名匠・高橋伴明監督がコロナ禍の中の社会的孤立を描く『夜明けまでバス停で』のの初日舞台挨拶が10月8日(土)に実施され、出演の板谷由夏、大西礼芳、ルビーモレノ、根岸季衣、高橋伴明監督が登壇。板谷由夏が役作りで居酒屋でバイトをしてみた話、ルビーモレノがカメラが回っていないところでも大西礼芳を「店長」と呼んでいる話、根岸季衣の派手婆と呼ばれるホームレスを演じる上でこだわった点についてなど、裏話も明かしてくれた。
冒頭、17年ぶりの主演映画となった板谷由夏は、「高橋伴明監督とは20数年ぶりにご一緒させていただいたんですけれど、“怒りを封じた『光の雨』にお前がいて、怒りを出す時(本作)にお前がいるから因縁を感じる”と言ってくださいました。監督の怒りと言いますか、世に対する強いメッセージが込められた映画だと思います。いろいろな思いを映画を通して社会にぶつけるのがエンターテイメントの役割だと思っています。この作品を観て何か感じることがあれば、周りの方に薦めていただければと思います」と本作のメッセージ性を強調。
三知子の働く居酒屋の店長の千晴役の大西礼芳は、「高橋伴明監督は私にとって大学の恩師であり、デビュー作の監督でもありました。こうやってまたご一緒に舞台挨拶をさせていただけることを幸せに思っています」と感無量の様子。
ホームレスの派手婆役の根岸季衣は、「打ち合わせしたわけでもないのに、全員モノトーン(の服)で。こんなに艶やかな女優が揃っていながら、なぜか喪服のような状態になりまして、さぞや暗い映画を見せられるのではないかと思うかもしれないんですけれど、面白いです!」と太鼓判を押した。
渋谷ホームレス殺害事件で亡くなった大林三佐子さんは当時64歳で、スーパーで試食販売の仕事をしていたとのことで、本作は彼女の半生の映画化ではなく、モチーフとしたオリジナル映画となった。板谷は「演じると決まってからいろいろ紐解きましたけれど、本当にどこにでもいらっしゃるような女性で、共通項がどの女性にもあると思うんです。その彼女がどうしてバス停で寝泊まりすることになってしまったのかを自分なりに解釈しました」と話した。
板谷はクランクイン前に居酒屋でバイトをしてみたとのこと。「誰も気づかなかったんです。監督に、『お前、誰にも気づかれないなんて寂しいな』と言われて。元々居酒屋の経験がなかったので、所作として自分に入れ込みたくてバイトしたんですけれど、女性たちに出会えたことが糧になりました。みなさんいろいろな事情があって、お昼のお仕事した後に居酒屋のバイトをする方や、ルビーさんみたいに外国の方もいらっしゃいましたし、それぞれがそれぞれのことを背負っていましたので、勉強になりました」と話した。
大西は、「私は店長役で、板谷さんとルビーさんはパートさんなんです。絶妙な距離感がありまして、劇中では仲良くなりづらかったんですが、カメラの回っていないところで、皆さん優しく温かくずっとお話ししてくださって、ルビーさんはずっと『店長、店長』と言ってくださっていたんです」と話すと、三知子の同僚のマリア役のルビーモレノは「今日も店長と呼んでいる」と告白。大西は「それがお芝居に響いた瞬間があったんです。それがすごく幸せな経験でした」と話した。モレノは、「店長でしかなかった! 撮影の時は妹みたいな感じだった」と可愛がっている様子を見せた。
根岸は、ホームレスの派手婆役。「汚れが本物じゃないとバレるので、肌を出さないようにした。爪の中も黒くしたんですけど、これが爪を切らないと取れないので、黒い爪は、撮影が終わるまで日常で恥ずかしかったです」と裏話を披露した。
本日のK’s cinemaでの上映を自腹で観見たそうで、ご自身の役について、「厳しい現実とそれを吹き飛ばすだけの怒りが込められた映画ですけれど、いいクッションになっているのかな」と分析した。
最後に伴明監督より、「この映画の中にいろいろな人物の名前やいろいろな出来事が散りばめてあります。そうしたものをつなげていくと、なんで日本はこんなことになっているのかということが分かるんじゃないかなと思っていまして、それに気がついた方は、もっと怒っていただきたいなと思います。最後の方にも仕掛けがありますので、エンドロールが始まっても席を立たないでください」とメッセージが送られた。
登壇者:板谷由夏、大西礼芳、ルビーモレノ、根岸季衣、高橋伴明監督
配給:渋谷プロダクション
新宿K’s Cinema、池袋シネマ・ロサ他 全国順次公開中
(オフィシャル素材提供)