第18回大阪アジアン映画祭インディ・フォーラム部門に正式出品された、福岡、佐賀を舞台に、3人の異母姉妹が織りなす物語を描いた『緑のざわめき』。9月1日(金)に開催された初日舞台挨拶に、女優を辞め、東京から生まれ故郷のある九州に移住しようと福岡にやってくる主人公・響子役の松井玲奈、響子の異母妹であり、彼女をストーカーする菜穂子役の岡崎紗絵、同じく響子の異母妹で佐賀の集落に暮らす少女・杏奈役の倉島颯良、夏都愛未監督が登壇した。松井が最初に読んだ、4時間分に及ぶ超大作の脚本の感想、岡崎が、初めて松井に会った時から菜穂子のように「玲奈さんのことを教えてください!」とぐいぐい行ったという役作り、倉島が声優として過去に出演したアニメが、松井との会話のきっかけになったという撮影時の裏話などを話した。
夏都監督が、「今日は登壇していないんですけれど、キャストの草川直弥さんのグループ(ONE N’ ONLY)のぬいぐるみを連れてきています。UFOキャッチャーで頑張りました!」とチャーミングに挨拶して和やかに始まった舞台挨拶。
本作は夏都監督によるオリジナル作品。本作のテーマについて聞かれた監督は、「この作品は1枚の葉っぱには葉脈があって、それぞれ血のつながりや人間関係が広がっていく模様を一つの映画にした作品です」と説明。
本作は、大江健三郎や中上健次の文学にインスパイアされたとのことで、「松井玲奈さんはご自身で小説も書いていらっしゃるので、主人公の心の動きなど複雑な作品なんですけれど、そういった心の動きに寄り添ってくださると思って、今回オファーしました」とキャスティング理由を話した。
松井は、最初4時間分にも及ぶ超大作の脚本を受け取ったそう。脚本を読んだ感想を聞かれた松井は、「それだけ夏都さんが描きたいものがここに詰まっているんだと思って、ただただその情熱を感じながらページを捲っていました」と当時を回想した。
松井が演じた響子に関して監督は、「響子って浮遊感がある存在というか、職探しをしていますし、何にも属していないフリーターというか、現代人の成れの果てのようなゴースト的なキャラクターを意識して作りました」と話した。
岡崎演じる菜穂子は、異母姉の響子と繋がりたいと、響子をストーカーする強烈なキャラクターだが、女子会に参加していたりと、よくあるストーカー像とは違う。監督は、「元々お母さんとの関係にトラウマを抱えているという設定がありまして。そのうまくいっていない関係をも乗り越えたいという思いがあって、いろいろなものを克服したくて、社会的にポジティブになって、傷がありつつも、傷があるからこそお姉さんへ憧れ、お姉さんへの憧れを消化することで自分を守ろうとしたりする傷を克服したいキャラクターを目標として作りました」と説明。
岡崎は、「自分自身も今までにない役を頂いたので、本当に挑戦だなと思いましたし、そこを任せていただけるというのが本当に嬉しくて、すごく光栄な思いでした。悩みながら演じさせていただいたんですけれど、その度に監督にお話をさせていただいて、皆さんにもすごく支えていただきましたし、みんなで作り上げたという感じがありました」と述懐した。
ストーキングする響子を演じるのが松井玲奈というのは、やりやすかったか聞かれた岡崎は、「やりやすかったです! すごく!」とキッパリ! 「松井さんって、この作品が初めましてだったんですけれど、初めてお会いした時から透明感に溢れているというか、神秘な存在なんです。ミステリアスな部分があって。楽しくお話ししているんですけれど、その奥深くって何があるんだろうと探りたくなるような方なんです。菜穂子の気持ちが分かるというか、憧れの存在という感じでした」と話し、松井を照れさせた。
松井は、「初めましてで割と会ってすぐに、『松井さんのことをもっと教えてください!』って『ガツガツしてる! 菜穂子がいる! 私を知ろうとしてくれている』というのがすごく嬉しくて、コミュニケーションもとってやりやすかったですし、お芝居にも反映できていた気がして楽しかったです」とエピソードを紹介。それは役作りの一環だったか自然とだったのか聞かれた岡崎は、「どっちもあると思います。松井さんに対しての人間的興味もあると思います」と自分の行動を振り返った。
本作は、当初は菜穂子と響子の二人のみの話だったそう。倉島演じる杏奈を加えた理由を聞かれ、「倉島さんは、もともと短編で一緒にお仕事をしていたので、長編にも出てほしくて、今回役を作ってオファーしたんですけれど、その役自体も、佐賀にロケハンに行ってから、倉島さんに合う役を作れそうなモチベーションになって、ピッタリハマったことで、オファーしました」と裏話を披露。
杏奈は施設に預けられていて、8年前から黒沢あすか演じる叔母と暮らしている高校3年生という難しい役どころ。倉島は、「境遇っていうところで言うと、あまり共通点はなかったかと思いますが、内面的には共感するところが多かったです。監督があんなのキャラクターをまとめた資料をくださったんですけれど、そこに人に素直に感情を出すのが苦手っという一言があって、そう言う部分だったりにすごく共感していました」と話した。
松井との撮影の裏話を倉島は、「『名探偵コナン』の映画で、一言だけ声優のお仕事をさせていただいたことがあったんです。撮影の序盤で、松井さんとロケバスで一緒になることがあって、すごく緊張していたんですけれど、『名探偵コナン』の話を振ってくださって」と話すと、松井が、「ウィキペディアに出てたって書いてあるんだけど、どこに出てたの?って聞いちゃって。コナン好きなので、それで私は緊張がほぐれて。距離が縮まった瞬間だったなと思います」とコナンに感謝を述べた。
松井は、倉島がプロだなと思ったことがあったそう。「二人で撮影している時に、倉島さんの瞼にでっかい虫が止まったんです。でも芝居をやめないんですよ。すごいなと思って。倉島さんもすごいと思ったし、カットをかけない監督もすごいと思ったんです! 『本当に使うの? 大丈夫?』とパニックになっていたんですけれど、カットがかかるまでずっと我慢をしてお芝居を続けていて、その集中力が素晴らしいなと思いました」と再現。倉島は、「『やめちゃいけない』と監督がOKっていうまでは頑張って目を開けていようと思って」と話し、監督が「本当にごめんなさい!」と舞台上で謝り、会場は笑いの渦に包まれた。
ヒューマントラストシネマ渋谷では、本作とのコラボドリンクが販売されている。三姉妹をイメージしてキウイ、レモン、ジンジャーで作った公開記念オリジナルドリンク『ざわめくキウイジンジャーソーダ』が、400円で販売中。3人は「美味しかった」と嬉しそう。松井が「三姉妹をイメージしているということで、私たちの正解は控えておくので、誰が一体どの食材に当てはまりそうか想像していただければ嬉しいです」と話すと、岡崎は「『岡崎さんの食材は絶対あれじゃん』とすぐ分かるでしょう!」と付け加えた。
監督は、「この映画は男性があまり出てこなくて、女性たちが繰り広げる物語なんですけれど、特に社会的な#MeTooみたいなテーマがあるわけではないんですが、女性たちが手を取り合って、何か壁を壊して次のステージに行こうとしていこうとする姿を見ていただいて、性差によって障壁の生まれない社会の実現に繋がればと思って作りました」と話し、松井は「この作品は人と人との繋がりを描いた作品になっていると思います。私たち三人がどのように関わり合っていくのか、一つひとつのシーンでそれぞれがどんな思いでいるのか、考えながら見ていただければ嬉しいなと思います」と満席の観客にメッセージを送った。
登壇者:松井玲奈、岡崎紗絵、倉島颯良、夏都愛未監督
公開表記
配給:S・D・P
ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開中
(オフィシャル素材提供)