世界の映画祭を席巻し全米公開、さらには続編製作&ハリウッド・リメイクまで決定するという、世界的評価を受ける、インドネシア発の最強格闘術が炸裂するアクション映画『ザ・レイド』が10月27日(土)、ついに日本公開! 公開を前に、緊急来日した最強格闘術“シラット”の使い手、主演のSWAT隊員ラマを演じるイコ・ウワイスと最強の敵マッド・ドッグ演じるヤヤン・ルヒアン、そしてギャレス・エヴァンス監督がインタビューに応えた。
かなり計算されたアクション・シーン、カメラワークですが、綿密な打ち合わせがされたんでしょうか?
ギャレス・エヴァンス監督:振り付けを考えるのは基本的にイコ、ラマ、私で行います。まずは私がシーンの構想を練ります。どういうキャラ、展開、どういう敵なのかを考え、そのイメージを二人に伝えてその枠組みの中で、技、スタイルを取り入れていく。すると、ブロック、キック、投げなどについて、こうしたら良いと二人が提案してくれるんです。アクション・シーンの展開も技、技、技という風にせずにそれなりのフロー、緩急ができるように工夫して振り付けしてもらっています。
二人とは『ザ・タイガーキッド 旅立ちの鉄拳』の時から仕事しているので、本当にやりやすい。振り付けを熟知したうえでショットを決められる。ストーリー・ボードを作ってから、今度はそれに沿った映像のストーリー・ボードをハンディカムで作ります。それでこのカメラ・アングルでアクションを効果的に見せることができているかを確認します。
最近のアクション映画は、アクション・シーンをしっかり見せていないと思います。カメラをぶれさせたり、音でごまかすようなテクニックに頼りがちですが、そうではなく、80年代、90年代の香港アクションに立ち返ろうという試みで、『ザ・レイド』では全部見せることにこだわった手法になっています。アクションのイメージ+振り付けというよりも三人で練ったものにカメラを合わせるという手法です。
振り付けの中で大変だった、カッコいいと思うシーンは?
イコ・ウワイス:振り付けで一番難しかったのは、80人いたアクション演者に、一人として同じアクションをさせないようにすることで、それを作るのが難しかったです。『ザ・タイガーキッド 旅立ちの鉄拳』『ザ・レイド』の続編となる『Berandal』も同じ動きを一切使わないよう、そこにこだわりました。
『ザ・レイド』では、特に観て欲しいシーンが二つあります。一つ目は私が重症を負った仲間を抱えながら18人と戦うシーンです。もともと怪我をした仲間を守りながら動くのでさえ大変で、さらにSWATの服が本当に重いんです。ブーツ、ベルト、銃、トンファーなどフル装備はかなりきつかったから、あのシーンはぜひ観てもらいたいですね。もう一つは、私が兄のアンディと一緒にマッド・ドッグと戦うシーンです。二人が一瞬も休まずに、しかもぶつからないように動くというのは本当に複雑な振り付けなのですが、そこを息を付く間もなく演じきっています。ぜひ観てください!
最後のアクション・シーンは、2人対1人で大変だったのでは?
ヤヤン・ルヒアン:監督はめちゃくちゃ簡単だっただろうと言いますけど(笑)、2人に絶えず集中しなければなりませんでした。他の映画などでよくあるアクション・シーンでは、1人と戦っているときはもう1人置き去りになる、というシーンも見受けられます。でもこの映画ではそうではなく、2人を同時に相手することを意識した振り付けになっています。どっちとも常に頭の中に置いた戦いになっています。ただ、練習の時は集中力が切れてアンディが攻めてきているのに守れなくて実際殴られたり、蹴られたりということは何度もありました(笑)。
イコ・ウワイス:二人でアクションの振り付けを作ったんです。あの3人のシーンは作っている段階で自分たちは2人しかいないので、1人は自分の役をやるのですが、もう1人は立ち位置を変えながらもう1人の役をやらねばならず、それの繰り返しはとても時間がかかりました。だから、私たちは全ての動きを互いが把握しているんです。
もうひとつ、この話にはまだエピソードがあって、イコが32人の敵と立ち回るシーンがありますが、その相手の振り付けを全部ヤヤンがやったので1人で32役やったことになりますね(笑)。だから、僕ら二人は全ての演者がどの動きをするのか、全てを把握しています。
ラマが4対1で戦うシーンの振り付けでは、全部ヤヤンさんが演じたんですか?
ギャレス・エヴァンス監督:もちろんヤヤンが演じています。その他にも実はドレッドの男の人と落ちていくシーンは、実はヤヤンがスタントを務めています。スタッフの中にドレッドの人がいて、その人がドレッドを切ってしまったのですが、そのドレッドを再利用してヤヤンにつけて演じていました。ドレッドをつけるのに3時間ぐらいかかりましたね。
ハリウッドや日本の映画事情に比べるとインドネシアの映画製作に特徴などはありますか?
ギャレス・エヴァンス監督:もともとイギリスで映画を作りたいという気持ちはありましたが、ウェールズで製作する場合、自分たちで資金繰りもせねばならず、規模が小さくなってしまうので、思うようにいきませんでした。最近は変わりましたが、2006年頃はそういう状況でした。当時は普通に9時から17時で働いていたのですが、そっちの方に比重が傾いた時、今の奥さんがインドネシアでドキュメンタリーを作ることを勧めてくれて、そのドキュメンタリーを制作していく中でマーシャル・アーツの面白さ、インドネシアの文化に触れ、イコにも出会い『タイガーキッド』を撮るに至りました。
影響を受けたアクション映画はありますか?
イコ・ウワイス:ジャッキー・チェンですね。監督にも演じる前にジャッキーの映画を観てくれと言われていたのもあるし、今は私の目標ですね。私は一度ジャッキーに会っているのですが、監督は会ったことないので悔しがっています(笑)。
ギャレス・エヴァンス監督:マーシャル・アーツで言えばジャッキー・チェン、ジェット・リー、サモハン・キンポー、トニー・ジャーで、ガン・アクションではジョン・ウー、リンゴ・ラム、サム・ペキンパー、マイケル・マンの作品群です。マッド・ドッグというキャラクターはジョン・ウーの『ハードボイルド』でのナンバー2の役柄からインスパイアされたものなんですよ。
ヤヤン・ルヒアン:ジャッキー・チェンですね。
続篇『Berandal』はどのような内容になるのですか?
ギャレス・エヴァンス監督:ストーリー展開はキャラクターが増えて、人間関係も入り組んでいきます。ラマには奥さんがおり、子どもが生まれているのでその辺を描きます。1作目で名前しか出てこなかった悪徳警官レザーと信頼できる警官ブナワの2人が出てきます。物語はラマがブナワに出会うところから始まり、警部補のワヒュは逮捕されている状況です。ワヒュが残した証拠でビデオ・テープがあるのですが、そこには警官の汚職の証拠が記録されています。そんな中、殺されていく人、生き残る人がいるという内容です。
残念ながらマッド・ドッグの出演はありません。ただ、ヤヤン自身は登場します。ホームレスのヒットマンという役どころになります。このヒットマンはマフィアのドンに仕えていて、ドンに命じられるまま人を殺していきます。それで奥さんと子どもの養育費を払っています。この役の武器はマチェーテなんです。ただこのマチェーテは標的を殺すことのみ使用します。例えば標的の周りに護衛がいてもその護衛は左手で倒し、標的だけをマチェーテの餌食にします。来年1月中旬から撮影開始を予定しています。
世界的なヒットを受けてどう感じていますか?
ギャレス・エヴァンス監督:この映画を作れたことを本当に誇らしく思っています。そして、バイオレンスな映画だったので広く受け入れられたことに驚いています。もともと作りたかった『Berandal』という映画が今回の作品がきっかけで作れるようになって嬉しいというのもありますし。ただ、ひとつ悩ましいことがあるとすれば、プレッシャーですね。最初は、ある意味何も考えずにパッと見せられましたが、今は期待値が上がってしまい、それ以上を求められてしまうので、それに応えつつではありますが『ザ・レイド』とはまた異なったものを作っていきたいですね。
イコ・ウワイス:『タイガーキッド』から『ザ・レイド』まで2年という間がありました。この期間にいろいろ学ぶことができたし、ギャレスも映画を作りたいという気持ちが募っていて、それが爆発した作品です。ただ、この作品で賞を獲ろうとは思っておらず、私たちとしては、インドネシアの映画業界に新しい風を吹き込むつもりでした。コメディ、ホラー、宗教的な映画がインドネシア映画のメイン・ストリームですが、マーシャル・アーツを取り入れた新しいアクション映画をインドネシアの映画界に知らしめたかった。
『タイガーキッド』が公開されるとき、インドネシアの記者たちがこぞって西洋人がインドネシアで映画作るなんて、ましてやシラットに焦点を当てたものなんて、と賛否両論でした。しかしそれがムーブメントを起こしたということに誇りを持っています。監督はインドネシア人よりもインドネシアの文化に非常に詳しく、そういったところに人として惹かれました。それで『タイガーキッド』の成功があり、観衆の求めるものを出せたのが『ザ・レイド』、今度はさらなる期待を背負って『Berandal』に向けて私たちは精一杯頑張ります。
公開表記
配給:角川映画
2012年10月27日、シネマライズ・角川シネマ有楽町他 全国ロードショー!
(オフィシャル素材提供)