
登壇者:葵 揚、有山実俊、金子雅和監督
3月22日よりユーロスペースにて公開の映画『光る川』(カルチュア・パブリッシャーズ配給)。
この度、渋谷・ユーロスペースにてキャスト・監督登壇の初日舞台挨拶が行われ、朔役の葵 揚、ユウチャ・枝郎役の有山実俊、そして金子雅和監督が登壇した。
映画上映後、その余韻に浸る観客の前に立った金子監督は「この作品は1年半前の、2023年9月に撮影をしておりました。そこからいろいろな経緯を経て完成して。海外の映画祭などで上映され、ようやく日本のお客さまに届けることができてうれしく思っております」と挨拶。
本作の成り立ちについて金子監督は「もともと16年くらいかかった企画の中で、自分は最後の2年間くらい関わっただけなのですが」と前置きしつつも、「僕にとっては3本目の長編映画なのですが、もともと2004年に出版された『長良川: スタンドバイミー一九五〇』という小説があって。やはり岐阜県には長良川を愛している地元の方が多いので、これを映画化したいということで2008年ごろから企画がスタートしたと聞いております。ただ映画をつくるのは大変で、途中でプロデューサーが代わり、監督が代わってと二転三転する中で、たまたま知り合いのプロデューサーが担当することになり。2022年の今ごろに自分のところにきました。僕も自然を舞台にした映画をつくってきたので、『川を舞台とした映画に興味がないか?』とお話をいただいて、そこから原作を読ませていただきスタートしました」と説明。

だが原作はありつつも、創作においては自由に行うことができたと言い、「原作者の松田悠八さんからは、金子の世界観で、自由に飛躍してくださいと快く言っていただいて。なので原作はありながらも、インスピレーションの源として。かなりオリジナルに近い形でシナリオを発展してつくりました」と述懐。また本作は壮大なロケーションが印象的だが、このロケ地はどのようにして見つけたのだろうか。「通常は製作部がシナリオをもとに撮影場所をいくつか探してきて、監督やカメラマンがそこから選ぶということが多いけど、自分の場合は100%自分の足で歩いて探すというやり方をやっています。地元の林業者の方にお会いして、紹介していただいたり、自分と監督補とで長良川を根掘り葉掘り歩き回って。本当に約30日くらい、朝から晩まで探し続けたという感じです」と明かす金子監督だが、「ただロケ探しに関しては一冊の本になるくらいいろいろありましたが、100%オール岐阜ロケで行いました」と明かした。
そんな自然と向き合った撮影について葵も「映画をご覧になっていただいてお分かりの通り、圧倒的な大自然の中で撮影したんですが、僕らが支度する場所としてお借りしてたのが(岐阜県郡上市の)星宮神社。そこの正面に鳥居があって。そこにかかっているしめ縄が立派で大ぶりな房がついていて。神社とか、房とか、しめ縄をつけるような場所には地域の方にとっても信仰心がある場所。そういう意味でも、その場所は神聖で大切にされているので、ありがたいことに原生林が昔と変わらない場所で残っているんです。だからそこで撮影するにあたっては真剣に向き合わないといけないなと思ったので、一同、入る前には礼をして撮影に挑んでいましたね」と振り返る。

一方の有山が大変だったところは「山」だったという。金子監督が「大人でもすべるほど足元が悪い」と振り返るなど、決して楽な撮影環境ではなかったというがそんな撮影についても、葵は「山も舗装されたところではなかったので、足場もなくて。落ちるかもしれないけど、きれいな場所なので気をつけてもらいながら行ってみましょうということになり。険しい道を行きました。でも(有山)実俊くんは意外とヒョイヒョイと行って。若いってすごいです」と冗談めかすと、「葵さんも若いでしょ」と司会者からツッコまれ、会場は大いに沸いた。
この日は終始、しっかりとした受け答えをして、会場を笑顔に包み込んだ有山だが、撮影現場では9歳(間もなく10歳)の男の子らしい側面も垣間見えたという。「ここにいる実俊くんは、ルービックキューブにハマっていて。お母さんがグジャグジャとバラしても、5秒くらいで完成させるのを見て、天才だと思いましたね」と驚きを隠せない様子の葵に、「天才ではありません!」とキッパリと返し、会場を沸かせた有山。

そんな彼を見て葵が「実俊くんが本当に成長しましたね」と笑顔を見せると、金子監督も「今ではすっかり男の子らしさが出てきたけど、映画に出演していた時は男の子とも女の子とも言えるような感じで。ポスターを見ても女の子だと思った人もいるくらいで。でもキャスティングをするときも、ユウチャがふたつの世界の中間にいるという感じを出したかったので、男の子にも女の子にも捉えることができるというのはいいなと思ったんです。でも今はすっかり男の子だね」とその成長ぶりに目を細めた。

Youtubeにアップされているこの映画の予告編は、現時点で28万回再生を突破しているが、その中のコメントでも葵の筋肉に注目が集まっているとのこと。そんな葵に、山の民を演じるにあたっての身体づくりについて質問が及ぶと、葵は「こんなすてきな作品で筋肉が注目されるのは恐縮ですが」と照れ笑いを浮かべつつも、「僕としてもこの作品で見応えがあるようにはしたかったので、身体づくりは意識しました。山の民がどういう生活をしているのかを想像するに、自然に対して謙虚で、必要以上にはそこにある植物、動物はいただかないという考えがきっと彼らにはあるだろうと思ったので。撮影前は必要以上に動物のものをむやみにとらないようにして。ただ身体が大きいとか、筋肉隆々という感じではなく、山に住んでいるのが自然であるような、より説得力がある感じにしたいと思いました」。

本作は第62回ヒホン国際映画祭でユース審査員最優秀長編映画賞を受賞したのをはじめ、第45回ポルト国際映画祭や、第2回沖縄環太平洋国際映画祭などに正式出品されるなど、国内外の映画祭でも高い評価を受けている。そんな金子監督に向かって、葵、有山からサプライズで花束のプレゼント。


そんなふたりからのサプライズに笑顔を見せた金子監督は海外での反響について聞かれると、「物語がシェイクスピアなどの古典的な物語を想像させると。日本の話なんだけど、ヨーロッパの人にも伝わるところがあると同時に日本でしか撮ることのできない物語でもあると。過去の日本を描いているが、今の日本を表していると言われました」と語ると、「今後も海外の映画祭が決まっているので、どんどん広がっていくと思います」と期待を寄せた
そんな舞台挨拶もいよいよ終わりの時間を迎え、最後に葵が「今、僕らが抱えている問題や、自然をどう捉えたらいいのか、といった問題が世界でも議論されていますが、その中でユウチャのお父さんがやっていた林業なども、彼なりに真剣に考えて生きている。そして僕らが演じた山の民も、自然とどう共存していくかを考えていて真剣に生きている。そして真剣だからこそ、いろんな議論が生まれ、いろんな問題にも通じていることだと思うんです。それを映画の力を借りて、いろんな人に観ていただいて。何かを考えるきっかけとなったらうれしいです」と挨拶。
続いて有山も「今日は来てくださってありがとうございました。そして……」と挨拶するが、次の言葉をどう紡ごうかとしばし黙考。そんな彼を激励すべく「頑張っていたわよ」という客席からの声援に「ありがとうございます」と謝辞を述べた有山。その流れで「キャストの皆さんもいっぱい頑張ったので、皆さんも頑張ってください」と挨拶し、会場をドッと沸かせた。

そして最後に金子監督が「皆さんもご存じの通り、映画というのは口コミで広がるものなので。今日観ていただいた方、楽しんでいただいた方にドンドン広めていただけるとうれしいです。子どもの世代から、幅広い世代の方に観ていただける作品になったので、末永く観ていただきたい」と語ると、「映画を観ていただければ分かる通り大変な撮影でしたが、頑張ったふたりに、僕からもサプライズ」という言葉を添えて、葵と有山に花束のプレゼント。会場には終始、祝祭ムードが広がっていた。
公開表記
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
ユーロスペースほか全国順次公開中
(オフィシャル素材提供)