イベント・舞台挨拶

『その街のこども 劇場版』トークショー

© 2010NHK

 登壇者:森山未來、佐藤江梨子、井上 剛監督

 阪神・淡路大震災から30年目の節目である本年、特別再上映が各地で行われている『その街のこども 劇場版』。NHKドラマとして震災15年目の2010年に放映された本作は、実際に震災を体験している森山未來と佐藤江梨子の切なくリアルな演技に加え、心の傷を抱えたまま生きる若者たちを優しい眼差しで描いた渡辺あや(『ジョゼと虎と魚たち』)の脚本が大きな話題を呼び、翌2011年には再編集を経て劇場公開。今も多くのファンを持っている傑作だ。

 1月17日から1週間限定上映中のシネマート新宿では、主演の森山未來と佐藤江梨子が実に14年ぶりに並んで登壇し、井上 剛監督と共に、本作への特別な思いを熱く語った。

 1月18日(土)の夜、333席が満席となった会場に大きな拍手で迎えられ、あまりの熱気に驚いた様子の3名。公開から14年を経て、これだけ多くの観客の前に立った井上監督は、「関西では毎年上映をしているが、東京で上映されるのは14年ぶり。これだけたくさんのお客さんに来ていただいて本当に嬉しいです」と感慨深げに挨拶した。MCを務めた奥浜レイラからの「この映画が製作されてからも地震をはじめさまざまな大規模災害が起き、本作の見方もその度に変わってきている気がする。この15年の間に本作に対する想いに変化がありましたか?」という問いには、井上監督は「劇中のセリフに『100年に一度の災害なんだから』というような言葉があるが、この作品を作っているときは、自分たちもそういう感覚だった。でも実際には東日本大震災や能登、熊本の地震などの想像していなかった大災害が何度も起きた。その分、本作で描いたような、“震災の真ん中ではなく、周辺にいる人間たち”もどんどん増えているような気がする」と回答。

 森山も「能登の復興スピードは神戸よりも遅く、もっと時間がかかっている。そしてこの30年で他にもたくさんの災害があった。この作品から神戸のことが見えてくるのはもちろんだが、それ以外にもさまざまなことが見えてくるようになったのではないかと思う」と話した。

 佐藤は「自分の子どもが今年で10歳になる。それは森山さんが震災を経験された年と同じくらい。それだけ時が経ったんだなと感じるし、今見ると、親目線で、被災した親たちはどういう気持ちだったのだろう、というふうに感じ方が変わったところはあると思います」と、思いを語った。

 また撮影時のエピソードに話が及ぶと、井上監督と森山の間で激しいディスカッションを経て作品をつくったという逸話が。「喧嘩したよね?」と井上監督が森山に呼びかけると、「喧嘩……?」と不思議そうな森山を横目に、当時を思い出した佐藤が「森山さんは若い頃は尖ってらしたんですよ!」と茶々を入れ、会場は爆笑の渦に包まれた。一方、当時2人をキャスティングした経緯について質問された井上監督は、「実際に神戸で震災を経験した人に演じてほしいというのはあったし、具体的にこのお二人で、というのは最初から脚本の渡辺あやさんも強くおっしゃっていた。だから、2人のスケジュールが合うまで待って、本来なら1年前に作るはずだったのを先延ばしにしたんです」と、主演を森山と佐藤の2人にこだわったという秘話を披露。これには会場の観客たちも大きくうなずき、驚きとともに納得した様子だった。

 実はこの日、井上監督と佐藤は撮影時の台本を持参。「どこまでがアドリブなんですか?」という質問をよく受けるという佐藤は「ほぼ全部台本通りなんです。これが証拠です!」と人気脚本家の渡辺あやが手掛けた緻密なセリフを絶賛。すると森山は「この作品の撮影では、“よーいスタート”と“カット”の声がけがなく、カメラが回り続けていた。撮影監督もドキュメンタリー畑の方なので、面白いと思うとすぐにカメラを回し始める」と、井上監督によるドキュメンタリー的な演出と撮影を回想。これに佐藤は「居酒屋のシーンは事前にテストがあり、ずっとカットがかからず話し続けないといけないから、私もアドリブで違う話を始めたりしたけど、その度に森山さんが『はい、論破!』という感じで私の話を論破してくる(笑)。なので本番ではもう大人しく台本通りにやろう、と思ってアドリブを入れるのはやめました」と、冗談まじりで衝撃のエピソードを語った。

 ここから会場の観客との質疑応答へ。DVDも購入し何度も映画を見直しているという男性からのとても細かく鋭い質問に、壇上の3人が驚き、感心した様子を見せた後、次にマイクを受け取った女性客は「東京にいると、テレビでは震災のあった時間に少し映像が流れ、それが終るとすぐに何事もなかったように別のものに切り替わって終わり。関西に(震災を経験した)大切な友人の多い私は、いつもやり場がない気持ちを抱えている。都内でも、この日にきちんと向き合えるような場が欲しいと思っていた。だからこのような形で映画を上映してもらえてとても嬉しいです。すごくいい時間でした。ありがとうございました」と想いを吐露。この言葉に、壇上の佐藤も思わず涙が。「 私も仕事などで神戸に行くと、東遊園地にある犠牲者の名前を見て、思いを馳せる時間を作ることがある。だからその気持ちはすごく良く分かります。ありがとうございます」と、観客と心を通わせていた。

 そしてあっという間に時間は過ぎ、撮影タイムを経て、登壇者が最後に一言ずつメッセージ。森山が「これは神戸についての映画だが、30年の間にたくさんの出来事があり、もう誰にとっても他人事ではなくなっていると思う。僕はこの作品に出合えたことが神戸の震災と自分との距離感みたいなものをつかめるきっかけになった。だからこうして長く愛してもらっているのを本当に嬉しく思う」と、本作への特別な感情を述べると、佐藤は「子どもに15年前のこの映画の自分を見せたら、『別人じゃん!』と驚かれてしまった(笑)。でも本当に幅広い層の、いろんな世代の人に観ていただけたら嬉しいと心から思う作品です」と作品への愛を語った。井上監督は「毎年関西で上映をしていて、お客さんの声を聴く機会があるが、本当にそれぞれの人に、それぞれ違う想いを受け取ってもらっていると感じる。今年の京都での上映では、“定期的に観返して自分の想いに向き合い直す<定点>のような映画になるといいね”、と言っていただいたが、その意味でも、関西だけでなく、東京でもこうして上映していただいたことは本当に嬉しい」と感謝の気持ちで締めくくった。

 そしてイベントは終了……、と思いきや、「でもサトエリちゃんは15年前と全く変わらないよ!」という井上監督に対し、照れる佐藤は「いやいや、森山さんと井上監督が黒い衣装で、真ん中の私が白い衣装なんで、オセロだったらひっくり返って黒くなってます!」と予想外のジョークで返し、井上監督も森山も爆笑しながら「(締めなのに)締まらんな~」と突っ込み、最後に会場を爆笑の渦に包み込んで舞台を後にした。

 まさに笑いあり、涙ありの、感動的な舞台挨拶に、満席の会場も心から満足げな表情に包まれた夜だった。この再上映は、すでに上映を終えた地区もあるが、東京:シネマート新宿、兵庫:シネ・リーブル神戸では23日(木)まで続く予定だ。

公開表記

 配給:トランスフォーマー
 2025年1月、阪神・淡路大震災30年特別再上映中

(オフィシャル素材提供)

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