イベント・舞台挨拶

『ダンサー イン Paris』一般試写会トークイベント

Photo : Mitsuhiro Yoshida

 9月15日(金)より公開となるセドリック・クラピッシュ監督最新作『ダンサー イン Paris』の先行一般試写会が東京・渋谷のユーロライブで実施され、上映後のトークイベントに東京バレエ団のゲスト・プリンシパルである上野水香が登壇。日本のバレエ界を20年以上に渡ってトップ・ランナーとして牽引し、日本人で唯一、モーリス・ベジャール振付の「ボレロ」を踊ることを許された女性ダンサーならではの、バレエ愛に満ちた映画鑑賞のポイントや自身の半生も含めて話した。

ゲスト:上野水香

 神奈川県鎌倉市出身。1993年、15歳でローザンヌ国際バレエコンクールにてスカラシップ賞を受賞。
 2004年、東京バレエ団に入団。プリンシパルとして日本最高峰のバレエ団で主演を務めてきた。
 その功績が認められ、令和3年度(第72回)文化庁 芸術選奨舞踊部門文部科学大臣賞を受賞。
 日本のバレエ界を20年以上に渡ってトップ・ランナーとして牽引しており、いまなお世界中のダンサーから共演を熱望されている世界に誇るバレリーナ。
 2023年4月、東京バレエ団ゲスト・プリンシパルに就任。

 本作はパリ・オペラ座バレエ団でエトワールをめざす主人公のエリーズが、怪我をきっかけに第二の人生を歩み出すといったストーリー。エリーズと同様に幼少期からバレエ一筋の日々を送ってきた上野は「エリーズに乗り移ったような、そんな感覚」で映画を観たと絶賛。
 ダンサーとして共感するポイントを聞かれると「ある意味で孤独を感じるところ。一般の方からすると、バレエという世界に対してどこか距離を置いてしまうところがあるようで、もちろん好きだから頑張れて、その気持ちが一番強いからこそ今もこうして進んでこられたと思うけれど、若い頃はよく分からない世界にいる人のような扱いを受けて孤独を感じました」と、ダンサーの孤独な心境を告白した。
 その孤独さを救ってくれた言葉や経験などがあるか聞かれると、「30代前半には引退を考えたことがあって、退団届まで出しました。これから先、良い未来が見えないから止めようと。ちょうどその時、偉大なバレエ・ダンサーのウラジミール・マラーホフさんが日本にいらしていて、その話しをしたら『君はやめたら駄目だ』と言われ、でも私は『自信も無いし、自分のことが信じられないから』と答えると、彼は『自分が信じられないなら僕を信じなさい』と言われ……その一言が今でもとても印象に残っています」とダンサー同士の少ない言葉のなかに宿る、熱い交流に救われたエピソードを披露。
 主人公のエリーズの怪我について聞かれると「怪我って、身体が休憩したがっているところで起きる。でも不思議で、踊っている時はもう辛くてしんどくて休みたくて、でもいざ怪我をするとその瞬間からすぐにでも踊りたい気持ちになるんですね。わたしの場合は怪我の3ヵ月後に舞台が決まっていたので、まだ骨がついていないぐらいから踊っていました。治っていく時って、割と前向きだったりするんですね。治療中に急にカルシウムを摂取したり規則正しい生活になったり」と、信じられないほどストイックな内容にも関わらず観客席からも自然に笑いが起きる。

Photo : Mitsuhiro Yoshida

 本作は、冒頭15分間『ラ・バヤデール』の舞台と舞台裏を台詞無しで一気に見せる。自身のレパートリーとしても本当に大事な作品だという『ラ・バヤデール』の15分間について「舞台裏の緊張感だったり、本番前にざわつくようなことが起こったり、すごくリアル。オペラ座でバレエを撮っているクラピッシュ監督は本当にバレエの世界を分かっている方」と大絶賛。特にそれが顕著なシーンとして、街中でラ・バヤデールのコール・ド(群舞)が出てくるシーンを挙げる。「ラ・バヤデールでのコール・ドの意味と、本作の主人公から見たコール・ドの意味を重ねて観ると、監督のバレエ愛を感じられる」とお墨付き。

Photo : Mitsuhiro Yoshida

 劇中でエリーズが踊るホフェッシュ・シェクターの『ポリティカル・マザー ザ・コレオグラファーズ・カット』については「生物の本能だったり、自然の流れだったり、そういったものを動きにしたらこうなるんだよ、というような。自然界の全てを表現しているような壮大なイメージ」と、コンテンポラリー・ダンスの舞台作品としての面白さも楽しめることを力説。
 「映画を観終わったあとの爽やかさも素晴らしい。気付いたら感動していて、全くわざとらしさが無い。全員がハッピーで素晴らしい作品」と声を弾ませた。
 東京バレエ団で20年間トップ・ダンサーとして活躍し、今年あらたにゲスト・プリンシパルになられた上野水香。今後の夢や展望などについて問われると「具体的なものは無いけど、都度、全力で自分の目の前のことをやる。それが自分らしさに繋がると思って。明日が分からないからこそ120%の力でやっていきたい」と力強く語った。

 登壇者:上野水香
 司会:矢田部吉彦

公開表記

 配給:アルバトロス・フィルム、セテラ・インターナショナル
 9月15日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下、シネ・リーブル池袋ほか全国順次公開

(オフィシャル素材提供)

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