2021年カンヌ国際映画祭ある視点部⾨審査員賞受賞、2022年アカデミー賞®国際⻑編映画賞ショートリスト選出作品『⼤いなる⾃由』を、6⽉にオープンしたBunkamuraル・シネマ 渋⾕宮下にて7⽉7⽇(⾦)より公開中。
Bunkamura初の配給作品となる本作は、戦後ドイツで男性同性愛を禁ずる「刑法175条」のもと、「愛する⾃由」を求め続けた男の20余年にもわたる闘いを描いた、静かな衝撃作。
公開を記念し、1999年に制作されたナチ政権下で迫害された同性愛者たちを描くドキュメンタリー映画『刑法175条』を7⽉21~23⽇の3回のみ限定上映、7⽉22⽇(⼟)にはジャーナリストで作家の北丸雄⼆⽒、主にクィアの作家による作品の上映・発信を⾏うノーマルスクリーンの秋⽥ 祥⽒によるトークイベントが開された。
20数年前、NYのゲイ&レズビアン映画祭で本作を初めて観たという北丸⽒。本作を再⾒した感想を「当時と印象が違った。この映画が撮られた1995年から2000年、そして今。いろいろな時代のことを考えなくてはいけない。取材当時の90年代はホロコーストでゲイがこんな迫害されていたことを⼈々は知らないんですよね。ホロコーストの⽣き残りの⼈たちが存命で、語れる最後のチャンスに作られ、そして2023年にこれがこうして上映されて、こんなにたくさんの⽅が来場している。今この時代だからこそなおさら観てほしいし、TVとかで放送してほしい」と語り、本作が作られた当時のことを「1969年にアメリカで起こった現代ゲイ解放運動の嚆⽮とされている<ストーンウォールの反乱>というものがあり、1994年にストーンウォールが25周年を迎えます。そこで初めてストーンウォールの資料の発掘・聞き取りが始まるわけです。エイズがピークを迎えて、それを克服しようとしている時代に、世界各国でゲイの歴史をもう⼀度掘り起こす動きが出てきた。その中の1つとして、このドキュメンタリーが作られたのではないか」と分析。秋⽥⽒は「ちょうど今NETFLIXで『エルドラド: ナチスが憎んだ⾃由』という作品が配信されているんですが、1920年代のベルリンでクィアの⼈々が集まったクラブについてのドキュメンタリーで、『刑法175条』でインタビュアーをしていたホロコースト記念博物館のクラウス・ミュラーさんが監修していて、すごくよくできてる。でもそのクラブを舞台にした作品なので、収容所の中とか175条のことはそこまで多くは出てこない。『刑法175条』の監督ロブ・エプスタインの『ハーヴェイ・ミルク』を配給したパンドラが「ピンク・トライアングルの男たち」というまさに強制収容所に送られた同性愛者の体験記を出版していますが、20年以上経った今、こういった作品がまた作られてほしいと思います」と語った。
また北丸⽒は⼥性同性愛者がナチスドイツの摘発対象とされなかった理由を「⼥性たちが主権を持っていなかったこともあるが、<アーリア⼈種を産むことができた>というのが理由なんですよね。そして産むことができるということはレズビアンが矯正できたことになる。⽇本でも<⼥性は産む機械>なんて発⾔がありました」と語り、劇中、ヒトラーの台頭でクィアの⼈々が集まったクラブが閉鎖されたエピソードについて「トランプ就任翌⽇にホワイトハウスのホームページからゲイとレイズビアン、エイズに関する⼀切の情報が消えてしまったというのによく似ている。歴史というのはこうして繰り返すのだろうと思いました。2023年の今、こうしたナチスの動きのようなものが世界のあちこちで⽣まれているんですよね」と指摘。それを受け秋⽥⽒は「トランプやボルソナーロ、イスラエルの状況など、この数年でもいろいろな変化があります。映画の中で、ユダヤ⼈はニンニク臭いから席を変えてほしいといわれた、と登場⼈物が学校での記憶を語るシーンがありましたが、トランプの差別的な発⾔にすごく近い。⾃分がいま世界で起こっていることをここ10年くらいで体験しなかったら、教室で<ユダヤ⼈はにんにく臭い>と⾔われたことがホロコーストと繋がっていくとはピンと来なかったかもしれません」とコメントした。
1945年の終戦から1957年、1968年と、3つの時代を描いた映画『⼤いなる⾃由』について北丸⽒は「強制収容所に⼊れられていたハンスは本来ならば終戦によって解放されるはずなのだけど、そのまま刑務所に横滑りしてしまう。『刑法175条』に登場した、収容所で酷い⽬にあっていた同性愛者たちと同じ⽬にあっているのですよね」と関連性を語り、「ドイツでは1969年に同性愛が⾮犯罪化されましたが175条が廃⽌されたのは1994年。2002年に初めて政府として同性愛者コミュニティに謝罪するんです。2005年には欧州議会も同性愛者をナチスの犠牲者として追悼し、他の構成員と同じ尊厳と保護を受けると決議しました。ひとつひとつ謝罪して、カタをつけてきたんですよね。ところが⽇本政府はまだ包括的な差別禁⽌法というものがない。同性婚に関しても“社会が変わってしまう”と逡巡してしまう」と現在の⽇本の状況を憂うも、「でも、90年代に盛り上がりをみせたゲイ運動があって、その流れの中でつくられたこの作品を今こんなにたくさんの⼈が観ている。今度は⽇本でそういった運動が盛り上がるといいですよね。LGBT運動の盛上がりって、⼥性の活躍の運動とも連動しているし、全ての反差別運動、全ての⼈権運動、全ての⺠主主義運動と連動している。 ⾃由とか、平等とか、そういう話だと思っていただければいいと思う。今⽇本でもトランスジェンダー・バッシングだとか、反動がたくさん出てきていますが、くじけそうになったときは歴史が味⽅してくれてること、この国のこの⼩さな社会だけじゃなくて、いろいろなところで⼈権のために闘っている⼈たちがいるんだっていうことを⽀えにして、時代を変えていきたいと思っています」と⼒を込めた。
最後に「⽇本のジェンダーギャップ指数とかを⾒ても、全く意外な数字ではない。でも、映画というのはすごい⼒がありますよね」と語る秋⽥⽒に対して北丸⽒は「この映画や『⼤いなる⾃由』はもちろん、レインボー・リール東京やトランスジェンダー映画祭、そしてさまざまな作品が公開されています。そういう⼩さなひとつひとつの⼒が合わさって、いまここまできているんですよね」と締め括った。
映画『大いなる自由』はBunkamuraル・シネマ 渋⾕宮下ほか全国順次公開中。
登壇者:北丸雄⼆(ジャーナリスト・作家)、秋⽥ 祥(映像プログラマー)
ドイツ刑法175条(1871~1994)
1871年に制定された男性同性愛(※)を禁じる刑法。ナチ期に厳罰化され、戦後東⻄ドイツでそのまま引き継がれた。
⻄ドイツでは1969年に21歳以上の男性同性愛は⾮犯罪化され、1994年にようやく撤廃された。約120年間に14万もの⼈が処罰されたといわれる。
※刑法175条は男性のみを対象としており、⼥性同性愛はその存在さえ否定されたことから違法と明記されていなかった。
公開表記
配給:Bunkamura
Bunkamuraル・シネマ 渋⾕宮下ほか全国順次公開中
(オフィシャル素材提供)