イベント・舞台挨拶

『敵』大ヒット記念舞台挨拶

© 1998 筒井康隆/新潮社 ⓒ2023 TEKINOMIKATA

 登壇者:長塚京三、黒沢あすか、吉田大八監督

 第37回東京国際映画祭3冠受賞の映画『敵』が公開から約1ヵ月の2月15日(土)に都内映画館で大ヒット記念舞台挨拶が実施され、主演の長塚京三、共演の黒沢あすか、吉田大八監督が登壇した。

 映画上映後、満員となった会場からは自然と拍手がわき起こる。そんな熱気あふれる会場の様子に吉田監督も「上映の後に拍手をしていただいてありがとうございます。(舞台袖にいた)僕らのところにも拍手が聞こえてきて。3人ともすごくうれしそうな顔をしてしまいました」と笑顔を見せた。
 1月17日の初日以来、およそ1ヵ月にわたって大ヒットを続けている本作。3人のもとにはいろいろな反響の声が届いているという。「今回はいつになくまわりの人たちや、しばらく連絡が途絶えていた人たちからの連絡が多かった。特に僕の同世代の人とか、同級生たちから熱い感想を送ってくれて。何かが刺さったんだろうなという手応えはありましたね」と吉田監督が語れば、長塚も「道を歩いていると年配の方が『よ!』と声をかけてくれた。ずっと同じ区域に住んでいたのに、これまで声をかけようかどうしようかと迷っていたような方からも『よ!』と気安く声をかけてくれるようになった。そして小学校の同級生にも定期的に会ったりするのですが、そういう方々からも『今回、お前ははじめていい仕事をしたな』という評価をいただきました。この映画のことをとても喜んでくれて、熱く語ってくれた。とてもありがたいなと思いました」と語り、その反響の大きさを実感している様子。

 さらに黒沢も「義理の母が観に行ってくださったんですけど、とにかく長塚さんにメロメロで。LINEに熱い感想を送ってくれました。あとは今テレビ・ドラマの撮影をやらせていただいているんですが、役柄の方向性が変わってきたなということを実感しています。本作ではさほど長い時間、出演していたわけではないんですが、この役を通じて振り幅がある人なのかもしれないというイメージを与えることができたんだなと。(吉田)大八監督にはとても感謝しております」と語ると、吉田監督も「僕も、黒沢さんのこれまでの仕事を見てお願いしたいと思ったので、もし黒沢さんが新しい局面を感じているのだとしたら、それは黒沢さんのキャリアの、長い期間の積み重ねの先にあったものだと思います」とキッパリ返した。

 本作は東京国際映画祭コンペティション部門で、東京グランプリをはじめ3冠受賞したのをはじめ、翌月に香港で行われるアジア・フィルム・アワードでは6部門にノミネートされるなど、高い評価を受けている。そんな本作の評価について長塚も「年の割には頑張ってると思ってくださっているのかな」と冗談めかしつつも、「やはり作品全体のグレードですから。黒沢さんや皆さんに助けられました。また黒沢さんとのシーンも、撮影が楽しかったんですよ。それでこんなご褒美をいただいちゃいけないなと申し訳なくなるくらい。僕は出ずっぱりなので、体力的にはヘロヘロだったんですけど、監督をはじめスタッフの皆さんが本当に優秀な方たちだったので、皆さんに助けられました」と現在の思いを吐露した。

 一方の黒沢は「長塚さんとご一緒して、いかに日々の暮らしを誠実に暮らすことが大事なのか、ということに気づかせていただきました」と語る。若い頃は女優という仕事を極めようと、習い事をはじめたり、身体を鍛えたりということに心を砕いていたというが、「でも何周もしてみて、結局、自分はどう生きるのか。自分がどう生きてきたのか、ということが大事なんだと思った。女性でいえば、顔のしわとか、たるみも出てくるけど、わたしがこれからも俳優としてやっていくなら、これは変に手を加えたりするよりも、このままの流れで俳優業を突き進みたい。もっといろんな知識を入れて、自分で自分を育てないといけないということをそばにいて感じました。そして長塚さんとセリフをひとつひとつ交わしていくうちに、自分が浄化されていくような、まるで空気清浄機のように、長塚さんに吸われて、混じりけのない人間になっていくような感覚があったんです。それははじめての経験でした」とかみ締めるように語る。

 劇中には長塚演じる儀助と、黒沢演じる妻・信子との印象的な入浴シーンがあるが、このデリケートなシーンを撮影するにあたって、まずは黒沢が納得してからではないと、この役をオファーできないと吉田監督は考えていたという。そのことについて黒沢は「わたしが台本を読ませていただいた時に、信子をやりたいと掻き立てたのは儀助との浴室のシーンだったんです。言葉が少ない分、わたしが今まで経験してきた肉体をつかった表現を生かすことができる。ふたりの関係性、たゆたう波のような雰囲気をかもし出し、それを一発で観た方に感じとっていただけるのはこの浴室のシーンしかない。このシーンをやりたいから、できるなら採用していただきたい、と言って面接の場を後にしました」と熱い思いを語ると客席からも拍手が。

 そんな黒沢との共演を振り返った長塚が「若いパワーみたいなものを感じましたね。この方は本当に底力のある役者さんなんだなと思い、タジタジになりました」と語ると、吉田監督も「僕は黒沢さんには日本の俳優には少ないスケール感を感じさせる人。信子という役もそう簡単にはできない役だろうなと思っていた。でも黒沢さんの浴室のシーンにかける、その思いの強さにも圧倒されてしまって。正直、自分が書いた脚本を『大丈夫だったかな』と読み返してしまったくらい。それくらい監督である自分を駆り立ててくれた黒沢さんの存在は大事だったなとあらためて思います」と語る。

 さらにクライマックス付近で儀助が、元教え子の靖子(瀧内公美)と信子らと一緒に鍋を囲むシーンについても。「わたしもこれまでエキセントリックな役を多くやってきたので。スタートと言われると、スイッチが入って感情が突っ走ってしまうんです。でも信子はそういう役ではない。そこを大八監督は見抜いてくださっていて。『感情を上げずに手前で落として』といった感じで演技指摘をしてくださって。信子という役を通してワークショップをしてもらっているような感覚になって。やはりわたしも子育てがひと段落ついて。ここから俳優として再スタートするためには、ここでみっちり教わらないと先がないという思いで何回もやらせていただきました」と振り返った黒沢。
 長塚も「僕もあそこのシーンには一回性というものを感じた。皆さんのエネルギーの発散なども、こういうことは二度とないだろうなという思いで。こうした荒唐無稽なワイルドなシーンは楽しすぎました」と笑う。そしてそんなふたりの言葉を聞いていた吉田監督は「僕は本当に楽しいなという思いで撮影をしていたんですけど。そこに一回性という、そんな目線の高さでやってくれていたという長塚さんの言葉が衝撃でした。まだそのことを受け止め切れていないので、後でもう少し(その言葉について)考えてみます」と驚きを隠せない様子だったが、「ただどんなシーンでもそうですが、この俳優と、このスタッフと一緒にこのシーンを撮るというのは二度とないわけなので。あの(鍋の)シーンも、その目線の高さで言っていただけているということが、あのシーンの力につながっているんだなとかみ締めました」としみじみ語った。

 そんなイベントもいよいよ終盤に。最後に黒沢が「ちょうど子育てが終わったタイミングで信子を託されて。徐々にわたしの俳優業の方向性が変わってきました。作品、役との出合いというのは自分がどんなに頑張ってもどうにかなるものではないですが、ふと自分の力が抜けた時に切り拓かれていくものなんだなということをかみ締めています」と語ると、長塚も「僕自身、とても素晴らしい作品、素晴らしい仲間に会うことができました。一生の思い出です。ありがとうございました」と感慨深い様子で語り会場からも大きな拍手が。さらに吉田監督も「僕はこの映画が完成したところですごく満足したので、完成した後のことを考えていなかった。でも1ヵ月経ってこれだけのお客さまに集まってもらって。ある記事で『敵』を1年上映してもいいんじゃないかと書いてくださる方がいたので、今、そういう欲を持ってもいいのかなと思い始めました。1年とは言いませんが、年末にもう一回、どこかの劇場でこうやってご挨拶できる機会があったらいいなと想像しました」と語ると、会場からは期待を込めた大きな拍手がわき起こった。

公開表記

 配給:ハピネットファントム・スタジオ/ギークピクチュアズ
 テアトル新宿ほか全国公開中

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