
今年監督デビュー70周年を迎える、サタジット・レイ監督のレトロスペクティブ、『サタジット・レイ レトロスペクティブ2025』の開催が、7月Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下にて決定した。
黒澤 明、マーティン・スコセッシ、フランシス・フォード・コッポラ、ウェス・アンダーソン……世界の巨匠たちが敬愛してやまない映画界の巨人サタジット・レイの全貌が、ついに見えてくる!
1992年にはアカデミー賞®名誉賞も受賞し、世界中の映画監督たちが敬愛してやまないインド映画界の至宝にして、映画界の巨人サタジット・レイ。
『サタジット・レイ レトロスペクティブ2025』は、ともにベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)を受賞し岩波ホールで1970年代に公開された代表作『チャルラータ』『ビッグ・シティ』と、今回が日本劇場初公開となる5作の計7作品が、すべてデジタルリマスター版の美しい映像でスクリーンに蘇る、貴重な回顧上映。監督デビュー70周年、世界的映画監督でありながら、まだ全貌が明らかにされているとは言い難いサタジット・レイの偉業と魅力を発見する、またとないチャンスとなる。
没落貴族の衰退と芸術への執着を描いた心理ドラマで、インドのみならず世界中の映画製作者に影響を与えた、レイ監督の芸術性と映像美が際立つ傑作『音楽サロン』(日本劇場初公開)。
急速に近代化するインド社会の中で、女性の自立と家族の変化を描いた社会派ドラマ『ビッグ・シティ』。
ラビンドラナート・タゴールの短編小説「The Broken Nest」を原作とし、19世紀末のベンガル地方を舞台に、孤独な妻と彼女の心の旅路を描く、監督自身が自身の最高傑作として挙げ、ウェス・アンダーソン監督もお薦めの一本としてあげている、『チャルラータ』。
伝統と近代化の岐路に立つインド社会に対するレイ監督の鋭い観察が投影された『臆病者』(日本劇場初公開)。
宗教的偽善や盲目的な信仰を鋭く風刺したコメディ映画で、当時のインド社会の宗教観や人々の心理を見事に描いた『聖者』(日本劇場初公開)。
成功してもなお自信を持てない映画スターを軸に、ベンガル映画業界に対する批判と洞察を示し、映画業界の問題(軽薄な娯楽作品の量産、商業主義、そして腐敗したビジネス慣行)を巧みに批判した『主人公』(日本劇場初公開)。
サタジット・レイが執筆した児童書「探偵フェルダーシリーズ」を元にした探偵映画の傑作で、エンターテイメント性に富んだテンポのよい冒険コメディ『エレファント・ゴッド』(日本劇場初公開)。
また、『ビッグ・シティ』、『チャルラータ』、『臆病者』、『聖者』では作曲も担当し、『エレファント・ゴッド』では監督・作曲のほか、原作も手がけているレイ。映画監督だけではなく、文学者、作曲家、カリグラファー、イラストレーターとさまざまな顔を持つサタジット・レイに迫る、またとないラインナップとなっている。
上映作品
『音楽サロン デジタルリマスター』

(1958/インド/100分)



『ビッグ・シティ デジタルリマスター』

(1963/インド/136分)
『大都会』はレイ監督が初めてネオリアリズムへの挑戦を試みた作品であり、物語は1955年当時のカルカッタの日常を描く。貧しい下層・中流階級を襲う社会経済的な苦悩に焦点を当て、それを主人公女性の自立を通じて表現している。
平凡な銀行員シュブロトは家族で唯一の働き手。ある時シュブロトの妻アロティは、(主婦は家にいるべきという) 慣習と義父の反対を振り切って訪問販売員としての職を得る。アロティは仕事で順調に評価され自信と経済的自立を手にするが、その状況を受け入れることができない夫は妻に離職を迫る。そんな折、シュブロトの銀行は苦境に陥り、一方アロティは、英国系女性である友人の名誉が傷つけられたことに対する抗議として皮肉にも自ら退職する。アロティとシュブロトの関係はいくらか対等なものへと近づき本作は幕を閉じるのだった。
『大都会』は1964年のベルリン国際映画祭にて銀熊賞を受賞、監督の最も素朴で現実的な作品の一つとされている。


『チャルラータ デジタルリマスター』

(1964/インド/119分)
レイ監督が手掛けた中で最も優美な作品である『チャルラータ』は、監督の創造期と言われる1960年代に撮られた最高傑作とされている。本作は世界中、特に西洋で最も名高く、また最も評価が高い作品の一つでもある。原作はラビンドラナート・タゴールの小説「Nastanirh / The Ruined Nest(壊れた巣?)」。
舞台は1880年頃のカルカッタ。美しいチャルラータは、外界から隔絶されたヴィクトリア朝時代の華美な邸宅で当てもなく毎日を過ごしている。理想主義的な知識人の夫ブポティはそんな妻を愛し支えているものの、新しい政治新聞の発行に追われ妻との時間が思うようにとれない。そんな折、ブポティのいとこのアマルが訪ねて来ると、ブポティはチャルラータに眠る文才を開花させてほしいとアマルに頼む。チャルラータとアマルは次第に執筆を通じて距離を縮め、それはやがて愛へと発展していく。自分が追い求める理想以外のことには盲目なブポティは、事業と結婚生活の結末を突きつけられることになる。
この繊細な芸術作品は監督が最も創造性にあふれていた時期に撮ったもので、我々が鑑賞するたび新たな発見をもたらしてくれる。『チャルラータ』は愛、理想主義、失望、そして悲哀への賛歌である。


『臆病者 デジタルリマスター』

(1965/インド/70分)
『Kapurush/ The Coward』は、伝統と近代化の岐路に立つインド社会に対するレイ監督の鋭い観察が投影された作品である。
監督作品の常連であるショウミットロ・チャテルジーが、カルカッタの脚本家で主人公のアミターバを演じている。アミターバは不運にも乗車したタクシーの故障に見舞われるが、茶園を経営する裕福なビマールの親切で彼の家に泊まることになる。驚いたことに、ビマールの家にいた彼の妻コルナ(マドビ・ムカージ)は、何年も前、アミターバが自身の優柔不断ゆえに失った元恋人であった。
妻と客人の過去を知る由もないビマールはアミターバと夕食を共にし、ビマールはそのガサツな性格をあらわにする。アミターバはビマールを知れば知るほど、2人の結婚がコルナにとって幸福なものでなかったと気づくのである。
アミターバは、彼女をビマールから奪う覚悟があること、そして過去の裏切りを償いたい旨を彼女に伝える機会を探る。しかしコルナの感情は冷静な表情の奥に隠れて見えない。
翌朝、アミターバはタクシーの修理を待たずにハシマラ行きの列車に乗ることを決める。その前に3人はピクニックへ出かけるが、眠るビルマは妻と客人の間で盛り上がるドラマに未だ気づかない。
ビルマが眠っている間に、アミターバはサンドイッチの包み紙に走り書きのメモを残す。「駅で待っている。まだ僕を愛しているなら来てくれ。今度は君を失望させない。」
夕方、駅でコルナを待つアミターバは。列車の時間が近づくにつれ彼の焦りは増すばかりだ。
コルナはまだ彼を愛しているのか。そして彼女は夫を捨ててアミターバの元に来るだろうか。


『聖者 デジタルリマスター』

(1965/インド/67分)
『Mahapurush/THE HOLY MAN(聖人)』は、伝統と近代化が交錯するインド社会に対するレイ監督の鋭い観察が投影された作品である。監督は本作で盲信と狂信的信仰を戒めている。
弁護士であるグルパダ・ミトラは、妻の死以来、深刻な精神不安に陥っている。娘のブチキとバラナシ からの帰路、グルパダは不老を自称するビリンチ・ババと出会う。グルパダは彼に感銘を受け、彼を支援し入信することを決意する。
娘のブチキも問題を抱えている。恋人のショット から届いたラブレターが詩人の引用ばかりだったことに不満を抱いていたのだ。彼女はお仕置きとして、ショットを捨ててビリンチの教えを乞うと告げる。
ブチキとの破局を恐れたショットは、友人であり哲学者であり、また指導者でもあるニバランダ に助けを求め、ブチキをビリンチの魔の手から救ってほしいと頼む。
ニバランダはビリンチの宗教集会に参加し説教を聞くと、彼が詐欺師であると見抜く。しかし、巧妙なビリンチは裕福な信者たちを次々と引きつけている。


『主人公 デジタルリマスター』

(1966/インド/117分)
有名なベンガル映画俳優であるアリンダムは、ニューデリーで行われる授賞式に出席するための航空券を確保できず、やむなく列車で向かうことになる。列車内では、アリンダムの飲酒習慣を咎める偏屈な老人から、彼のファンだという同じキャビンに寝泊まりする母娘に至るまで、乗客全員が彼のことを知っている。だがその中で彼の関心を引いたのは、お堅い女性誌の記者アディティ(シャルミラ・タゴール)だった。スターの役割に明快で批判的な視点を持つ彼女がアリンダムにインタビューを行うことで、彼は自身の半生を見つめ直すことになる。彼らの間に絆が芽生える中、アリンダムは俳優人生、成長した瞬間や危機に陥った瞬間を振り返り、深い疑念に囚われる。最終的に記者は、彼が明かした秘密を記事にすることをやめ、世間が持つ彼のイメージを保つことを選ぶ。
『Nayak/The Hero(主人公)』は成功してもなお自信を持てない映画スターを軸に、ベンガル映画業界に対する批判と洞察を示している。アリンダムの危機や内省を通して、映画業界の問題(軽薄な娯楽作品の量産、商業主義、そして腐敗したビジネス慣行)を巧みに批判している。


『エレファント・ゴッド デジタルリマスター』

(1979/インド/122分)
『JOI BABA FELUNATH/The Elephant God』は、レイ監督自身による小説「探偵フェルダーシリーズ」を元に映画化された第2作目である。ショウミットロ・チャテルジー演じる探偵がその高い分析力と洞察力で事件を解決に導く、エンターテイメント性に富んだテンポのよい冒険コメディーだ。
フェルダー(字幕:フェルー)とそのいとこが休暇のためワーラーナシー(字幕:バラナシ)の街に到着すると、ある男に事件の解決を依頼される。ネパール元王(字幕:ネパールの王子)から譲り受けた家宝だという貴重なガネーシャの金像が盗難に遭ったらしい。フェルダーは、事件解決のための重要な手がかりを知る少年ルクと親しくなる。
本作はガンジス川のクライマックスや個性豊かなキャラクターたちが光る、フェルダー冒険シリーズ前作『黄金の要塞』の素晴らしい姉妹作品である。


サタジット・レイ レトロスペクティブ2025
7月 Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下にて開催
提供:JAIHO
配給:グッチーズ・フリースクール
(オフィシャル素材提供)