7月8日より公開し、話題となっている映画『こちらあみ子』。映画の公開を記念して、7月27日(水)、LOFT9 Shibuyaにて、小説と映画、双方から“あみ子”の魅力を紐解く特別イベント「『こちらあみ子』を語る夜」が開催された。
第1部では、原作を読みこんでいる書店員・書評家・小説家をゲストに迎え、今村夏子独特の小説世界について辻山良雄(本屋 Title 店主)、倉本さおり(書評家)、西崎 憲(小説家・翻訳家/文学ムック『たべるのがおそい』(書肆侃侃房)編集長)、本作監督の森井勇佑によるクロストークが行われた。小説「あたらしい娘」(のちに「こちらあみ子」に改題)は2010年の発表当初は太宰治賞の授賞はあったけれどもそこまで注目されず、次第に熱烈なファンが集り、いまだに増え続けている衝撃的な作品だと解説され、会場の客席からも本作をきっかけに今村夏子作品を知ったという挙手が数多く挙がった。そして、「人に対して線引きをしない」「読むたびに印象が変わる」「先がつねに読めない」といった今村作品の魅力が論じられ、その映画化について「原作の読後感と同じものがあった」と称賛の声が寄せられた。
第2部では、特別ゲストに今泉力哉(映画監督)を迎え、本作撮影の岩永 洋、監督の森井勇佑と共に映画『こちらあみ子』の世界観や、映像、音へのこだわりが語られた。今泉は主演の大沢一菜ほか子どもたちの演技を絶賛。岩永は「みんなで遊んでいた現場だった」と振り返り、森井監督は「一菜が寝たらお昼寝タイム。子どもたちは好きなように遊び出すので現場の空気は彼らが作っていた」とエピソードを披露。キャスティングについてはオーディションで大沢に出会ってすぐに惹きつけられたと語り、「父親役の井浦 新さん、母親役の尾野真千子さんが子どもたち中心の現場をすぐに感じ取ってくれた」と出演者への感謝が述べられた。また撮影について、岩永は「カメラも結構遊んでいいと言われた」とあみ子目線に立てた撮影時を回想。森井監督は、どの現場にもお遊びレンズをひとつ忍ばせている岩永が持参した虫を撮影するための長いレンズが幾つかのシーンで重要な役割を担ったと解説。『街の上で』(監督:今泉力哉、撮影:岩永 洋/2021)を見て岩永へのオファーを最終的に決めたその魅力を語った。
また、今泉は「あみ子は優しくていいことをしているつもりでもそれが周りに伝わらず、ショックでもあった」と気になった点について触れた。続けて、「あみ子がいつか周りを気にすることができるようになるのは成長であり希望と呼べるものなのかもしれない。けれども、そんなことを気にせずに生きていけたらそれはそれでいいのだから、変わっていくことは絶望でもあるのかもしれない」と感想を述べ、この映画は甘くないところがいいと森井監督へエールを送った。
トークの終盤には、本作の音楽を担当した青葉市子も登壇し、原作を愛読している青葉は「オファーを受けるしかない」とすぐに思ったという当時の心境を告白。そして観客席に向けて「この先もずっと、自分の人生の中にあみ子の存在を一つのお守りとしてひっぱりだせるところに置いてもらえると、きっと世界が少し面白くなるのではないかと思っています」「私の中にもあみ子がいます。それくらい愛している作品です」と本作への想いが伝えられた。その後に、青葉が本作の主題歌「もしもし」をはじめ、劇中の楽曲をアコースティックで演奏。
最後に森井監督より、「映画の公開以降、あみ子という存在そのものを皆さんがどう捉えているのか、皆さんの感想を拝見しながらいろいろと考えることがあります。僕はこのあみ子という存在とずっと付き合っていきたいと思っています。僕の中では、とても大切で、大好きな存在です」と溢れる想いが語られた。そして、「皆さんの心の奥の方に、この映画が届いてくれたらうれしいです」と観客への感謝の気持ちが伝えられ、満席の会場からは万雷の拍手が送られた。
映画『こちらあみ子』は新宿武蔵野館ほか全国にて公開中。各劇場での舞台挨拶情報は公式サイトにて掲載。
登壇者:辻山良雄(本屋 Title 店主)、倉本さおり(書評家)、西崎 憲(小説家・翻訳家/文学ムック『たべるのがおそい』(書肆侃侃房)編集長)
森井勇佑監督、青葉市子(音楽)、岩永 洋(撮影)、今泉力哉(映画監督)
公開表記
配給:アークエンタテインメント
7月8日(金) 新宿武蔵野館ほか全国順次公開
(オフィシャル素材提供)