イベント・舞台挨拶

『ライフ・イズ・クライミング!』バリアフリー・プレミア上映会

©Life Is Climbing 製作委員会

 パラクライミングの世界選手権4連覇を成し遂げた視力を失ったクライマー・小林幸一郎(コバ)と彼の相棒としてガイドを務める鈴木直也(ナオヤ)がアメリカ・ユタ州の砂岩“フィッシャー・タワーズ”に挑む旅路を追いかけたドキュメンタリー映画『ライフ・イズ・クライミング!』のバリアフリー・プレミア上映会が5月10日(水)、都内劇場で開催された。上映前のトークイベントにコバとナオヤ、さらにゲストとして車いすテニスプレイヤーの国枝慎吾も来場。会場は大きな盛り上がりを見せた。

 ナオヤから「コバちゃんを連れて行きたいところがある」と言われ、始まったという今回の旅路。コバは「ナオヤが誘ってくれる旅は、いつも何が待っているか分からないけど、確実なのは楽しいということ。今回もオンボロのキャンピング・カーを借りて、そこを根城にいろいろなところに行ったり、ナオヤを育ててくれた恩師に会ったり、大切な要素が散りばめられている旅でした」と振り返る。

 ナオヤはフィッシャー・タワーズにこれまで何度も登っているが「何度登っても最高だなと思える場所で、そこにコバちゃんを立たせてみたら面白いだろうなって、それだけ(笑)」とコバを誘った理由を説明。「楽しかったです。僕らは、台本があってそれを読んでやっているわけじゃなく、ただ登っている目の前にカメラがあっただけ。こんな楽しい思いを毎日して、終始笑顔でした」としみじみと語る。

 そんな2人の姿を追いかけた今回の映画の魅力を、国枝は「この2人の絆の眩しさ!」と指摘。「コバさんが(目が)見えないからこそ、ナオヤさんを信頼しているのが伝わってきました。でも、映画を観ながら『なんでこんなつらい岩を登るんだろう?』と思って、それは今日、一番聞きたかったことです」とコバに質問を投げかける。

 コバは「何万回も壁打ちを続けて、僕からしたら『何が楽しいんですか?』とこっちが聞きたくなるようなことをやってる人にそんなことを聞かれるとは……」と笑いつつ「僕らにとってクライミングは、スポーツといっても、勝ったり負けたりというものだけでなく、岩を登るという達成感だけを目指していくもので、つらいように見えるかもしれないけど、その先にどんな達成感が得られるのかは、やっている人間だけがわかる感覚。それは、何万回も壁打ちして、その先に何が得られるかがわかる国枝さんだけが持っている感覚と同じだと思う」と説明する。

 さらに国枝は、現役時代、時にコーチとケンカになってしまうことがあったと明かし「解決策として、僕らはボディ・ランゲージなどがあります。お2人の場合、いかにナオヤさんがコバさんに理解しやすいように説明するかが大事だと思いますが、コバさんはそれに対して『何言ってるの?』と思うこともあるんじゃないですか?」といかに円滑なコミュニケーションを図るかについて質問!

 これについてナオヤは、大会中に時にコバが怒ったり、ナオヤが言い返すこともあると説明しつつ「大会は6分間しかないので、怒っているヒマがあったら先に行けという感じですね。(コバさんが)焦ってガーッと言ってくることもあるけど、たぶん、自分の中で解決しようとしているんだと思います。普段の生活では、ケンカすることは基本ないですね」と明かす。

 コバはナオヤとの関係性について「国枝さんのテニスのたとえは、コーチとプレイヤーという関係でしたが、ダブルスのプレイヤーたちの立ち位置に近いかもしれません。ナオヤも僕も競技のステージに立って、僕は登ってナオヤは声で、2人で勝つことを目指していたのが大会だったと思います。それに対し、自然の岩を登るときは、登るのは僕で、ときどき、ナオヤが声をかけてくれるので、信頼関係の成り立ちが、またちょっと違うので、そのあたりも(映画の中で)気にして観てもらうと良いと思います」と補足する。

 この日は、フリーアナウンサーの平井理央が司会を務めたが、平井アナは「ナオヤさんの声が、映画の中でも“背中を押してくれる声”と言われていましたけど、すごく印象的でした。私もしゃべって伝える職業ですが、声に魂を込めることができるのか? その秘訣を聞きたいと思いました」と感想を口にする。

 ナオヤは、「(秘訣は)ないです(笑)」と即答だったが、コバは「僕にとって、ナオヤの声はとっても楽しい気持ちをさせてくれるし、僕の気持ちを鼓舞して『よし、やったるぞ!』という気持ちにさせてくれるもので、地面から背中をグイグイ押してくれます」とその“効能”を明かす。国枝はこの言葉に「羨ましいですね。熱々ですね(笑)」と笑みを浮かべていた。

 競技は違えども、パラクライミング、車いすテニスの世界でトップを獲った2人だが、共に競技の第一線からの引退を今年、表明した。コバは引退について「よく“選手生活引退”という言葉で表現していただくのですが、心情としてあまり変化はありません。僕は16歳でこのクライミングというスポーツと出合い、28歳で目の病気と言われたんですが、ずっとやめずに続けている中で、パラクライミングという競技と出会い、今回、一区切りとなったので、クライミングを続けるクライマーとしての自分が変わるわけではないです。自然の岩を登り続けることも、旅を続けることも、友達と近くのジムで楽しむことも変わらないし、ただ競技という楽しみ方をお休みするだけ。自分は55歳になりましたけど、これからもずっと成長し続けると思います」と自身の心情を説明する。

 そんなコバについて、ナオヤは「クライミングってエンドレスにチャレンジできるもの。地球上のいろいろなところに行けるし、選手として終わっても、クライマーとして生涯ずっとやっていけるスポーツです。大会に出なくても岩はあるので、そこに挑戦し続けていくことはお互いに変わらない」と語る。

 国枝は「クライマーの隣でこう言うのもおこがましいんですが……」と笑いつつ、自身の引退について「富士山を見て、『もう登りきった』と思ったのが引退を決意した瞬間でした」と明かし「これからは登りきった富士山を降りていく下山の時間にしようと。また違う山を見つけて、登れたらいいなと思っています」と語った。

 そんな、“新しい山”を探している途中の国枝をコバは熱心にクライミングの世界に勧誘する。国枝が、コバについて「(目が)見える方は、登った先に何があるのか?その風景を想像して登っていると思うけど、コバさんは上に行って何が見えるのか? そのへんをすごく不思議に感じたし、最初、理解できないところもありました。あんな絶壁を登っていくというのは、とてつもないエネルギーがあるんじゃないかと思います。力の根源が何なのかお聞きしたい」と語ると、コバは「その謎を解くためにもクライミングをするしかないですね」とニヤリ。

 一方、国枝は、2028年のロサンゼルスで開催されるパラリンピックで、パラクライミングが採用される可能性に触れつつ、コバに「(採用が)決まったらどうでしょう?」と選手としての現役復帰を持ちかける。

 コバは「2028年って僕は60歳で還暦ですよ!」と笑いつつ「復帰できるなら頑張りたいし、必要な時に戻れる自分でい続けたいと思います。人生は一度しかないし、機会に恵まれるなら頑張りたいですね」と還暦でのパラリンピック出場に意欲をのぞかせていた。

 映画では、コバが設立したNPO法人と同じ名前を持つ「MONKEY MAJIK(モンキーマジック)」が本作の主題歌を担当している。コバの法人名(NPO法人モンキーマジック)とバンド名が同じなのは全くの偶然だというが、さまざまな紆余曲折を経て、今回、MONKEY MAJIKが快諾し、主題歌「Amazing」を映画のために書き下ろした。コバは「あきらめずにやり続けたら、いつか形になるんだと思えたし、映画にドはまりな曲を書いてくださりました。映画が完成する前に、写真を1枚見ただけで、こんな素晴らしい曲を書いてくれて、感激しかないです」と感謝と喜びを口にしていた。

 映画『ライフ・イズ・クライミング!』は5月12日(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開。

 登壇者:小林幸一郎、鈴木直也、国枝慎吾
 MC:平井理央

プロフィール

コバ:小林幸一郎
 1968年2月11日生まれ、東京都出身。
 16歳の時にフリークライミングと出合う。
 28歳で「網膜色素変性症」と言う目の進行性難病を発症し、近い将来の失明宣告を受ける。
 37歳2005年にNPO法人モンキーマジックを設立。「見えない壁だって越えられる」をコンセプトに、障害者クライミング普及活動を開始。競技者として、2006年世界初のパラ・クライミング・ワールドカップに出場し視覚障害クラスで優勝、2014年から2019年まで(46~51歳)、鈴木直也をサイトガイドに迎え、パラ・クライミング世界選手権視覚障害男子B1クラス(全盲)にて4連覇を達成。
 パラ・クライミング界のレジェンド中のレジェンドといえる存在。

ナオヤ:鈴木直也
 1976年1月18日生まれ、東京都出身。
 15歳の時にアメリカでフリー・クライミングと出会う。その後、単身で渡米。
 2003年に日本人初のアメリカ山岳ガイド協会公認のロック・クライミング・インストラクターとなる。
 2011年から、パラ・クライミング世界選手権の日本代表チームに同行。
 2013年には株式会社サンドストーンを設立。国内外問わずクライミング・ガイドをしながらクライミング・ジムを横浜と大阪で経営する。

スペシャルゲスト:国枝慎吾
 1984年2月21日生まれ╱千葉県出身。
 9歳で脊髄腫瘍のため車いす生活となり、11歳で車いすテニスと出会う。
 2006年、アジア人初の世界ランキング1位に。翌2007年には、車いすテニス史上初となる年間グランドスラムを達成する。2009年4月、車いすテニス選手として日本初のプロ転向を宣言。2010年11月まで続いたシングルス連続勝利記録は107に達した。
 2021年には、東京パラリンピックで2大会ぶり3度目の金メダルを獲得。2022年にはウィンブルドン選手権を悲願の初制覇し、四大大会を制覇する「生涯グランドスラム」を車いす男子で初めて達成。また、四大大会とパラリンピックを制覇する「生涯ゴールデンスラム」の偉業も成し遂げた。これまでに、全豪オープン優勝11回、全仏オープン優勝8回、ウィンブルドン優勝1回、全米オープン優勝8回と前人未踏の功績を残す。
 2023年1月世界ランキング1位のまま引退。今後は車いすテニスのみならずさまざまな分野での活躍が期待される。

パラクライミングとは

 パラクライミングは、障害者によるスポーツ・クライミング。
 競技では、高さ15メートルほどの壁をロープなどで安全確保しながら、選手は壁に設定されたルートを登り、登ることができた高さを競う競技。競技における障害種別は、国内、国際ともに視覚障害・切断・神経障害の3つ。
 障害の程度に応じパラリンピックに準じたクラス分けが行われる。※競技ルートは、障害カテゴリーや男女により設定の異なることがある。パラクライミングの競技には視覚障害と身体機能障害があり、さらにその中で障害の程度に応じたクラス分けが行われる。

【視覚障害】
 先天的または後天的に視覚に障がいがあり、日常生活や就労等において不自由を強いられている方を対象。クラス分けは光覚や視力・視野によってB1・B2・B3クラスに分けられ、B1クラスが視覚障害のなかで最も障害の程度が重いクラス。

【身体機能障害】
 先天的または後天的に身体に障害があり、日常生活や就労等において不自由を強いられている方を対象。クラス分けは身体の機能によって上肢機能障害(AU1・AU2クラス)・下肢機能障害(AL1・AL2クラス)・関節可動域および筋力とその他の機能障害(RP1・RP2・RP3クラス)からなる。数字の小さいクラス(AU1・AL1・RP1)が障害の程度が重いクラス。

パラクライミングの対象となる障害
・筋力障害・受動的な関節可動域の障害・手足の欠損・脚の長さの違い・低身長・筋緊張亢進・運動失調・アテトーゼ・視覚障害
 競技大会は、国内では一般社団法人日本パラクライミング協会が主催する年2回ほどのジャパン・シリーズがあり、そのうちの1戦は日本選手権を兼ねている。国際大会は、国際スポーツクライミング連盟(International Federation of Sports Climbing)が、2年に1回のパラクライミング世界選手権と、年間3戦ほどのシリーズ戦「パラ・カップ」を開催。国際大会の多くは、健常者の大会と合わせて行われる。2011年から開催されてきたパラクライミング世界選手権では、すべての大会で日本は金メダルを含む複数のメダルを獲得。

公開表記

 配給:シンカ
 5月12日(金) 新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMA にて全国公開

(オフィシャル素材提供)

関連作品

スポンサーリンク
シェアする
サイト 管理者をフォローする
Translate »
タイトルとURLをコピーしました