インタビュー

『火だるま槐多よ』主演・佐藤里穂 オフィシャル・インタビュー&東 雅夫らの推薦コメント

©2023 Stance Company / Shibuya Production

 映画『火だるま槐多よ』は、22歳で夭逝した天才画家であり詩人の村山槐多(1896-1919)の作品に魅せられ取り憑かれた現代の若者たちが、槐多の作品を彼ら独自の解釈で表現し再生させ、時代の突破を試みるアヴァンギャルド・エンタテインメント。タイトルの由来は、槐多の友人・高村光太郎の詩「強くて悲しい火だるま槐多」である。

 この度、公開を前に、主演・佐藤里穂のオフィシャル・インタビューが到着した。

佐藤里穂(Riho Sato)プロフィール

 1990年12月18日生まれ、東京都出身。
 2011年にモデル・デビュー、2015年からは俳優として活動。
『背中』(22/越川道夫監督)で映画初主演。その他近年の出演作に、『曲がり屋の恋』(21/増田嵩虎監督)『福田村事件』(23/森 達也監督)などがある。

どのような人物だと思って法月 薊を演じられましたか?

 この人は一体何をしたい人なのかが謎で、何故こんなにも村山槐多に囚われているのか、いつから街を浮遊しているのか。脚本からだけでは分からなかったところは、寿保さんからバックボーンを教わったり、ヒントのピースを集めながら形作っていきました。法月 薊は自分の欲望に忠実な人で、自分の居場所を作ることもできない根無し草。脚本に書かれていた「クラゲのように浮遊する」という言葉を意識しながら演じました。

©2023 Stance Company / Shibuya Production
撮影中の佐藤寿保監督の印象は?

 撮影中は、もはや寿保さん自身が村山槐多なのではないか?という感覚がありました。スクランブル交差点での撮影では「薊の花のように鋭くだ! 鋭くだぞお!」と激しく言われ、こちらの迷いを一気に払拭してくれました。その時の寿保さんの熱量を目の当たりにし、どこまでも鋭くいかれば!と覚悟が決まりました。寿保さんは普段はニコニコした笑顔で私たちに気を配ってくれますが、いざ現場に入ると目の色が変わり全身の毛が逆立っているような印象で、いい意味で動物的感性が鋭い方だと思います。カットを重ねるというより、最初の衝動を大切にする方なので、自分自身もそれを逃さないように普段以上に集中して演じていたと思います。

佐野史郎さんとの初共演はいかがでしたか?

 カメラが回っていないときは、まるでお父さんのような穏やかな雰囲気を感じましたが、カメラの前でいざ対峙すると、圧力というのか、あの度量の深さに怯えるというか……。すべてを受け止めてくれる大きさがあって、それに負けてはいけないと抗おうと思うけれど、向き合うと本当に怖くて……。役に没頭しているように見えるけれど冷静で全体を把握しているような、相反する二つが同居している凄まじい役者さんだと思いました。

©2023 Stance Company / Shibuya Production
富士の樹海にある洞窟も幻想的な雰囲気たっぷりでした。

セットではない、実際の洞窟でのロケは貴重な経験になりました。森の中にある入り口から下に降りていくと、地面に洞穴のような空洞があり、そこに大きなスクリーンが設置されていました。洞窟の中の音の響き方が独特で、雫が落ちてきたり、洞窟特有の湿度も体にまとわりついてきたり、閉鎖的空間。まさに“穴倉”!でとても興味深かったです。

その洞窟内で行われる、遊屋慎太郎さんとの血まみれ全裸抱擁シーンも見どころです。

 当初の狙いとしては遊屋さんの額のあたりに上から血のりが落ちてくるという予定で、私もそのつもりで顔を上げ ていたら、その私の顔面に大量の血のりが直撃。目や鼻、口に全部入って来て「ヤバッ!」とは思いましたが、こうなったら死に物狂いで遊屋さんに絡みつくしかないと(笑)。演技に没頭しすぎて途中で頭の中でプツン!という音がして、「これ以上やったら噛み殺しそう!」と思った瞬間にカットがかかりました。身も心も熱くなってきてしまい、あれ以上やっていたら危険だったと思います。

©2023 Stance Company / Shibuya Production
劇中劇『悪魔の舌』はどのように演じられましたか?

 原作小説を実際に読んで、九段下の話だったので夜の九段下に実際に行ってイメージを膨らませて撮影に臨みました。オーディションの時点で寿保さんから舌の長さを褒めていただき、舌を口から出し入れしてほしいという指示がありました。ただトゲトゲの舌は本物の舌にかぶせる形の作り物の舌なので、扱い方が難しかったです。少し動かしただけでペロンと飛び出してしまうそうで、いかにおどろおどろしく動かせるか工夫しました。口に含んだ血のりは、そのままだと苦すぎるということで美術さんがハチミツを混ぜてくれましたが、作り物の舌のゴムの味と混ざってしまって……。悪魔の舌の味は言葉では言い表せないような不思議なテイストでした(笑)。

©2023 Stance Company / Shibuya Production
観客にメッセージをお願いします

 この作品は、村山槐多というかつて実在した異才からインスパイアされて生まれた物語で、ストーリーを追って観るのではなく、絵画や詩を鑑賞するような気持ちで感じてほしいです。美しいでも気持ちが悪いでもいい、観客の方々を突き動かすようなエモーションに繋がったら嬉しいです。寿保さん独自の画も綺麗ですし、壮大な物語でもあるので、是非ともスクリーンで観てもらいたいです。すべてがカオスになっていくクライマックスが私は大好きなので、そのグチャグチャ感を体感してもらいたいです。

 (取材・文・構成:石井隼人)

 また、公開を前に、文芸評論家の東 雅夫、映画研究者のローランド・ドメーニグ、映画研究家のアレックス・ツァールテンによる推薦コメントが届いた。

東 雅夫(文芸評論家)
 凄い映画を観てしまった。
 「時代の突破を試みるアヴァンギャルド・エンタテインメント」と名づけられているが、決して、かつての前衛映画作品ではない。
 登場人物は「槐多」に取り憑かれた男と女、そしてこの早世した詩人に関心を抱く四人の若者たち。佐野史郎の怪演で異彩を放つ。
 現代の浪漫の端々に丹念に埋め込まれる、槐多の絵と詩と……デスマスク!
 機会があればぜひ、御一見をお勧めしておきたい。槐多フリークの貴殿は、特に! 百年前に生き急いだ詩人画家が求めていたモノを知るためにも。

ローランド・ドメーニグ(映画研究者)
 1980年に2作目の8ミリ映画『明日なき欲望』を撮ったとき、佐藤寿保監督は、画家・詩人の村山槐多が1919年にスペイン風邪による結核性肺炎で夭折したときとほぼ同じ年齢だった。
 『明日なき欲望』は、苦悩、退廃、挫折に満ちた村山槐多の生涯にふさわしい標語でもあるだろう。
 再び猛威を振るったパンデミックの末、日本映画界の異端児が、ソウルメイトである日本美術界の異端児槐多について映画を撮った。
 槐多探しに旅立つ今の若者たちは、欲望を満たす明日があるだろうか?

アレックス・ツァールテン(映画研究家)
 佐藤寿保の傑作がこのような映画になるとは思いませんでした。
 しかし同時に佐藤コスモロジーの総括でもある。
 芸術と生命との関係はなんなのか? 深く傷ついた人はどう生きればいいのか?
 宮崎 駿の『君たちはどう生きるか』の現在向け成人系地獄版。

『火だるま槐多よ』公開表記

 配給:渋谷プロダクション
 12月23日(土)~1月12日(金) 新宿K’s Cinemaにて公開他全国順次公開

(オフィシャル素材提供)

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