
登壇者:染井為人(「悪い夏」原作者)、SYO(映画ライター)
3月10日(月)に開催された映画『悪い夏』上映後のトークショーに、本作の原作者の染井為人が登壇した。染井といえば、芸能関係のマネージメント職や舞台プロデューサーなどを経て作家に転身。「悪い夏」は、デビュー作にして第37回横溝正史ミステリ大賞優秀賞受賞という快挙を達成、2024年に公開され、国内の映画賞を席捲している『正体』(監督:藤井道人)の原作も手掛けており、今、映画界からも熱視線を浴びている作家の一人ともいえる。
原作が出版されたのは、2017年。染井は、(デビュー当時は)素人だったから、と自嘲気味に前置きしつつ、「タブーと言われそうなことは考えず本当に自由に書いていた気がする」と振り返った。その発想が、本作に登場するユニークなキャラクターたちを生み出したわけだが、構想について問われると、明確にこういうキャラクターを出そうとか、そういうことは思わなかったという。「計算して、これを出そうとしたわけではなく、書いてるうちに、この人は本当はどういう人なのかな、この人にも実はなんかいろいろ事情があるんじゃないかなって思いながら、彼らの視点にしていった方が面白いかな」と、ライブ感ある流れの中で、出来上がっていったことが明かされた。
そんなキャラクターたちが、映像の中で躍動している本編を見た染井は、キャスト陣の演技に驚かされたという。主人公の佐々木を演じる北村匠海については、「すごいな、と。本当に、死んでる目をできている」と闇堕ちの体現ぶりに圧倒され、愛美役の河合優実については、共演者たちが、“(演技の)バケモノ”が出てきたなと表現を使っていたことに、自分も納得したと言い、金本役の窪田正孝については、撮影現場で挨拶した際の穏やかなたたずまいから、「怖くないじゃん、と思って映画を観たら、めちゃくちゃ怖い(笑)」とその役作りに驚いたそうで、自分自身の物作りにおいても、勉強になったそうだ。
今回の映画化にあたり、原作と映画ではラストが違っていることに話題が及ぶと、「全然ウェルカム。脚本読んだ時に、すごいなと思った」と、向井康介の脚本を賞賛。向井からは、原作そのままにしただけですよ、と返されたそうだが、「プロの技を見せられたっていう感じがした。それで、城定さんがああいうふうに撮る。だから、こんなすごい映画になったのではないかなという気がする」と、映画版ならではの展開も楽しめたという。
原作の映画化というつながりで話題は、今週金曜日に、各部門の最優秀賞が発表される「第48回日本アカデミー賞」へ。本年度の最多12部門13の優秀賞に輝いている『正体』は、染井の原作小説を映画化したものだ。来年は、『悪い夏』が、日本アカデミー賞を席捲するのでは?と聞かれると、「必ずノミネートされると思うし、たくさんの賞を獲るんじゃないかなという気がする。なかなか、今はこうやって攻めた映画も少ないと思う」と、気持ちを明かした。「(観終えたあとに)ある種ちょっとした疲労感とともに、ちょっとした爽快感と、なんかすごいものを見たっていうような気分になると思う。スタッフやキャストたちと一緒に試写を観たとき、みんな同じ顔をしていたんですよ。本当にぐったり疲れていて、でもすごいものを見た、という感じだった」と、作品の持つ圧倒的なエネルギーを力説する一幕も。
そして、それを生み出した元にあったのは、3人の目線が似ていたことだった、という。「(原作者としては)自由に作ってください、という感じでお伝えした。やっぱりこういうふうに、こんな良い作品が出来上がったということは、城定さんと向井さんと僕とが、共通の思いというか、目線がちょっと似ていた。3人で話しをしていてすごく思ったけれど、それがカチッとはまった。それがベースにあった上で、これだけ素敵な役者が出てくれたから、なんかパワフルで、エネルギッシュな映画になったんじゃないかなと思う」と、奇跡的なめぐり合わせから、本作が誕生したことが分かった。
真面目に生きる気弱な公務員の破滅への転落と“今そこにある”恐怖を描く狂乱のサスペンス・エンターテインメント『悪い夏』は3月20日(木・祝)全国公開する。
公開表記
配給:クロックワークス
2025年3月20日(木・祝) 全国公開
(オフィシャル素材提供)