
(前列左から:エリック・パワー/押山清高/アダム・エリオット/ジョヴァンニ・コロンブ)
世界で初の長編アニメーション中心の映画祭として、また多岐にわたるプログラムとアジア最大のアニメーション映画祭として、漫画・アニメのクリエイターを数多く輩出してきた“アニメーション首都”新潟にて行われる新潟国際アニメーション映画祭。
アニメーションのトレンドを先取りしたセレクション、そして国内外の第一人者のクリエイターたちの生の声を聞ける機会とあって、新潟のみならず国内外からファンが駆けつけて、昨年の参加者数2万4000人の参加を上回りそうな熱気を見せている。
6日間に及ぶアニメーションの祭典もいよいよ閉幕。最終日となる3月20日はクロージングセレモニーが行われた。
優れたアニメーション制作スタジオに贈られる【大川博賞】、アニメーションの技術スタッフに贈られる【蕗谷虹児賞】の授賞式、そして映画祭の華・長編コンペティション部門の授賞式も行われ、グランプリには『ルックバック』(押山清高監督)が選ばれた。

【長編コンペティション部門 受賞結果】
<グランプリ>『ルックバック』

監督:押山清高(日本/2024年/58分)
学年新聞で4コマ漫画を連載している小学4年生の藤野。クラスメートからは絶賛を受けていたが、ある日、不登校の同級生・京本の4コマを載せたいと先生から告げられる……。正反対の二人の少女をつないだのは、漫画へのひたむきな思い。しかしある日、すべてを打ち砕く出来事が……。胸を突き刺す、圧巻の青春物語が始まる。
【マヌエル・クリストバル審査員長 コメント】
完璧なテンポと美しくレンダリングされたキャラクターたち。テーマの中にも、作り手にも新たな発見がある映画だ。
この作品の技術、ストーリー・テリング、そして成熟度を高く評価したい。
この新鮮で、かつエキサイティングな監督の新作に期待が高まる。
【監督受賞 コメント】
本当に多くのアニメーター、多くのスタッフに支えられてできた映画です。近年、AIでアニメーションが作れる時代になっていくだろうというニュースをまさに『ルックバック』を作っている最中に見ました。日本のアニメ業界は、多くのクリエイター集団が日々切磋琢磨して作り上げてきたその技術力を共有し合いながら作品を生み出しています。たぶん今後こういう技術の継承みたいなものは、これまでのような形では生き残ることが難しくなるのかもしれない。『ルックバック』のように隅々まで人の手で作り上げるということは、これからの時代ますます難しくなっていくだろうという思いもあって、この作品は僕の中でも、今の時点での記念碑のような気持ちで作っていました。人の手によって生み出されるプロセス、ヒストリーなどの価値は今後ますます高まっていくだろうと思っていますので、僕もアニメをこのままなるべく長く作り続けられるといいなと思っています。

<傾奇賞>『かたつむりのメモワール』

監督:アダム・エリオット(オーストラリア/2024年/94分)
本年度アヌシー国際アニメーション映画祭クリスタル賞(最高賞)受賞! カタツムリ集めが心の拠り所である孤独な少女グレースが、奇妙な女性ピンキーとの友情を通して希望を見出していく様子を描く、驚きとユーモア、そして感動のクレイ・アニメーション。アカデミー賞®受賞経験を持つアダム・エリオット監督が、初長編『メアリー&マックス』以来、1コマずつ丁寧に、8年の月日をかけて完成させた傑作。
【マヌエル・クリストバル審査員長 コメント】
感傷に流されることなく、繊細さと共感をもって、虐待され見捨てられた二人の子どもの物語に挑んだ見事なストーリー・テリング。
精緻な技巧と細部へのこだわりが光る本作で、エリオット監督は力強く心を揺さぶるアニメーション寓話を生み出した。
【監督受賞 コメント】
この作品は制作に8年かかりました。過去10ヵ月、いろんな国や地域を回ってこの作品のプロモーションを続けてきました。今回が最後の映画祭にもなるので、このような形で自分の冒険を終えられたことをものすごく嬉しく思っております。この10ヵ月、いろんなところでストーリーテリングの重要さ、インディペンデント・アニメーションの重要さというものを語ってきました。今アニメーション業界は脅威にさらされています。一番大きな脅威と言えるのはAIだと思いますが、私の作品の一番最後に入れている言葉が“この作品は人間の手によって作られました”という文字です。一番いいストーリー、一番いい芸術というのは人間にしか作れないと思っています。この映画祭を通して新しい若いフィルム・メーカーや学生たちがどんどん作品を作り続けてくれるのでは、という希望を抱いていますし、私たち全員が団結すればアニメーション業界も強くなるかなと思っているので、強くなって喜びや心の安堵を与えられるような作品をみんなで作り続けていきたいです。

<境界賞>『バレンティス』

監督:ジョヴァンニ・コロンブ(イタリア/2024年/72分)
1940年に実際にサルデーニャで起きた実話を元にした作品。ファシズムが支配する第二次世界大戦の直前、軍の農場から馬が盗まれる。主犯の11歳と14歳の少年たちは、ただ馬を戦争と死から救いたかっただけなのだ。彼らの目論見は成功し馬たちは解放されたが、その帰路で農村民兵に捕まり、一人が殺されてしまう。
【クリスティン・パヌシュカ審査員 コメント】
この美しくも先見的な作品は、圧巻の音響設計とともに、精緻なグラフィック表現とともに、観る者を悲劇的な物語の世界へといざない、唯一無二の映像体験を生み出している。
この独創的な映画は、大胆で、勇敢で、獰猛であり、『バレンティス』が世界中で発見され、称賛されることを願っている。
【監督受賞 コメント】
とても嬉しく思っています。本当に皆さんありがとうございます。素晴らしい映画祭に来て、素晴らしい街を見て、街のいろんな優しい人たちと会って、貴重な体験で嬉しくてしょうがない気持ちです。

<奨励賞>『ペーパーカット:インディー作家の僕の人生』

監督:エリック・パワー(アメリカ/2024年/87分)
芸術の世界での数々の試練と苦難に焦点を当てたアニメーションによる回顧録。監督エリック・パワーは20年以上にわたりpapercuts(切り絵)を用いたストップ・モーションを専門とするインディーズのアニメーターとして活動している。アニメーションという素晴らしい世界に人生を捧げたエリックの人生の浮き沈みを体験する世界に出発!
【松本紀子審査員 コメント】
インディペンデント・アニメーション制作の奮闘を、観客と共有する実に魅力的な旅を味わえる作品。
この誠実で温かみのある作品は、エリック・パワーの3人の息子たち、そして彼と共にアニメーション制作という素晴らしい道を歩んできた私たち全員にとって大切な、次世代に受け継がれるものとなるだろう。
【監督受賞 コメント】
この作品は一人のアーティストとしてどのような過程を経ないといけなかったかという、アニメーターとしての苦戦を描いたものです。こちらの映画祭ではアニメーション・キャンプも行っているので、若い人々に今後も制作を続けていく活力を与えられていればいいなと思いますし、私自身の作品も若い方々のインスピレーションになっていればいいなと思います。もちろんこの道はものすごく辛いものであり、いろんな人から却下されるようなこともありますが、たまに今日のように勝利を勝ち取ることもできます。ありがとうございました!

マヌエル・クリストバル審査員長 総評
審査員長として、また、共に審査を務めたクリスティン・パヌシュカ氏、松本紀子氏を代表して、まずは、映画祭の主催者の皆さまに心より感謝申し上げます。温かいおもてなし、プロフェッショナリズム、そして、選び抜かれた世界各国からの12本の長編アニメーション映画という素晴らしいセレクション。本当にありがとうございました。
今年のラインナップは、実に多様性に富んでいました。新潟国際アニメーション映画祭に参加された皆さまは、国際的なアニメーション映画の現状、そして、ここに集まったプロデューサー、脚本家、監督たちが生み出した驚異的な作品を堪能されたことと思います。
私たちは、アニメーションこそが、最も大胆で、獰猛で、感動的で、そして心を揺さぶるストーリーを届けることができるものなのだと強く確信しています。そして、今回の受賞作品はまさにそれを体現するものです。アニメーションという形で作られた素晴らしい映画です。世界のどの映画祭においても受賞に値するものばかりです。
実を言うと、今回の4つの受賞作品を決定することは、意外にも難しくありませんでした。クリスティン・パヌシュカ氏のA-B-Cスコア方式という魔法のような評価システムに導かれたこともありますが、それ以上に、審査が始まった瞬間から、この4作品が際立っていたことは明らかだったからです。それぞれの作品が、その努力にふさわしい価値を持っていると確信しています。
作品の傾向について語るよりも、ここで私が伝えたいのは、インディペンデント・アニメーションが今、非常に活気づいているということです。それどころか、今やインディペンデント・アニメーションは、魅力的で、刺激的で知的で、そして無限の可能性を秘めています。どうか、これからも作品を作り続けてください。物語の新たな境界を切り拓き、世界を驚かせ続けてください。
皆さまの努力と、そして素晴らしい作品に、心から感謝を申し上げます。ありがとうございました。
【大川博賞:シンエイ動画】
受賞コメント:梅澤道彦(シンエイ動画株式会社代表取締役社長)
選んでいただいた方々、それからシンエイ動画制作の映画を劇場でみていただいた観客の皆様のおかげでこの賞を頂けたと思っております。シンエイ動画は1976年に設立、来年でちょうど50年になります。一番有名な作品はドラえもん、クレヨンしんちゃんなどの映画ですね。一体何本作ったんだろうと数えましたら、短編も含めてこの49年間で120作品作っております。これからもこの賞を励みに、新潟の方々、日本全国の方、世界中の方に素敵なアニメをお届けできたらいいなと思っております。
【蕗谷虹児賞】
押山清高(作画)、井上俊之(作画)、木村絵理子(音響監督)、林ゆうき(音楽)
受賞コメント:押山清高(作画)
今回は作画ということで顕彰いただいてありがとうございます。僕はアニメーターとして20年ぐらいこの業界にいるんですけれども、“蕗谷虹児賞”ということで、東映動画と関係ある蕗谷さんとは世代が離れてしまうんですけれども、僕もジブリでアニメーターとして仕事させてもらっていたので、少なからずその遺伝子みたいなものは僕の作画スタイルに受け継がれているのかなと思います。『ルックバック』は監督ではあるんですが、アニメーターとして映画全体の約半分、350カットくらいを描きました。『ルックバック』は絵描きが主人公の物語です。私自身が監督であり、いちアニメーターとして、自分自身が物語を体験するような作り方としてトライした作品です」
受賞コメント:木村絵理子(音響監督)
ちょっとトロフィーが重くてびっくりしました! この賞は音響チームにいただけた賞だと思っています。音響のスタッフ一人ひとりが(『ルックバック』の)藤野の背中に共通する努力を重ねてきました。それぞれの持ち場で、この映画におけるベストな音声を求めて、試行錯誤しながら積み上げ紡ぎ上げていった結果がこの音響だと思います。音響スタッフ一同励みになります。
受賞コメント:林ゆうき(音楽)
今までこういう賞をいただくことはなかったので、本当に驚いていますし、ありがたいことだと思っています。僕は音楽を作るという仕事をやっているだけで、映画というのは音響監督、音楽プロデューサーだったり素晴らしいミュージシャンの皆さん、後ろを支えてくれているスタッフ、いつも僕と一緒にいてくれている家族・・・たくさんの人の支えでできているものだと思っています。みんなの努力が実を結んで、こういう素晴らしい賞をいただくことができたと思っています。
※井上俊之氏は欠席
クロージングセレモニー(市民プラザ)
6日間に及ぶアニメーションの祭典も幕を閉じた。最終日となる3月20日(木・祝)、クロージングセレモニーが行われた。
映画祭ジェネラル・プロデューサーの真木太郎氏は挨拶で、「大変多くのお客様に恵まれて、特にコンペティションの観客の多さにはびっくりしました」と第3回目となる映画祭の飛躍に驚きの声。
続いて中原八一新潟市長は「また来年も町中をアニメ一色で盛り上げていただけることを心から願っております。新潟市といたしましても、引き続き皆様と一緒になって漫画・アニメの街・新潟を国内外に向けて発信してまいります」と挨拶。
大川博賞、蕗谷虹児賞の授与の後、長編コンペティション部門の発表に。作品が発表されるたびに場内から歓声が上がる。グランプリは押山清高監督『ルックバック』が受賞した。
井上伸一郎フェティバル・ディレクターは「今回の映画祭はコンペ作品をはじめ、さまざまな作品が観られる大変楽しい映画祭になりました。毎年参加作品のレベルがどんどん上がっていて、とてもいい映画祭に成長したと思っております。映画祭は本日で終わりますけれども、改めて新潟の皆様の温かいおもてなし、心遣いに感謝いたします」と映画祭を締め括った。
なお映画祭の回数を重ねるにつれ、コンペティションノミネート作品の日本公開が増えており、すでに今回のノミネート作品の中から劇場公開予定の作品が4本登場している。今回傾奇賞を受賞した『かたつむりのメモワール』はトランスフォーマー配給で6月27日(金)より全国公開。また、『ボサノヴァ〜撃たれたピアニスト』は2ミーターエンタテイメント/ゴンゾ配給で4月11日より公開。さらに『リビング・ラージ』はクロックワークスが2025年公開を予定しており、『口蹄疫から生きのびた豚』はMARCHが配給権を獲得した。
国際映画祭の舞台となる新潟市とは
19世紀、海外への窓口となる世界港をもち、北前船の経由地でもある新潟は、江戸を凌ぐ国際的な商業都市でした。また新潟は、多くの著名なマンガ家、アニメ・クリエーター(水島新司、赤塚不二夫、高橋留美子、魔夜峰央、和月伸宏、八神ひろき、しげの秀一、長井龍雪ら)を輩出し、2012年から「新潟市マンガ・アニメを活用したまちづくり構想」を策定、継続的なイベントとして今年度15回を迎える「がたふぇす」や、27回を迎える全国対象の「にいがたマンガ大賞」が開催されています。また、さまざまなジャンルの企画展を開催する「新潟市マンガ・アニメ情報館」やマンガ図書館「新潟市マンガの家」を運営、そして、かつては新潟版トキワ荘「古町ハウス」の設置、首都圏のマンガ編集部による添削会なども実施されており、日本有数の熱烈なアニメ・マンガ都市でもあります。
そして──21世紀、本映画祭に集結したエネルギーを、グローバル・アニメーションの創造へのマグマとし、新潟は世界のアニメーションの首都を目指します。
第3回新潟国際アニメーション映画祭 概要
■会期:2025年3月15日(土)~ 20日(木・祝) 6日間
■名称:第3回新潟国際アニメーション映画祭
Niigata International Animation Film Festival 2025
■主催:新潟国際アニメーション映画祭実行委員会
■フェスティバル・ディレクター:井上 伸一郎(「月刊Newtype」元編集長)
■プログラム・ディレクター:数土直志(アニメーション・ジャーナリスト)
■ジェネラルプロデューサー:真木太郎(㈱ジェンコ代表取締役)
■映画祭実行委員長:堀越謙三(ユーロスペース代表、開志専門職大学教授)
■副委員長:梨本諦嗚(映画監督、株式会社サニーレイン役員)
■東京事務局長:井原敦哉(㈱ジェンコ/プロデュース本部プロデューサー)
■新潟事務局長:内田昌幸(にいがたアニメ・マンガプロジェクト共同体統括本部長)
■特別協力: 新潟市、新潟日報社、新潟県商工会議所連合会、NSGホールディングス、他
■後援(予定):内閣府知的財産戦略推進事務局、経済産業省、文化庁、新潟県、新潟県教育委員会、他
■助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画祭支援事業)
■公式HP:https://niaff.net(外部サイト)
■公式X:https://twitter.com/NIAFF_animation(外部サイト)
(オフィシャル素材提供)