第18回大阪アジアン映画祭インディ・フォーラム部門に正式出品された、福岡、佐賀を舞台に、3人の異母姉妹が織りなす物語を描いた『緑のざわめき』。9月2日(土)に開催された公開記念舞台挨拶に、岡崎紗絵演じる菜穂子の友人・絵里役で『忌怪島/きかいじま』での熱演も記憶に新しい川添野愛と、倉島颯良演じる杏奈の伯母・芙美子のベテラン・黒沢あすかが登壇。川添は、友達より男を優先してしまう絵里役をオファーされた複雑な心境を吐露。黒沢は、『冷たい熱帯魚』などエキセントリックな役が多かった自分に、「きっと全部、自分に折り合いをつけるための旅」という台詞を任せてくれた監督への感謝及び、松井玲奈への尊敬の念について語った。
川添は、本作では、岡崎紗絵演じる菜穂子の友人・絵里役。「監督に絵里の印象を聞いたら、お嬢様とか大雑把とか、『博多弁のようなものをしゃべっているけれど、本当は関東出身で、大人になってから移住してきて、周りの人がしゃべっているから、自分もしゃべり出したという子』とのことなんです。監督に、『川添さんだと思って書いているんで』と言われたことを思い出すと、一体どういう印象で私のことを思っていたんだろうとちょっと複雑だったんですけれど、結果的に私にとってはすごく愛おしい役になりました」と心情を吐露。
絵里が友達より男を優先してしまう心理については、「(草川直弥演じる宗太郎を女友達との)旅行に呼んでしまったり、ずっと携帯を持って、景色も楽しんでいないようで、なんでそういう行動を取るんだろうとその理由を考えたんです。普通だったら女の子たちが離れていってもいいのに周りにちゃんと友達がいる、と考えた時に、本当に自分の目の前のことにただただ一生懸命生きている子なんだな、裏も表もなくて、みんなから見えている絵里が全て、という答えに辿り着きました。どんな人にも理由があって、見えていない一面もあるんだなと絵里を掘り下げていて思いました」と、撮影前に役を掘り下げた際の結論を話した。
芙美子役の黒沢あすかは、「この映画の芙美子のようなポジションのような役を演じられるようにと長年思っていたところ頂いたお話でした」と公開を迎え、感無量の様子。
黒沢は、倉島颯良演じる杏奈の伯母・芙美子役。杏奈宛の手紙を勝手に読んでしまう芙美子の行動心理については、「叔母という立場から大事なものを見てしまうというのは、あまりの心配さに見てしまったんだっていうふうに私は自分に言い聞かせて演じました。とんでもないことをしてしまったんだという気持ちも携えて、演じました。今回の役は、すんなり演じられたところはなかなかなかったです」と苦労について吐露。
現在32歳の夏都愛未監督に関しては、「芙美子のセリフの言葉のチョイスが、言いにくいということがなかったんです。(撮影当時)30歳くらいだったのに、作り手の彼女は年齢とともに、自分が描きたい世界観にピッタリあった感性をお持ちなんだということにも感動したし、この方と出会えてよかったなと思いました」と話した。
芙美子は、芙美子の亡き親友の娘である松井玲奈演じる響子に対しては、理想の相談相手。黒沢は、松井玲奈に感銘を受けたというエピソードも披露した。「人生を生きてきた者同士という形で接しようと思いました。本読みの日に、松井さんに対して、『この人って凄い人なんだ。アイドルとして活躍をされているあのお姿しか見ていなかった。けれど、一つの作品に関わる者として、本読みに参加した時に、彼女が日頃本を読むという話をされたんです。隣にいた倉島さんも『私も本を読みます』とおっしゃった。夏都監督も『私も本が好きなんです』と、次から次と手を挙げてきた。本を読む人たちに尊敬の念が一気に増しました。あくまでも私の中の感想ですが、松井さんが紡ぎ出す言葉というのが、私の耳には、セリフという響きとは違う、日焼けした本をこれなんだろうと捲った時の日向の匂いや埃の匂いのような、厚み・深さを感じて、心地よかったんです。若い方たちとご一緒するのは何て素晴らしいんだろうといういい機会をいただきました。素敵です、松井さん。私は好き!』と大絶賛した。
川添は、芙美子が響子にかけた、“きっと全部、自分に折り合いをつけるための旅”という台詞が好きだそう。「それは、台本を読ませていただいた時に一番に引っかかった台詞で、私自身川添野愛という人間がすごく救われたセリフでした。いろいろあるけれど、折り合いをつけている旅というふうに思うと、『明日からも頑張るか』という気持ちになるというか。作品上で言うと、その台詞が発せられた後に、それぞれの登場人物の見方が変わるというか、それぞれ旅をしていると見ると、一人ひとりが深い人として見られる、すごく重要なセリフだなと思っていたら、ポスターのキャッチコピーになっていたので、やっぱりなと思いました」と解説。黒沢も、「こんな台詞をいただけるんだと嬉しかったです。あの台詞の大きさと深さ。この台詞を話す役を黒沢あすかにと選んでいただけたことが嬉しかったです。自分が子育てをしたことによって、それなりに人間味を持てるようになったのだから、自分で選んだ道ですけれど、ここに至るまでに、エキセントリックな役からできるならば徐々に距離を置いて、役に反映できればと欲張りなことを目標にしていたところに、若い監督から役をいただけ、お応えしたいなという気持ちになりました」と熱弁した。
黒沢は、カトウシンスケ演じる集落の長老・コガ爺とのシーンにも触れ、「コガ爺にだけなら、自分が押さえ込んできたものを吐き出すことができる。さらに、目の前にあの大木があったので、もっと自分の体も委ねて、実はコガ爺を突き抜けて、あの大木に言っているという気持ちで台詞を言えました」と裏話を披露した。
最後のメッセージとして、川添は、「関係性を分かった上でもう一度観ていただくと、一人ひとりのもっと後ろにあることを感じていただけるんじゃないかなと思います」、黒沢は「大木の前でコガ爺と芙美子が語り合うシーンなんかは、それなりに生きて来た方には染みるシーンなんじゃないかと思います。夏都監督が、心象証言である部分を映像化したとい部分も、素晴らしい才能があると思いましたし、語るばかりが伝えるツールではないので、こういった映画を通して、改めて人の目に見えない心のありようをご自身にも重ねて、相手にも重ね見て、探り探りこんな映画を観たよと伝えていっていただければと思います。これからの夏都監督を応援したいと思います」と話した。
登壇者:川添野愛、黒沢あすか
公開表記
配給:S・D・P
ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開中
(オフィシャル素材提供)