2018年の『カメラを止めるな!』に続き、2019年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭2019で観客賞である「ゆうばりファンタランド大賞」の作品賞を受賞した映画『いつくしみふかき』。ろくでなしの父親役で、本作が意外にも映画初主演となる渡辺いっけいのオフィシャル・インタビューが到着した。
渡辺いっけい
1962年年、愛知県豊川市出身。
ドラマ、映画、舞台などに数多く出演。
ドラマ「蝶の力学」「悪党」(WOWOW)、「大富豪同心」(NHK)、「刑事ゼロ」(EX)、映画『二宮金次郎』『ゆらり』『母~小林多喜二の母の物語』、舞台「カノン」「ドクター・ホフマンのサナトリウム」「北斎漫画」など、アニメ「おしりたんてい」では吹き替え、ナレーションも務めている。
『いつくしみふかき』が映画初主演と聞いてびっくりしました。主演のオファーと聞いて、どう思いましたか?
観ていただくと分かるんですけれど、両主役という括りになっているんですが、映画の作りとしては、遠山君演じる息子の心情を追っていく映画になっていると思います。親子の話なので、僕を主役だと思って観る人もいるかもしれませんが。
脚本を読んだ感想はいかがでしたか?
最終稿に至るまでに紆余曲折があっていろいろと変わって、割とハートフルなものになったので、僕としてはありがたい決定稿でした。最初の稿では、もっとバイオレンス要素の強い親父だったので、よく練ってくれたなと思います。
完成した作品を見た感想はいかがでしたか?
びっくりしました。自分はテレビドラマの出演が多いんですが、テレビはお届けする作品自体も自分の役も分かりやすいものが多いじゃないですか。本作では非常に分かりにくい役で、撮っている時も台本からは読み取れない何かがたくさんあって、ワンシーンごとに(監督の)大山君とディスカッションして撮ったんです。自分自身は分かっていないで大山君に委ねてやったシーンもかなりあったんですが、繋がった時に、僕が演じていて言うのもなんなんですけれど、人間って結局分からないなという意味で言うと、深いところまで撮られている気がして、自分と思えない非常に新鮮なシーンが多かったです。それは久々の感覚でした。若い頃に映像の仕事をやりだした時に、完成形をテレビで見て新鮮だった時とはまた違う、それ以上のものを大山君が切り取って見せてくれている気がして、嬉しかったです。最終的にいろいろなものが詰まった、いい意味でカオスな映画になって、観てくれた方にさまざまなところでフックがかかる映画になったと思います。いろいろな要素が詰まっていて、面白い映画になったなと思っています。
ゆうばり映画祭で観客賞を受賞した感想はいかがですか?
素直に嬉しかったです。僕も夕張に行って、いろいろな映画のチームが来ているという状況を見ているので、その中で選ばれたというのは悪くないじゃん、と思いました。
大山監督は以前からお知り合いだったんですか?
何年か前に東映の東京撮影所で撮った連続ドラマに、僕はレギュラーで、彼が助監督で入っていた時の彼の仕切りぶりと、彼の人柄が気に入っていて。ある回に大山君の劇団の所属だった遠山君がちょっとしたチンピラの役で来たら、すごく面白い役者で、知らずに俺は「彼、面白いね」と大山君に言ったら、「うちの劇団なんですよ。面白いですよ」とのことで。そこから本作への流れが始まっています。
監督として大山さんはいかがでしたか?
撮影に入ってからの大山君は、本当に肝が座っていました。感心したのは、常に楽しそうだったことです。東映の助監督で揉まれた経験がいい意味ですごく活かされていて。でも、それだけでなく、ちゃんとわがままも通す。自分が撮りたいものを撮るという一面は揺るぎなくあって、生き生きしていました。現場で金田明夫さんとも「いい監督だね」と囁きあっていました。変に理論武装しないし、背伸びしないし、分からないところは一緒に考えて、そこに出ている役者さんたちとしっかりコミュニケーションを取って作っていく監督だったので、びっくりしました。彼の短編映画をDVDで見て力があるというのは分かっていたんですが、正直、ここまでとは思っていなかったです。
大山さんがこだわっていたのはどのような部分ですか?
ちょっとしたシーンです。スーパーで買い物をするシーンは、わりと最初のほうの撮影だったんですけれど、大山君はちょっとしたタイミングにこだわっていて、 「ここまでしつこく撮るんだ。やるなあ」と思っていました。大事な大掛かりなシーンは時間がかかるのは当たり前なんですけれど、パパッと撮れそうなシーンをかなりこだわっていたので、そこで僕も覚悟がより決まりました。あの辺のさじ加減で監督の本気度が見えるものなので、「これはしっかり付き合おう」という気持ちにさせられました。
広志役はいかがでしたか?
こんな酷いお父さんはお目にかかったことがないです。僕は普通の家庭で育ったので、バイオレンスはなかったんですけれど、大山君と遠山君は自分の生まれた環境についていろいろあった人たちなので、彼らの持っている記憶や生のものがこだわりに繋がっています。僕はそれをしっかり把握して体現しなくてはという気持ちで挑んでいました。
息子役を、実際に広志役のモデルになった方の葬儀に参加した遠山さんが演じましたが、いかがでしたか?
疲労もあったはずなんですけれど、この台本が持っている強さが乗り移っていたので、「いい役者だな」と改めて思いました。以前連ドラで共演した役はふわふわとしていましたが、全然違いました。彼は計算していないようで長けているので、面白い役者だなと思います。
遠山さんは、「無名俳優として死んで行くわけにはいかないと思い自分が一番大切にしている場所で一世一代の大博打を打ちました」とおっしゃっています。
お金を集めて映画を作ろうって言って、公開までに時間がかかったので、劇中のように詐欺だったんじゃないかと思われたりしたみたいです。公開で、苦労が報われたらいいなと思います。
長野県飯田での撮影はいかがでしたか?
飯田の町が景観がいいというか、ロケ映えする場所なんです。ロケハンを重ねた効果もあり、無駄のない良いロケ地ばかりで、面白かったです。オープンセットのような町で。少し古くて寂しい感じのところもあるんだけれど、そこがまた絶妙に映画に活かされていると感じました。
“悪魔”として村から追い出される冒頭のシーンは迫力がありましたが、撮影はいかがでしたか?
初日だったんです。すごい数のエキストラさんが集まっていてびっくりしました。忘れられないです。タイトルが出るところで、金田明夫さん演じる牧師が瀕死の僕を乗せて大八車でどこかに連れていくというカットがあるんですが、暗くてほとんど映っていないんですけれど、自分たちでやったんです。僕はコミカルな役を結構やっているので、コミカルなシーンで手応えがあるということが多いんですけれど、そのシーンは何もしていないんだけれど、暗いけれどシーンとしてこれをしっかり俺と金田さんがやるのを映像で残すのは、「この映画は半分ドキュメンタリーみたいな感じになりそうだな」という予感がして、面白かったです。
親子だと知らずに共同生活をするシーンは一転コミカルでしたが、牧師役の金田明夫さんとの共演はいかがでしたか?
楽しかったです。金田さんと共演率は高かったんですけれど、絡むシーンが不思議とない方でした。ここまでがっつり絡めたあの教会の共同生活の一連のシーンで少し空気が変わるので、お客さんも少しほっこりできるシーンが続くと思います。金田さんでよかったなと本当に思います。
三浦浩一さんとのシーンも、撮影していて面白かったのではないですか?
そうですね。三浦さんがすごく振り切って演じられていたので、ありがたかったです。三浦さんは僕にとっても先輩にあたるので、三浦さんが声を張り上げてギリギリでやってくださっているというのが嬉しくて、僕も頑張りました。
舎弟・浩二との関係性もキーとなってきますが、演じた榎本 桜さんとの共演はいかがでしたか?
彼の集中力というか、役者でくっと入る時の、気を遣わずにぐっとやる感じがすごくよかったです。それまでは、役者として僕のことにも気を遣うわけですよ。でも現場で役を演じている時の彼は、関係なくいろいろなことを試して思い切ってやっていたので、それがいいなと思っていました。役者さんによっては、本番に入ってもどこか気を遣う何かが残ったまま演じてしまうこともあるんですけれど、だからこそ榎本君はいい役者さんだなと思って好きになりました。
本作をプレゼンするとしたら、どういう映画とプレゼンしますか?
「どういう映画」と一言で言いづらい映画なんですが、観ていただくと、確実に何かが残る映画にはなっているので、役者・渡辺いっけいとしては、「とりあえずちょっと観てみません? 観て損はない映画になっていますよ」というプレゼンをしたいと思います。
読者の方にメッセージをお願いします。
僕の中でもこれは役者として転換期になった映画です。テレビのお仕事で僕のことを把握している方たちが多いと思うんですけれど、テレビでは絶対に見せていない顔を見せています。自分もスクリーンを観て、こういう仕事をどんどんやっていきたいと思えた作品なので、個人的にはそこを観て欲しいなという気持ちがあります。それを引き出してくれたのは、確実に大山君と遠山君の2人です。役者の自分が変われた映画なので、そりゃあ面白くないわけがないですよ!
公開表記
配給:渋谷プロダクション
4月17日(金)よりテアトル新宿にてレイトショー公開ほか 全国順次公開
(オフィシャル素材提供)