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『セプテンバー5』ジャーナリスト・池上彰が高校で特別授業開催!

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 ジャーナリスト・名城大学教授の池上 彰が、2月6日(木)、東京都立西高等学校で、2月14日(金)から全国公開される映画『セプテンバー5』の特別授業を行った。
 『セプテンバー5』は、ミュンヘンオリンピック開催中の1972年9月5日に、パレスチナ武装組織「黒い九月」に襲撃されたイスラエル選手団11人が犠牲になったテロ事件を題材に、緻密な脚本と重厚な映像で圧倒的な緊迫感を描き出した社会派映画。米映画レビューサイトRotten Tomatoesでは批評家スコアが93%、観客スコアが91%(※)と、絶賛評価を得ており、先日発表された第97回アカデミー賞®では脚本賞にノミネートされた。(※2025年2月6日現在)

 同高の生徒35人が参加した特別授業では、事件の背景にある当時の国際情勢やオリンピックを悪用したテロ事件の始まり、それを報じたメディア報道の問題点、その後も世界で続くテロやテロ対策の現状、そして現代におけるメディアの役割などについて、本作を題材に多角的に解説された。

 池上は、ダッカ日航機ハイジャック事件、あさま山荘事件などを具体例として挙げながら、なぜミュンヘン・オリンピックのテロ事件は悲劇的な終わりを迎えたのか、生徒たちに分かりやすく解説。事件を契機に世界中でテロ対策が進んだことや、かつて池上が、NHKで報道局社会部記者だった頃に経験した、1981年6月に東京・江東区で発生した人質立てこもり事件での報道規制を例に挙げ、報道の自由と責任のあり方やSNS時代の情報リテラシーの重要性など、現代社会にも通じる課題を解説した。

 さらに、膨大な情報が飛び交う中で生きる現代の私たちが「何を信じ、どう選択していくべきか」、メディアや情報に対する向き合い方を深く問いかける作品である本作にちなみ、メディアの役割についても話が及んだ。

 テレビや新聞ではなく、ネットやSNSを情報源にする傾向が強い今の生徒たちから、『セプテンバー5』の劇中で、人質テロの報道に挑んだテレビ・クルーたちが、錯綜する情報の中で、報道すべき真偽の判別に悩む姿に現代の社会を重ねて、テレビ・新聞などのオールド・メディアや、SNSなどのニュー・メディアなど情報源が乱立する現代に「私たちは何を信じればいいのか」と問われると、「(各メディアは)それぞれの視聴者に何を訴えればいいのだろうかと取捨選択しているし、編集している。テレビだと1分40秒にするためには何を削ぎ落とすのかを考えるし、新聞も150行も書ければいいけれど、20行にするためには、膨大な情報からどれを削ぎ落とすか、常に編集が行われている。『何が真実か』というと『真実は分からないもの』なんだと思う。『真実は神のみぞ知る』こと。だから、私たちは事実を集めて再構成することによって、真実に近づけようとしている」と詳説した。

 また、本作の中でも大きな転換点となる“メディアの誤報”や“メディアの責任”について問われると、「テレビや新聞が伝えるさまざまなニュースは、必ず少なくとも二つの情報源から確認しなければならないのは映画の中でも出てきた。確認できて初めて報道できる。でもSNSだと情報があると(確認なしに)すぐにアップするし、速報される。でもそれは単独の情報源で伝えているだけかもしれない。勘違いしているだけかもしれない。でも、二つの情報源から確認しても(映画の中で起きたようにテレビ局による)誤報が起きてしまった。絶大な信頼を受けているドイツの公共放送・ZDFが伝えたから間違いないだろうと、(本作の主人公たちである)ABCのクルーも急いで速報したら間違っていた。だから映画を観ていて心が痛みました。自分がもしあの場所にいたら『ちょっと待て』と言えただろうか。ZDFが言っているから大丈夫だろうと報道してしまうかもしれない。事実を確認して伝えることがいかに難しいことか」と思いを語った。

 最後に、映画をより楽しむ鑑賞法として、「何気なく描写される細部に注目して鑑賞する方法」が池上から生徒に伝授された。

 例えば、本作のドイツ人スタッフとフランス人スタッフの間でビデオ・テープの受け渡しを拒絶するシーンでは、第二次世界大戦中にドイツ軍によってパリが占領されフランスが降伏した歴史から「1972年でもフランス人とドイツ人の間では精神的なわだかまりがある」ことが間接的に描かれている。別のシーンでは、「アラブの奴らはどうしようもないよな」とアメリカ人スタッフが何気なく言った悪口に対して、フランス人スタッフが「俺の親はアルジェリア人だ」と言い返し、ヨーロッパの複雑な人種構成と人種差別の一面が何気なく示唆されている。さらに、ドイツ人の女性スタッフに対して「コーヒーが飲みたい」と男性スタッフが悪気もなく言い放つ、当時のジェンダー・バイアスが明らかになるシーンもある。「ストーリーを追うだけじゃなく細かいところも読み解いていく。映画の楽しみ方には、そういう醍醐味もある。作る側がさまざまな問題点、現代の課題を散りばめて、今だからこういう映画を作っている。それを感じさせるのが、この映画の細かい部分も良く出来ている、もうひとつの面白さ、優れたところ」とより深い映画鑑賞の視点を提示した。

 1972年に起きた悲劇がテーマの映画でありながらも、池上と学生との対話を通し、現在のメディアや報道の在り方、そしてSNSを通じさまざまな情報が錯綜した社会を生きている私たちが、どのように情報や報道を受け取っていくべきか、『セプテンバー5』が、私たちに鋭く問い掛ける現代的なテーマが示唆され、特別授業は締め括られた。

公開表記

 配給:東和ピクチャーズ
 2025年2月14日(金) 公開

(オフィシャル素材提供)

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