
登壇者:坂元裕二
多数の主演作を持ち、真に実力のある国民的俳優としてトップを牽引する広瀬すず、杉咲 花、清原果耶が奇跡のトリプル主演を果たし、『花束みたいな恋をした』以降、ドラマだけでなく『怪物』(第76回カンヌ国際映画祭脚本賞受賞)、『クレイジークルーズ』(Netflix)、最新作『ファーストキス 1ST KISS』など映画でも精力的に活動する脚本家・坂元裕二が新たに書き下ろした 『片思い世界』が4月4日(金)より公開した。監督を担うのは、第44回日本アカデミー賞にて計11部門で優秀賞を受賞した『罪の声』や異例のロングランを記録した『花束みたいな恋をした』監督の土井裕泰。あれから4年、本作で再びチームとなった。
この度、4月13日(日)に坂元裕二によるティーチインイベントを実施した!
映画の公開を記念し、本作の脚本を担当した坂元裕二が登壇するティーチインイベントを映画上映後に実施。作品に込めた思いをはじめ、今まで触れられなかった主人公3人の設定等について、時間が許す限りネタバレ有りで語った! 観客からの質問・疑問にも坂元自らが答えるという貴重な場となった。
映画上映後、ステージに登壇した坂元は「最近使い始めた言葉なのに、本当は意味がよく分かっていない言葉の第1位がティーチインなんです」とあいさつし、ドッと沸いた会場内。広瀬すず、杉咲 花、清原果耶が演じる3人の主人公の特別な状況は本作の大切な秘密ということで、これまでの宣伝活動においては“ネタバレ厳禁”というスタンスで行われてきたが、このイベントからはそれも解禁。ということでまずは、この物語の着想のきっかけからトークをはじめることに。
「2年か3年前に親戚が亡くなりまして。その帰り道にふと思いつきました」と明かした坂元。「ただ後から思うと、これは自分が子どもの頃に考えていたお話なんじゃないかと思ったんです。僕は子どもの時に、ふとんの中でよく泣いていたんです。人が亡くなったり、祖父が建てた家が台風で飛ばされてしまったりして。自分じゃなくても、家族やおじいちゃん、おばあちゃんが死んでしまうんだと思ったんですが、それが受け入れられなくて、毎日ふとんの中で泣いてたんです」。
また、時期を同じくして、子ども図鑑などで見た天国や地獄の描写なども忘れられなかったという。「そこには閻魔さまがいて、舌を抜かれたり、血の池に入れられたり、釜ゆでにされる、とあってものすごく怖かった。でもそれが受け入れられなくて、ふとんの中で話を考えていたんです。別の世界に行って、普通と同じように暮らしている。ご飯も食べるし、おならもするし、すべったり転んだりもする。これは4歳か5歳の頃から考えていた話だったんです」と説明すると、「身の回りの誰かが亡くなることで、人が死ぬんだということを理解する。そうしたときに人は成長すると思うんですが、それをどう受け止めていくか。それが傷になる人もいるし、成長につながる人もいると思う」と付け加えた。
本作パンフレットのインタビューで坂元は、「自分の38年の脚本家人生はこれを書くためにあったと思っている。棺桶に入れるならこの作品だと思う」と語っている。その理由について「単純にとても気に入っているということ。もちろん自分はテレビ出身の人間だから、何かを残したいというわけではなく、放送時間を過ぎたらみんな忘れればいいやと思ってやってきたんですが、本作は残ってもいいかなと思った」という。

そしてここからは映画を鑑賞したばかりの観客から質問を受け付けることに。まずは「主人公の3人は生きている人と交わらない。この物語をファンタジーにしなかった理由は?」という質問が。それに対して、「自分は現実的な人間なので、交わったことがないんです。うちの母は“あそこに幽霊がいる”というような人間なんですが、自分自身は見たことがなくて。やはり書き手としてそこは嘘はつけなかった。だって実際に会ったことがないから。たとえば(飼っている)犬が死んで5年くらい経つのですが、いまだに床にお菓子とかを置けないんです。床に座ってても置けないから(台などの)上に置いちゃうんですけど、それは犬と一緒に生きているから……」と説明し、さらに劇中に登場するラジオの声の主(演じるのは松田龍平)などについての考察などに触れるも、ふと我に返って「こんなに解説しちゃっていいのかな……僕の言っていることが正解だと思って書いているわけじゃない。スタッフや監督の意見なども全員違うでしょうし」と念を押すひと幕も。
坂元作品といえば、テンポのいいセリフのやり取りや、共感性の高いセリフなどが特色であるが、「どういう時にアイデアを思いついて、どういうふうに肉付けしているのですか?」という質問も。それには「みんな誰しも、何十年も生きていれば『こんな面白いことがあった』というようなエピソード・トークがあると思います。だからまず、その人が持っているエピソード・トークを書くんです。この人はこういう性格だとか、こういう趣味があるとか。たとえば、その人がトイレに閉じ込められた時に、3時間気絶したとか……これは(ドラマ)『大豆田とわ子と三人の元夫』の松田龍平さんが演じた役の話なんですけど。その時、トイレにボールペンがあったので、トイレの壁一面にずっと自分の履歴書を書いた、と。それは結局使わなかったんですけど、そういうことを考えるようにしていますし、大事にしています」と創作の裏側について明かす。
ちなみに本作のキャラクターの履歴書については、「本作では3人とも同じ人だと思っていて。別々の人なんですけど、3人でひとりみたいな感じで書こうと思ったので、特に性格付けをするのはやめようと。テレビはキャラクターものなので作るんですが、今回はしなかった」とのことだ。
続いて「これまでは残された側の人たちを描くことが多かったと思うが、今回、残した側の視点で描こうと思ったのは?」という質問を受けると、「結局、(映画を)観る側は、死に出合ったわけではないので、残された側だと思う。そうすると鏡のように残された側も描かれることになる。もちろん(杉咲 花演じる)優花の母親などは出てきますし、残された側も描いたつもりなんですけど、自分の気持ちとしては、先に逝ってしまった人たちに気持ちを残して描こう、というのが今回のアプローチでした」と返した。
そして最後の1問は「中学生とか高校生くらいの若い人がもしいらっしゃったら」という坂元のリクエストにより、若い観客からの質問で締めくくることに。その観客はこれまで映画『怪物』『ファーストキス 1ST KISS』、そして今回の『片思い世界』と3本の坂元作品を鑑賞してきたとのことで、それぞれ作風が違うのにもかかわらず、どれも“坂元作品”であると感じられた、ということを踏まえて「作品をつくる上で持っている芯の部分は?」と質問。
「あまりないです」と返した坂元。「それは自分ではいい意味で解釈しているのですが、僕は人が好きなのであって、あまり自分自身には興味がない。だから自分のことを書きたいと思ったことはほとんどないし、誰か面白い人を見つけたときに、この人のお話をつくりたいなと思うことが多いです。この人の面白さは自分しか気づいてないんだろうなとか。『花束みたいな恋をした』なんかもそうなんですけど、自分の知り合いの男女がいて、そのふたりが飲みながら、ずっとカルチャーの話をしているんですよね。この姿を誰も映画にしようとは思わないだろうけど、僕は、これは面白くなるんじゃないかと思った。そういう関心から来ているんですけど……でも『花束~』は観てないんですよね」と笑いつつも、「面白い人を見ると、その人について描写したくなる。それが自分の癖なんです。だから書いているものはバラバラだったりしますが、それは人間が好きだから、という長所だと思っています」と説明。
坂元の回答を受けた観客が「それは絶対に長所だと思います。わたしは(坂元が)面白い人だと思っているので、ぜひ自分の映画も……つくりたかったら、ですけど」と返して会場は大笑い。それには坂元も笑いながら「今後、これがわたしの話です、というのをちょっと考えてみます」と返してみせた。
まだまだ大勢の観客が質問のために挙手をしていたが、残念ながらここで時間切れ。最後に坂元が「こういうお話ですが、新しい社会や新しい学校など、いろんなところで新しい関係をつくる時に、この人に自分の言葉が届かないんじゃないかとか、上手く付き合っていけないんじゃないかとか、社会との関わりにおいて、人は“片思い”を持っていたりすると思うので。そういう方々の後押しになれたらいいなと思ってつくった面もたくさんあります。皆さんの勇気が出るような映画になれたら幸いです」とメッセージを送り、イベントを締めくくった。

公開表記
配給:東京テアトル、リトルモア
大ヒット上映中!