【登壇者】主演:斉藤陽一郎、共演:秋谷百音、片岡礼子、監督:山嵜晋平
映画『蒲団』初日舞台挨拶が5月11日(土)、東京・新宿のK’s cinemaで行われ、主演の斉藤陽一郎、共演の秋谷百音、片岡礼子、メガホンをとった山嵜晋平監督が登壇した。
日本の自然主義文学を代表する作家である田山花袋が1907年(明治40年)に発表し、日本文学史における私小説の出発点と言われている不朽の名作を映画化した本作。
脚本家の竹中時雄(48)は仕事への情熱を失い、妻のまどか(47)との関係も冷え切って漠然と日々を過ごしていた。ある日、仕事部屋に押しかけてきた脚本家志望の横山芳美(21)に懇願されて師弟関係を結んだが、一緒に仕事をするなかで芳美の物書きとしてのセンスを感じるとともに、彼女に対して恋愛感情を覚える。芳美と同じ空間での共同作業を進めていくうち、納得がいく文章が書けるようになり、公私ともに充実感を得るようになる時雄だったが、芳美の彼氏で脚本家を目指している田中秀夫(20)が上京してきて、時雄は嫉妬心と焦燥感に駆られるが……。というストーリーが展開される。
主人公の竹中時雄役を演じ、本作が20年ぶりの映画単独主演作となる斉藤は、ステージに登壇して満席の客席を見ると「満席です! 非常にうれしいです」と感無量な表情を浮かべ、「正直、全然眠れなくてですね、明け方までずっとK’s cinemaのチケットの売れ行きを見ていて、朝9時頃にまだ8席とかでドキドキしていたんですが、おかげさまでこんなに大勢の方に来ていただけてうれしいです。ありがとうございます」と観客に感謝した。
改めて、本作を映画化したキッカケを尋ねられた山嵜監督は「田山花袋という人がとても面白い方で、群馬の館林の人で、僕も奈良の田舎者なんですけどシンパシーが合って、田山花袋さんは最初『文壇の偉い本書きになってやる』って書いていたけど、『蒲団』を出す前にうまく行かない時期があって葛藤して、自分の恥部を曝け出して返り咲いたんですけど、田山花袋という人が『蒲団』というところに至るまでの鬱屈とした人間というのが面白いなと思って、それを読んだときに自分も共感できるところが多くて、僕は初めて恋愛映画を作ったんですけどもともと恋愛映画は好きで、自分が共感できる恋愛映画を作りたいなと思って、今回、この文献物をやりませんかとお話をいただいて企画になった次第です」と説明した。
また、脚本を読んだ際の感想を聞かれると、斉藤は「僕が演じた竹中時雄は非常にうだつの上がらない人で、普段から酔っ払っていてだらしないダメな人間なんですけど、この役がぴったりだと思ってキャスティングしたのかと思ったら“失礼だな!”と思って、釈然としない思いがあったんですけど、『ぜひやらせてください』とお受けしました」と当時の心境を明かして会場の笑いを誘い、「田山花袋は100年後に『蒲団』が映画になるなんて夢にも思っていないと思うんですけど、100年経って“時雄”という名前の主人公が奇しくも“時を”かけてしまった感じもあるなと思ったりしてですね。そんなことを思いながら読ませていただきました」とダジャレを交えて語った。
同じ質問に、時雄の作品の大ファンで脚本家を志しているという横山芳美役を演じる秋谷は「芳美ってすごく難しい役どころだなと思って読んでいましたし、田山花袋の『蒲団』を読んだ上で脚本を読んだんですけど、現代的になっているなと思いました。今の時代に合っているんだろうなと思いながら、普通に面白いなと思って読みました」と打ち明け、時雄の妻・まどか役を演じる片岡は「本当だったら自分の役を中心に読むのが常なんですけど、2人(時雄と芳美)の持っている湿度とか色香とか重力がすごくて、そっち中心に読んでしまったんですが、自分が若かりし頃に参加した映画とかが走馬灯のように流れましたね」としみじみと語った。
さらに、演じるにあたって大事にしたことや、苦労した点を尋ねられると、斉藤は「僕は全然ダメな人間じゃないですから、いかにダメに近づくかという努力しかしてない現場でしたよ、たぶん(笑)」と茶目っ気たっぷりに笑い、「芳美との距離感の中で時雄という人物が転落していくような時間を、段階を経ながら丁寧に山嵜監督のもと作っていけたのは贅沢な時間だったので、そういうところが本編に映っていることに気づいていただけたらうれしいです」と語った。
秋谷は「前半と後半で見せる顔というか、ある一面が見え始めるときの先生への対応の仕方とか、空気感を出すのが難しかったなと思っていて、そこに時間を使ってくださったし、自分でもこの捉えどころのない人間をどう自分を通して出そうかなと現場に入る前も、撮影中もすごく悩みました」と打ち明け、片岡は「自分のシーンは幸せなシーンで、2人(斉藤と秋谷)が悩んでいるのは現場が違ったので見えていないんですけど、映画の中でだんだんと顔が変わっているような印象を受けるのは、過ごしている密度があるから、それが人に残っているんだなって、いま思いました。全編、覗きたかったですね」とコメント。同舞台挨拶は上映前に行われたが、観客の感想を聞きたかったという片岡は「(Xで)“#蒲団”で書いてくださったら公式の方が拾ってくださるので、ぜひメッセージください。そして全国に広がっていけるように託していいですか?」とお願いした。
そして、本作の有名なフレーズ『心のゆくばかりなつかしい女の匂ひを嗅いだ』にちなみ、思い出に残っている匂いを聞かれると、斉藤は「新車の車の中の匂いは好きだし、最近は新宿伊勢丹の1階の匂いが好きです」と告白して笑わせ、「暇さえあれば“ジョーマローン”に行って匂いを嗅いだりしています。匂いフェチですね」とにっこり。
秋谷は「大学受験のときに図書館で勉強していたんですね。ずっと図書館ってあったはずなんですけど、“図書館ってこういう匂いだった”って感じたのって(受験)勉強しているときで、古い本の匂いとか、紙のカビ臭さもありつつ、木の椅子や机の匂いもする、あの匂いは思い出深いですね」と振り返り、片岡は「愛媛の道路で好きな人に告白したときの湿気みたいな、雨のあとみたいな匂いと、近くにある誰かのお家の金木犀みたいな匂いが全部甘酸っぱくて、匂いと聞いてそれを思い出しました」と懐かしんだ。
最後に、メッセージを求められた斉藤は、「この間、とある男の子から声をかけられて、この映画の試写の後に飲んだ子だったんですけど、『斉藤さん、“かまだん”頑張ってください』って言われて、僕は酔っ払って覚えていなくて、『“かまだん”で飲んだじゃないですか』って言われて、そういう店かなと思ったら、『違う、“かまた”』って言っていて、蒲田で飲んだのかなって思ったんですけど、全然『蒲団(ふとん)』が浸透してないなと思って、宣伝がうまく行っていないと思って心配でした」と吐露しつつ、「もしかしたらこの中に何人か“かまだん”だったり“かまた”って思って来ている方もいらっしゃるかもしれないですけど、それはそれでいいと思います。“かまだん”でも“かまた”でもいいので、ぜひ口コミでこの映画を皆さんで広めてもらえればと思います」とお願いした。
イベントでは、斉藤が本作のためにプロデュースしたファブリックミストのプレゼント抽選会も行われた。
公開表記
製作・配給:株式会社BBB
新宿K’s cinemaほか全国順次公開中!
(オフィシャル素材提供)