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“中華圏のアカデミー賞”と称される2023年11月に行われた第60回台北金馬獎で日本資本の映画として初めて《最優秀作品賞》を受賞し、《最優秀編集賞》との2冠に輝いた映画『石門(せきもん)』(2022)が、ラビットハウスの配給で2025年2月28日(金)からの全国順次公開となる。
米批評サイト“ロッテントマト”で批評家の94%、観客の100%の支持を得る(2024年12月14日現在)など、世界各地で絶賛がやまない本作。中華圏映画のアカデミー賞と称される“金馬獎”の作品賞、編集賞を受賞し、その他にもベネチア国際映画祭「ベニス・デイズ部門」、トロント、香港、BFIロンドン、ニューヨークなど、世界の主要映画祭が絶賛、8受賞11ノミネートされている。
監督を務めるのは、北京電影学院で脚本を学んだホアン・ジーと、日本でドキュメンタリー制作に従事した後、2005年中国へ移住した大塚竜治。夫婦でもあるふたりは、表現に対する統制が強い中国において女性の性を描写する先駆者として作品を制作し続けてきた。『卵と石』(12)で少女の性被害を題材に衝撃的かつ社会性を感じさせるデビューを果たし、2作目の『フーリッシュ・バード』(17)では女子高校生の性が搾取されるさまを描いた。彼らは一貫して女性の視点や経験を重視し、社会的なタブーを映し出すことに挑戦してきた。(『石門』に続き2作品とも日本初公開が予定されている)
金馬獎≪最優秀作品賞≫受賞『石門』に続いて『卵と石』『フーリッシュ・バード』公開が決定
ホアン・ジー&大塚竜治 両監督のスペシャルインタビューが到着!
金馬獎《最優秀作品賞》二冠に輝いた『石門』の公開が間近に迫り、ホアン・ジー監督の長編デビュー作『卵と石』、ホアン・ジーと大塚竜治が初の共同監督を務めた『フーリッシュ・バード』の公開も決定。映画ファンからの注目集まる中、両監督が3作品を語るスペシャル・インタビューが到着した。
予期せぬ妊娠に直面した女性の姿を追った『石門』は、妊娠から出産と同じ10ヵ月をかけて撮影を行った。両監督のスタイルは、俳優経験のないキャストを起用し、事前に詳細な脚本を作らず、あらすじをベースに現実の出来事を反映して作品を作りあげるのが特徴だ。大塚監督は、「中国は都市と地方によって、生活習慣や考え方が本当に違います。脚本を書く際、監督の思想だけでは書ききれないぐらい、さまざまな考えがあります。そのため、出発点は我々の発想から始まっていきますが、出来上がった作品の中でも本当に実在する人物の考えを反映させることによって、映画の物語を紡いでいきました。周りの方々にも真似できない、唯一そこだけで起こっていることが描かれたりしていますので、観客に届いてくれたらいいなと思っています」と、その独自の手法の狙いを語る。
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「映画が誕生して以来、さまざまな物語が語られてきました。その中で、私たちは現実の中で瞬間的に発生した出来事を積極的に映画で記録し、それを積み重ねることで、何かを伝えたいと考えています」と語る通り、撮影期間中に見舞われた予期せぬパンデミックも物語に組み込んだ。「この映画は2019年に撮影され、コロナがまだ来ていない頃の半年間の人々の暮らしが映っています。画面に映る人たちは、まさかその後すぐにコロナが襲ってくるなんて思っていなかったでしょう。彼らの表情には、今とは違う明るさが感じられます。そして、私たちはあの頃にはもう戻れないんだなという寂しさを感じます。あの時の私たちは、どんな未来を想像していたのかと考える時があります。今となっては貴重な映像です。主人公のリンは、コロナ禍に直面するとともに、自分自身の人生の大きな決断を迫られます。彼女が下した決断と、思い描く未来を、ぜひ一緒に見守ってほしい」と、誰もが明日を信じられなくなったコロナ禍との対峙、日常生活の変化など、時代の空気感をこの映画を通して受とめてほしいと語っている。
ホアン・ジー監督は、2022年の東京フィルメックスでの体験を述懐する。「10年前に『卵と石』を東京で上映された時に鑑賞しましたが、過去に自分が経験したことと、主人公が経験したことが同じで、本当に感動しました。過去に性被害に遭いましたが、今は結婚して幸せに暮らしています」とひとりの女性に涙ながらに伝えられ、ハグされたことが忘れられないと語る。続けて、「『石門』完成から時間が経ち、ついに日本で公開されることが決まり、日本の皆さんに観ていただくことができる。そしてこの10年の間に撮った3本の作品を合わせて観ていただくことができるのを、とても嬉しく思っています」と日本で3作品がほぼ同時に公開されることを喜ぶ。
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3作品を通して主人公を演じているのは、初の長編監督作品『卵と石』撮影地の学校で、ホアン・ジー監督が見出したヤオ・ホングイだ。
10年の付き合いとなるホングイについてホアン・ジー監督は、「彼女の魅力は、何かを大きく包み込むようなところがあるところ、そして我慢強い点だと思っています。現代の人は自分の怒りや、他人への態度を、いろいろな方法で表現することが多いと思いますが、彼女は自分の中で怒りがあっても、態度で示したり言葉で人を傷つける等、直接表現することをしない人だと思っています。彼女の中の進歩や成長が非常にゆっくりしている点も魅力だと思います」と、急激に都市化が進んだ中国で、マイペースに生きるホングイの個性は貴重だと語る。
大塚監督も、「周りの人々の社会や生活はすごいスピードで変化しているのに対して、彼女はすごくマイペースで、独自の世界観をずっと保っています。普段我々の生活の中でも、流されて生きていく人が多い中、なかなかそのような子に出会うことは少ない。彼女自身、軸を持っている点が非常に魅力的だと考えています」とホングイには天性の資質が備わっていると指摘する。「普段、周りに流されて生きていると、さまざまなことを見過ごしたり、避けてたりしてしまうことがあります。3部作の主人公も、周りから見過ごされたり、避けられたりしている一人です。この映画をきっかけに、こうした人々が身近に存在していることに気づいてもらえば、それだけでも観る価値があるのではないかと思います。また、同じ主人公が実年齢に合わせて成長していくので、3作品を通して観ることで、ひとりの人生を10年間見続けるという貴重な体験ができるのではないかと考えています」と、ホングイとの10年間に渡るコラボレーションとなる3作品を観て欲しいと願っている。
さらに、ホアン・ジー監督は、「私たちの作品を鑑賞された中国の観客の皆さんから「日本映画に似ている」と言われる機会が多くありました。それは大塚さん自身が日本人としての雰囲気を持っているところもあると思います。どの作品も中国的なところや日本的なところを備えている点があるので、そのあたりを味わって鑑賞いただけたらと思っています」と、溝口健二、小津安二郎、成瀬巳喜男ら、日本の名監督が描いた世界観にも通じる作品であることを強調する。その上で、「私は、日本の観客の皆さんが、中国人である私と、日本人である大塚さんの2人の“夫婦”の監督が撮った作品を、どのように観てくれるのかを楽しみにしています。またそれは、日本の観客の皆さんにとって、また新たな“門”を開くことになると考えています。観ている時や観終わった時、ふと思い直した時に、何かしらの“門”が開けたなと思うような感覚になるのではないでしょうか」と、作品が訴えかける希望を全身で感じ取ってほしいと語っている。
中国出身のホアン・ジーと日本出身の大塚竜治、“夫婦”監督が独自の手法で紡ぎ出す唯一無二の世界観、『石門』と合わせて、『卵と石』、『フーリッシュ・バード』の3作品を、ぜひ劇場で体感していただきたい。
私たちが歩む道の先には、石のように重い扉が立ちはだかる。
第60回金馬獎《最優秀作品賞》《最優秀編集賞》2冠受賞作品『石門』は、2月28日(金)より全国順次公開!
監督紹介
ホアン・ジー
1984年、中国湖南省生まれ。
北京電影学院(2003-2007)の文学科で脚本を学ぶ。大学時代、生まれ故郷である湖南省で撮影したドキュメンタリー『Underground』で監督デビュー。2010年に、短編『The Warmth of Orange Peel』の 脚本・監督を務め、ベルリン国際映画祭に出品する。2012年、初長編『卵と石』でロッテルダム国際映画祭でグランプリにあたるタイガー・アワードを受賞し、2013年、アンドレイ・タルコフスキー国際映画祭グランプリを受賞した。
2017年、大塚竜治と共同監督した長編第2作『フーリッシュ・バード』が、ベルリン国際映画祭でジェネレーション14+部門で、国際審査員のスペシャルメンション(準グランプリ)を獲得した。2022年の最新長編第3作『石門』はヴェネチア国際映画祭ベニス・デイズ部門でワールドプレミアを行った。近年では、若手の映像作家を育成のためにワークショップの開設や、脚本指導などを行なっており、2023年の山形ドキュメンタリー道場5にメンターとして参加した。
大塚竜治
1972年、東京生まれ。日本のテレビ番組でドキュメンタリー制作に従事した後、2005年に中国に移住。
社会問題をテーマにしたインディペンデント映画を制作する。ホアン・ジー監督の全作品、リウ・ジエ監督『再生の朝に-ある裁判官の選択-』(2009)、イン・リャン監督『自由行(A Family Tour)』(2018)、ガオ・ミン監督『回南天(Damp Season)』などの撮影監督も務めた。2013年、ホアン・ジーと共同監督したドキュメンタリー作品『Trace』が香港国際映画祭でプレミア上映された。翌年には、初の単独監督作品『Beijing Ants』(2014)が Hot Docsで発表される。2015年、ベルリン国際映画祭(Berlinale Talents)に参加し、2017年の『フーリッシュ・バード』と2022年の『石門』を共同監督とプロデュースした。アジア各国からスタッフを集め、国境を超えた映画づくりを目指している。2023年の山形ドキュメンタリー道場5にメンターとして参加した。
『石門』あらすじ
2019年、中国湖南省の長沙市。単発の仕事で日々お金を稼ぎながら、フライトアテンダントになるための勉強をしている20歳のリン。郊外で診療所を営んでいる両親は、死産の責任を求めて賠償金を迫られていた。ある日リンは、自分が妊娠一ヶ月であることを知る。子供を持つことも中絶することも望まなかったリンは、両親を助けるため賠償金の代わりにこの子供を提供することを思いつくのだが…。
『石門』作品情報
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監督:ホアン・ジー、大塚竜治
出演:ヤオ・ホングイ、リウ・ロン、シャオ・ズーロン、ホアン・シャオション、リウ・ガン
2022|日本|中国語|2時間28分|DCP|原題:石門|英題: Stonewalling|配給:ラビットハウス
公式HP: https://stonewalling.jp/(外部サイト) 公式X: https://x.com/usaginoie_film(外部サイト)
『卵と石』作品情報
監督・脚本:ホアン・ジー
撮影・編集:大塚竜治
主演:ヤオ・ホングイ
2012|中国|中国語|スクリーンサイズ:ビスタ|1時間45分
『フーリッシュ・バード』作品情報
監督・脚本:ホアン・ジー、大塚竜治
編集:リャオ・チンソン、大塚竜治
音楽:リン・チアン
主演:ヤオ・ホングイ
2017|中国|中国語|スクリーンサイズ:シネスコ|1時間57分
公開表記
配給:ラビットハウス
2025年2月28日(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、シネリーブル池袋ほか全国順次公開