
登壇者:井上 肇、アッシュ・メイフェア監督
3月21日(金)から公開がスタートした映画『その花は夜に咲く』の、アッシュ・メイフェア監督が来日し、本作に出演する井上 肇とともに3月22日(土)にシネマート新宿でワールドプレミア記念舞台挨拶に登壇した。
今作で、愛し合う若いふたりを夜の闇へと飲み込んでゆくサイゴンの街を取り仕切るフィクサー、ミスター・ヴーンを演じたのは昨年の大ヒット作『侍タイムスリッパー』で撮影所所長を演じた名バイプレイヤー、井上 肇。今作では単身ベトナムへ渡り、初挑戦となるベトナム語で全編を演じ切り、圧倒的な存在感を放っている。メイフェア監督が魂を捧げて作り上げた衝撃のラブ・ストーリーがどのように作り上げられ、世界で初めて本作を鑑賞した日本の観客はどう見たのか。観客と活発で濃密なQ&Aも行われた。
Q:本作のワールドプレミアにあたってメッセージをいただけますか?
アッシュ・メイフェア監督:制作に7年かかった本作の物語を皆さんとシェアできて本当に感激しています。日本の「タレンツ・トウキョウ」からも助成を受けて、日本のチーム、世界から集まったチームによってこの映画が完成し、お披露目できたことに本当にワクワクしていますし、ミラクルです。また井上 肇さんとも再会できて感動しています。井上さんは映画の中だけでなく、映画の外の世界でも美しいです。
井上 肇:謎のパトロン、ミスター・ヴーンを演じた井上です(笑)。撮影から1年10ヵ月ぶりに監督とも会えて、ようやく公開することができて感無量です。今日は、映画で使った衣装で登壇しました。撮影後にこの衣装一式をメイフェア監督が送ってくれたんです。ベトナムに単身行って全編がベトナム語という難しい役でしたが、いい映画にしたいという一心で役者生命をかけて演じました。
Q:90年代を舞台にした理由と、いまのベトナムの社会状況を教えていただけますか?
メイフェア監督:この映画は私の故郷であるホーチミンへのラブレターなんです。自分が子どもの頃で色彩や音楽が大好きなんです、それまで禁じられていたアメリカのファッションが突然入ってきて、・ウォン・カーワイの映画や『タイタニック』を見て影響を受けたことを覚えています。
またこの映画は、トランスジェンダーが主役を務める、初の長編劇映画なんです。実はこの映画がベトナム本国で公開できるかとうのがまだ分かりません。この作品をきっかけに、世界の、そして特にベトナムのLGBTQコミュニティ、若いトランスコミュニティへのメッセージとなればいいなと思っています。あなたは確かに存在している。あなたたちの「物語」は見られ、聞かれ、そして語られる価値があることを感じてもらいたいと思っています。

Q:撮影時の役作りやエピソードを教えてもらえますか?
井上:監督からミスター・ヴーンはベトナム人ではなく「異国人」だと言われてイメージしやすかった。もちろんベトナム語を話すので言葉を覚えるのが一番大変でしたけども。アッシュ監督が持っているキャラクターへのイメージがスッと入ってきて集中して演じることができました。

Q:井上さんにどのような点に惚れ込んで起用したんでしょうか?
メイフェア監督:ミスター・ヴーンの色彩、影、ニュアンスは井上さんがもたらしてくれたものなんです。当初は白黒はっきりしたキャタクターだったんですけどもリハーサルしていくうちに予期せぬ側面が見えてきて、それがミスター・ヴーンのサンへの愛情なんです。彼にとってサンは天使のような存在で、彼女に変わらないでいて欲しいと望んでいたと思うようになったんです。
Q:LGBTGのキャラクターが登場すると抑圧や悲しみなどダークな側面を描かれがちだと思うんですが、この作品でそう描くことをなぜ選んだのでしょうか。
メイフェア監督:自分には弟がいまして、18歳なんですけども、2歳くらいの時に「僕は女の子じゃなくて男の子だ」と言ったんですね。その時に自分の中で深くハッとすることがあって、初めてトランジェンダー・ユースという言葉を調べました。それが16年前で、2年前にカミングアウトしているんですが、彼が経験するであろう道のりにずっと寄り添いたかったんです。
ベトナムのトランスジェンダーの方々が自分たちの物語を積極的に語ってくれました。この作品はパッチワークのように、いろんなところから人々が集まって作る家族の物語でもあると思っています。たくさんの方から聞いた物語から作り上げました。この物語から見えてくる一条の光、それは希望と言ってもいいと思いますが、物語が語られること、そして分かち合えることは大切なんではないかと思います。
公開表記
配給:ビターズ・エンド
3月21日(金)〜シネマート新宿ほか全国順次公開
(オフィシャル素材提供)