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登壇者:平松洋子×河邑厚徳監督
NHK「きょうの料理」を担当してきた矢内真由美プロデューサーが、食材の向こう側の生産者や、自然にも思いを寄せられている姿勢や、伝える言葉の美しさが魅力的な料理研究家・辰巳芳子の料理哲学を描いたドキュメンタリーを作りたいと河邑厚徳監督にオファーして完成したドキュメンタリー『天のしずく 辰巳芳子“いのちのスープ”』。
「愛することは生きること」という辰巳の哲学を描き、日本のみならず、スペインのサン・セバスティアン国際映画祭などで海外の観客も魅了した本作は、2012年の作品ながら、Facebookのページにはいまだに4900人以上もフォロワーがいるなど、辰巳が公開当時に「この作品は『ところ』を得れば時代を超えられるのではございませんでしょうか」と予想した通り、令和の私たちの心も捉える内容で、2024年敬老週間に東京都写真美術館ホールで上映された際も、数々のメディアに取り上げられ、大きな反響を呼んだ。
再度映画館で観たいという要望に応え、辰巳芳子の100歳記念上映としてアップリンク吉祥寺にて公開中。
2月11日(火・祝)には有賀 薫(スープ作家)が、河邑厚徳監督と上映後トークイベントに登壇する。
2月9日(日)には、河邑厚徳監督と作家、エッセイストの平松洋子が上映後トークイベントに登壇した。
平松は、本作を観客と一緒に鑑賞し、「長い人生のなかで辰巳さんご自身が考えてこられたことが込められている作品で、映画の中に多様な答えがあると思います。たとえば、スープあるいはポタージュが持っている“実存的使命”というものを料理家として教えたい・伝えたいだけでなく、辰巳さんのご自身にとっての鎮魂の祈りであると感じました。映画の中でも語られていますが、結婚なさって、わずか3週間の結婚生活の経験や意味が自分にとって何だったのか考え続けていらっしゃった。ある種の喪失感もおありだったと思いますし、自分がなぜ生かされているのだろう、ここにいるんだろうということを考えられてこられたと思います。それを凝縮したひとつの形がポタージュであり、日々料理を作るという行為の中に鎮魂の祈りがある。そこが辰巳さんにとっての料理の本質なのかもしれないと考えました」と感想を伝えた。
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それを受けて河邑監督は、「辰巳さんはスープをとても自由に捉えていらっしゃいます。僕は、一人ひとりが持っている命への祈りだと思いました。例えば、お米にたっぷりお水を入れてお粥にして、『これは日本が誇るお米のポタージュね』というような捉え方をされたんです。辰巳さんにとってスープは一つの象徴です。夫のこともあるし、嚥下障害のお父様を(天国に)送られたこともあるし、いろんな病院で最後の日々を迎えている患者さんが一口のスープで蘇る力がある」と付け加えた。
平松は、ポタージュ特有の魅力について、「必ずしもポタージュでなくちゃいけないわけでもなく、お味噌汁でもいいと思うんです。ただ、ポタージュなどのとろみのあるものって、味を探しながら食べないですか? いろいろな素材や手間や時間が凝縮されている食べもの。病院のシーンで皆さんが召し上がっている時に、ふっと目線が上がって、なにかを探るような視線をされますよね。お味噌汁はすーっと入っていくのでホッとするんですけれど、ポタージュって口に含んだ時に『探り当てる』感覚がある。映画の中で病院の医師が、『辰巳さんのスープは、その人の中のいろんな記憶につながり、触発する』っておっしゃっていましたけれど、言葉を介さずにその人の中の記憶がふっと引きずり出されるような、穏やかに思えるけれどエネルギーがある食べ物だと再認識しました」と話した。
河邑監督は、岡山のハンセン病の宮﨑かづゑさんから辰巳さんに送られてきた手紙について、「宮﨑さんが70年、80年も一緒に過ごしてきた親友が、鼻の癌で、口から物が食べられなくなったから、辰巳さんがテレビの料理番組で紹介したスープを作ったら、半年以上余命が長らえたと手紙にありました。これこそまさに辰巳さんが映画で描いてほしいと言っていた“スープの湯気の向こうに見える実存的使命”だなと」と解説。
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平松は、「宮﨑さんがスープを湯煎で作られていたのにも驚きました。鍋にそのまま火を当てるのではなく、辰巳さんのスープのレシピをそのまま守って、両手でお玉を握って静かにゆっくり湯煎にかけながら火を通していらっしゃる。その一連の場面に、宮﨑さんの考え方や人生がそのまま入っていることが伝わってきて、映像の力を感じました。宮﨑さんと辰巳さんがベンチに座って瀬戸内の海を眺めながら人生を語り合う場面にも心打たれましたが、それが宮﨑さん自身の手紙がきっかけだった事実が重かったです」と感銘を受けた様子。
平松は最後に、「本作は、観た方々がそれぞれに持ち帰って考えることがたくさんある映画だと思います。今後、みなさん一人ひとりの物語にしていただければと思います」と熱いメッセージを送った。
公開表記
配給:ルミエール・プラス
アップリンク吉祥寺にて公開中
(オフィシャル素材提供)