ヒューマントラストシネマ渋谷でスタートした。
アジア発の開催となった昨年に続く2回目の今年、幕開けとなるオープニング上映を飾ったのは、映画監督・脚本家として長く活躍してきたフランスのソフィー・フィリエール監督の『これが私の人生』(英題:This Life of Mine)。2024年のカンヌ国際映画祭監督週間で上映された同作は反響を呼び、フランスの映画批評誌「カイエ・デュ・シネマ」のベスト10にも選出された。ただ、残念なことに、ソフィー・フィリエール監督自身は昨年7月に57歳の若さで逝去。本作は、撮影後に遺族が完成させた彼女にとっての遺作になった。
今回の上映にあたって、作品を完成させた監督の娘であるアガーテ・ボニゼールと息子であるアダム・ボニーゼールが来日。オープニング上映後、「カンヌ監督週間」アーティステック・ディレクター、ジュリアン・レジ氏が進行役を務めたトークイベントで、作品の完成までの経緯と亡き母への思いを語った。
まず、挨拶を求められると二人はともに「今日は本当に多くの方に来ていただきましてありがとうございます。この映画を東京で上映することができて、わたしたちは誇りに思っています」と日本の観客へ感謝の言葉を寄せた。
続いてレジ氏が「この作品は、ソフィー・フィリエールがシナリオを書いて監督した作品です。ただ、撮影が終わった後、彼女は体調を崩して病気で入院をしました。そして、亡くなる前に(アガーテとアダムの)二人に『完成させてほしい』と託しました」と本作の制作の過程について説明。
続けて、レジ氏が二人に生前の監督と本作についてどのようなやりとりがあったのかを尋ねると、アダムは「シナリオは撮影に入る前に僕もアガーテも読んでいました。ただ、撮影自体にわたしたちは立ち合うことはありませんでした。撮影した映像を見たのは、母が入院するちょっと前で、そのあと、編集とポストプロダクションの作業に入ることになりました」とのこと。
アガーテは「私たちは2人とも、母との関係は良好で、仕事の話もずっと聞いていました。シナリオが出来上がったらそれを読むことは日常でした。ですから、この映画について母がどのような考えをもっているのかも把握していました。だからこそ母に託されたんだと思います。主に編集とポスプロの作業を、映画撮影時の関係者と一緒に行うことになったのですが、ここでも母がきちんと根回しをしてくれていて、プロデューサーらに『わたしと同じ羅針盤を持っていて、同じ方向を目指している子どもたちだから力を貸してほしい』と伝えてくれていました。おかげでスムースに完成へと進むことができました」と語った。
本作は、フィリエール監督自身が投影されている55歳の⼥性、バービーが主人公。人生の後半に差し掛かったことを意識するようになった彼女は漠然とした不安に苛まれるように。成人した息子と娘との関係もいまひとつで、なにか歯車がかみ合わない彼女の心の揺れが切実さとユーモアをもって描かれている。
すでに50ほど映画祭で上映されているとのことだが、その世界各国での反応についてアガーテは「多様な解釈の声が寄せられています。特にラスト・シーンに関しては、いろいろな感想をいただいています。『あそこはもう天国ですか?』と言う人もいれば、『お墓の許可証を取ったのですか?』と言う人も」。
一方、アダムは自身のラストの見解を「この広い世界でバービーはずっと自分探しをしていました。そして、旅を経て、バービーはようやく自分の居場所を見つけることができたのではないか」と述べた。それに対しアガーテも同調。「わたしもいろいろあったバービーが、他人からすれば小さな土地かもしれないですけど、自分の居場所を見つけることができた。見つかってほんとうによかったと思っています」と語った。
また、レジ氏はシナリオの言葉のチョイスのすばらしさについて言及。「ある場面はものすごく尖ったシリアスな言葉が、ある場面ではユーモアや風刺がきいた言葉が並び、独自の喜劇に仕立てられている」と評し、参考にした映画があったのか質問を投げかけた。
アガーテは「母には好きな映画がたくさんありました。しかし、こういう映画にしたいとか、何かの作品に似せたいというようなことを聞いたことはないです。シナリオを書くときというのは、もう自分で言葉を選び抜いて考え抜いて書くといった感じでした。でも、そのようにアウトプットするだけではなくて、一方で、いろいろなものを吸収する人でもありました。本の虫でしたし、映画もあらゆるもの、いわゆる大バジェットのハリウッド超大作といった作品から、小さなインディペンデント映画、(エルンスト・)ルビッチやジョージ・キューカーらのコメディ映画まで分け隔てなく観る。アジア映画もよく観ていて。溝口健二監督のレトロスペクティブがあったときはすべて観ていました。Netflixのドラマもよく見ていましたよ」と、ソフィー・フィリエール監督が好奇心旺盛で映像作品をこよなく愛していたことが垣間見えるエピソードが語られた。
最後に会場にマイクが向けられると、「主人公のバービーはソフィー・フィリエール監督自身の分身なのでしょうか?」という質問が。
それに対しアガーテは「確かに彼女が作ってきた作品のヒロインは、みんなソフィーの分身ではあることは確かです。とりわけこの映画のバービーに関しては、ソフィー本人により近い分身であるということは言えます。『私の人生、私の顔』というフランス語のタイトルが示すように、自画像と言っていいと思います。ただ、自伝ではないんです。描かれるエピソードに関してはフィクションが盛り込まれている。でも、バービーの性格や人間性は、ソフィー本人にものすごく近いです」と明かした。
この答えを受けると、レジ氏が「実は劇中に精神科医が出てきますけど、彼はほんとうにソフィーが通っていたクリニックのお医者さんなんですよね」と裏話を明かした。するとアガーテが話を続け「実はアニエス・ジャウイが劇中で着ている洋服も衣裳ではなくて、ほとんどが母の自前の服です。それから撮影場所のアパートメントも母の自宅なんです」と、ファンにはうれしい秘話が最後に明かされてイベントは無事終了した。
なお、「カンヌ監督週間 in Tokio 2024」は、今月19日(木)まで連日開催。注目のスペイン人監督、ホナス・トルエバの『ジ・アザー・ウェイ・アラウンド(英題)』やカナダの鬼才、マシュー・ランキン監督の『ユニバーサル・ランゲージ(原題)』、「国際映画批評家連盟賞」を女性監督として史上最年少で受賞した山中瑶子監督『ナミビアの砂漠』など、全11作品が上映される。ぜひ、豪華ゲストを招いてのトークイベントも多数実施されるので、会場に足を運んでみてはいかがだろうか?
『これが私の人生』作品概要
監督:ソフィー・フィリエール
出 演:アニエス・ジャウイ
55歳の女性、愛称バービー。軽い不安を抱え、セラピーにも通うが効果は怪しい。成人した子どもたちとの関係も微妙だし、 親しく話しかけてきた男性にも全く見覚えが無く、バービーは不安を募らせる……。
人生後半に差し掛かった女性の軽妙にして 真摯なポートレート。一時代を築き、23年7月に57歳で逝去したフィリエール監督の遺作であり、撮影後に遺族が作品を完成させた。監督の分身として見事な存在感を発揮するアニエス・ジャウィも素晴らしい。
「カンヌ監督週間in Tokio 2024」概要
“Sélection indépendante et singulière”―――独立性のある、他に類いのないセレクション
1968年、作家性や芸術性の高い作品を称揚するためにカンヌ映画祭に創設された「監督週間」だが、そのセレクションは決してハ-ト・ウォーミングな作品やラブコメなどではなく、ラディカルで自由な矢を放ち、見る者の心を打つメッセージ性の高い作品ばかりだ。日本の映画ファン、映画・映像業界に携わる方々、そしてこれからその世界に飛び込もうとしている若者たちへ向けて、世界の最前線の映画たちをお届けする。
【日程】2024年12月8日(日)〜19日(木)《12日間》
【会場】ヒューマントラストシネマ渋谷(東京都渋谷区渋谷1-23-16 ココチビル7・8F)
【鑑賞料金】
一般:2000円/大学:1500円/小中高:1000円/シニア:1300円/ハンディキャップ割引:1000円
TCG会員:あり(いつでも1400円) ※火・木1200円割引ナシ
【前売券】ムビチケ前売券(オンライン):1600円
https://mvtk.jp/film/Z0000067(外部サイト)
※ 水曜サービスデー(毎週水曜日):1300円
※ イベント回:2000円均一(割引なし・特別鑑賞券使用不可)
■主催:監督週間(Quinzaine des Cinéastes/Directors’ Fortnight)/特定非営利活動法人映像産業振興機構(VIPO)
■共催:東京テアトル
■特別協力:三菱UFJ銀行
■協力:金延宏明(ノブ・ピクチャーズ)/CINEFRANCE STUDIOS/Filmarks/レプロエンタテインメント/活弁シネマ俱楽部/ELLE/AKIRA H/在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ/スペースロック/河本和真(Deep Emotion)/小林由佳(よーてらよてら)
▼公式HP:https://www.cannes-df-in-tokio.com/(外部サイト)
▼公式X: https://x.com/cannes_tokio(外部サイト)
▼公式Instagram:https://www.instagram.com/cannes_tokio/(外部サイト)
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