第36回東京国際映画祭にてスターチャンネルPresents『JFK/新証言 知られざる陰謀【劇場版】』のプレミア上映が行われた。上映後、朝日新聞記者の藤えりか氏、映画ジャーナリストの斉藤博昭氏による、公開プレミアトークイベントが開催された。
『JFK/新証言 知られざる陰謀【劇場版】』について、オリヴァー・ストーン監督の功績や、事件から60年を経たタイミングで本作が日本公開される意義について語った。
上映後、客席からの拍手に迎えられイベントがスタート。
はじめの挨拶で、朝日新聞記者の藤は、「私はこれまで、アメリカのベトナム戦争や国家機密、ペンタゴン・ペーパーズについての取材、初期のウィキリークスの在り方などを取材してきました。オリヴァー・ストーン監督に取材をしたこともあり、その流れで今日この場に立っています」と話し、映画ジャーナリストの斉藤も「同じくオリヴァー・ストーン監督に何度か取材をした経験から、今回の作品について語らせていただくことになりました」と観客に向けて自己紹介をした。
本作についての感想は、「まさに1991年制作の『JFK』の続編のドキュメンタリー版である本作に、直接の関係者だけではないが、(60年という)時間が経っているにも関わらず、これだけ多くの人たちが実名と顔を出して疑問を口にする意味と、風化させてはいけないという気持ちを感じました。時折メディアに対する批判もあって、教訓として受け止めながら観ていました」(藤)、「前作『JFK』は配給会社の見込みでは当初ここまでヒットする作品だとは思われていなかったと聞いたが、ふたを開けたら年間の洋画成績で4位という成績。その時、“JFK”という言葉を知った日本人も多いのではないかと思います。そのぐらいオリヴァー・ストーン監督という名前も含めて社会に影響を与えたと思う。その監督が、30年以上経った今も執念で真実追い続け、また新しい映画を作り続けているのがすごいなと思いました。『JFK』は“ジョンソン”や“ニクソン”など、実名の名指し批判をしていて日本映画ではなかなか考えられないので、革新的な映画だったと思います。」(斎藤)とそれぞれ『JFK』と本作の魅力を語った。
かつて2人が取材したことのある、オリヴァー・ストーン監督の人物像について聞かれ、藤は「私がインタビューしたタイミングは、トランプ元大統領就任直前のタイミングでした。その時、『俺はヒラリーではなくトランプに投票した』と監督が語り、びっくりしたのを覚えています。彼はトランプだったら、いろいろなことをひっくり返してくれると思っていたが、結局そうでは無かったし、JFKに関する資料の全公開には至らなかった。既存の政治家と癒着が無いビジネスマンだということで期待していたそう。既存の政治家に対する不信感が根底にあるんだなと思いました」と印象を語った。斉藤は「最初の取材は『ワールド・トレード・センター』という作品でした。取材前は、いろいろな人から噂で嫌な人だと聞いていたが、嘘がつけない作風だからか、しっかり答えてくれた。だからこういう作品を撮っても他者から信頼を置かれていない面があるのではないかと思う。でも、だからこそこのような映画が撮れると思うので、ある意味ハリウッドでは貴重だと思う」と監督の人柄について触れた。
また、藤は「JFK問題はアメリカではなかなか語られなくなってきていて、本作もアメリカ・メディアよりヨーロッパ・メディアで取り上げられている。風化しつつあるが、風化させないために新たに証言を集めていることが重要だと思う。映画と直接の関係はないが、最近アメリカで、ウォーレン委員会にも語っていないというすごい新証言を語る元シークレット・サービスの人が登場しました。“魔法の弾丸”と呼ばれている、変形していない銃弾を車の後部座席から拾って、ストレッチャーに置いたのは自分だと証言した人が出てきて本を出版したそうです。彼が拾った銃弾は、ケネディ大統領の背中の後ろ、後部座席にあったそうで、混乱の中、大統領の背中から貫通した拍子で落ちたのだと思い、証拠が誰かに取られてはと思ってストレッチャーに置いたと語っていた。これが本当であれば、突き抜けてない銃弾があるということは、単独犯ではないということが濃厚になる。だから、この事例のように、執念で撮り続けるということは、新たな証言者がでてくるということかなと思います」と最新のJFK事情を教えてくれた。これを受けて斉藤は「ぜひオリヴァー・ストーン監督には、その元シークレット・サービスの方にインタビューをして新作にしてほしいですね」とコメントした。
また、事件から60年のタイミングで公開されることについて斉藤は「前作は事件から30年経っていて、今回はそこから更に30年経っている。アメリカの歴史の中で一番重要なミステリーだと改めて認識した。映画監督というよりオリヴァー・ストーンという人間の執念、自分がなぜここに生きて社会に何が残せるかという意思を持っている人だと感じました。いろいろ言われている人ではあるが、その執念と責任感と正義心を持って生きている」と述べた。
ジョン・F・ケネディ大統領についての印象を聞かれ藤は「逆張りをする監督であるオリヴァー・ストーンですらこんなに持ち上げるような人なんだと思う。理想を体現した人で、みんなが希望を持っていたのだと思う。彼が本当にベトナム戦争を止めようとしたかについては諸説あるし、本当はどうだったのかは分からないが、人気の政治家は負の側面があっても人が目を背けることもあるので。でもやっぱりもう少し生きて、彼の活躍や、弟(ロバート・ケネディ)の活躍をもっと見たかった」、斉藤は「今の時代だったら絶対負の側面は出てくる大統領だと思いますが、60年前の大統領であれだけのことをした人は、偶像視されてヒーローになれる人だと思う。これから政治家を目指す人は、彼の(良い)一面を習いながら目標として目指される人になればいいのではと思う」と語った。
今後出てくる政治家については「多様性がある中に理想を体現した人が出てくる気がします。そういうところがJFKが公民権運動でも目指したような次のステップだと思います。」(藤)、「アメリカの大統領選も年齢がすごく高くなっているが、若いリーダーがもっと出てくる世界であってほしいと願っています」(斎藤)とそれぞれ期待を込めて理想を語った。また同時に藤は「完璧な政治家はいないと思うので、誰が理想というのは難しい質問ではある。だからこそ私たちが何か問題があった際は声を挙げ続けるべきと映画でも述べていると思う。メディアも終わった話だと諦めず、良い意味でおかしいことについては声を挙げ続けるべき」とリーダーを見つめる姿勢についても考えを述べた。
今後の新証言や真実が出てくることについて藤は、「私が生きている間に究明されるのか?と思うものは数多くあるが、その中の一つです」と述べ、斉藤も「結局、結論が分からないまま終わる話の一つになるが、陰謀論のことも込みで、今後の非常に重要な歴史の教科書にはなっていくと思う」とした。また藤は「『JFK』公開翌年、映画が直接の原因かは分からないが、世論で陰謀論が起きてCIAじゃないかという声が高まり再調査が始まったと言われている。なので、陰謀論ではない形で声を上げ、追い続けることは大切。追っていくと新たな新証言がでるかもしれない」と陰謀論に流されず事件を追うことへの重要性について意見を述べた。
最後に、藤は「もう一度『JFK/新証言 知られざる陰謀【劇場版】』を観たいと思ったと思うし、前作『JFK』や新証言の本などもあわせて観てみたら、本作への理解も深まると思う」とし、斉藤は「オリヴァー・ストーンは、日本未公開作もあるが、これ以外もプーチン大統領やハマスにもインタビューをしている。他の作品も追っていくと一人の監督の考えが分かるのではないかと思う。一人の映画監督の歴史としても面白いのではないかと思います」と本作の見どころやポイントを伝えイベントは終了した。
登壇者:藤えりか(朝日新聞記者)、斉藤博昭(映画ジャーナリスト)
公開表記
配給:STAR CHANNEL MOVIES
11月17日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開